デキメン列伝【第15回】太田基裕

“デキる”のみをものさしに、今後の舞台界を担っていくであろう、注目株の若手俳優をピックアップ。彼らが「デキメン(=デキる男優)」である理由、そして、隠れた本音をロング・インタビューで探る!

【第15回】太田基裕 MOTOHIRO OTA

淡白に思われがちなんですけど、そうではないつもりです(笑)


Writer’s view

“もっくん”の愛称でおなじみの太田基裕さん。たくさんの若手俳優たちと取材を通じて対話させていただく中で、彼が醸し出す空気感がとても気になっていました。異空間を難なく生み出せる、時に近寄り難いほどのルックスを持ちながら、一言でいうと“癒し”とも表現できそうな、ほわっとした雰囲気。激しい競争社会を生き抜く若手俳優たちの中で、そうした印象を残す人は案外いません。彼を語るためのキーワードは“ニュートラル”。30歳になったばかりのもっくんを、深堀りしてきました。

取材・文/武田吏都

 

――シンプルだけれどズシリとくる、骨のあるミュージカル「手紙」に現在出演中。映画化もされた東野圭吾さんの大ベストセラーが原作で、このミュージカル版は昨年初演されました。太田さんは、今回の再演からの参加です。

太田 お話をいただくだいぶ前、まだ学生のときに原作を読んでいて、映画も観ていました。去年ミュージカルになったことは知っていて、「え、マジであの『手紙』? ミュージカルってどういうこっちゃ?」みたいな(笑)。時間があれば観に行きたいと思っていたんですけど結局観られなくて、でも「いいなあ、興味あるなあ」って気になっていて。そしたら再演にあたってたまたまお話をいただき、「マジすか!? それはちょっと、いやだいぶ興味あります!」と(笑)。しかも「ジャージー・ボーイズ」でもお世話になる藤田(俊太郎)さんの演出だし、そのご縁も面白いなと思いましたね。

 

――蜷川幸雄さんのお弟子さんでもあった藤田俊太郎さんは、つい最近「読売演劇大賞」の優秀演出家賞を受賞されるなど、大注目の若手演出家(1980年生まれ)。俳優にとっては“いま最も演出を受けたい演出家”というような存在だと思うのですが、連続して藤田演出が受けられるというのはなかなか凄いことですよね。

太田 ありがたいことに。ただ僕自身は「藤田さんだから」「今ノッてる演出家さんだから」みたいなヘンに気負った意識はなくて、単純に「ジャージー~」でやらせていただいて、人間性がとても素敵な方だなと思ったんです。この演出家さんのために頑張りたいと思えるような。そういう意味では素敵な人に出会ってよかったなと思いますし、縁があるんだろうなという風にも感じています。

――思い出しました。太田さんは人を色眼鏡で見ないというか、肩書きとか評判にはあまりとらわれないニュートラルな方でしたね。

太田 正直、無知だからってこともあると思うんですけど(笑)。僕自身エンゲキエンゲキしたタイプじゃないので、「この劇団や演出家さん、ゲキアツだぜ!」みたいなことがなくて、知識を無理に得ようとしないっていうんですかね(笑)。そして出会ったら「ああ素敵だな」と思うだけなので、ヘンな意識はないっちゃないんです。

 

――芸能界というところにいて、中でも特に競争の激しい若手俳優界隈の真っ只中にいながら、なぜそのニュートラルさを保てるのだろうと。今回はその秘密も探りたいと思っています。

太田 大した話はないと思いますけど(笑)。

 

――さっきおっしゃった藤田さんの素敵さは、どんなところに感じていますか?

