少年社中20周年記念第二弾 少年社中 第34回公演『MAPS』
毛利亘宏×小野健斗×柏木佑介 鼎談レポート

毛利亘宏が描く世界は役者へのラブレターであり、過去から来て未来へと続く全員の“今”の姿である――少年社中 第34回公演『MAPS』鼎談

 

20周年を迎えた劇団・少年社中の記念公演第二弾は、少年社中の第34回公演として上演される『MAPS』。空間も時代も違う3つの物語が、3枚の地図と3つの嘘で繋がり合い、絡み合う。少年社中の主宰であり、脚本・演出を手がける毛利亘宏と、ミュージカル『薄桜鬼』シリーズ初演からの付き合いである小野健斗、柏木佑介の鼎談をお届けする。

 

――少年社中 20周年記念第二弾公演、おめでとうございます。まずは毛利さんに構想のキッカケをお伺いしたいと思います。

毛利「一冊の本がありまして。『世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語』という古地図を集めたムック本で、想像上の地図に多くの人々が惑わされた時代があったことに、ものすごくロマンを感じたんですね。今でこそGPSでほとんどの場所が明らかになりますけど、昔はそうではなかった。正しいか分からないものを信じて冒険をしていた人たちがいたことと、20周年の少年社中が重なるものがあったといいますか。今までも自分たちが信じるものに向かってやってきましたけど、それが正しいかはまだ分からない。けれど、この20周年は決してゴールではないので。またここから真っ白な地図に絵を描き始められたらいいなと思い、題材に選びました」

柏木「台本を読み進めている間は、ちょっと“世にも奇妙な物語”的というか(笑)、不思議な世界に迷い込んだ感じがありましたけど……」

小野「地図を描くもののひとりとして、僕らも頑張りたいなと思いました!」

 

――舞台装置と言いますか、セットもかなり不思議な形のようですね。

毛利「そうなんです。パズルです(笑)。最初は素舞台でも面白いかなと思っていたのですが、“何もないところに地図を描く”という発想で作ることにしました。今はまだキャストたちとパズル遊びのようなことをしています。何チームかに分かれて“ハイ、船を作って”とオーダーしてみたり……」

柏木「二人組でイスを作ってプレゼンしたりもしました。あのセット、すごく無限の可能性を秘めているんですよ!ああいう組み立てパズルって、大人になっても楽しいものですね。“少年社中”というだけあって、少年の心に戻れるような楽しさがあるなと思いました。大人が全力で子供の遊びをしている感覚です」

小野「僕は途中から稽古に参加したので、稽古場に色々な立体があって驚きました(笑)。でもちゃんと“ソレ”に見えるんですよ。みんなが作った結晶を壊したら良くないと思って、まだ触れられないでいるんですけど……」

毛利・柏木「(笑)」

毛利「ちょっと類を見ないというか、演劇ならではの面白さが生まれるのではないかと思っています」

 

――今作の『MAPS』では「冒険家が持つ地図」「江戸の商人が持つ地図」「漫画家が持つ地図」という3つの世界が描かれ、混じり合っていきます。『ピカレスク◆セブン』のインタビューで、毛利さんから配役はキャスト先行だと伺いましたが、今作も?

毛利「そうです。ご一緒したい役者さんで今回集まってくださった方々の顔ぶれを見て、こんな役がいいなと決めていきました」

小野「そうなんですか!」

柏木「初めて知った!」

 

――小野さんは「冒険家チーム」の世界に登場する、剣士役です。

毛利「どの世界に登場してもらうか考えた時に、小野健斗は冒険家チームにいて欲しいなと思ったんです。冒険家チームには劇団員が多いのですが、劇団員だけだとどうしても固まってしまうところがあるので。推進力として、またアクセントとして健斗が欲しかった」

小野「うれしいです!」

毛利「キャラクターはね、もうちょいヘンテコになるかなと思っていたりもしたんだけど」

小野「俺の中でも色んな方向性を考えていて。どこがいいだろうと探しているところではあります」

毛利「俺は今の感じ、好きだよ。気持ち悪くも面白くもできるだろうけど、カッコイイ系を見たいと思ってこのキャラクターにしたところがある」

柏木「最初は“健斗、このキャラなの!?”ってビックリしたけど、それを聞いて納得しました」

小野「カッコイイ系ならば、任せてください!(笑)」

全員「(笑)」

 

――柏木さんは「漫画家チーム」の世界に登場する、チーフアシスタント役です。

毛利「先生という上の人と、年下のベテランという下の人の間に入っている、感じが良くて気が使える青年のポジション……というのが、すごく佑介のイメージに合ったんです。全体の軸になるのが漫画家の世界なので、その芯を通す力強さを出せる人だと思って」

