WBB×ドラゴンクエストX「冒険者たちのホテル~ドラゴンクエストXに集いし仲間たち~」│佐野瑞樹×横田龍儀×結城伽寿也 インタビュー

写真左から)佐野瑞樹、横田龍儀、結城伽寿也

佐野瑞樹&佐野大樹による兄弟演劇ユニットWBBが人気オンラインゲーム「ドラゴンクエストX オンライン」を題材にした舞台「冒険者たちのホテル~ドラゴンクエストXに集いし仲間たち~」が、東京・品川プリンスホテル クラブ exにて上演される。オフ会が開催されるとあるホテルのラウンジを舞台に、繰り広げられるワンシチュエーションコメディを展開。果たしてどんな“大冒険”が繰り広げられるのか、作、演出、主演を務める佐野瑞樹と、出演する横田龍儀、結城伽寿也の3人に話を聞いた。

――「ドラゴンクエストX」とのコラボ舞台ですが、どのような経緯で制作されたんでしょうか

佐野 もともと僕が「ドラゴンクエストX」が大好きだったんですよ。発売当初からずっとプレイしていて、好きすぎて脚本を書いてしまいました(笑)。それを、たまたまスクウェア・エニックスの方が見てくださって、面白いから大々的にやりましょう、と2013年に上演することになりました(当時は羽仁修名義)。その後、再演もあったんですけど、どうしてもこの主人公を自分で演じたくなったんです。ただ年齢的にもそろそろこの役が厳しくなってくるので、思い切ってこのタイミングでやらせていただきたいとお願いしました。1回はこの役をやらないと、死ねない。この主人公は、半分は僕自身と言ってもいいくらい、実体験がめちゃくちゃ入っているし、この役を経験せずに演劇人生を終えるのはナシですし、次のステップにも行けないそれくらいの思い入れがある作品ではあります。

――横田さんや結城さんは、出演のお話があったときにどのようなお気持ちになりましたか

横田 僕はWBBさんの作品には昨年にも出させていただいていて、その時すごく楽しかったんです。また出演したいと思っていましたし、とても勉強になったので、お話をいただいてすぐに出演を決めました。ただゲームもドラクエは大好きで、いろいろなタイトルをプレイしているんですけど、唯一やっていなかったのがXだったんです。だから大丈夫かな?という気持ちもあったんですけど、ドラクエは大好きですし、お芝居としても学ぶことがたくさんあって、稽古の中で得られるものばかりなので、すごく嬉しいです。

結城 僕も2022年10月に瑞樹さんが脚本を務めた舞台「ギャングアワー」に出させていただいていて、WBBは2回目です。そして、ドラクエも8しかプレイしていないので、その点に関してはやや不安はありました(笑)。でも、瑞樹さんの脚本がすごく好きで、ストレートプレイっていいな、と思わせてくれたのが瑞樹さんの脚本だったんです。

佐野 えっ?それってすごく最近じゃない?もっと前からストレートが好きなんだと思ってたよ。

結城 ストレートに出演したこともあまりなかったですし、「ギャングアワー」が楽しすぎて。佐野兄弟が作りあげる世界が楽しすぎたんです。だから、ゲームのことは置いといて、瑞樹さんとまた一緒にお芝居を作っていけるならと、参加させていただきました。

――ちなみに、ストレートプレイのどのようなところが魅力的になってきたんですか?

結城 それが良いのか悪いのかは分からないんですけど、毎回、1公演ごとに変化していくんですよ。テンポでどんどん進んでいくし、コメディ要素が強いからか1ステージ1ステージが新鮮なんです。

佐野 そういうのを我々は”ライブ感”って言うんだよね。ライブを楽しむ。

結城 本当にその醍醐味を、ずっと飽きずに楽しませてもらえたんです。

佐野 ミュージカルとかは、ある程度カチッとルールや形があって、それをちゃんと守っていかなきゃいけないんだけど、コメディの場合はその日のお客さんによって変わっちゃうから。今日はココで笑わないんかい!じゃあ次はココをこうしてみたら…ってチャレンジしていって、もっといいものが見つかるかも?っていう感覚だから。常に笑いの量を増やしたいし、そういう意味で毎回お客さんとの勝負みたいなところもあるから。既存のものを守っていくよりも、その場にいるお客さんのことを意識する側面が強いかもしれないね。

結城 毎日、違うところで反省してました(笑)。それに、お客さんが毎回違うように、役者だってコンディションが違う。今日はちょっとテンポ遅いかも?って思ったら、じゃあ自分が上げてみよう、みたいなことをやって、自分が楽しめるんですよね。