太田 2回しか一緒にやらせてもらっていないので、全てを知っているという風には言えないんですけど、まず演出助手をずっとやられていたので人に対して丁寧で、エラそうじゃないんです。すごく親しみやすいし、いろいろ聞きやすいですね。僕が受けた感じとしては、不器用な方でもあるんですけど、スイッチが入ったときの感性に引き込まれるっていうか。意外と、テンパる方でもあるんですよ。藤田さんにとっては共に作品を重ねている戦友のような、吉原光夫さんって方が現場にいるから特に(笑)。僕は「ジャージー~」でも「手紙」でも吉原さんといる藤田さんしか見れていないから、わりといつもテンパッていらっしゃるんですけど(笑)、そういうところもすごく人間らしくて。演出家さんに対して失礼ですけど、“愛おしい”という感じもあったりして(笑)。でも、呼ばれてダメ出しを聞いたりすると、「あ、なるほどな」ってところはもちろんたくさんあるし、その感性の豊かさと繊細さに引き込まれます。すごく尊敬してるし、その感覚をもっと知りたいなと思える演出家さんですね。

ミュージカル「手紙」2017(2017年)

 

――再演では新曲が加わったり、役が変わったキャストがいるなど、様々な変化がありますが、太田さん演じる直貴がWキャストになった(初演は三浦涼介のシングルキャスト)のが、やはり大きな変化ですよね。もう一人の直貴は柳下大(とも)さんが演じています。

太田 同じ役を稽古していても、僕とトモくんの直貴では全くと言っていいほど違う。演出が違うというより、それぞれの役のアプローチの違いですね。そりゃ同じ人間っていないわけだけど、とらえ方というのがこんなに違うんだって勉強になるし面白いです。僕、全部がWキャストの作品はだいぶ昔に経験あるんですけど、こういう一部がWっていうのは初めてなんです。なので、取り組み方が難しくはあったんですけど。やっぱり稽古場も一緒なので、意識しないってわけにもいかず。

ミュージカル「手紙」2017(2017年)

 

――再演では新曲が加わったり、役が変わったキャストがいるなど、様々な変化がありますが、太田さん演じる直貴がWキャストになった(初演は三浦涼介のシングルキャスト)のが、やはり大きな変化ですよね。もう一人の直貴は柳下大(とも)さんが演じています。

太田 同じ役を稽古していても、僕とトモくんの直貴では全くと言っていいほど違う。演出が違うというより、それぞれの役のアプローチの違いですね。そりゃ同じ人間っていないわけだけど、とらえ方というのがこんなに違うんだって勉強になるし面白いです。僕、全部がWキャストの作品はだいぶ昔に経験あるんですけど、こういう一部がWっていうのは初めてなんです。なので、取り組み方が難しくはあったんですけど。やっぱり稽古場も一緒なので、意識しないってわけにもいかず。

ミュージカル「手紙」2017(2017年)

 

――今回のように難しい役柄のとき、先ほど言っていた「これだ」というものは無理やりにでも掴んで本番を迎えるものなのでしょうか? それとも、本番においてもその葛藤があるタイプ?

太田 稽古中に「これだ!」を掴んで、そのまま行っちゃえば楽なんですけど。「これかな?」っていう瞬間はもちろんあるんですよ。だけど「あれ、なんかやっぱ違うな」って、すぐ崩れちゃいますよね。自分の場合、それをずっと繰り返している感じはあるかもしれないです。正直な話、本番に入っても。本番は常に同じクオリティでお客さんに見せたいって気持ちはもちろんあるんですけど、なかなか難しいですね。いつかできるようになるんだろうか……。でもやっぱりその日その日で違うスイッチがあったりもするし、新しく感じたこともやっぱり出てきちゃうし。

 

――舞台はライブの出来事ですから、当然だと思います。

太田 ミュージカル「テニスの王子様」から舞台をやらせていただいていますけど、そこからもうずっと同じことを繰り返している感じっていうか(苦笑)。

 

――デビュー作のお話が出たのでその頃のお話を。先ほどから出ている“ニュートラル”であるとか、また以前インタビューをしたとき、「平和が一番。平和主義です」という発言をされていたのが印象に残っているんですけど、そういった穏やかな性質はデビュー前から?

太田 だと思います。もともと目立ちたがり屋でも全然なかったから。

 

――目立ちたくはなくても目立っていたのでは? モテたでしょうし。

太田 それが、中高6年間男子校だったんです。そういうところもあるのかもしれないけど、すごく地味でした。だから今この仕事をしているのは、自分でもマジでびっくり(笑)。

――芸能界入りのきっかけは、自分からではない?

