爍綽と vol.2『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』稽古場座談会

1月29日(水)より浅草九劇にて開幕する爍綽とvol.2『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』。

本作は2022年夏に上演された東京にこにこちゃん・萩田頌豊与による同名作を、佐久間麻由がプロデュースを手がける爍綽との新作公演として大幅改稿して紡ぐ魅惑のタッグプロジェクト。シェイクスピアの世界的悲劇『ロミオとジュリエット』を原作に据えつつ、「ロミオとジュリエットが生きて家庭を築いていたなら」というifの世界を朝ドラさながらの明るさで彩る異例の挑戦作だ。

出演には内田紅多(人間横丁)、海上学彦(グレアムズ)、佐久間麻由、清水みさと、高畑遊(ナカゴー)、土本燈子、てっぺい右利き(パ萬)、東野良平(劇団「地蔵中毒」)、吉増裕士(ナイロン100℃)、ブルー&スカイと文字通り十人十色の個性溢れる面々が集った。笑いの絶えない稽古の合間に萩田とキャスト陣にその魅力を聞いた。

稽古場座談会

――まずは爍綽ととして東京にこにこちゃんの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』を上演するに至った経緯について、佐久間さんと萩田さんにお話いただけたらと思います。

佐久間 私が東京にこにこちゃんの作品に出会ったのは、爍綽との旗揚げ公演『デンジャラス・ドア』(作・演出:安藤奎)が終わって安藤さんが創り上げた作品のあまりの面白さに腑抜けていた頃でした。ハッピーエンドに向かって突き進む作品に心を打たれ、私から「何か一緒にやらせていただきたいです」とご連絡をしたら、頌豊与さんから「やるのであれば、これしかない」と『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』の名前が挙がって…。

萩田 即決でした。以降何度も出演いただいている高畑(遊)さんと初めてご一緒できたのも、それこそローチケの白川さんがにこにこちゃんを知ってくださったのもこの作品だったし、大切な出会いに恵まれた、個人的にも思い入れの強い作品です。あと、初演では劇場の天井の高さの都合もあり重要なバルコニーのシーンが思うように描けず悔しかったので、浅草九劇ならそこもリベンジできるかも、と。作風としても、会話のテンポ感と物語の切なさをちょうどよく混ざり合わせることのできた最初の作品であり、作家としてのターニングポイントでもあるんですよね。まあ…原作はシェイクスピアなんですけど(笑)。

――世界的恋愛悲劇を朝ドラ仕立てのハッピーな喜劇に変換する大冒険。東京にこにこちゃんにとってそんな特別な作品を新たに彩る個性豊かなキャストのみなさんにも色々お話を伺えたらと思います。では、ロミオを演じる海上学彦さん、ジュリエットを演じる佐久間麻由さんから。

海上 東京にこにこちゃんには去年の『ネバーエンディング・コミックス』で初めて出演させてもらったのですが、僕がにこにこちゃんの演劇に初めて出会ったのもこの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』でした。この作品の観劇を機にすっかりファンになって追いかけていたので、初めてオファーをいただいた時はすごく嬉しかったです。

佐久間 私は正直なところ、最初は「自分は出演しない方がいいんじゃないか」と思っていたので不安はあるのですが、皆さんの演じる登場人物たちがすごく素敵なので、みんなのボケや感情をたくさん吸収して演じられたらいいなと思っています。

萩田 この作品に即決したもう一つの理由がまさにジュリエット役に佐久間さんがぴったりだと思ったからなんですよ。だから、出てもらわないと!(笑)。海上さんのキャラクターもロミオによく合っていると思います。

海上 前回はちょっとおバカでまっすぐな役だったんですけど、今回もまたちょっとおバカでまっすぐな役どころです(笑)。初演は細井じゅんさんが演じられていてとても素敵だったので、だからこそ、また一風違ったロミオを見せられたなと思っております。

佐久間 今回のキャストに合わせて台本も大幅に書き直して下さっているので、新しい作品に仕上がっていると思いますし、本の面白さも役を演じるにあたっての自信につながっています。

――そんなロミオとジュリエットと暮らす愉快な仲間たちを演じるのが土本燈子さん、てっぺい右利きさん、清水みさとさん、高畑遊さんです。てっぺいさんと高畑さんは初演から同役を続投、土本さんはにこにこちゃん2回目、そして、清水さんは初参加。それぞれどんな印象をお持ちですか?

