大パルコ人③ステキロックオペラ『サンバイザー兄弟』 宮藤官九郎&瑛太&増子直純 インタビュー

歌ウマなやくざの兄弟が
笑いの旋風を巻き起こす!?

 

宮藤官九郎が作・演出を手がけ、演劇×笑い×音楽をテンション高く融合させたオリジナルロックオペラシリーズ“大パルコ人”。メカロックオペラ「R 2 C 2 ~サイボーグなのでバンド辞めます!~」(’09年)、バカロックオペラバカ「高校中パニック!小激突!!」(’13年)に続く、第3 弾が上演決定。宮藤作品常連の顔ぶれはもちろん、今作にはNODA・MAPなどへの出演経験がある瑛太、これが初舞台となる怒髪天の増子直純も参戦するというから驚きだ。宮藤、瑛太、増子の3人に、本作でのもくろみについて語ってもらった。

宮藤 だいたい音楽モノをやるときに、誰もが「ブルース・ブラザーズ」(’80年)的なものをやりたいって思うと思うんですけど。僕も何回も思ったんですけど、何回も失敗して。でも今回、この切り口だったらいけるんじゃないかという風に思うプロットができたんですよ。本来ならグループ魂がこういう作品をやるべきなんでしょうけど、グループ魂がバンド寄りのお笑いグループになっちゃったので…例えば「TOMMY」みたいな、バカバカしくてロックとお芝居が合わさったようなものもずっとやりたかったんですよね。で、メタルっぽくしちゃうと新感線になっちゃうんで、そこは気をつけつつ。それで、瑛太くんと増子さんには前回の「高校中パニック~」を観に来ていただいてたので、印象は悪くないはずだと思って声をかけました。

瑛太 今作のお話をいただいて、もう二つ返事で「やりたいです」って言いましたけど、OKしちゃってから「これ大丈夫かな?」って(笑)。舞台で歌うのも初めてですし、楽器も弾くのかな?とか気になっちゃって。あと前作に僕の弟(永山絢斗)が出てたんですけど、絢斗ばかりに目がいってしまい、思い切り弾けて、気持ち悪い動きも精一杯演じきっていて(笑)。

増子 俺も宮藤くんのいろんな作品見せてもらってるけど、本っ当、バカバカしいんだよね。俺もバカバカしいことが好きでバンドもそういう感じでやってきたんだけど、そこにお金かけられるっていうのが最高なんだよね。無駄なものこそ芸術だから。それでいて、ホロリしたり、ぐっとくる部分があるっていうのもたまらなくて。

 

本作は東池袋の歌の上手いやくざ“サンバイザー兄弟”(瑛太&増子)の兄弟愛や父娘愛、そして西池袋のネオカラーギャングとの抗争を、怒髪天・上原子友康の手がけたオリジナル曲にのせ、力いっぱいバカバカしく描くというもの。

宮藤 僕、今年に入って映画の「土竜の唄」、次に(劇団☆)新感線の舞台の脚本を書いたんですけど、両方ともやくざものなんですよ。最近「ヤクザと憲法」っていう映画を観まして、その中ではやくざが弱者として描かれているんですけど、それが新鮮だったんですよね。だから自分の中でやくざブームが来てるのかもしれない。今回は現代の理不尽と戦う古風な考え方の兄弟、みたいな話になるといいなあと…今、考えたわりにはまっとうなことを言いましたけど(笑)。「ブルース・ブラザーズ」は70年代の日本のやくざ映画の「まむしの兄弟」にヒントを得てるっていう説があって、そうするとやくざに演歌も要素として入ってきてぴったりなんじゃないかなって。それでせっかくなんで(怒髪天の)友康さんに曲も作ってもらおうと。

 

増子は勝手知ったる怒髪天サウンドの中で演じることになるわけだが、それをどう感じているのだろうか。

増子 バンドと芝居って似て非なるもので、怒髪天の音楽は俺がやれば正解なわけよ。でも芝居って台本読んで自分なりに解釈して、俺がOKだと思っても、演出家さん的にはOKじゃないでしょ。それが逆におもしろいかなって。バンドで誰かに怒られることってもうほぼないから、叱られたいなって思ってね。