太田 妹がオーディションに書類を出したんです。悶々とした日々を送る兄を見て、「何かしらやれば?」ってことだったんじゃないですかね(笑)。ギターが好きで、人前で歌ったことはないけど、その願望はあったんですよ。と言いつつ、恥ずかしくてカラオケにも行けない学生だったんですけど(笑)。みんなと一緒に行っても自分は頑なに歌わないっていう、一番メンドくさいヤツ。当時はカラオケの採点が流行っていて、それがとにかくイヤだったんですよね。まず人前で歌うことの恥ずかしさがあるのに、その上採点なんてされたらたまったもんじゃない、みたいな。でも家ではギターを弾いて、好きなバンドの真似したりして、のびのびやっていたわけです。完全なる内弁慶(笑)。で、妹が送ったそのオーディションに合格して事務所に入ることになったんですけど、特に仕事があるわけではなく、そこからまた悶々とした日々が始まり。そしてまた少し時間が経って、大学に入ってから「テニスの王子様」に出演しました。そこが、お芝居のちゃんとしたスタートですね。

 

――その初舞台は、ミュージカル「テニスの王子様」The Final Match 立海 Second feat.The Rivals(2009~2010年)。当時のこと、覚えていますか?

太田 全くの素人がいきなり日本青年館に立ったんですよ。2日目に舞台上で転んだことが、記憶に鮮明に残っています。それも試合(のシーン)中、ピン(スポット)が自分にだけ当たっていて、ストップモーションでカッコいいキメ台詞を言うときにステン!って。ドライアイスの演出で床がちょっと濡れていたんですけど、そういうときは気をつけなきゃとかそんな知識もないから、「一生懸命やるだけでしょ」って思ってて、一生懸命転びました(笑)。もう、頭真っ白になりましたね。でも初舞台で、それまで必死になって練習したからか、面白いことに、頭は真っ白になっても体は動いていたんです。サッと立ち上がって、ちゃんと台詞も言ってて。だから演出だと思ったお客さんもいたみたいで。でもあの真っ白になった瞬間はゾッとしたし、今でもその感覚は覚えています。

 

――当時は“テニミュ”が若手男優の登竜門として定着し始め、内部にもいい意味でのギラギラ感があったのではないかと想像します。そこを、“ニュートラル太田”としてはどう生き抜いてきたのかなと(笑)。

太田 だから大変でした(苦笑)。まず、普通はライバル校ってチームごとに追加されるんですけど、この公演のとき、僕の役(伊武深司)は学校(不動峰)を代表して一人だけ出ていて。他のみんなは初めてじゃないのでできあがっている状態で、そんな30人の中に全く何も知らない自分が一人ポンと入れられたので、正直ホントに恐ろしかったです。そして誰かが手取り足取り優しく教えてくれるほど、甘い世界じゃない。例えばダンスの稽古をしていても、なかなか鏡の前に立てないんですよ(笑)。みんな自分の姿を確認するのに必死で、何もできない自分なんてとても、その中に割って入れない。結果、鏡の端の端にちょっとだけ映った自分を見ながらダンスの稽古をしてて(笑)。「俺、映ってないです」とか言えばよかったんですけど、周りはみんな先輩だからその勇気もないし。つまり稽古場でやれることだけだと全然足りなくて、だけど本番は来るし、自分には責任がある。じゃあこれは家でやるしかない、と。実家に大きい鏡を買って、リビングで練習してました。広くないリビングでラケットをぶんぶん振り回して(笑)。で、天井に痕つけちゃって親に怒られたり。当時はほんとにやらなきゃいけないことでいっぱいで、ずっと追われている感じでした。だから僕的には、ギラギラする暇もなかったです(笑)。

 

――なかなかハードなスタートだったんですね。そしてそこから今に至るまで、途切れることなく舞台の仕事が続いています。

太田 徐々につながってきたという感じで、ありがたいですね。2009年に初舞台だから10年まではいっていなくて、8年ぐらいですか。よく続いてるなあって自分でもびっくりします(笑)。

 

――辞めたいと思ったことはありましたか?

