『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド2024』│金谷かほり 合同取材会レポート

©ヒダキトモコ

ニューヨーク屈指の劇場「ラジオシティ・ミュージックホール」で親しまれてきたショーに続くスペシャルなクリスマスショー『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』が、東京・渋谷で上演される。2016年に日本で初演を迎えて以来、すっかり冬の風物詩として定着してきた本作だが、今回は新演出版で上演されることが決定。舞台セットも一新され、かわいらしいキャラクターも新登場するという。はたしてどのようなショーになるのか、演出を手掛ける金谷かほりに話を聞いた。

――今回、毎年クリスマス時期恒例の『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』の新演出を手掛けられることになりました。以前からこの公演をご覧になっていて、ぜひ演出をやってみたいと思ってらっしゃったそうですね

これまでテーマパークで大きなクリスマスイベントを長い間手掛けてきた私にとって、クリスマスショーってすごく特別なものなんです。以前「クリスマス・ワンダーランド」を拝見させていただいた時に、ぜひいつか演出をやらせていただきたいと思いました。クリスマスって、輸入という言い方はおかしいかもしれませんが、欧米から来てたものですよね。日本では恋人同士の時間みたいに少しスタイルが変わっていますが、本来は家族の愛の時間です。ショーでは、そういう元来の”自分の愛する人を思う時”という表現がたっぷりとできるんです。そして、素晴らしい音楽がたくさんある。そこが、私にとってすごく特別なことに感じています。

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――『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』のどのようなところが魅力的に思われたのでしょうか?

『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』は、ショーの中でもクラシカルなレヴューです。ミュージカルやコンサートはいろいろなものがたくさんありますが、こういうレヴュー・ショーって日本ではとても少ないので、まずはその楽しさを存分に味わっていただきたいです。レヴューって、いろんなシーンを楽しんでいただけるし、歌と踊りだけで心を解きほぐすことができるんですね。今回は、そういうクラシカルなレヴューもたっぷりと堪能していただきつつ、シーンを変えることによって、いろんな世代のお客様に楽しんでいただけるようにしていきたいと思っています。ちょうど、今回の取材のタイミングでセットのデザイン案が上がってきたんですが、私すごくトキメキました。こうやって見えてくると、なんだか嬉しくなりますね。1部と2部でちょっとトーンを変えているんです。1部の最初は雪のファンタジーの世界。そのファンタジックな世界から冬のニューヨークに行くっていう流れで、お客様をブロードウェイのクリスマスにお連れできたらと思っています。なので、冒頭はいわゆるクリスマスカラーというよりも、神秘的な雪の色合い。そこから、徐々に赤や緑、金といったカラフルなクリスマスの色に染まっていきます。本当にこころがきらめく、素敵なセットになりそうです。

――演出を新たにするにあたって、これまでの演出の部分をどのように意識されていますか?

まず、今の日本では観られないものがたくさんあるんですよ。その1つがロマンチックだけど荘厳なバラードです。クリスマス・ソングって、ラブ・バラードとは違う人の心に深く入ってくるようなメロディーなんですよね。そこは私が演出するショーの中でも欲しいと思っている部分です。あとはライン・ダンス。ライン・ダンスも、今はあまり見られなくなりましたよね。『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』でライン・ダンスを拝見したとき、こんなにキックラインが揃っていて、素敵だって思ったんですよ。私自身、ダンスをやっていましたから、息を揃えてビシッとしたものをお見せする難しさもわかるんです。そういう華やかなシーンは本当に素敵だったので、今年もやっていきたいですね。

――逆に、新しくしていきたいと考えているのは、どのようなポイントでしょうか?

お客様に、あまりステージ転換を意識させたくない、というところでしょうか。もちろん、お客様もそこも含めてご理解くださっている部分はあると思いますが、そういう忖度も含めて、そこを良しとしないでやっていきたい。ごく自然な流れの中でクリスマスの世界に入っていけるような形にしていきたいです。これは今回に限らず、どんな舞台でも一番難しいところじゃないかと思うんですが、1つの目標ですね。

――アメリカのカンパニーと一緒にやることになりますが、どんなことが楽しみですか?