てっぺい 「自分が初演を忘れているだけなのか、新たなシーンなのかがちょっとわかっていないかも」と思いながらやっています(笑)。でも、稽古をしていて懐かしさを感じる瞬間もあるのですが、やっぱりすごく新鮮な感じがして、人が変われば新たな作品になるんだな、と痛感しております。

高畑 変わっているシーンもたくさんあるんですけど、頌豊与さんが当時からすごく気に入っていたシーンはしっかり残っているんですよね。私はそういうシーンこそ初演とは違うアプローチでやってみたいなと思っていて、今まさに稽古で探っている感じです。

萩田 そうなんです。大好きなシーンやもう一回見たいと思ったところはそのまま残したくなってしまうんです。あと、いやらしいのですが、初演ですっげーウケたところも…(笑)。でも高畑さんが言うように、そういうシーンこそ思いきって違うアプローチにした方がいいのかもしれないですね。

高畑 頌豊与さんの気持ちもすごくわかる。私もなかなか勇気がなくて、前回の通りやっちゃったりすることもあるので…。でも、てっぺいくんが言ったみたいに人が変わると、本当に全然違うものになるから、再演ではなく新作の気持ちでみんなでやっていきたいですよね。

土本 私も海上さんと同じく『ネバーエンディング・コミックス』ぶりの出演なのですが、今回の役もすごく難しいです。読み合わせの時に頌豊与さんが「全部がボケで、ツッコミに見えるところも全部“気づき”だから、ツッコミと思って読まないでほしい」って言われて、台本の1ページ目にしっかりメモしたんですけど、正直「絶対ツッコミだろ」って思うこともあって…。

てっぺい それ、みんながこっそり思っていることかも…。

萩田 あははは!

土本 でも、「素敵だな」と思うにこにこちゃん常連の俳優さんたちは、たしかにツッコミ然としてセリフを言っていなくて、そこに俳優の生き様としての気づきが見えるし、“気づき”が地でできるってかっこいいなと思って、私も今回はそこを目指したいなと思っています。

清水 私は舞台自体が5年ぶりなのですが、そんな久々の舞台一発目にしてはあまりにハイカロリーな演劇だと思いました(笑)。でも、これまで自分が出演してきた舞台の作り方と全然違って新鮮で、とにかく稽古がすごく楽しいんです。やりながらどんどんアイデアが生まれて、みなさんの役の膨らませ方もユーモアに溢れていて、「本番で笑ったらどうしよう」と思うくらい!

――萩田作品に初参加の方もいらっしゃれば、久しぶりの出演という方もいらっしゃいます。東野良平さんはズバリ6年ぶりだとか…。

東野 短編を加えたら6年ぶりで、長編はなんと8年ぶりなんですよ。作風がガラッと変わる前だったので、初参加ではないけどすごく新鮮です(笑)。僕が出ていた頃の東京にこにこちゃんの演劇は悲劇だったので!

萩田 僕が一番迷走していた時代を知っているのが東野なんですよ。それこそ登場人物が死んでしまうのが当たり前だったし、「すべった方が面白い」とわけわからないことを言い出したり…。本当に理不尽で最悪のことばかりしていたので。その節は本当にごめんなさい。

東野 あまりの理不尽さに僕が激怒したこともあったらしいんです。全然覚えていないんですけど(笑)。そう思うと、遠いところまで来ましたね。でも、こうやって佐久間さんのプロデュースを機にもう一度一緒に作品が作れること、とても嬉しく思います。頌豊与と僕は同い歳で、僕が所属している劇団「地蔵中毒」と東京にこにこちゃんも同期なんですよ。同じ時代を生きてきた仲間とプロデュース公演で一緒にできるのは感慨深いです。

萩田 今回佐久間さんがきっかけをくださったので、こうしてまた一緒にできることになりました。本当にありがたい話です。

東野 周りのみなさんがタフで面白くて、本当にいい俳優さんたちばかりですよね。ブルーさんや吉増さんなんてナンセンスを極めた方々なのに、矢継ぎ早に足されていくセリフや演出にもフレキシブルに対応されていて、本当に尊敬します。

萩田 怒らずにやって下さってありがとうございます!

吉増 怒ってないか、本当はわかんないかもよ?

佐久間 そう言えば、ブルーさんと吉増さんはよく2人でファミレスに寄って帰っているから、そこで怒ってるかもしれないですよ!