太田 基本的に何かしらに追われているので、ないですね。僕、精神状態が基本ニュートラルな真ん中のところか、そのちょっと下にいるので、落ちる幅が少ないんですよ。たぶん、上から急にドンと下がるとかだと、幅に耐えられなくて辞めたいって思うんだろうけど、そこまでいかない。多少落ちたら、「ハイハイ、この時期来ましたか」みたいな(笑)。「ここ乗り越えればとりあえず楽になるんだろうな、頑張ろう」みたいなことの繰り返しというか。

――なんかちょっとうらやましい気がします。その境地、身につけたい(笑)。

太田 えー、地味ですよー。「イェーイ!」ってならないんですから(笑)。

 

――初舞台から10年に満たないとは信じられないほどの数の舞台をこれまでに経験しています。代表作というのも、太田さんの場合は絞りにくいですよね。初期でいうと、まず「マグダラ」(マリア・マグダレーナ来日公演「マグダラなマリア」)シリーズ(2010~2013年)が挙げられるでしょうか。

太田 そう言っていただくことが多いですね。「テニス」が終わって間もなくのお仕事だったんですけど、そこでの演出家さんとの出会いは自分の中で大きかった。食事もノドが通らないぐらい、相当絞られたんです。「テニス」は環境になじむ大変さがあったけど、「マグダラ」のときは作品や役への向き合い方に対する大変さ。“役者として”の苦悩はそのときに初めて感じました。コメディでもあったので、テンポ感とかの指示がもうびっくりするぐらい細かくて。当時共演した藤原祐規さんとか米原コーちゃん(幸佑)とかを見てても思うんですけど、お芝居への向き合い方は「マグダラ」で学んだんじゃないかなって。だから彼らとお芝居をすると、やっぱり波長が合います。「どこかで『マグダラ』で学んだものを使ってるな、俺ら」みたいな。そういう意味では、「テニス」的な見せ方しか知らなくて何もなかった自分の引き出しが、あの作品でだいぶ増えたような気がします。もちろんやってる最中は必死だから、「引き出し増えたぞ」なんて思ってないですよ(笑)。後で思えば、「やっぱり『マグダラ』がデカかったんだ」とか、そういう感じ。いつの間にか増えてた、みたいな。僕、生きている中でその“いつの間にかパターン”が結構あります(笑)。

 

――その「マグダラ」もですが、他にも「弱虫ペダル」(2012~2016年)、「Club SLAZY」(2013~2016年)、「幕末Rock」(2014~2015年)、「メサイア」(2013~2015年)、また「恋するブロードウェイ♪」(2011~2014年)など、1回で終わらずシリーズ化される作品への出演が多いです。そういう作品の場合、別の方が役を受け継いだりして、“卒業”という形で作品を離れることが、ある意味お約束にもなりますよね。そういうとき、率直にどんな気持ちになりますか?

太田 誇らしいしありがたいです。その作品を愛してもらったからこそ、積み重ねられたから。自分たちもその作品をたくさん愛して、お客さんと一緒に大事に作ってきたんだなっていうのが実感できるし、すごく誇らしい気持ちになります。とにかく、感謝の気持ちが強い。今はお客さんを呼ぶのもそう簡単ではない時代ですから、なおさらですよね。

 

――単純な寂しさとか、作品や役に対する執着などは? 共演者たちと現場で会えなくなるということだったり。

太田 この界隈はみんな、どこででも会いますからね(笑)。作品に対しても、寂しさっていうのはないです。その作品で感じたもの、感謝や誇らしさを自分の中に大事に持ちながら前に進もうっていう考えだし、他の役者のみんなもそういう思いじゃないのかな。自分たちはこの作品をここまでお客さんと一緒に愛せた。じゃあもっと愛してもらえる作品に出会うために、また前に進もうって。

 

