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14年ぶりに夫婦役――
「共演できることが、自分の成長を感じるバロメーターになっている」(長澤)
1999年の劇団モダンスイマーズの旗揚げ以来、全作品の作・演出を務めてきた蓬莱竜太による新作舞台、Bunkamura Production 2025『おどる夫婦』で、長澤まさみと森山未來が14年ぶりに共演を果たす。長澤と森山は、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)と映画『モテキ』(2011年)という社会現象を巻き起こしたヒット作で共演。今回は、初めての舞台共演で夫婦役を演じる。10年間を共に過ごしたとある夫婦の軌跡を描いた本作に挑む思いを、長澤と森山に聞いた。
――10代からお知り合いの2人が14年ぶりの共演で、しかも舞台で夫婦役です
森山 14年ぶりですか…。
――そうですね。『モテキ』が14年前です。改めて本作の出演が決まったときはいかがでしたか?
長澤 めちゃくちゃ久しぶりですよね。
森山 『モテキ』以来だよね?どこかで会った?
長澤 いや、会ってないですね。これまで映像でしか共演していなかったので、今回、舞台で共演できると聞いたときに、「そっか。なるほど、そうだよね」って。初めて森山さんにお会いしたのは、私が16歳の頃だったと思いますが、その当時から森山さんは舞台をやられていた方だったので、現場でも監督などと舞台の話をよくされていたんです。今回、お話を聞いてそれを思い出しました。長年、舞台の畑で道を耕してきている森山さんと一緒の舞台に立てるようになると思ってもいなかったので、時間が経ったことを感じ、一緒にいられるような自分になったのだと思って嬉しかったです。森山さんと共演できることは、ある種、自分の成長を感じるバロメーターになっているのでとても感慨深いです。「自信がついた」ではないですが、一生懸命やってきたことで楽しみだなと思える自分でいられているということが嬉しい感覚でした。
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森山 『シン・仮面ライダー』では同じ作品には出ていましたが、撮影は一緒ではなくて。
長澤 そうですよね。私はずっと一人で撮影していたから(笑)。
森山 だから、会ったのは久しぶりです。でも、『世界の中心で、愛をさけぶ』も『モテキ』そうですが、映画の現場と舞台の現場は、やっぱりコミュニケーションの方法やあり方が全然違います。そしてどちらの映画においても、僕の役柄にとって長澤まさみさんは象徴的な女性として存在していました。加えて(『世界の中心で、愛をさけぶ』を撮影していた)彼女が16歳の頃はシャイで全く話さなかったということもあったり。ともかく大事な作品でお会いできるという特別感があります。舞台では1カ月以上、稽古をしますし、さらに今回は密なコミュニケーションが続く作品になると思うので、楽しみではありますが、今はまだ想像がついていないところもあります。
長澤 分かります。日常的に男女の間であり得る、可能性のある会話から始まるのですが、親密な関係性が森山さんとの間にはないので(笑)。
森山 あはは(笑)。
長澤 描かれているのは、深い関係性でないと発展しないような日常的な会話です。そうした信頼がないとできないものを描いている会話劇というのは私にとっては初めてだと思います。映画のようなセリフに感じましたが、それが舞台上で行われたときにお客さまにどう伝わるんだろうと考えると、しっかり稽古場でコミュニケーションをとっていかなくてはいけないなと思っています。
森山 大きい声を出したいセリフじゃないもんね。
長澤 そうなんですよ。なので、森山さんとの関係性が、ある意味で「あるようでなかった」ということが、すごくいいことなのかもしれないと思います。
――これまでの共演で、お互いに俳優としてどのような印象がありましたか?
長澤 最初に(『世界の中心で、愛をさけぶ』の)行定勲監督に森山さんを紹介されたときに「ダンサーの」とおっしゃっていたので、「へえ、ダンサーだったんだ」と。
森山 そうなんだ!?
