ゴジゲン第15回公演 『君が君で君で君を君を君を』松居大悟&奥村徹也 インタビュー

名脇役が主演と本人役を演じ、その内容のおもしろさからも話題となったTVドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズや、クリープハイプなどのMV、映画『アズミ・ハルコは行方不明』『アイスと雨音』の監督、現在はドラマ「グッド・ドクター」に俳優としても出演する、松居大悟が主宰する劇団ゴジゲンの10周年公演『君が君で君で君を君を君を』が10月から東京・下北沢駅前劇場と福岡・北九州芸術劇場で上演される。
7月から公開されている松居監督作の映画『君が君で君だ』をリブートした作品になるとのことだが・・・

 

――映画と舞台を10周年にやろうと思ったきっかけはなんだったんですか?

松居「本当に偶然ではあったのですが。映画『君が君で君だ』の作品の原作になった舞台を2011年にやったのですが、劇団としてはいちばん辛い時期でもあって」

 

――劇団ゴジゲンは2011年のこの公演で活動休止を宣言し、3年間の休止期間に入った。

松居「この公演があったから休んだというところもあったんです。劇団をもっと大きくと考えていた時期で、自分しか信じていないというか、周りからの言葉を全く聞けなくなってしまっていて。とにかく自分が考えているものを突き詰めることが正しいんだ、と思っている状態。とても普通な状態では作れないほど、追いつめられていました。自分にとってや、劇団員の目次(立樹)にとっては集大成というか、悔いのない作品になったことは確かだったんですけど、それが集客として繋がったのか、というと厳しくもあり……、演劇はしばらくいいかなと。でも自分にとっては初めて好きになった作品だったんですよ、この『極めてやわらかい道』という作品が。いいなと初めて思えたからこそ休もうとも思いました」

 

――そこまで思わせた作品を映画にしたのは何かあったんですか。

松居「公演後、3年くらい経った時に、この映画のプロデューサーでもあり大学の同級生でもあった阿部(広太郎)くんに、『あれ、映画にしようよ』と言われたんです。3年経っても作品が誰かの心に残っていることが自分にとっては一番嬉しかったので、やっていいんだなと思えたというか。休止してからの方が力が抜けて、人と一緒にものを作ることやいろんな人の話や言葉を聞けるようになってきていて。そんな今、誰の言葉も聞けなかったこの『極めてやわらかい道』という作品を基に、いろんな人の言葉や力を借りて、愛について作ろうと思ったんです」

――その映画があった上で、それを10周年の公演に選んだのは?

松居「映画を作ったのが去年(2017年)で、今年(2018年)の七夕に公開が決まった時に、劇団もちょうど10周年だなぁということを思って。目次以外の4人(奥村徹也、東迎昂史郎、本折最強さとし、善雄善雄)がメンバーにもなったし、『君が君で君だ』という映画は、映画に出ている役者たちがたくさんプロモーションもしてくれているという意味で世の中に出ている。それに乗っかりたいのがひとつ。もうひとつの理由として、単純に作品としてゴジゲンを次の段階に連れていってくれる作品でもあり、原作は元々ゴジゲンの作品なので、舞台でやったものを映画で掘り下げて、またさらにそれを舞台で掘り下げるというのは、自分だからこそ出来ることなのかなと思ったんです。もちろん舞台を映画化したり、小説だったものを舞台にしたりだとかはあります。ただそれは片道しかないというか、往復ではないかなと。劇団という場所がベースにあるから作り直すこともできると思った時に、リブートというか新作にはなりますがきちんとこの舞台⇔映画の流れを踏まえて作れるなと」

 

――再演しようという流れにはならなかったんですね。

松居「最初はもちろん再演という話もありました。ただあれから時間も経っていて、あの時と今ではもう恋だったり愛だったりの考え方も違うから、あの時と同じ温度で今はできないし、単純に今の自分たちで作った方がいいだろうなと」

 

――奥村さんは映画にも出演されていますが、映画の撮影時点ではこの作品がさらに掘り下げられて10周年の本公演としてどんな作品になるかご存知でしたか?

奥村「その時点というか・・・、今でもよく分かっていないんですよね。稽古の初日まで分からないというか、稽古初日でもわからないんですけど(笑)」

松居「誰にも言わないんですよ。劇団員に。次の公演どういうことをしようと思っているとか、言わないようにしようと思っているので」

奥村「ぼくらはこういうインタビュー記事を読んで、ちょっとずつ知っていくというか。だからインタビューとかでいっぱい聞き出してもらえると、ああなるほどこういう作品なんだって知れるみたいな感じなんです」

 

――でもチラシはすでに出来上がっているので、コンセプトを聞いた上で撮影されたのでは?

