「私たちらしく、軽やかに、どんな方にも受け止めていただきやすいコメディにしていきたい」
阪神タイガースOBで俳優として活動している嶋尾康史が演出を担当、俳優・柊子が主演を担う演劇ユニット「Team337」の第7回公演「かすていら ~兄と私の一番長い日~」が1月24日から上演される。本作は今から10年ほど前、「Team337」を旗揚げする前に嶋尾と柊子によって上演された作品で、今回は待望の再演だ。とある下町を舞台に、焼鳥屋の店長・国枝都子が、町会議員を務める兄の・国枝万作の窮地を救おうと悪戦苦闘する姿をハートフルなコメディとして描く。初演に引き続き、演出を担当する嶋尾と主演の柊子に再演への思いや意気込みを聞いた。
――約10年ぶりの再演になりますが、今、この作品を再演しようと思ったのは、どういった想いからだったのですか?
柊子 2016年に「Team337」を立ち上げてからはミステリー小説を原作にした作品を上演してきましたが、私たちは「Team337」を名乗る前は完全オリジナルの作品を上演していました。今回の作品は、その中の一つです。実は、第6回公演の「最後の望み」の大阪公演を終えたときに、この「かすていら」を10年前に一緒に作り上げてくださった私たちの大切な仲間の一人が病気に伏せってしまって。入院されていることを知ってお見舞いに行ったんです。脳の病気でお話をするのも難しい状況でしたが、その方からは生きる活力を強く感じました。「リハビリを毎日頑張って、早く復帰するから、また一緒に作品作りをしよう」と言ってくれて。「またお見舞いにくるから」と別れたのですが、数ヶ月後にお亡くなりになったということがありました。それで「Team337」のみんなで追悼公演をしたいという話をしていたら、同じ時期にこの作品の脚本を書いている柚子さんから連絡があって、「『かすていら』を今の時代に合わせて書き直してみたい」と。柚子さんは、その方が亡くなられたことを全く知らなかったので、あまりのタイミングに驚きましたが、これは今、上演するべきだなと思い、今回の公演に繋がりました。
嶋尾 本当にいろいろなタイミングが重なったので、「これをやれ」ということなのかなと感じました。
――なるほど。しかも、内容的にも今、ぴったりな作品でもありますよね。
嶋尾 2024年の「今年の漢字」は「金」なんだそうです。「金」が選ばれた理由の一つが、政治家の裏金問題があったことだと聞いて、この「かすていら」とリンクすることが多いと改めて思いました。そうしたところも取り入れて作品作りができたらいいなと思っています。
柊子 ただ、賄賂や黒い政治の話ではありますが、前回同様、私たちらしく、軽やかに、どんな方にも受け止めていただきやすいコメディにしていきたいと思っていますので、きっと楽しく観ていただけるのではないかなと思います。
――先ほど、脚本の柚子さんが現代に合わせて書き換えるというお話がありましたが、どのような点が新しくなるのでしょうか?
嶋尾 もちろん大筋は変わらずに、今っぽさを加えていく形になると思います。
柊子 今、稽古中なのですが、どんどん新しい原稿が送られてきて、日々、更新されています。なので、私も本番でどんなセリフを言うのか分からないところがあるくらいの状態で(笑)、すごくワクワクしています。時事ネタが入っているので、きっと楽しんでいただけると思いますし、知っているワードがたくさんあるとグッとのめり込んでもらえると思うので、最終的にどんな脚本に仕上がるのかすごく楽しみです。
――2015年の初演で印象に残っていることを教えてください。
柊子 この作品には天童代議士という悪者が出てくるのですが、10年前は、嶋尾さんが演じていたんですよ。それがすごく印象に残っています。私たちは、出会ってから20年を超えるお付き合いがありますが、大阪公演の本番中に嶋尾さんがステージに登場されたときに、客席から「デカっ」という声が聞こえて(笑)。みんなそう思うよね、大きいよねって(笑)。私は長い付き合いだったから感覚が麻痺してきてしまっているのですが、久しぶりに会うとやっぱり大きいなと思います。ただ、今回は嶋尾さんが演じた天童代議士はゲストの方が演じてくださいます。
――今回は、嶋尾さんはご出演されないんですか?