長澤 うん。当時、私にはそういう考えがなかったんですよ。撮影現場で会う方たちに対して、「表現」という大きなくくりではなく「お芝居をする人」という一つのイメージしかなかったので、その行定監督の言葉はすごく印象的に残っています。長年、森山さんがやってきていることは、他の人が日本ではやっていなかったことだと思います。森山さんが自分の道を貫いている姿を見てきたので、今回、この台本の中で森山さんが心の声をポツポツと話すシーンに切り替わったときに期待感がすごく高まりました。踊るのかなと(笑)。
森山 タイトルも気になるしね(笑)。
長澤 それを期待してしまうし、森山さんが出ていると想像するだけでワッと盛り上がる感触があって、そうした存在であることがすごいことだと思います。初めて会ったときから不思議な方でしたし、「何者なんだろう」と思っていましたが、最初から「現れるだけで存在感を感じる人」でした。実際に踊るのかは分からないですし、この作品がどうなるのかも今はまだ分かりませんが、きっと楽しい作品になると思います。
――森山さんはいかがですか?
森山 先ほど、僕の役柄として長澤さんのキャラクターが象徴的だったと話しましたが、それはきっと僕から見る視点だけでなく、一視聴者として長澤さんを見る人たち全てにとっても同じことで、象徴的な存在としてずっとあり続けているのだと思います。その覚悟と土台は、(『世界の中心で、愛をさけぶ』で共演した)21年前から同じように感じています。僕は、『世界の中心で、愛をさけぶ』が映画初出演だったんですよ。落ち着きのない性格でもあるので、どういうふうに現場にいて、待ち時間を過ごせば良いのかも分からなかったですし、どうやってその現場を乗り切ればいいのかも分からず、あたふたしていた記憶があります。そのときから長澤さんは映画人として現場でも落ち着いているように見えました。スタッフや監督との関わり合いでは芯が通っていますし、信頼が最初からあります。
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――過去2回の共演で印象に残っているエピソードを教えてください。
長澤 『世界の中心で、愛をさけぶ』で(森山が演じる朔太郎から)テープを使って告白をされるシーンがあったのですが、段取りがすごくおしゃれだったことを覚えています。そのシーンの撮影前に監督と森山さんがお二人で決めたのかもしれないですが、私の新鮮な反応を撮るために、段取りとは違うテープの内容になっていてすごく驚きましたし、ドキドキして不思議な気持ちになって。そうしたサプライズのような演出を受けたのは初めてだったので、すごく印象に残っています。その時のドヤ顔をしていた森山さんの顔もすごく焼き付いていて(笑)。映画はこうやって撮っていくんだなと感じた出来事でした。もちろん撮り方は自由でいいものだと思いますし、芝居はこうでないといけないという決まりは絶対にないですが、二人に仕掛けられてすごくいい経験をしたなという思い出があります。『モテキ』はあまり覚えていないんですよね(笑)。
森山 そう、僕も。(『モテキ』の監督の)大根仁さんとコミュニケーションを取りながら、その地続きで撮影が進んでいった空気感があったので、何かスペシャルなことがあったというよりは、親密な空気感のまま撮影できた。そういう意味で、パッと思い浮かぶ印象的な出来事がないのかもしれない。
長澤 そうですね。確かに監督がすぐ近くにいて、「こうやって。ああやって」と演出をしていただきながら、試行錯誤して撮った現場だったので、森山さんと向き合っている時間は少なかったように思います。
森山 大根仁に翻弄された(笑)。
長澤 そう、そんな現場でした(笑)。
――森山さんが『世界の中心で、愛をさけぶ』の撮影で思い出に残っていることは?
森山 いろいろとありました。僕もキャラクター的なこともあって、長澤さんとあまりコミュニケーションを取らないスタンスでいたので、それも相まってお互いミステリアスに見えていたのかも知れないです。そうした中、夜中に友達みんなでお墓に忍び込むというシーンの撮影があり、夜が深くて、待ち時間もすごく長かったので、睡魔に襲われてしまって。椅子に座って寝てしまって、バランスを崩して倒れてしまったんですよ。ハッと起きたら、それを見た長澤さんが笑っていて(笑)。撮影以外で初めて長澤さんが笑った姿を見たので、それがすごく記憶に残っています。やっと芝居以外で笑ってくれたと。
――信頼感がありながらも、適度な距離感があったんですね。本作の作・演出の蓬莱さんの印象も聞かせてください。長澤さんは2020年に一人芝居を演出してもらう予定で、蓬莱さんとプレ稽古もされたと聞いています。そのときは、蓬莱さんの演出にどのような印象がありましたか?