柏木「おお……。稽古中に毛利さんから“好青年な感じで”と言われたので、“あっそうですね、僕って好青年ですもんね”って返したものの、“うん、分からないぞ?”と(笑)。“そのままでいいから”と言われてはいるんですけど、それが一番困る(笑)」

毛利「そういう返し方とか、今のインタビューを受けている感じの佑介をそのまま舞台に乗せて欲しいと思っているんだよ」

柏木「役者は“自分探しの旅”って言われるじゃないですか。まさに“そのままの俺とは?”“柏木佑介とは?”って、迷いの状態です(笑)」

毛利「今の困った笑い方!その感じがイイ!」

小野「本当にそのままってことですね(笑)。佑介の潜在能力はバツグンに高いので物凄く期待してます!佑介のことが大好きな役者ってたくさんいるから、見に来た役者仲間たちに“佑介、まんまやん!”って言われたら勝ちだよね!」

柏木「ってことだね(笑)」

小野「みんなすごく嬉しいと思う。高崎翔太とか絶対に大喜びする」

毛利「喜びそう~(笑)」

――さかのぼりますが、みなさんミュージカル『薄桜鬼』初演メンバーということで、その時の印象や変わったところなどをお伺いできればと。

柏木「聞きたい!」

小野「ちょっと怖いけど(笑)」

毛利「いやー、変な話だけど、印象でいうと変わらないんだよなあ(笑)」

小野・柏木「(笑)」

毛利「同志なんだよね、俺からすると。苦しい戦いを一緒に戦い抜いてきた友でもあると思っているから。久々に会っても変わらない部分と、すごく上手くなっていて堂々と立っているなと思う部分がある。出会った頃は、それぞれ役者としての道を探しながらやっていて、それが今や引っ張りだこになっているし。だから、会っていない間に積み上げてきたものを板の上で見ると心から嬉しい。お互いにずっと恥じない存在でありたいと思う相手です」

小野・柏木「ありがとうございます!」

毛利「初演メンバーに対しての想いって特別だからね。当時は今ほど2.5次元ミュージカルが定まっていなかったこともあって“まがいものが本物になる”という作品のメッセージと全員がシンクロしていた」

小野「そう、本当にあの時の熱量はすごかったです」

柏木「今でもみんな仲良いですもんね。プライベートでも会うし、お互いに今は何をしているんだろうって気になる存在になっている」

毛利「佑介には少年社中に出てもらったことあるけれど、健斗とは今回ようやく少年社中で一緒にやれるね」

小野「ぜひ出たいって言い続けていたものの、なかなかスケジュールが会わなくて。今の僕のプレッシャーは、毛利さんに良いところを見せなきゃっていうところです(笑)」

 

――縁の深い方々が集った今回の座組ですね。

毛利「そうです。一緒に辛い航海も乗り越えてきた仲間たちと、また新しい旅が出来ればと思っていますね。少年社中って、初めましての方があまり入らない理由に、やっぱり“過去”があって“今”があって“未来”があるから、ということがあるので。その“過去”をちゃんと知らないと“今”にも繋がらないかなと。今回は特にそうした想いが強く出ています。ミュージカル『薄桜鬼』から続いてきたふたりはもちろん、ここ5、6年で本当にたくさんの縁ができて。そこを少年社中というホームに呼んで、僕が思う“この人たちのこういうところが素敵だと思うんだ!”ってところを全力でアプローチできるのが、面白さであり、幸せです」

柏木「僕、初めて少年社中さんに出演させていただいたのが15周年記念公演の『贋作・好色一代男』だったんですけど、その時の毛利さんの言葉が忘れられなくて。台本をいただく時に“これは、僕からのラブレターです”って言われたんですよ。このキャラクターの生き様やセリフは、毛利さんから僕へのメッセージなんだと思いました。だから……(小野に)ラブレターだよ?」

毛利「恥ずかしいね、コレ!(笑)」

小野「いや、すごく良い言葉です!読み方が全然違ってくる!」

毛利「おこがましいんだけど、今ここにいるメンバーとしか作れないものを作りたいんだよね。演劇はその劇場でその期間でしか見られないものだから、“今”がとても大事だなと思う。だからこそ出演している役者の“今”を切り取りたくて。それはその役者がこれまで生きてきた人生だし、その“今”の芝居が次へと繋がっていくと思うから。そのおかげで少年社中は再演率が低いんだけど(笑)。ワンオフ(one off)というのが演劇の本質だという気がしてならないので」

 

――小野さんと柏木さんは、毛利さんに「こういう“今”の自分を見てもらいたい」という部分はお持ちですか?

