東京は豊洲に、この春オープンしたIHIステージアラウンド東京。現在は“花・鳥・風・月”の第2弾『髑髏城の七人』Season鳥を9/1(金)まで絶賛上演中だが、続く『髑髏城の七人』Season風の準備も着々と進行している。その“Season風”で<無界屋蘭兵衛>を演じることになったのが、劇団☆新感線にはこれが初参加となる向井理だ。
チラシやポスターに使われるビジュアル撮影の隙を縫って、今回の舞台への意気込みや覚悟のほどを語ってもらった。
――実のところ現時点では、まだ上演台本がお手元にないわけなので、わからないことも多いとは思いますが。
向井「今回は経験したことのない、特殊な舞台でもありますし、そこでの動きが大事になってくるとも思いますからね。新感線の稽古も初参加なので、どう取り組むのかはまだわからないですし。だけど“花・鳥・風・月”ということでは3本目の作品になるので、いろいろな試行錯誤を経てからやれるというのは、利点なのかなと思いますね。最初はまったくわからないこともあったと思いますし、演出するいのうえさんもきっと想像していたのとは違うこともあっただろうし。そういう、いろいろなトライ&エラーの結果を受けての、“鳥”と“風”と“月”になるんだろうなと思うんですよね。」
――それぞれの違いも、楽しんでいただけるといいですよね。
向井「そうですね。でも絶対に、まったく同じものにはならないですから。だから僕も、ここは(“Season花”で蘭兵衛を演じた、山本)耕史さんがこうやっていたからこうしようとか、(“Season鳥”で蘭兵衛を演じた早乙女)太一くんがこうしていたからここを参考にしようとかではないんだろうなと思っているところです。」
――ご自分なりの新しい蘭兵衛を生み出す、と。
向井「まずは、いのうえさんが作り出すものが僕たちの教科書になるので、それをどういう風に具現化するかということがハードルの一番高いところになるでしょうね。自分でももちろんアイデアを出すこともあるとは思いますけど、僕としてはやっぱり新参者なので(笑)、新感線のやりかたというものをちゃんと踏襲していきたいなと思っています。」
――そのいのうえさんの演出も初めて受けられるわけですが、これまで観客としていのうえ作品を観ていて魅力に感じていた部分とは。
向井「本当に一言でいうと、エンターテインメントなところですね。笑いもあるし、派手な動きだったり、音だったり、舞台装置だったり。そういう視覚的なものと、聴覚的なもの、そこに感覚的な笑いの部分が加わるので、純粋にエンターテインメントとしか言いようがないですけど。やっぱりそれは観てくれる方、観客をすごく意識しないと成立しないんですが、それプラス自分がやりたいこと、表現したいことをどうやってすりあわせていくかということも大事になると思うんです。それを、普通の人にはできない発想で創り上げ、しかもこれだけの人を集客できるんですから。その、エンターテインメント性のバランスは、ちょっと他の人とは次元が違うなと。今の日本には、こういうのをできる人って、いのうえさんの他にはいないんじゃないかと思います。」
――以前から、演劇が大好きだと公言されている向井さんにとって、映像とは違う舞台ならでは味わえる醍醐味はどんなところですか。
向井「毎回違う、ということでしょうか。やればやるほど、もしかしたら飽きてくるのかなと思いながらも、全然違う形になっていったりしますからね。演じる側がちょっと気持ちを変えることで、すごく新鮮に味わえることが生まれたりもしますし。それが自己満足にならなければいいんですけど。でもやっぱり毎回同じものにはならない、その瞬間にしか味わえないというのは、やっているほうにも、観に来るほうにも、魅力ですよね。劇場で同じ空気を吸い、ナマの声が聞こえるというのもいいし。編集できない、映像でいうところのワンカットで撮影することと同じなので、こちらも特別な緊張感がありますし、観る側としても他では味わえない刺激があると思います。」
――それにしても、向井さんがこれまでやられてきた舞台と今回は、見事に毛色が全然違うものになりそうです。
向井「今まではわりと、静かな作品ばかりやってきましたからね。僕、本当はそういうほうが好みなんです(笑)。だけどエンターテインメント、ステージという意味では全部同じくくりですし、それに自分がやったことのないものはやっぱりやってみるべきだと僕は思うので。もしかしたらものすごくハマって、今後はこういう徹底したエンターテインメント作品ばかりやるようになるのかもしれないですしね。それに今回の経験は本当に、きっと自分の財産になるだろうなと思ってもいます。」
――おそらくアクションも相当あるのではと思いますが。
向井「殺陣は自分の経験上、一番多いと言っても過言ではないでしょうね。」
――自信のほどは、いかがですか。
向井「いやあ、全然ないです。まったくないです(笑)。」
――覚悟はできていますか。
向井「でも、このオファーを受けたということは、つまりそういうことですから。やるしかないです。ただ、やれないことはできません。たとえば空を飛べとか(笑)。そんなことはできないですけど、でも自分がやれることは限界を超えるところまでやってみたいですね。」
――今の時点で稽古、本番に向けて準備したいことや、とても楽しみにしていることは。
向井「今回は自分にとって、修行だな、という感じがしているんです。きっと想像できない、体感したことのない舞台になると思うので。そこに対する興味というものはいっぱいあります。大変なのは当然のことで、ラクな舞台なんて今までだって一度もなかったですし、それぞれに大変な部分と楽しめる部分とがいっぱいありましたからね。だけどこれまでも最終的には爽快感や解放感みたいなものが味わえてきたので、今回もまた違う、新たなやりきった感が得られればいいなと思っています。」
インタビュー・文/田中里津子
Photo /村上宗一郎
【プロフィール】
向井理 ムカイ オサム
1982年2月7日生まれ。神奈川県出身。2006年に芸能界デビューし、数々のテレビドラマやCMに出演。2010年にはNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』に水木しげる役で出演し、大きな話題となった。『やすらぎの郷』(2017年)『神の舌を持つ男』『とと姉ちゃん』(2016年)などのテレビドラマ、『いつまた、君と~何日君再来~』(2017年)などの映画、『星回帰線』(2016年)などの舞台に出演。ドラマW「アキラとあきら」が放送中。劇団☆新感線には今回が初めての出演となる。