嶋尾 今回は豪華なゲストの方が演じてくださるんです。大阪公演の25・26日は妹尾和夫さんが東京公演は夏樹陽子さんが演じてくださいます!
――前回は、出演ありきで進んでいらっしゃった?
柊子 「Team337」のメンバーとしては、みんなで作り上げていこう!と常々皆で思っているので、嶋尾さんも一緒にやりましょうというテンション感になったことは何度かあったように思います。天童代議士は、黒いオーラがある人物なので、嶋尾さんにぴったりで!嶋尾さん以外いないだろうと皆で盛り上がりました(笑)
嶋尾 僕、そんなに悪く見えますか(笑)?
――嶋尾さんが悪く見えるというわけではないですが、ハマり役だなとは思いました(笑)。
柊子 今回は嶋尾さんではなくゲストの方が演じてくださいますが、どんな天童代議士が見られるのか、すごく楽しみですね。
嶋尾 ゲストの皆さんがどんな悪役ぶりを見せてくださるかワクワクしています。真面目だけど少し頼りないお兄ちゃんを支えている妹の都子が、お兄ちゃんが巻き込まれる政治に絡んだ問題をどう解決していくかというストーリーは同じですが、前回から10年経っているので、Team337の面々もきっとみんないい味を出してくれると思います。
――演出面では、 前回とはどんなところを変える予定ですか?
嶋尾 まずセットを変えました。楽して10年前のままにしようかと思ったんですが、上の方からサボらないでと言われて(笑)。新しいセットを自分なりに考えて作ってもらったので、きっと面白い感じになっていると思います。演出の面では、10年経つと時代も変わるので、今だから取り入れられることは少しずつ入れていこうかなとは思っています。例えば、時事ネタもそうですが、前回は愛護団体が応接室の中にいるというフリで物語が展開していましたが、今回はその方々の存在を音で表現してみようと思っています。
――ワンシチュエーションでエレベーターホールのみを舞台にしているというのも演出としてはなかなか難しさもあるのでは?
嶋尾 そうですね。ただそれが脚本の柚子さんの真骨頂だと思います。ドアから出て行って入ってきてが続くので、役者たちは演じる以外にも出るタイミングを覚えたり、出はけの場所を覚えたりと、すごく大変な作品だと思います。
柊子 実際に前回は、稽古が始まってすぐの頃は迷子になっていました(笑)。私は2役を演じていたので、どの扉から出て、着替えたらどこにスタンバイするのかが分からなくなってしまって(笑)。今回は、そういったシチュエーションコメディを赤坂RED/THEATERでできるというのもすごく嬉しいです。贅沢な空間になると思うので、劇場を存分に使って駆け回りたいと思います。
――個人的にはお兄ちゃんの写真がどんな写真なのかもすごく気になります(笑)。
柊子 前回は、写真をお見せする演出をしていないですもんね。俳優たちがその写真を見てリアクションをするお芝居をしていましたが、今回は、それも変えようと模索中です。前回とは違う形で写真を楽しんでもらいたいなと思っています。
嶋尾 うまい形が見つかればやりたいと思っているところです。
柊子 楽しみにしていただきたいですね。
――柊子さんが演じる都子という役柄については、どのようにとらえて演じていらっしゃるんですか?
柊子 町議会議員をやっているお兄ちゃんがいる、焼鳥屋の店長です。私自身が3人兄弟の1番下で2つ上の兄がいるので、兄妹の会話のやり取りはすごく自然に感じます。兄妹って、こういう話をするよなと小っ恥ずかしいような感覚もあって。そういう意味では、自分の中にあるものを引き出して演じられるのかなと思います。都子という人物は、勝ち気で、物事をまっすぐに言える女性です。そうしたところは自分の性格とは離れているところでもあるので、声のトーンを低くしてみたり、語尾に強みを出す言い回しをしようと思っています。
――初演時には、お客さんからはどのような声がありましたか?