――好きだからこそファンは執着してしまうものだったりしますが、演じる俳優がそういう考えをしっかりと持っていることは、とても良いことだと感じます。

太田 でも親とかに言われたりしますよ。ほら、千秋楽の次の日にはもう次の仕事だったりするじゃないですか。で、自分としては切り替えるからブログに書いたりするんだけど、「お客さんは余韻に浸りたいから、次の日に別の稽古の話とかってイヤなんじゃないの?」って(笑)。「なるほど、確かにそうだ」とは思ったんですよね。でも前の仕事を適当に扱っているつもりは全くないんです。昨日まであったことは自分の中ですごく大事。でもやっぱり次へ行くっていう気持ち。淡白に思われがちなんですけど(笑)、そうではないつもりです。

舞台「弱虫ペダル~総北新世代、始動~」(2016年) ※写真左
©渡辺航(週刊少年チャンピオン)2008/「弱虫ペダル」GR製作委員会2014
©渡辺航(週刊少年チャンピオン)/マーベラス、東宝、セガ・ライブクリエイション

「Club SLAZY The Final invitation~Garnet~」(2016年)
©2016CLIE/CSL 撮影/鏡田伸幸

 

――そういう気持ちも関係しているのかなと思いますが、本当に役の幅が広いですよね。

太田 いろんなタイプの役のお話をいただきますね。暗めな感じも結構あるし、かと思えばすっごい元気な単細胞キャラもあるし、女装の役回りもあるし。楽しいですよ。自分は何ができるか、自分ではよくわからないんです。でもキャスティングしてもらったってことは、やれるだろうと思われたってことだから、もし自分の中でかけ離れていたとしても挑戦すべきだし、楽しまないとなって思ってやっています。

 

――そして、昨年の出演作にまた驚かされました。東宝が手掛けるシアタークリエでの本格ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」と、フランク・ワイルドホーン作曲というこれまた本格的な大作ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」(=「スカピン」)に立て続けに出演。さらに、公演中のミュージカル「手紙」と続くわけですから……

太田 「ミュージカル俳優やないかい!」っていうね(笑)。

 

――周りがそう感じてもおかしくないですよね。実際、初の本格ミュージカル「ジャージー~」での堂々とした姿とハリのある歌声は印象に残りました。

太田 ソロ曲があったわけじゃなくて、僕の役は主にコーラスの役回りでしたけど。でも声に特徴があるっていうのは、いろんな人が言ってくださって。「スカピン」のときも「もっくんってどういう発声してるの?」って、音大出のシュガーさん(佐藤隆紀<LE VELVETS>)に興味を持っていただいて(笑)。シュガーさんって発声マニアなんですよ。「もっくんの発声はここが響いてて面白い。いい声してるよ」なんて稽古が始まってすぐに言われて、「え、マジすか!?」みたいな(笑)。声に特徴があって通るっていうのは、舞台をやっていくには大事なことかなと思いますけど、かといってずっと歌を学んできたわけではないので、「ジャージー~」は大変でした。まず歌稽古だけで2、3週間あったんです。みんなでずっと歌ばっかりやるんですけど、たくさんあるハモリとか、ほんとわからなくて、居残ってやってました。お客さんはあまり気づかないと思うんですけど、20曲ぐらいハモリで参加してるんですよ。舞台の裏で着替えたりしながら、♪ハァ~ ってやってて。

 

――なるほど。実際、どっぷりとミュージカル体験ができた作品だったんですね。

太田 ミュージカルへの向き合い方を「ジャージー~」で初めて知ったというか。でも始まりがこの作品ですごく良かったと思います。内容もそんなにお堅いものじゃなく、音楽もポップス寄りだったので、ヘンに気負わず楽に、それこそ多少ニュートラルな気持ちでもいられたというか。

 

――ただキャストは主演の中川晃教さんを筆頭に、多少気負わざるを得ないようなミュージカル界の錚々たる顔ぶれが揃っていましたよ? ……あ、そこもやはり“ニュートラル太田”で(笑)。

太田 皆さんのことは、お名前は存じ上げております……というぐらいだったので、(吉原)光夫さんに対しても全然ビビんなかったですもん(笑)。

 