――それぞれの役どころについて教えてください

佐野 主人公の藤澤智彦は、のちに登場作品が3本あるくらい、もう僕が好きすぎるキャラクターです。基本的には権力をかざしていて、横暴でわがままなところがあって、理不尽なことをしてしまうタイプ。でも最終的には熱い部分を持っていて、実は人間が好きみたいな裏腹なところがあるんですよね。そういう二面性を持ったキャラクターだと思っています。そして、先のこともあんまり考えないし、思ったことも感情も隠さないんですよ。あまり考えずに、直感で思うままに生きているタイプですね。

横田 僕はもう、ザ・普通の人。齊藤はただのいい人なんですよね。ただ役を見つめなおしていくと、すごく人間っぽさを感じます。人って、絶対に嘘をついてしまうことやごまかしてしまうことってあるじゃないですか。その場の空気が悪くならないように、発言するというか。「俺ってそんなにカッコよくないよね」って言っている人に、思ってなくても『カッコいいですよ』って返してしまう、みたいな感じで、誰かを助けたり立てたりするために、いろんなところにアンテナを張っていて、思っていないけど言ってしまうようなところがあるんですね。それって日常でもよくあると思うし、少しだけ自分自身にも似ていると思っています。物語の中でも、ものすごくヤバいことがどんどん起こっていく中で、その人間はどんなふうにしていくのか、そういう部分を楽しめる役でもありますね。

佐野 齊藤を困らせるのは僕です(笑)。むちゃくちゃやって、尻ぬぐいしなきゃいけないんだけど、どんどん悲惨な立場になっちゃう。でも、藤澤はあっさりと裏切っちゃうんですよね。その場その場でいい方に転がっちゃう奴だから。だから齊藤が損をするんだけど、齊藤は最後まで諦めないんです。

横田 諦めちゃえばいいのに、って思うんですけどね。諦められないところが、やっぱりいい人だなって思います。観ている側の人も、ソワソワしたり、共感したりしていただけると思っています。

結城 僕は藤澤を担当している編集者の役です。最初は、ザ・編集者って感じで「どうも先生!お願いします!」みたいな感じなんですけど、藤澤の弱みを握ってからは立場が逆転して、ちょっと上からの立場になっていくキャラクターですね。まだ稽古が始まって間もないくらいなんですけど、今思うのは、藤澤のことがめちゃくちゃ好きなんだなっていうこと。シンプルに、藤澤のことを評価しているからこそ、強い言葉で言えるんだな、というのを感じ始めています。才能があるのにゲームとかしているから(笑)。だからこそ遊び甲斐のある役で、ほかの人と絡んでいく中で、ちょっとした言い回しをどう変えていくかなど、今すごく考えています。そんなにほかの人との絡みも多くないんですけどね。

佐野 齊藤とは設定上、知らない人だもんね(笑)。

結城 そうなんですよ(笑)。でも、せっかく出ているんだからいろんな人と楽しみたいので、これから皆さんとどういう関係性を築いていこうかと思っているところです。

――ホテルのラウンジというワンシチュエーションコメディですが、ストーリー面で魅力的に感じているところは?

結城 話の中心はゲームなんですけど、コメディ要素がふんだんに入っているので、ゲームを知らない方でも楽しんでいただける内容になっています。そして多分、後半にかけては音とかの演出でもゲームに入ったかのような感覚で楽しんでいただけるんじゃないかな。そこはゲーム好きの方たちにはたまらないものになっていると思いますよ。

横田 起承転結で物語は出来ていると思うんですけど、転の部分が多いことが魅力的だと思います。普通なら転が1つでも物語は成立するのに、その転を増やしていくことで、ストーリーの展開を最後までわからないものにしていて、お客さんもどうなってしまうのかわからない。転を作るほど、この人はどういう感情でいるのかとか、どういう勘違いを起こしているのかとか、そういう部分で矛盾も起こりやすくなるのに、辻褄を合わせていって、最後にもっていくという展開は魅力的ですね。毛細血管のように広がっていく転って、嘘をついたら、その嘘のためにまた嘘をつかなきゃいけなくなって…って膨らんでいく感じにも似てますね。

佐野 僕はほとんどシチュエーションコメディしか書かないんだけど、さっきの起承転結で言えば承が凄く大事なんだよ。ここが種まきの部分で、後半に爆発させるためのフックをしっかり承でかけていくってことなんだよね。物語って説明が多くなっちゃうとあんまりおもしろくならないから、承を面白くできれば、あとは勝手に膨らんでいくから。だから承から考えることが、すごく大事にしているところかな。

ただ、この作品に関してはドラクエが好きすぎて、本当にいろいろ関係なくぶっちぎって書いてますね(笑)。

――当時を振り返ってみると、ご自身のノウハウとも違う勢いがある感じでしょうか

佐野 今なら確実に書き方って決まっていて、こういうふうに書くっていうすごく細かいルールが自分の中にあるんですけど、この作品に関しては、当時の思いの丈をめっちゃぶつけてる(笑)。だから転がめっちゃ多いっていうのもそういうことなんだと思うね。自分の中のいろいろな想いを詰め込んでいるから、そうなっちゃう。あの頃の僕はこういう書き方していたんだ、と思い入れが強すぎて不思議な感覚ですね。ちょっとあふれ出すぎてるから、稽古の中でもうちょっとスマートにしたいかな(笑)。

――ドラクエXの面白さって、どんなところにあると思いますか?

