又吉直樹さん演出の『さよなら、絶景雑技団』が2019年10周年を迎える。2019年3月22、23、24日に本公演、派生ライブとして23、24日には『日本の表現者』も公演される。『さよなら、絶景雑技団』の今までとこれからのこと、小説執筆時とコントの台本の取り組み方で異なる点など又吉さんに語っていただいた。
■立ち上げから10年 表現するものも変わってきた
――10周年を迎えた『さよなら絶景雑技団』2019本公演の見どころを教えて下さい。
又吉「コントライブなのでコントによって全く違う面白さを舞台上で展開できると思っています。皆10年分経験を積んできているので、今だから出来るような表現をしていきたいと思います。立ち上げたばかりの頃は、自分たちがお笑いでご飯が食べられていないっていう状況がコントにも反映されていたんです。お客さんのアンケートを見ても、“売れていないこと、貧乏ということをこんなにも一つのライブで耳にするのは初めて”と書かれてあったりして。まぁ、自虐もあったと思うんですけど、当時は“これが本当のことだよ。俺たちの現実だよ”という主張だったんですよね。今は結婚したやつもいますし、子どもが産まれたメンバーもいる。想像の中の“お父さん像”みたいなものをコントで体現できるようになっているというのは、コントに深みを出す上で大きいと思っています。あと、『スパイク』の小川(暖奈)が唯一女性メンバーなんですけど、彼女が入ることで幅は広がりましたね。今のメンバーはバランスが取れていていいなと思っています」――ライブ『日本の表現者』についてはどのようなステージになりますか。
又吉「これは僕が主催している『実験の夜』という、渋谷の無限大ホールでやっているステージライブがあるんですけど、そこで生まれたコーナーコントがもとになりました。いろんなフレーズをお客さんに出してもらったりしながら、即興ありつつ進行していくというスタイルのコントです。ステージ上でどんどん状況が変わっていくので、本公演よりもその場の対応力というのが見られるステージになっていると思います。僕がステージ全体の設定は準備するんですけど、本番になってみないとどう展開していくのかわからない部分もある。同じステージは二度とできないという性質の公演です」
――小説家としても大活躍中の又吉さん。小説執筆とコントの台本執筆には取り組み方の違いがあるんでしょうか。
又吉「小説はノートパソコンを開いてから、どうしようかなって考えます。今まで書いてきたところを見直しながら、その場で考えていくというか。パソコンに向かう前はあまりプロットとか考えない方なので。今書いてるのは中編以上のある程度長いものなんですが、その場面ごとに面白くしていかなきゃという義務感があるんです。だから小説を書くのは持久走に近いですね。コントの場合はひとつひとつが短いというのもあって瞬発力が試されます。プロットというか構成も小説を書く時よりは考えてからパソコンに向かいます。パソコンに向かうっていうのは小説執筆時もコントの台本書く時も変わらないし、周りから見たら一緒に見えると思うんですけどね(笑)」■『さよなら、絶景雑技団』の将来像――又吉直樹の思う“絶景”――
――「さよなら、絶景雑技団」のこれからについてどうお考えですか
又吉「辞めていくメンバーがもしかしたらいるかもしれないし、クーデターみたいなことが起こって僕がはじき出されるかもしれないですけど(笑)。“絶景”と思えるような瞬間をコントで作るっていうコンセプトを突き詰めていきたいですね。“絶景”というのは富士山みたいなきれいな景色だけを指しているのではなく、自分の内面が変化することによって日常の何気ない風景でも“絶景”と捉えられると思うんです。メンバーが思っている“絶景”はそれぞれ違うわけです。子供がいるメンバーは、家に帰って子供と喋っている瞬間が“絶景”かもしれないし。全員の“絶景”が舞台上で化学変化したらより面白いコントになるんじゃないかと思ってるんです」
――又吉さんが“絶景”と思われるものは何ですか?
又吉「今年ロシアにワールドカップを見に行った時のことなんですが、街で髪の長いギターを持った現地のおっちゃんに話しかけられたんです。浮浪者っぽい感じの人で、言葉も通じないけど、“金くれ”って言ったのはわかって。僕が断ると、残念そうな顔して“Good luck”とだけ言って去っていった。どうせ明日帰るし、日本円に両替する手間もあるし、ここでおっちゃんに渡してもええんちゃうかなと思い直して追いかけたんです。すると、道でバンドが演奏しているのが聞こえてきて、さっきのおっちゃんが、バンドの最前列で勝手にハーモニカを吹いてセッションに参加してるんです。その光景を見た時に“絶景やな”と思いました。見知らぬやつに金貸してくれと言うような大変な状況なのに、バンドやってる奴がいたら参加するという一種の根性を感じたというか。音楽好きなんやな、なんかいいな~と思いましたね。こうした心的なものに“絶景”を感じています」――最後に、公演を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
又吉「10周年という一応のメモリアルイヤーですけど、肩肘張らずに見に来ていただければと思います。“このメンバーでなんかすんのやろなー” “このメンバーでコントするんなら見てみようかな”っていうテンションで(笑)。芸人がやるコントライブですから、見ることによって社会の問題が解決するようなこともないですし、近代文学的なコントがあるわけでもないですし。“ためにならない”ところが最大の魅力だと思いますので、もう本当に気楽にご覧ください」
――ありがとうございました。
取材・文/熨斗 克信
写真/ローチケ演劇部員