柊子 サイドストーリーも楽しめると、観てくださった方からはたくさん声をいただきました。兄妹の話だけでなく、それぞれの登場人物のストーリーが絡み合ってくるので、そこに面白さを感じてくださった人が多く、再演のリクエストもたくさんもらった作品でした。
嶋尾 一見、政治の裏金の話だったり、小難しそうな話なのかなと思われるんですが、全くそんなことないので、何の情報も入れずに観ていただいてもきっと楽しんでいただける作品にはなっていますので、あまり難しく考えずに、行ってみようかどうしようかと迷っている方は観にきていただけたらと思います。
――今回の共演者の方々についても教えていただければと思います。
嶋尾 前回は「Team337」のメンバーだけでしたが、今回は、天童代議士役のゲストの方もそうですし、秘書役の宮瀬かれんさん(かれしちゃん)と外部の方にも出演していただくので、新たな化学反応が起きるのではないかと期待しています。今、稽古が始まったばかりなので、これからどうなっていくのかも楽しみですし、より幅広い方に観ていただけるのではないかなと思っています。
柊子 かれしちゃんとのお芝居が今、私はすごく楽しいです。かれしちゃんは、今回、初舞台なんですよ。この舞台ではダークな役を演じてくれています。劇団は、同じメンバーで作品を積み上げていくという良さはもちろんあると思いますが、こうして新しい方との出会いがあるのも素敵だなと思います。今回もかれしちゃんと一緒にお芝居をすることで生まれるものや、私たちが楽しんでいる姿がストーリーに乗っかって、さらに面白くなるだろうなと思います。
――新しく客演で入ってくれる方がいることで、また新鮮なお芝居になりますね。
柊子 妹尾さんや夏樹さん、かれしちゃんのことを応援してくださってる方が私たちの舞台を観に来てくださると思うので、それもまた私たちにとっては喜ばしいことです。ぜひ「Team337」の良さを広めて欲しいなと思います。今回は、「Team337」を初めて観る方も多いと思うので、ぜひ楽しんでいただきたいです。私たちの舞台は、初めましての方も受け止めてくれやすいと思いますし、そうした声もたくさんいただくので、初めて観ていただく皆さんにも次の公演を観に来ていただけるような作品になればと思います。
――そもそもの話ですが、「Team337」は、どういったコンセプトから結成された劇団なのですか?
柊子 もともとは、うちの事務所の俳優養成所が大阪にありまして、そこに常設の稽古場があって。私はそこに初めて足を踏み入れたのが中学生で、14歳くらいのときだったんですが、そこに行ったら若かりし頃の嶋尾さんと俳優の皆さんがいたのが初めての出会いでした。当時は、20、30人くらいでお稽古をしていました。その頃から、アトリエ公演を年に1回やっていたんですよ。
嶋尾 僕たちの事務所は、基本は映像のお仕事がメインなんです。ただ、全員が全員、映像に出られるわけでもない。なので、お客さんにお芝居を観ていただく機会を作りたいという思いがあって、教えに来ていただいている演出家の先生からの提案もあって、舞台を上演したというのが最初です。大阪でかなり長くそれを続けていたんですが、ある時期から東京にも打って出ようという話になりまして、それで大阪公演と東京公演をやるようになりました。
柊子 私は14歳の頃に初めて舞台に出演したのですが、それをきっかけにお芝居がどんどん好きになって、俳優として活動することになったんです。そして、23歳のときに連続テレビ小説「まれ」という朝ドラで矢野柊子という役をいただきました。自分にとっては大きなきっかけとなった作品で、より多くの方に自分の存在を知ってもらえた作品でもあります。そうしたこともあり、ずっと続けていた舞台の活動を「Team337」と名前を変えて、赤坂RED/THEATERで舞台をやるということになりました。
――先ほど、これまでは「Team337」としてはミステリーを原作とした舞台を上演していたとおっしゃっていましたが、それは明確にコンセプトがあってのことだったのですか?