松居「チラシも僕が劇団のプロデューサーとデザイナーと話をして、そこにはメンバーはいないので」

奥村「ぼくらは何の感情もなく顔に色を塗られました(笑)」

ゴジゲン第15回公演 『君が君で君で君を君を君を』公演チラシ

 

――当日チラシの撮影に行って、初めて知ったんですか?

奥村「なんとなく塗るぞっていう噂だけ流れていて(笑)、来たらいきなり塗られているという感じでした」

 

――各自の色はどう決められたんですか?

松居「色の意味はぼくの中になんとなくありました。まず、ぼくと目次が最初にゴジゲンでやっていた時にテーマカラーのようなものがあって。それが赤と青的な感じなんだろうな、と。ヒガシ(東迎)は途中で入ったけど結局辞めたりとかもあったので、なんとなくついたり消えたりするイメージのある黄色。と思った時に、テツ(奥村)は自分寄りというか、演出寄りなので、そうすると暖色系かなあ思ったのと、ピンクのパーカーをよく着ていたし、ピンクだろうと。最強はオンリーワンなので、金か銀か迷っていたんですけど銀にして・・・ってなったら、残りの色はどうしよう、いっか緑でって(笑)」

 

――善雄さんの色だけ少し思いつきの色ですね(笑)ちなみに公演タイトルの言葉と色もリンクしていたりしますか?

松居「色には意味がありますが、言葉とはリンクしていないです。写真の映っている順になっているだけで」

 

――新作になるだろうというお話がありましたが、6人全員が誰かを愛するお話になりそうなんですか?

松居「うーん……おそらく。映画の中で“姫”に対して愛する側と、そんな愛し方は間違っているということを示す役割がいて、という風に作ったんですけど、映画として見せた時にお客さんの声もいっぱいあって。泣けたって言う人もいれば、こんなのは描いちゃだめだっていう人だったり、でも笑えるよねとか色々あったんですよね、声が。みんな自分なりに感じたことを言葉としてくれたんですけど、そのお客さんからの評価の声も含めて舞台上に上げて、異常だ異常だと言われる人が、逆転することってできないかなと思っていて。当事者にしか愛している人って理解できていないという意味で言うと、愛というものにおける強度の強さとか、なんかそういうものが表現できないかなあと思っているんです。それを演劇でしか作れないラブストーリーで作りたいんです」

 

――6人それぞれのラブストーリーですか?

松居「そう言うとつまらなそうですね(笑)でも、実験じゃないけど、おもしろいことはしたいなと思っていて。台本はもちろんだし、見え方としても変えようと思っていて」

 

――見え方ですか?

松居「演劇って、例えば事務所のようなセットだったら、どっかの事務所の話なのかなって思うじゃないですか。片や何もない素舞台だったら、なんかいろいろ場面転換していくのかなあって想像すると思うんです。なんかそういうイメージの中の想像の助けに、セットはなるしするんですけど、舞台ってそれを逆手に取る手はないなあと。具象舞台(舞台セットも衣装も話に合わせてかっちり合わせたものを作る舞台)なんだけど、全くその具象舞台じゃない話というか……物語や芝居と、美術がぶつかっている状況を作れるのは演劇でしかできないと思うので。美術・照明・音響が物語に沿わない形にしようというのが今回挑戦しようと思っていることです」

奥村「今までのやり方の通り、稽古場で作られていく部分もありますよね?」

松居「どうすんだよってメンバーに言われて、うるせぇな、とりあえず今日なに食うんだよみたいな話をしてごはん食べたりしながら、なんかいつの間にか出来上がっていくことになるだろうとは思います」

 

――いつもしゃべり合いながら作り上げていくんですね。

奥村「そうですね。ただ松居さんは大変でしょうけど3回とも煮詰まったことはないですよね。6人でやっていて、出来ないどうしようどうしようみたいなことでストレスが溜まったり、ピリピリしたりみたいなことは1回もないですよね」