佐野 僕にとっては、初めてのオンラインゲームで、ドラクエXの中に経済があることに衝撃を受けたんですよ。ちゃんと物を売り買いして、生活があって、畑を育てたり、家を買ったりして…。お金を稼ぐにも、武器を作る人もいれば、アイテムを拾ってきて換金する人もいて、多種多様なそれぞれの方法がある。その時の需要で上がったり下がったりする供給バランスもあるんですよ。その中で、いろんな人と出会って、仲良くなったりもして。あまりにもすべてが衝撃的すぎました。

結城 8とは全然違うんですね。

佐野 そうじゃなきゃ、1万3000時間もプレイできないよ(笑)。第二のライフワークみたいなものだよね。

横田 ドラクエはキャラクターも魅力なんですよね。Xではないんですけど、普通は一度仲間になったら最後まで一緒に行けると思うんですけど、7だと仲間になった奴が離脱して帰ってこないとかあるんですよ…。めっちゃ育てたのに!って(笑)。キャラクターにバックボーンがあって、そういうところにも面白さってありますよね。他のRPGもあまりやったことがないんですけど、人間ドラマ的な部分もしっかりあって、ゲームとして可愛く表現しているけど、現実に起こったら結構なエピソードだよな…と思わされることもありました。5とか、父を目の前で殺されて、その仇の奴隷として10年も働くってすごいことしてるな、って思います。主人公が勇者だと思ったら、自分の子どもが勇者だった、とかの設定や世界観も面白いですよね。

――新しいタイトルが発売されるたびに、いわゆるセオリーを破るような新しい展開があったように思います

結城 僕の場合はもう、素人意見なんですけど…8をプレイした理由って、とにかくワクワク感だと思うんですよね。今回の作中でもみんなでプレイするところのワクワク感があるんですけど、そうやって舞台の中の人がワクワクしていることが、そのワクワクがお客さんにも伝わってどんどん増えていくんじゃないかな。父は別シリーズのRPGが好きだったんですけど、僕は絵柄的にドラクエの方がフィーリングが合ったんですよね。

佐野 ドラクエは年齢層を小さい子から楽しめるものにしているからね。他のシリーズとかは大人向けとかもあるけど、ドラクエは年齢層が幅広い。老若男女関係なく楽しめることが、国民的と言われる理由のひとつだとも思います。

――今まさに稽古が進められているとお聞きしましたが、稽古場の雰囲気はいかがですか?

結城 すごく雰囲気いいですよね。

佐野 僕はそれどころじゃないので、雰囲気作りは2人に任せてる(笑)。でも建前とかじゃなく、コメディの現場ってみんなが楽しんでいないとできない。シビアな現場だとやりにくいんですよ。お前何やってんだ、くだらねえ!みたいなこと言われたら、もうできないですよ。

横田 チャレンジしてみたのに…ってなりますね。

佐野 それもそうだし、伸び伸びやれないと力って発揮できないから。だから基本的には楽しくあるべきだと思ってます。

横田 でも、まだみんな稽古場では自分を隠してますよね。ちょっと人見知りというか、遠慮してるような気がします。自分自身もまだ台本が入り切っていないので、ちょっと申し訳ない気持ちもあるんですけど…。多分、もっとヤバいこと仕掛けてくるんだろうな?みたいな人が出てくる予感はしていますね。それに振り回されるのが楽しみです(笑)。僕自身は、割と現場で引っ込んでしまうタイプというか、今回の役柄と一緒で空気を読んじゃうんですよね。前は、静かな現場だと思ったら率先して騒いでみたりして、そしたらみんな一緒に騒いでくれるかな?とかをやってみたりしていたんですけどね。あんまり自分が得しないな、と気付きました(笑)。

結城 僕も逆に、何も意識しないで稽古場に臨もうかなと思っています。頑張りすぎるとそれこそ疲れちゃう。とはいえ、仲良くはなりたいので、頑張りすぎずフラットに、その役同士の関係性があればサラっと徐々に仲良くなれるんじゃないかな。それが全体的にいい稽古の雰囲気になればと思っています。そもそも、瑞樹さんがすごく優しい方なので、雰囲気が悪くなることは決してないと思いますから。

佐野 セリフが入ってくると、またみんなの雰囲気も変わってくるからね。余裕が出てきて、それぞれにこうしようぜ、みたいなのが出てくると、また雰囲気がグンと上がってくると思うよ。