長澤 俳優の得意不得意をきちんと見極めて、無理をさせずに私を捉えて、蓬莱さんの演出したい方向に誘導してくださる感じがありました。見極める力があって、押し付けて役を掘り出そうとしない。自分で築いていく方法を、言葉にはしないけど感覚的に見極めてくださる印象です。そのときはプレ稽古で、本当の稽古には入っていなかったので、今回、稽古が始まったらどうなるのかは分かりませんが、その時にやろうとしていた作品の空気感がこの作品にも入ってくるのかなと感じるような脚本になっているような気がしています。
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森山 それは本来、一人芝居の予定だったの?
長澤 そうです。セリフと語りがある一人芝居です。脚本の作り方は今回の作品にも通じる空気感があると思うので、どのような演出をしてくださるのか楽しみです。きっと一緒に寄り添ってくれる座組になるのだろうと思うので、安心してお芝居ができるのだろうと思います。これまで出演してきた舞台の稽古場とはまた違ったものになると思いますし、自分も新たな姿で臨んでいる姿が想像できるので、理解を深めて芝居したいと思います。
森山 今回のほかの共演者の方とはこれまでも共演しているの?
長澤 皆川(猿時)さんとは何度も共演しているので、安心感と信頼があります。それに、今回は皆さんが向き合って、一緒に考えてくれるのではないかと思うので、1人だけで抱え込まないで、意見し合って作り上げていきたいです。
森山 ああ、僕も皆川さんは共演しています。
――森山さんは蓬莱さんとは初めてですか?
森山 ずいぶん前に僕が出演したスペシャルドラマの脚本を蓬莱さんが担当されていたことはあります。プライベートでは何度も飲んでいるんですが(笑)。
――今回、こうしてじっくりと作品を一緒に作ることにどんな期待がありますか?
森山 蓬莱さんの舞台の僕のイメージは、「男たち」です。(蓬莱が主宰する)モダンスイマーズの役者たちがお互い間(ま)を計り合いながら、ひしひしとやり取りを重ねていく空気感が僕はすごく好きなのですが、今回は夫婦の話でもあるし、文化村でどういった広がりを持たせるのかなと。ただ、この作品が決まる前に、コロナ禍で上演がストップしてしまい、初日に撮った記録映像を劇場でスクリーンで観るという環境下ではあったのですが、とある公演を観に行きました。そこで「そうか、蓬莱さんは今、こういうところにいるのか」と感じましたね。彼にとっては実験的なものだったかもしれませんが、すごく動的にさまざまな人や空間が動きながら、時間が行ったり来たりしながら見せる。そこから改めて興味を持っています。今回、どのような演出をされるのかはまだ分かりませんが、コミュニケーションを取りながら形が出来上がっていくんだろうなと思います。
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――今の段階でのそれぞれの役柄についてはどのような印象を持っていますか?
長澤 私が演じるキヌは、成り行きで生きている人のような気がします。もちろん流れや気持ちがあってのことなのでしょうが、人生を自分で決めるというよりは、(森山が演じる)ヒロヒコさんと友達として出会って、ふわっと流れに乗っかって生きていってしまっているのかなと思います。まだ見えていない部分もありますが、今はすごく強い意志があるのか、それともないのかが見えないので、物語を通して登場人物たちの本質的な部分が見えてくるのかなと期待しています。
森山 タイトルにあるような『夫婦』としての生活は、今、いただいている(途中までの)台本ではほとんど描かれていないので、これから夫婦の関係性がどう見えてくるのか、まだ全然分からないです。
――不器用な夫婦の10年の記録が描かれるということについては、どのように感じましたか?
長澤 すごく面白いと思いました。夫婦の話はさまざまな舞台や作品でも描かれていますが、それを細かく描き、10年という長い年月をどう時間経過させていくのかなと。きっと観てくださる方にも楽しんでいただけるのではないかと興味深く思いました。
森山 夫婦に限らず、お互いを理解することを諦めていないやり取りが綴られていると思いました。時間の積み重ねを断片的に見せながら、夫婦の関係性の積み重ねをどう匂わせるのかが大事な部分になるのかなと今は考えています。
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取材・文/嶋田真己
撮影/篠塚よう子