イキウメ『図書館的人生Vol.4 襲ってくるもの』 前川知大 インタビュー

ショーケース的に楽しめるイキウメ流の短編集

近年、舞台作品が映像化されることも多い人気劇団「イキウメ」。そんな彼らによる短編集“図書館的人生”の第4弾『襲ってくるもの』の上演が決定。作・演出の前川知大に話を聞いた。

前川「短編は好きですね。いろいろなアイデアが試せて冒険出来る場所なので。普段やらないような作風のものが入ってくることもありますし。よくよく見たらSFでもホラーでもないじゃん!みたいな(笑)」

 

タイトルにもなっている今回のテーマはいかにして決まったのか。

前川「前から“思い出に襲われる”という言葉が気にはなっていたんです。“思い出”ってノスタルジックな、優しいイメージがあるのに、フッと襲われてしまうものなんですよね。自分の意志とは関係なく、あるきっかけから思い出してしまった、という感じで。しかもなかったことには出来ない。その避けられない、襲われてしまう感覚が面白いなと思ったんです」

 

短編集の中の一編は、“ マインドアップロード”にまつわる物語。自分の意識をコンピューター上に再現した直後に亡くなった父は、こちらの問いかけに対しては正確に記憶を検索出来るが、自発性がない。そこである感覚器官を取りつけ、自ら記憶にアクセス出来るようにするが…。

前川「人の記憶に直結している一番の感覚は“嗅覚”らしいんです。それは“プルースト効果”と言われていて、マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の冒頭、紅茶に浸したマドレーヌの香りで子供時代の記憶が蘇る、という描写からきています。それはつまり嗅覚によって記憶に襲われてしまうということ。この父親も、嗅覚センサーを取りつけることでいろいろ思い出すことが出来るのですが、ただ…という話です」

 

イキウメは昨年、第52回紀伊國屋演劇賞団体賞を受賞。劇団として非常に充実した時期を迎えている。

前川「男優5人の劇団ですが、近年うまくなったって言われることが増えて嬉しいです。自分がやりたいことをちゃんと表現してくれるって安心感もあって。また短編では普段と違う役どころにも挑戦しますし、イキウメ初見の方にも、いろいろショーケース的な作品が観られますので絶対に楽しんでいただけると思います」

 

インタビュー・文/野上瑠美子
撮影 鬼澤礼門

 

※構成/月刊ローチケ編集部 3月15日号より転載

表紙

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【プロフィール】
前川知大
■マエカワ トモヒロ ’74年生まれ。「イキウメ」を拠点に、脚本と演出を手掛ける。’17年には自身が原作の『散歩する侵略者』が映画化された。