宮藤 いや、増子さんがOKならOKですよ(笑)。

 

そして、おバカでハジけるような演技を見せる瑛太というのもレア中のレアといえる。

瑛太 せっかくだから笑いが起きてほしいなっていうのはあります。こないだ阿部サダヲさんと一緒に舞台(『逆鱗』)やったんですけど、どんどん笑いを食べてエネルギーにしていくようなパワーがあって、それを見ていていいなと思ったので。今回は自分がどこまでいけるのか楽しみたいです。

 

2人はそれぞれ、刑に服して釈放された歌の上手いやくざの“レッド”(増子)、それを出迎える舎弟の“グリーン”(瑛太)という役どころだが、宮藤はどんな兄弟像を思い描いているのだろうか。

宮藤 「ブルース・ブラザーズ」もそうなんですけど、二人の中では正解だと思うことを信じて生きているんだけど結構めちゃくちゃで、周りがそれに巻き込まれてヒドい目に遭う(笑)、みたいな感じにしたいなと。二人にとっては自分たちがやってることは正解だから、お笑いでいうボケとボケみたいな関係性ですかね。

 

前2作と異なり、本作は劇場を池袋に移しての上演。池袋×宮藤といえば、宮藤の出世作であるドラマ「池袋ウエストゲートパーク」(’00年)を思い出す人も多いのではないだろうか。

宮藤 今なら言ってもらえれば、ネタ入れられますよ? 皆川(猿時)くんがキング(窪塚洋介)のなれの果てをやるみたいな(笑)。前作、前々作は渋谷のパルコ劇場でやる渋谷のお話だったんで、今回は池袋でやるから池袋からスタートする話にしようかなと。ただサンバイザーって言葉の響きがいいなと思って「サンバイザー兄弟」ってタイトルにしたんですけど、ステージでかぶると顔が(つばの色の)緑になったり黄色になったりしちゃうんですよね。それをどうしようかなって考えてるんですけど。

 

「みんなでおそろいのジャージ着たいよね」(増子)などの発言も飛び出し、稽古を楽しみにしている様子がうかがえる瑛太と増子。そしてもっか台本の構想を練っているという宮藤に、現在の意気込みを聞いてみた。

増子 俺、今年50歳になったんだけど、50にして新しいことをやるっていうね。新しいことをやればいろいろ学ぶことも多いかなって思うし、節目だから何かやり始めるのにもいいかなと。やりたいっていくら自分で言っても、呼ばれなきゃできないからね。ミュージカルも実は好きだから、こういう現場に呼んでもらえるって言うのは光栄だし、頑張らないとね。

瑛太 僕はもちろん歌があるなら歌を頑張りつつ、あとバカになりたいですよね。思いっきりバカになれば、終演後のビールがおいしくなるじゃないですか。普段はなかなかできないような、お芝居だからこそできるバカなことを、思いっきりハジけてやってみたいなと思ってます。

宮藤 絢斗くんが観に来て「兄ちゃん気持ち悪い!」って思うかもしれないよね。どうせなら「どうだ、気持ち悪いだろう?」っていう勢いで行きましょう。

瑛太 そのぐらいの動きを見せられるように頑張ります(笑)。

宮藤 お二人にハジけてもらうための土台を作らないといけないんですけど、これがなかなか大変なんですよね。台本書こうと思ってからバカになりきるまでに1か月くらいかかりますから。今回は特にちゃんとバカにならないとって思っていて、舞台になる池袋にしばらく住んで集中しようかなとか、いろいろ考えてます。

 

取材・文/古知屋ジュン
構成/月刊ローチケHMV編集部 8月15日号より転載

 

【プロフィール】

宮藤官九郎
■クドウ カンクロウ ’70 年、宮城県出身。脚本家、監督、俳優など、多方面で活躍。

瑛太
■エイタ ’82年、東京都出身。様々な映画やドラマで活躍中。

増子直純
■マスコ ナオズミ ’66年、北海道出身。バンド・怒髪天のボーカリストとして’91年にデビュー。