小野「僕は……毛利さんと初めてご一緒したミュージカル『薄桜鬼』以来、色々なことがあって。何回も役者を辞めようと思ったこともあったし、でも続けて良かったと思うこともたくさんあるので、その感謝を含めて毛利さんにお返ししたいです」

柏木「つい最近までご一緒していた感覚があるので難しいですね(笑)。でも今までは“俺が、俺が”の役が多かったんですけど、最近はお芝居をしている中で、一歩引いたところに行くことの楽しさをすごく感じるようになっているんです。年齢のせいもあるのか分からないですけど、自分が前に行くより、相手からの影響を受け取る立場になる楽しさを感じている。その“今”の自分を毛利さんに見ていただけたらいいなと思います」

毛利「それで言うと、今回のチーフアシスタント役はハマるかも!」

柏木「確かにそうですね!」

小野「そういう佑介、すごく楽しみ。世界が違うから、絡まない可能性も高いけど(笑)」

――おふたりが絡むかどうかは、見てのお楽しみですね。『MAPS』の内容で少しツッコんだ話になりますが……。漫画家の役にはクリエイティブを生業(なりわい)としている人間の葛藤が描かれているように感じたのですが、これは毛利さんの20年分の想いも込められているのでは、という印象を受けました。

毛利「言ってしまうと、実話のようなものですね(笑)。これまでは売れない作家しか書いたことがなかったのですが、今の自分の状態を書いてみようかと。初めて“そこそこ売れている”前提でスタートしたんですよ。今の自分は、峠をずっとアクセル全開にして駆け続けている感覚の日々なので、恐怖心が強いんです。でもこの“恐怖心”ってネタになるなと思って(笑)。まだ克服方法が全然分からないので、書いてみたら分かるのではないかなと。全員の頭を通して作品にして見たら、ひとつ何かが見つかるのではないかと思っているところがあります」

 

――その“恐怖”というのは?

毛利「おそらくですが、自分は多作タイプで本数は書けるんです。ただ、それが面白いかどうかが不安。いつの頃からか、本が上がった段階では面白いと思えていないんです。稽古をして、舞台に上がった状態を見て初めて面白いと安心する。ただ“面白いとは?”という問いはずっとありますね」

小野「ゲシュタルト崩壊を起こしているってことですか?」

毛利「それもあると思う。あとは“自分の中に描くべきものはあるのか”ってことに、常に向かい合っている気がする」

柏木「今回のお稽古場で、毛利さんが“誰かに今までのことは全部、夢だったんだよ”と言われたら“あ、そうなんだ~ってすぐに受け入れられる”ってお話をされていて、僕、すごく衝撃的でした。“毛利さん、そう思うんだ!”と思って」

毛利「今の状態は、出来過ぎた夢を見ている気分なんだよね(笑)。20年間、仲間たちと劇団をやってくることが出来て、素敵な役者さんたちと出会って仲良くしてもらえて、同志だと思えるほどの絆が生まれて……。これは夢だとしてもおかしくないって本当に思う。ただ、一度は夢だと受け入れるだろうけど、やっぱり足掻くんだろうなとも思うよ」

 

――なるほど……。役者のおふたりにも“恐怖”というものはありますか?

柏木「当然、ありますよ。僕はファンの方々が応援してくださるのが不思議で。どうして時間とお金を使って会いに来てくださるんだろうって。僕、自分が自分のことを一番つまらないと思っている人間なんです。なので、ものすごく感謝の気持ちがあると同時に、全てが夢だったとしてもおかしくないなと思っているところがあります。だとしても、毛利さんと同じく、この仕事は絶対諦めないと思います」

小野「俺は“恐怖心”をあまり感じないというか、どちらかと言うと“かかってこいや!”なタイプかもしれないですね」

柏木「すげー!強いな!」

小野「でも目に見えないストレスを感じるのか、体には出てくる(笑)。だから強がっているだけなのかもしれない……」

毛利・柏木「(笑)」

 

――最後に、タイトルの『MAPS』になぞらえて……みなさんの描く“この3人の”未来予想図、理想の形などはありますか?

毛利「僕としては、先ほど言った“皆に恥じない自分でいたい”に尽きます。そこは変わらず、芝居を続けていたい、ものを作り続けていたい、苦しみ、楽しみ続けていたいですね。今回のテーマにも通じるのですが“怖れ”も“喜び”も全部を抱えて、前に進んでいたいと思います」

小野「僕も芝居をずっと続けていく中で、この先どんなにスケジュールがめちゃくちゃになったりしたとしても、絶対に少年社中のお芝居に出たいです!」

柏木「僕は毎年出たいです!」

全員「(爆笑)」

 

インタビュー・文/片桐ユウ