吉増 うそうそ、冗談です(笑)。とても楽しくやっていますよ。

萩田 よかった!!

――東野さんが仰る通り、まさに不条理劇やナンセンスギャグを知り尽くした吉増裕士さん、ブルー&スカイさんの出演を楽しみにしている観客の方も多いことと思います。お二人は台本や稽古を通じてどんな印象をお持ちですか?

吉増 萩田くんとは以前にもちょこっとご一緒しているんです。NHKのラジオドラマだったよね。

萩田 僕がその台本で書いたのは車が大クラッシュするっていう描写だけだったのですが、吉増さんはそこで僕が本当に欲しいと思っていた音ぴったりの悲鳴を下さって、思わず鳥肌が立ったんですよね。

吉増 自分では全然覚えてないんですけどね(笑)。でも、その作品で初めて萩田くんの台本を読んだ時に「すごい ナンセンスで面白いな」と思ったんですよね。今回声をかけて下さった佐久間さんとも初めましてだったのですが、嬉しかったですね。

ブルー 僕もめちゃくちゃ面白いと思いました。最初の台本の時点で面白かったのですが、それが稽古でどんどん変わっていって…。ギャグとかキャラに関してはよくわからずとりあえずやっている部分もあるんですけど、これからの稽古でタイミングなどが身についていけばいいなと思っています。

佐久間 テアトロコントSpecial『寸劇の館』が本当に最高だったので、お二人には絶対に出ていただきたいと思っていたので、夢のようです!

吉増 オファーをお引き受けした後に東京にこにこちゃんの作品は観たのですが、とにかくボケの数が凄まじいじゃないですか。あと、スピードもね。稽古で自分はこのスピードについていけるのかな、と思わず心配になったほどでした。今もまだ手探りでやっている感じですけど。でも、やりがいがありますよね。不条理やナンセンスといっても、こういう感じのギャグとか役はあんまりやったことないんですよ。

萩田 吉増さんには今回様々な「悪」を背負っていただくので、面白さはもちろん、怖さも楽しんでいただけたら!

佐久間 稽古場でもそのあまりの怖さに「ひゃ〜!」と悲鳴が上がったほどでした!

萩田 そうそう。さっきまであんなに笑わせられていたのに、急に緊張が走る。吉増さんはシリアスもすごいです。笑いと奇妙さの絶妙なマッチと、だからこそのラストシーンのうねり。本当に吉増さんにしかできないので、今から客席から見られるのが楽しみです。

――ブルーさんはひょんなことから外部からロミオ&ジュリエットのお家の内部に入っていくといった役どころですが、どんな印象を持たれましたか?

ブルー 僕はそういうことあんまりしないですね。人の家に内部に侵入したりは…。

全員 あはははは!

ブルー あと、初演で同じ役を演じた尾形さんは映像で見る限り背丈が結構ある方に見えたのですが、僕はそんなに大きくもないので、印象もだいぶ変わるのではないかとも思いました。でも、もっと体が大きければよかったかなとも思います。

萩田 稽古はどうですか?

ブルー 初めましての方ばかりですが、とても面白いですね。普段、知人が出ている公演を観に行くことはあるのですが、知らない劇団の作品とかは観るきっかけが少なくなってきて…。今回のような機会がなかったら、にこにこちゃんやみなさんのことを知る機会もなかったと思うので、知れてよかったなと思いますね。どういうキャラでやればいいのかなって迷うところもあるのですが、頑張ってついていきたいと思います。

萩田 毎度ながらですが、今回も最高の座組です。僕はずっと笑っているだけな気がするのですが、この前の稽古で今回のメンバーの素晴らしさを象徴するエピソードがあって…。

佐久間 え、なんだろう?

萩田 あるやりとりの中に「でもさ」で始まるセリフがあって、「“でもさ”の後は何も思い付いていないけど、とりあえず、“でもさ”だけここに置かしてよ」って言いながら、“でもさ”を置くっていうただのボケがあるんですけど、東野が突然「“でもさ”を置きっぱなしにはできないからどこかで回収しなきゃいけないよね?」って言ったんですよ。で、それに対してブルーさんが「じゃあ、“でもさ”は重いから、ちぎって“もさ”にして持っていくのはどう?」って言い出して、そこから全員がマジで考え出して、本当に時間の無駄だなって思いました(笑)。時間の無駄なんだけど、こんなに魅力的な時間もそうなくて…。

東野 たしかに!