嶋尾 ミステリーにこだわっていたわけではないです。協力してくださる原作者の先生の方々が面白いミステリー作品をたくさん出版されていらっしゃったので、ミステリーが続きました。ですが、ミステリーだったとしても、どこかで笑ってもらいたいという思いはどの作品でもありました。それがコンセプトといえばコンセプトなのかもしれません。ミステリーを楽しんでいただきながらどこかでくすりとでもいいので笑っていただきたい。そうした気持ちを持って毎回、作品を作っています。
柊子 確かに。原作を読んで受けた印象と私たちがやっている舞台の印象は変わることが多いと思います。観てほっこりして欲しいという思いは昔からあって。「いい時間だったね」と言っていただけるような作品を目指しているので、少しでも笑いの要素は入れたいと思っています。
――そうすると、今回の作品はこれまでとはまた違う、ある意味ではターニングポイントにもなる作品なのでしょうか?
柊子 そうですね。これまでとは違い、一緒にやってきた方との想いがあるので、今回は、あの頃の再演という形になりました。これからというのは、まだ分からないですが、この1年で新たな出会いもあったので、またガラッと方向転換すると思います。なので、来年は、いい意味で「Team337」の1つギアを上がる1年になるのではないかと思います。
――柊子さんは、映像作品でもご活躍されていますが、舞台でお芝居をすることについてはどのような思いがあるのですか?
柊子 舞台でのお芝居が私はすごく好きです。舞台の醍醐味は、始まったらと止められないということ。舞台は、同じ空間でお客さまと同じ時間を過ごせるっていうのが魅力だと思うので、一人でも多くの方に観にきていただけたらと思います。私は歌詞を書いたり、本を出版させてもらったりもしていますが、表現するカテゴリーはどれも同じだと思います。映像にしても舞台にしても、文字を書くにしても、自分を表現するという意味で、それぞれの活動をこれからも続けていけたらなと思っています。
――嶋尾さんは、舞台の演出をすることの面白さをどんなところに感じていますか?
嶋尾 僕は基本は役者なので、演出は舞台しかやっていませんが、役者も演出も舞台は難しいなと思います。先ほど柊子が言ったように、始まったら終われない。セリフが飛んでしまったとしてもやり直しは効かない。でも、それもまた醍醐味ですし、目の前にお客さんがいて、同じタイミングで感動したり、悲しんだりと、その感情を分かち合える良さがあると思います。映像では味わえない良さを、魅力を、舞台で、「Team337」で味わっていただけたら嬉しいです。
――今回はご出演されませんが、そうすると自分でも演じたかったという思いが芽生えたり?
嶋尾 舞台は演出で大丈夫です(笑)。板の上に立つとドキドキしちゃうんですよ(笑)。なので、板の上に立ってる役者さんたちは、みんな尊敬しています。
――最後に、公演に向けての意気込みと読者にメッセージをお願いします。
柊子 「かすていら ~兄と私の一番長い日~」は、いくつもの扉を使ったすれ違いコメディです。 役者たちが縦横無尽に舞台の上を駆け回るので、そうした私たちのドタバタもぜひ楽しんでもらえればと思います。
嶋尾 「Team337」の舞台を観たことがない方も舞台というものを観たことない方、あるいは、今まで「Team337」の舞台を観てきたよという方、前回の「かすていら」を観たという方、いろいろな方に楽しんでいただける出来上がりになると思います。政治が絡んだお話ですが、難しい話ではないので、気軽に観に来ていただけたらなと思います。
インタビュー・文/嶋田真己