『志の春サーカス vol.2』 立川志の春 三代目杵屋佐喜 インタビュー

何が飛び出すかわからない。落語と長唄ミュージカル

 

『志の春サーカス』と題した実験の会を起こし、様々な表現方法に挑戦する立川志の春。長唄・唄方の杵屋佐喜を迎えたvol.2では、落語と長唄をかけ合わせたミュージカルに取り組む。

志の春「今回は、歌舞伎の演目でもある『供奴』と僕の新作『悲しい性~2018』の二部構成です。一部では『供奴』を落語形式で紹介した後、佐喜さんに長唄を唄っていただきます。二部は小室ファミリーが一世を風靡した1995年ごろの日本が舞台。古典芸能と最新のエンターテイメントとの間で悩む長唄唄いが、芸とは何かを見つけていく物語です。おそらく落語も長唄も難しそうだなという先入観でブロックされがちなので、両方を掛け合わせることで、どれだけエンターテイメントとして届けられるかが、今回のポイントですね」

佐喜「どちらも“声”の芸なので、面白いことになると思います。若い方々にも『志の春サーカス』のような新しい切り口で長唄に興味を持ってもらえるとうれしいですね」

 

志の春による新作は、「落語と長唄をひとつのものとして、同時にやることに意味がある。そう考えた時に、これは(噺を)つくってしまうしかない」という思いで書き上げられたもの。

志の春「『悲しい性~2018』に登場する長唄の唄い手は、待っていても若い人は聴きにきてくれないことに焦りを感じて、世間の目を惹くために突飛なことをやるんです。内心では伝統を重んじているので、自分がみんなを向こう岸に連れて行く橋になろう、と。ただ、連れて行った先で見せるべきものが自分のなかにはあるのかという葛藤を抱えてもいる。僕自身、落語家として考えていることでもあります」

佐喜「私も家業である長唄から逃げるように、大学ではオペラを勉強していました。ですが、外国の音楽や文化を知れば知るほど、邦楽の魅力に気がつくんですよね」

志の春「小学校で落語をやると、アンケートに『聴く前は寝ると思っていたけど、おもしろかった』なんて書かれることも多くて。でもそれは、知らないからなんですよ。『志の春サーカス』が、そうした伝統芸能は古いとか、つまらないといった先入観を取り外す場になればいいなと思います」

 

取材・文/金井悟
Photo/篠塚ようこ

 

【プロフィール】
■立川志の春
落語家。立川志の輔の三番弟子。2002年10月入門「志の春」。2011年1月ニつ目昇進。1976年8月14日、大阪府豊中市で生まれ、千葉県柏市で育つ。幼少時と学生時代の計7年間を米国で過ごす。米国イェール大学卒業後、三井物産にて3年半勤務。古典落語、新作落語、英語落語を演じる。2013年10月NHK新人演芸大賞〈落語部門〉本選出場。2013年度「にっかん飛切落語会」 奨励賞受賞。新宿角座での月例独演会「志の春落語劇場」のほか、月例志の 春独演会in柏、落語以外の表現方法も模索する「志の春サーカス」、下ネタ及び艶噺のみ限定の「シモハルの会」、英語オンリーの「Shinoharu English Rakugo」、その他各地にて定例独演会及び日本酒や和菓子など他ジャンルとのコラボ会なとを開催中。著書に「誰でも笑える英語落語」(新潮社)など。

■三代目杵屋佐喜
長唄・唄方。1983年東京生まれ。父は江戸時代より続く長唄佐門会家元・七 代目杵屋佐吉。幼少より祖父・五世杵屋佐吉に三味線、人間国宝・杵屋佐登代に唄の手ほどきを受け、6歳で国立大劇場にて初舞台。玉川大学芸術学科、声楽専攻卒業。第11回アジアクラシック音楽コンサート新人賞受賞。2002年父の前名である佐喜の名を三代目として襲名。現在、長唄の唄方として全国各地の演奏会、歌舞伎公演(坂東玉三郎・市川海老蔵・市川猿之助・中村勘九郎丈ほか)日本舞踊会、NHK「にっぽんの芸能」他テレビ、ラジオに出演。 NY・カーネギーホール公演、平成中村座スペイン公演他、海外公演にも多数参加。2014年日本コロムビアより「和風ビートルズメドレー」発売。2017年 自身が唄うピコ太郎の国立劇場版 PPAP「PNSP」がYouTubeで300万回再生を越え、アメリカのCNNほか国内各メディアに取り上げられるなど大きな話題となった。母方祖父は「七人の侍」などで知られる映画俳優の木村功。