まずは下準備をしっかりとやったうえで、私の演出をどう感じてもらえるかが楽しみです。私がやりたいと思っていることに賛同してくれて、いいね、それでやってみよう!と、皆さんが思ってくださるか…そこが不安でもあり、楽しみでもあります。

――本作は老若男女幅広い世代が、ご家族連れなどで多くいらっしゃる公演ですが、そういうショーを作る際にこだわっている部分はありますか?

私はテーマパークでの仕事が長いので、その考え方がベースにあります。あるテーマパークの創始者の方が、遊園地でぼんやりとしているお父さんの姿を見て、お父さんは楽しめないのか、と思ったそうなんですね。それで、お父さんも一緒に楽しめる、家族がみんなで来るようなテーマパークを作ろうとしたんです。そういうことを私も40年くらい考えながらやってきました。すごくざっくりと言うと、誰が見ても楽しい、ということです。そして誰が見ても、嫌な気持ちにならない。そして、誰が見ても自分のことだと感じられることですね。そこは私にとって1番のテーマです。話に置いてきぼりにされてしまうとか、詳しくないとわからないとか、そういうことが無いようにしたい。仮に遅れてきたとしても、何を見せられているのかがわかる。そこがエンターテインメントの重要な1つの要素じゃないかと、私は考えています。もう入口から、クリスマスの楽しさを味わっていただけるような工夫をするつもりです。

――欧米だと、クリスマスに家族でショーを観に行くということが家族の恒例行事になっていることも珍しくないですが、それを日本でもできるようにしているという部分でとても貴重な公演ですよね

本当に、日本で唯一だと思います。日本だとクリスマスのショーって、テーマパークがやっているもの、というイメージですよね。60歳を過ぎて思うのは、私が子どもの頃はまず百貨店とかがクリスマスを始めていたように思うんですよね。そこから、私がテーマパークでダンサーをし始めた頃に、普通のショーの終わりにクリスマス・ソングを少し歌うようになっていました。そこから、私はクリスマスのショーを作るようになって、クリスマスとはどういうものなのかを考えたんです。クリスマスというイベントがどんどん大きなものになっている流れを、ずっと見てきているんですよ。最近だと、ハロウィンがそういう感じですよね。ここ20年くらいで大きなイベントに育っていきました。こういう西洋の文化が日本に入ってきて、それがどんどん定着化してエンターテインメントとして家族が楽しめるものになっていく、ってものすごいこと。それを、さらに劇場でやるなんて、最高じゃない?って思います。

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――金谷さんにとって、クリスマスの原風景ってどういうものですか?

子どもの頃に、母から白い手袋をもらったことでしょうか。白いニットで、手の甲にポチポチと刺繍がしてある手袋でしたね。それが初めてのクリスマスプレゼントで、朝起きたら、あったんです。母もそういうことをやってみたかったのかもしれません。あと、アメリカにあるストーリーで大好きなものがあるんです。若い夫婦のクリスマスのお話で、妻は夫のために長い髪を売って、時計の鎖を買ってあげるんですが、夫は妻のために時計を売って髪をとく櫛を買ってあげるんです(オー・ヘンリー著『賢者の贈り物』)。これが贈り物の素晴らしい部分ですよね。相手のこと考えて贈る、その心の素晴らしさ。それはショーを作ることにも通じているんです。私たちはお客様に贈るショーやステージを頑張って作っていて、それを見たお客様が嬉しそうにしていただけていたら、私たちにとってはそれがプレゼントなんです。そうやってプレゼントを贈り合っているような感覚が私にはあるんですよ。だいたい、手掛けたものは一番後ろから見ているんですけど、その時にお客様がどういう呼吸になっているか、感じることが多いんです。お客様の背中を見て、息をのむような呼吸だったり、静かに感動している呼吸だったり…その反応が私にとってのプレゼントなんですよね。

――金谷さんがショーを作るお気持ちも、白い手袋を枕元に置いたお母さまのお気持ちに通じるものがあるかもしれないですね

まさにそうですね。喜んでいただけるか、とても緊張しますけど、私のこの気持ちがショーでうまくお客様に伝わるといいな、と思っています。

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――今回、かわいらしいリスのキャラクターも初登場します。このキャラクターも金谷さんのアイデアだそうですが、どのような意図で作ったものなのでしょうか?

