ヒラタオフィス+TAAC「さえなければ」│遠藤健慎×福崎那由他×永嶋柊吾×タカイアキフミ(作・演出)インタビュー

写真左から)福崎那由他、遠藤健慎、永嶋柊吾

ヒラタオフィスとTAACがタッグを組んで届ける舞台の第二弾となる『さえなければ』。とある市の遺体ホテル(遺体安置施設)を舞台に、そこに関わる様々な人を描く物語だ。出演は遠藤健慎、福崎那由他、伊藤歌歩、古澤メイ、高畑裕太、永嶋柊吾と、初舞台の遠藤と、TAAC作品に出演経験があるキャストが揃っている。稽古が始まったタイミングで、遠藤健慎、福崎那由他、永嶋柊吾、作・演出のタカイアキフミにインタビューを行った。

――まずは今回の題材を取り上げた理由を教えてください

タカイ 今回の題材は遺体ホテル。演劇は「いま」という時代を切り取る表現媒体だと思っています。今の時代だからこそ生まれた場所を物語の場にしたいというところが今回の企画の出発点です。その中で、登場人物たちの背景も社会問題などから派生させていくことができれば、この時代に演劇として作る意味があるのかなと思いました。

――キャストの皆さんは台本を読んでどう感じられましたか?

永嶋 テーマの一つである「NIMBY(not in my backyardの略語で、保育園やごみ処理場などが生活に必要なことは認めるが自分の家の近くには建設しないでほしいという住民・態度のこと)」は時々聞くので、そういう人たちの話になるのかと思っていたら、切り口が想像と違いました。TAACは台本に「間」があることが多いですが、今回は喋りっぱなし。タカイさんがまた新しいことをやるんだなと思っています。

福崎 僕が前回TAACに出演した時は、それこそ「間」を大事にされていました。今回は登場人物たちの会話で成り立っていく話だというところに違いを感じます。また、題材がこの先実際に起きるかもしれない物語。自分ごとにできるかもしれないなと思いました。

遠藤 タカイさんがすごく悩みながら台本を書かれたことを役者全員が知っていたので、どんな話になるのか気になっていました。登場人物6名それぞれに「さえなければ」を抱えさせつつ、NIMBYや場所に対する思いなどのいろいろな問題が織り混ざっていて、人間くさいと思いました。死を扱うからこそ、自分ごととして見てもらいたい。腹を括らなきゃいけないと思いました。

――演じる役についての印象、役作りについて考えていることも教えてください

永嶋 僕の役に限らず、みんな平等に不幸な感じがある。一人ひとりに信じているものや失っているものがあって、そこから抜け出そうとしている・していないに関わらず、一瞬でも光が見えたら縋りたいんだろうなと感じます。だからこそ、みんな平等に幸せになるチャンスがあることを、役を通して見せたいです。この三人(遠藤・永嶋・福崎)は同じ遺体安置施設で働いていて、僕の役柄は施設の責任者。自堕落な感じでやっている人が、二人との関わりの中でどう変わっていくのかに注目してください。

福崎 僕は葬儀会社から出向してきている職員。ボランティアでエンゼルケアなどをしている人です。登場人物はみんな不幸や事情を背負っているんですが……。

タカイ 独り身とか孤独死された方を、少しでも綺麗に送り出してあげたいという想いがありながら、それにはある理由があって…というキャラクターだよね。

福崎 そうですね。葬儀会社で働くようになったきっかけも物語の中にある、深みのあるキャラクターだと思います。

遠藤 僕は遺体ホテルのアルバイトで、(福崎演じる)新子より年上だけどNIMBYについて思いがあるというより、単純に興味があって働き始めた人間。新子は遺体に何かをしてあげたいかという背景があるけど、湯口はある境界が曖昧になっていく役です。

――TAAC作品に出演した経験のある方が中心のカンパニーですが、皆さんの印象、期待はいかがでしょう

タカイ TAACはできる限りいろいろな人と作品を作ってきました。でも、演劇を続けていく中で、信頼できる人たちとできる尊さも感じています。安心できる環境をありがたいと思いつつ、緊張感は失いたくないと思っています。永嶋さんはTAAC作品5回目で何も言うことはないというか、TAACの一人みたいな存在です。福崎さんは2回目ですが、ご一緒したのは2年前。すごく能動的な人になった印象があって嬉しいです。遠藤さんは納得しないと前に進めないけど、納得したら考えたことと出てくるものが一致する。和気あいあいとした座組ですし、芝居に対して真摯な人しかいないので、初舞台の遠藤さんをいい環境でお迎えできたなと思いますね。

――本作の見どころ、楽しみなシーンなどはあるでしょうか?