松居「シーンをここ繋ぎどうしようみたいなことで悩むことはあるんですけど、別にそんなのは普通のことだから。煮詰まりはないですね」

奥村「いいバランスで、稽古場でどんどん出来上がっていく感じです」

松居「この6人が本当に全員バラバラの個性なので。そういう意味では、誰かがつまったら誰かがなんとかしてくれて。そうやって出来上がっていく感じなので」

奥村「確かに。困ったらヒガシさんがギャグをしてくれたり、ぼくは自分でも脚本を書いていることもあるので脚本的な目線で考えたり。最強さんと目次さんは役の目線で考えるし、善雄さんはメシを作ってくれるし(笑)うまいメシを作ってぼくらをほぐしてくれる。普通だと1ヶ月で作るのってなかなか大変な作業だなと、自分でも劇団を主宰しているので思うんですけど、ゴジゲンだと出来ていますね」

――お互いに補ったりできるいいバランスで出来上がっている劇団ということですね。

奥村「そうなんですかね。松居さんってほったらかしというか、手綱を握ってコントロールするということを全くしないので、ぼくらもみんなのびのび劇団でやっているかなとは思います」

 

――休止する前に、松居さん一人で抱えたということもあって、みんなで作っていく方が楽しいということなのでしょうか。

松居「作るってそういうことなんじゃないかなって、今は思っているんですよね」

 

――映画を作るにあたり改めて『極めてやわらかい道』を見直したりされたと思うんですけど、どうでしたか?

松居「気持ち悪かったですけど、素直にすごくおもしろいなって思いました。けど今はできないって思いました」

 

――奥村さんは『極めてやわらかい道』は当時ご覧になっていたんですか?

奥村「観に行きました。初めて観た時はついていけないなって思いました。ついていけない所までゴジゲンは行ったな、手の届かない所までいったなって。売れてる売れてないとかじゃなくて、世界観の問題ですね(笑)その時は分からん、ついていけないことが多いと思っていて。映画になるにあたりもっとキャッチーになるかなと思っていたら、映画も全然遜色ないというか、映像の方向で気持ち悪くなってるし(笑)この流れで今回の公演か、と思って。今までの復活公演とかの楽しい流れと、松居さんがずっと作ってきた気持ち悪い流れが交差して」

松居「合流しちゃって?(笑)」

奥村「10周年で待ち合わせしてたっていう(笑)」

松居「劇団と映像って、今まで完全に切り離していたんですよ。演劇で表現することと映画で表現することは考え方が違うから。・・・と思っていたんですけど、ちょうど「アイスと雨音」という映画の時に、公演するはずだった舞台が中止になって、無理矢理中止になった舞台を映画にしようとした時に、スタッフとかキャストが全部一緒になったんですよね。演劇と映画が。これはちょっと自負ですけど、自分にしかできないなって。両方を、普通の温度でやっているからこの作品が出来たんだなと思った時に、ここいいなって。ここだれも座ってないなって。演劇と映画の待ち合わせで尖ったことというか、おもしろいことができる気がすると思ったんです」

 

――いいですね!「演劇と映像の待ち合わせ場所」。映画しかご覧になっていない方には映画の良さしか分かっていないこともあると思いますし、舞台だけの方は舞台だけでしょうし。でも合わさったらどうなるんだろう、と思うとおもしろそうですね。

松居「そうそう!両方ある。だから映画だけの人は演劇のおもしろさを絶対に感じてもらえると思いますし、演劇を追いかけている人には映画も面白そうかもって、この公演で思ってもらえると思います」

――では最後にお客さまにお誘いの言葉をお願いします!

奥村「とんでもないことになりますよ!10月の駅前劇場は。ぼくはまだ何やるかよく分かってないんですけど(笑)毎回ゴジゲンに参加する時は自信がむちゃくちゃあるんです。メンバーもみんな不安がないですし。不安なく毎回やっているので、自信を持って本番に向けていく。がんばりますって感じです。本公演を観てから映画を観てくださっても、原作になった『極めてやわらかい道』をDVDで観ていただいても楽しめると思いますし、いいものにする自信はあるので、ぜひ観にきてください!」

松居「ゴジゲンをまだ観たことがない方には、とにかく演劇というかお芝居として敷居は高くなく、単純に演劇として生の面白さをやっていると思うので、一度観にきてほしいですし、ゴジゲンという名前を知っている方にはラブストーリーをやるということを楽しみにしてもらえるんじゃないかなと思います。だって女子いないし、どうすんだよみたいなのを含めて(笑)。でまあ、劇を観た後に『あっ!確かにこの人こういう色だった』という風に思ってもらえるようにしようと思いますのでぜひ」

 

インタビュー・文/清水美樹