私は、こういったキャラクターたちが実在するものとしてこれまで生きてきているんです。テーマパークのショーなどを手掛ける中で、何十年もキャラクターとともに生きてきたので、実在している感覚がものすごくあるんですよ。これまで一緒にショーを作りあげてきたたくさんのキャラクターも、みんな自分自身のお友達のような感覚が私には確かなものとしてあるんです。私はちょっと行き過ぎかも知れませんが(笑)、このキャラクター文化って、私は日本の文化の中でもすごく誇りに思える部分なんですよ。マンガやキャラクターにものすごく愛情を持つことができる文化で、だからこそたくさんのキャラクターが誕生していて、子どもだけじゃなく大人になっても、ともに生きていますよね。新しくできたこの子も、みんなにとってクリスマスのお友達になってくれたらいいなと思っています。クリスマスには白いリスがやってくるって、かわいらしくないですか?デザインも、白くてぷっくりしたお目目のリスがいいなと思っていたので、めちゃくちゃ可愛く出来上がって嬉しいです。

――デザインのアイデアはどのように出てきたんですか?

今回、オープニングを白い世界にしたかったので、それで白い子にしました。茶色のリスだと、ちょっとファンタジーから離れてしまいますしね。この子にまだストーリーは無いんですけど、雪から生まれたのかもしれない。あの、北の方で冬にやってくる、シマエナガっていう可愛らしい鳥がいますよね。シマエナガがもしベランダに来たら、大きな声ではしゃいじゃうと思うんです。それくらいの威力が欲しかったので、こんなにカワイイ白リスになりました。

――お名前も募集中だそうで、どんな名前になるのか楽しみですね。またショーの中身についてお聞きしたいんですが、目玉になるような見どころはどんなところになるでしょうか?

目玉と言えばもちろん、スケートの場面もありますよ!今まではスケートシーンの前に転換が入っていたと思いますが、今回は転換なしでスケートの場面に突入していきます。人が歩いていると思ったら、いつのまにかスケートになっているような感じになるといいな。今までのものも、いよいよスケート、っていう印象でとっても素敵だったんですけど、今回はスッとリンクになるので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。私も、そこを早く観たいんです(笑)。

――劇場が渋谷の東急シアターオーブというところも、クリスマス気分が上がりそうですよね

東急シアターオーブでお仕事をさせていただく時に、私はすごく贅沢な空間に活かせていただいている気持ちに、やっぱりなるんですよね。もちろん劇場自体がすばらしいということもあるんですが、そこに行くまでのショッピングやストリートの景色っていう楽しみもあるじゃないですか。しかもクリスマス時期なので、町全体、建物全体にクリスマスの装飾がある。もう、会場に入るまでがプレショーみたいな状態なんですよね。ロビーもとっても素敵なので、観客で行くときもいつもワクワクしています。それで、東急シアターオーブに行くと、食事をして帰りたくなるんですよね(笑)。

――素敵なレストランも周りにたくさんありますからね。最後に、公演を心待ちにしているみなさんに、ぜひメッセージをお願いします

初めて私が『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』を拝見させていただいた時、本当にこれを日本で観られるんだ!って思ったんです。このクリスマスの体験は、どんな方でも楽しんでいただけるものになっています。こういうエンターテインメントを劇場がやっているということは、本当にすごいことだと私は思うんです。家族でも来れるし、カップルで来てもいい。クリスマスってなぜかウキウキするし、1年で一番心がキラキラする季節じゃないでしょうか。ぜひ、自分の愛する人と一緒に、いろんな世代の方に来ていただきたいです!

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取材・文/宮崎新之
撮影/ヒダキトモコ