――太田さんが演じたボブ・クルーは、バンド「ザ・フォー・シーズンズ」のプロデューサー。つまりボブが、中川さん演じるフランキー・ヴァリらメンバーを束ねるような役割でもあるわけで、普通ならとてもプレッシャーを感じたりもすると思うんですけど、さすがですね(笑)。

太田 いや、「4人をまとめるプロデューサーなんだ」みたいなプレッシャーは、多少はありましたよ(笑)。そしてやっぱりこのボブという人ならではのちょっと特別な、なんかスカッと抜けたものがないとダメだと思ってやってはいました。でも藤田さんがわかりやすくいろいろアドバイスしてくれたというのもあるのか、あの役はすごくやりやすかったです。作品は本格的なミュージカルなんですけど、役者として関われる役というか、今までやってきたことを出せるし、ヘンに気負わなくてよかった。という意味で、作品も役もすごく向き合いやすかったです。

ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」(2016年)

 写真提供/東宝演劇部

 

――改めて確認しますが、昨年からの流れは、ミュージカル俳優へのシフトというわけではなく……?

太田 一瞬ね、そう思われたかもしれないですけど、たまたまそういう流れで、勉強になる作品が続いたということですね。間に「Club SLAZY」もあったので歌モノが続いたんですよ。単純に歌う機会が増えたので、歌うことに対して昔よりはだいぶ気が楽になってきて、なじんできた感覚は多少ありますね。だからミュージカルの方たちって、こうして定期的に声を出していくことで、歌うことがどんどん楽しくなるのかなあ、なんて思ったり。楽しいっていうと失礼かな(笑)。「ジャージー~」のアッキー(中川晃教)さん、「スカピン」の(石丸)幹二さん、安蘭(けい)さん、石井(一孝)さん……ご一緒させていただいたミュージカルの方たちは皆さんほんとに素晴らしかったですね。感動したなあ。思えば「恋ブロ♪」で一緒だったメンバーも、海宝(直人)くんとか(内藤)大希とか小野田のリュウ(小野田龍之介)とか、どんどん帝劇のプリンシパルになってますよね。みんな頑張ってる! スゲエわ。昔から、そういうメンバーたちにも刺激をたくさんもらっていて、だからミュージカルというジャンルに対して、ヘンな偏見なく入っていけたところもあるかもしれない。……なんか、つながりましたね。これまでのことって全部つながっていたんだなって、今話してて思いました。

 

――さて、30歳になったばかりでもあります。どんな30代を過ごしていきたいですか?

太田 まあ特殊な仕事ですから、不安っちゃ不安なんですけど。とにかくお芝居に関しては勉強が足りないことばっかりなので。かといってヘンに上手く

なりすぎたり、お芝居をこなすみたいになっていくのはイヤなんです。なんか常に「あー自分はダメだな」と思いながら、磨いていったり成長していけるような……だからたぶん変わらないですね、30代に入っても。今思いました、たぶん変わんない!(笑)

3~4月、ミュージカル『刀剣乱舞』 ~三百年(みほとせ)の子守唄~ に、千子村正役で初登場!(写真左上)
©ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

6~7月、舞台「黒子のバスケ」OVER-DRIVE に、花宮真役で初登場!(写真左上)
©藤巻忠俊/集英社・舞台「黒子のバスケ」製作委員会

 

 

デキメン‘s view

Q.「イケメン」というフレーズに感じることは?
自分も男の人に対して「うわ、イケメンだ!」とか使います。それは顔がカッコいいというよりは、持っている空気感とか味がカッコいいなと感じたときに「イケメン」って言うかもしれないですね。

Q.「デキメン」が思う「デキメン」
最近だとやっぱり「スカーレット・ピンパーネル」でご一緒した石丸幹二さんは凄いと思いました。「あ、スターだ!」って。キラキラしてて上品で、繊細さも持ち合わせていて、とにかく美しかった。それでいていろんなことを楽しんでやっているし、自然体なんです。なかなか出会えない方だと思いました。
同世代は……みんな面白いですけどねえ。いま共演している加藤良輔とか単純に大好き。彼こそニュートラルな役者だって思っているんですけど。コイツ器用だなってことだと井澤勇貴とか。玉ちゃん(玉城裕規)も面白い空気や味を出すから凄いなって思いますね。