萩田 みんなで真剣にくだらなさを共有して、真面目にふざけられることって奇跡だなって思うんですよね。みなさんがそういうことをやって下さっている。僕の作品では「どんなにシリアスなクライマックスにもおふざけを入れる」というのをすごく大事にしているのですが、みなさんがそこにすごく寄り添って下さっているんですよね。アイデアや意見もどんどん出してくれて本当に救われています。

内田 「こういう風にしたらどうですか?」っていうのを言いやすいことも大きいと思いますし、その空気は頌豊与さんがつくっているのだと思います。作・演出の人は「別に一人で考えるよ」って空気を出すこともできるけど、頌豊与さんは毎回聞いてくれるじゃないですか。私たちのアイデアを聞いてすごく楽しそうにしているから私たちも好き勝手言えるんですよ。

清水 うんうん。稽古でもすごく笑ってくれますもんね。

萩田 演出やセリフを足しすぎて、いらない時に「いらない」って言ってもらえるのもすごくありがたいです。

高畑 それは多分私だね!

萩田 この間ついに「うるさすぎる」って言われてびっくりしたよ(笑)。でも、それも必要な「うるさすぎる」なんですよ。シリアスなシーンでふざけることを大事にしているけど、度を過ぎないギリギリの加減でみんながちゃんと言ってくれるんです。

佐久間 コミカルとシリアスの匙加減はたしかに難しいですよね。とくに私の演じるジュリエットは、みんながいっぱいボケている中でも物語を保たなくちゃいけない部分があるからブレないように気をつけないとってすごく思います。

萩田 そうですよね。佐久間さんと海上さんは物語の中心であり支柱なので、二人がドラマを支えてくれているから周りをぐちゃぐちゃに掻き回しても成立するのだと思います。

海上 えっ。僕も…支柱ですか…。どうしよう、大丈夫ですか?ロミオ、最初からすごいバカ丸出しな気がするんですけど…。

萩田 あははは!でも、そこも重要なんです。「なんか始まったぞ」って感じをすごく出してくれていますよ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』、始まりも重要な作品なので!

――みなさんの役どころやその魅力が見えてきました。全員が揃っているこの座談会を機に聞いておきたいことなどはないでしょうか?

萩田 僕からいいですか。ずっと聞いてみたかったことがあって…。これは初演の時からの葛藤でもあるのですが、この作品をハッピーエンドって言っても大丈夫だと思いますか?僕が思うハッピーエンドではあるのですが、人にとっては納得がいかない人もいるかもしれないとも思っているので、これを機にみなさんの思いも聞けたらうれしいです。

高畑 初演で「ハッピーエンドじゃないじゃないか!」みたいな声はとくになかったような気がしますけど、どうでしょうね。たしかにそれぞれで違うかも。

吉増 人が生まれて、生活して、死んでいく。それが人生だと思ったら、この物語もまたハッピーなんじゃないかな。

萩田 重み!そして、深い!

佐久間 たしかに人によって受け取り方は様々だと思うのですが、自分の人生やその結末を自分で選択できることって幸せなことなのかもしれない。そんな風には思いますね。

ブルー クライマックスの稽古をしていないからまだわからないのですが、台本読む限りではみんなスッキリした感じの流れではけていくから、ハッピーなんじゃないかな。

全員 あはははは!

萩田 なるほど、そうきましたか!

ブルー うん。ハッピーって、そんなに難しく考えなくてもいいかも。

――作品の魅力、そして、座組の魅力が存分に伝わる座談会でした。では、最後に座談会恒例の締めくくりを。みなさんの思う『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』のキャッチコピーを一言でお願いいたします!

東野 夢の超人タッグトーナメント!

内田 おもちゃ箱の中をのぞいているみたい〜!

清水 シェイクスピアも大喜び!

てっぺい グッドストーリー!

土本 永遠についてのお話。

海上 この物語は喜劇です。

佐久間 確かにあった些細な幸せ。

吉増 みなさんより僕が楽しませてもらいます!

高畑 土日は道が混むのでお気をつけ下さい!

ブルー 絶え間ない愉快な混沌。

萩田 手をつなぐまでの物語。どうぞ、お楽しみに!

取材・文/丘田ミイ子