福崎 キャスト全員が舞台上に揃うところは楽しみです。視覚的にも楽しそうだなと思いました。

タカイ 思惑が交錯する場面は“演劇”って感じがするよね。

永嶋 最初のシーンは、初舞台の健慎が一人で出てくる。初日が楽しみで仕方ないです(笑)。

遠藤 柊吾くんは声量が大きいわけじゃないけどすごく耳に合う声。声が好きで、「桜の木が邪魔なんだよ」ってセリフが大好き。本番で聞けるのが楽しみです。

永嶋 それはタカイさんのセリフの良さなんじゃない(笑)?

一同 (笑)

永嶋 ラストはまだ確定していませんが、この三人で終わるんじゃないかということになっています。そこでがっちり締めたいなと思っていますし、演じるのが楽しみです。

――遠藤さんは初舞台ですが、経験豊富な皆さんに聞いてみたいことなどはありますか?

遠藤 舞台になると声の大きさってどうしたらいいのか柊吾くんに聞きました。そしたら、通る声も大事だけど、馴染みのない音を出そうとすると無理することになっていよいよ聞こえなくなってしまうと言われました。

永嶋 だから、自分の声で喋れば大丈夫だよって。

遠藤 あとは皆さんに台本をどう覚えているか聞いたりもしました。みんなで読んでいると自然に入ってくるし、立ち稽古で反応することで覚えたりすると聞いて。みなさん優しいのでほっとしています。

――タイトルにちなんで、皆さんにとっての「さえなければ」や「さえあれば」を教えてください

永嶋 お金さえあればずっと演劇ができる。あと、暇さえあればですかね。

福崎 暇さえあれば、いいですね(笑)。

永嶋 ドラえもんさえいれば……。

一同 (笑)。

遠藤 リーダーシップさえあればもっと座長らしいことができるのになって思います。

タカイ 『さえなければ』を書いていて思うのは、そう思うほどの何かを抱えるのはなかなかだよな、ということ。みんな何かしらあるだろうけど、それを表に出して生きるのはしんどいと思う。今回の登場人物も絶妙なバランスで成り立っています。

――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします

永嶋 タカイさんはいつも「観た人のお守りになるような作品を作りたい」と言っています。今回は登場人物みんなの幸福度が少し低いところから始まり、そこから抜け切る人がいるのかわからない。そんな中で、観た方がお守りや温かみのようなものを持って帰っていただけるような人物たちにしたいと思っています。この作品を観たら精神衛生が良くなるような芝居にしたいと思います。

福崎 僕はTAACへの出演は2回目ですが、1回目は救われたかどうか……という話でした。今回どんな話になるかまだわからないですが、観ている方の中に救われる方がいたらいいなと。題材として「死」を扱うので、どうしても暗くなってしまう部分もありますが、その中に救いのある話を届けられたらと思っています。

遠藤 僕は観た方に少し焦ってほしい思いもあります。全員が将来的に向き合う「死」は決して遠い話ではないし、今日できることは今日しかできないと、台本を読んで思いました。僕自身、この台本に救われている部分もあるので、みなさんともっと共有できたらいいなと思います。

タカイ 演劇やエンタメ、フィクションは、何かが変化してハッピーエンドになるものも人気があります。でも現実には、人はどうしても亡くなるし、辛い思いをしている人々がうまく幸せを掴めるかというとそうでもない。変わらない中でどう前を向いて生きていくかを考える作品になると思います。僕は坂元裕二さんが言っていた「マイナスを生きている人をゼロくらいに持っていける作品を作りたい」というところに近い感覚を持っていて。出来事は変えられないかもしれないけど、人との結びつきや関わり合い、心の持ち方で人生を少し前向きに生きていけるのかもしれないということを、お客さんと共に育めたらいいなと思っています。

取材・文・写真/吉田沙奈