Q.「いい俳優」とは?
お芝居って、言ったら“嘘”じゃないですか。だから、いい嘘をつきたいとはすごく思っています。例えば2.5次元の作品で、現実には絶対言わないっていう台詞でも、いい嘘のつき方をしたい。お芝居でも歌でも“ニュートラル”っていうのは大事にしているところです。でもやっぱりどこか力が入って、ヘタクソな嘘をいっぱいついちゃうんですよね。今もそんなんばっかり。でも、それがいつかいい嘘になるといいなと思いながら稽古しています。

 

マネージャーから見た「太田基裕」

インタビューでも話していましたが、いきなりハードな経験をした初舞台のミュージカル「テニスの王子様」でステージに立つ怖さを味わったはずで、その怖さを補完するものは、やはり経験値。ステージの大きさ、演出家さん、作風、役柄などは、なるべくいろいろなものを提供しようと思ってやってきて、その方針は今も変わりません。本人はネガティブな不器用キャラを自称していますが、意外と適応能力があるようにも感じています。
初舞台の頃から感じていたのは、ステージに立つとどこかキラキラ感というか、華があるということ。普段は別として(笑)。実際、演出家さんやスタッフさんもそう言ってくださることが多いですし、その持って生まれたギフト的なものを大切にしてほしいです。そしてそういうものを一番生かせるのは舞台。この先もちろん映像なども機会があればやらせていただきますが、太田にとってずっと大切な礎となるのは、舞台の活動だろうなと思っています。

(株式会社アバンセ 担当マネージャー)

 


Profile
太田基裕 おおた・もとひろ
1987年1月19日生まれ、東京都出身。A型。2009年にミュージカル「テニスの王子様」The Final Match 立海 Second feat.The Rivals(伊武深司役)で初舞台。以降、ストレートプレイ、ミュージカルなどジャンル問わず、舞台を中心に活躍。ニコニコ生放送にて、佐藤永典とのレギュラー番組「さともつチャンネル」に出演中。映画「マスタード・チョコレート」が今春公開予定
【代表作】舞台/「スカーレット・ピンパーネル」(2016年)、「ジャージー・ボーイズ」(2016年)、「ホテル・カルフォリニア」(2016年)、「GO WEST」(2015年)、「逆転裁判2~さらば、逆転~」(2015年)、超歌劇「幕末Rock」シリーズ(2014~2015年)、TRASHMASTERS「儚みのしつらえ」(2014年)、ミュージカル「黒執事」-地に燃えるリコリス-(2014年)、「刻め、我ガ肌ニ君ノ息吹ヲ」(2014年)、「覇権DO!!~戦国高校天下布武~」(2014年)、「Club SLAZY」シリーズ(2013~2016年)、「メサイア」シリーズ(2013~2015年)、「死神姫の再婚」(2013年)、「サヨナラ誘拐犯のパーフェクト・ストーリー」(2013年)、VISUALIVE「ペルソナ4」(2012年)、舞台「弱虫ペダル」シリーズ(2012~2016年)、「恋するブロードウェイ♪」シリーズ(2011~2014年)、「ROCK MUSICAL BLEACH」シリーズ(2011~2012年)、「努力しないで出世する方法」(2011年)、「青の戯れ」(2010年)、マリア・マグダレーナ来日公演「マグダラなマリア」シリーズ(2010~2013年)、ミュージカル「テニスの王子様」(2009~2010年) TV/「祝女~shukujo~」(2010~2012年) 映画/「メサイア-深紅ノ章-」(2015年)、「マジックナイト」(2014年)、「メサイア-漆黒ノ章-」(2013年)、「ウタヒメ 彼女たちのスモーク・オン・ザ・ウォーター」(2012年)
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