――演出面で意識されていることはなんでしょうか

佐野 今回に限らず、正解は1つではないということですね。俺がいいと思っても、別の人は全然いいと思わないこともある。人の評価ってさまざまだし、答えを1つに絞ってしまうことってすごくもったいないことなんですよ。ある程度のガイドラインや方向性は示すにしても、その子が1番出せるパフォーマンス、その子がやる面白さみたいなものをやっぱり考えていきたいですね。脚本を書いているときのイメージはあるんですけど、それが100%の正解か、というとそうじゃない。演じる人によって「そっちの方がおもしろいじゃん」っていうことも経験上たくさんあります。演劇って難しいな、と思いつつ、そこがすごく大事だなと思っています。

結城 瑞樹さんって「前にこれをやってウケたから、この通りにやって」みたいなことが一切ないんですよ。このカンパニーで作れる楽しさ、今の時代の僕たちだから作れる楽しさを追求しているんですね。台本は同じでも、違う色の舞台を作ろうとしていることが、僕にとってはすごくありがたいです。

横田 お芝居のテンポ作りでも瑞樹さんがすごくリードしてくださいますし、今のタイミングで投げかけるといいよ、みたいなのも目で合図してくださるんですよ。お客さんの空気感も考えつつ、お芝居も考えていかなきゃいけない中で、瑞樹さんに乗っかっているような感覚はありますね。瑞樹さんの今の話を聞いていて、僕は「完成されたものを演じたい」って思っちゃってるなと気付きました。コメディだからこそ、そういう部分も壊していかなきゃと思います。もっと探っていきたいですね。

――今回の主人公はオフ会を開催していますが、もし自分が何かのオフ会をやるとしたら、どんな会にしますか?

佐野 僕はオフ会も実際にやってるんですけど、オフ会っていうか異文化交流会みたいのには行ってみたいな。演劇の友達はいっぱいいるんだけど、そうじゃない人たちの感覚に触れたいんです。居酒屋の人でもいいし、企業の人、スポーツの人、なんでもいいんですけど、いろんなジャンルの人が集まっているコミュニティには入ってみたいです。自分が凝り固まっちゃうのが怖いので、ぜんぜん演劇と関係ない人と集まってみたいですね。それで演劇をもっと良くできるはず。

結城 僕は某野球のゲームが好きで、役者仲間でもやっている人が多いんですよ。そのゲームが好きなことは自分の配信でも言ったりしているんですけど、そのゲームの仲間を集めたオフ会をやりたいと密かに思っています。そしてそれを、自分の役者としての知名度がもっと上がった時に、お客さんにもみてもらいたい。まずは配信から始めて、いつかリアルのイベントにできたらすごいですよね。1つの夢です。

横田 僕は…人見知りなんで、嫌だなぁ…(笑)。知らない人って、知らないことがそもそも1番怖いじゃないですか。人の心の奥底は見えないですから。オフ会って、いわば電車の中で一緒になった人たちと急にしゃべりだすみたいなことですよね。そう考えるとめちゃくちゃ怖くないですか? だから、絶対何かのオフ会を開かなきゃいけないとしたら、人見知りだけを集めたオフ会です。人見知り同士で、自分の嫌なところをフォローし合って…その輪が広がっていけば、いつの間にかみんなが知り合いになっている、みたいな感じかな…。

――最後に、公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします

結城 WBBの面白さもドラクエXの面白さも、ダブルで楽しめるお得な公演になっています。瑞樹さんならではのすれ違いコメディがものすごい勢いで展開されていくので、そこを僕自身も楽しみにしています。ぜひ期待して劇場にお越しください!

横田 僕はアニメやゲームが大好きで、ゲーム実況とかもよく見るんですけど、配信者の方が好きなキャラクターの名前を言ったり、セリフを言ったりするだけで嬉しくなる感覚ってあるじゃないですか。この作品も、ドラクエ好きな人が「あっ!」ってなる瞬間がたくさんあります。もちろん、ドラクエをあまり知らない方にも楽しんでいただけるよう、僕らも全力で頑張りますので、ぜひ楽しみに観に来てくれたら嬉しいです。

佐野 僕はワンシチュエーションコメディが大好きで、それだけをひたすらやっている人間です。ワンシチュエーションコメディで、日本で1番になりたいと思っています。そして、ドラクエXもめちゃくちゃ好きです。僕を超えている人ってなかなかいないと思うんですよ。30年ひたすらにやってきたワンシチュエーションコメディと、1万3000時間ひたすらやり込んできたドラクエXを掛け合わせた、超ハイブリッドな作品なんて、多分ほかでは観られないと思いますし、最初で最後になるはず。貴重な体験ができると思うので、見逃さないでいただけたら。きっといい思い出になります!

取材・文/宮崎新之