
三谷幸喜による注目の最新作は、三谷がシェイクスピア翻案に初めて取り組むことでも話題を集めている舞台『昭和から騒ぎ』。これはシェイクスピアが手がけた元祖ラブコメともいうべき作品『から騒ぎ』の舞台を、中世のイタリア・シチリア島から昭和20年代の日本・鎌倉に設定を移すという、少々捻った喜劇となる。
そこは、東京の大学に勤めるドイツ文学研究者である鳴門先生が長女・びわこと次女・ひろこと共に暮らす、鎌倉のお屋敷。久しぶりに鎌倉にやって来た旅芸人一座の看板役者、紅沢木偶太郎が、花形役者の尾上定九郎と若手役者の荒木どん平を連れて鳴門家を訪ねてくることで、二組の男女の恋物語が始まる……。
400年以上前に書かれた原作を三谷がいかに翻案し、どこを活かしてどこを変化させるかというのも楽しみなところだが、大泉洋、宮沢りえ、竜星涼、松本穂香、松島庄汰、峯村リエ、高橋克実、山崎一という、実に豪華な顔ぶれが揃うキャストの面々の活躍ぶりにも期待は高まるばかりだ。
これが初めての三谷作品への挑戦となる、次女・ひろこ役を演じる松本穂香に稽古場の様子や意気込みなどを語ってもらった。
――稽古開始から3週間が経過したところだそうですが、現在の稽古場の様子は松本さんの目にはどんな風に映っていますか?
とても温かくて、理想的な稽古場です。私の親世代の方も多かったりするので「こんなお父さんがいたらいいな」とか思ったりしています(笑)。特に、私としては克実さんがツボに入っていまして。宮沢さんと私のお父さん役が克実さんなんですけど、いまだに娘たちの名前を間違えたりするんですよ。それに、毎日三谷さんが新しい演出をつけてくださるのですが、急に克実さんにドイツ語を喋らせてみたりするので、これがまた楽しくて仕方なくて。
――それは、普通に笑っちゃいそうですね
そうなんです。笑ってはいけない場面でもついつい笑っちゃうので、いかに笑わないでいられるか、そこが現時点での私の課題でもあります。
――大泉さんや竜星さんの印象はいかがですか?
お二人とも、ものすごく濃いです(笑)。大泉さんは共演させていただいたことがあるのですが、その時は私も緊張していてあまりお話ができなかったんです。でも今回は大泉さんからもいろいろ話しかけてくださり、ご家族のお話を聞かせていただいたりしています。あとはもう、三谷さんと大泉さんの攻防がとにかく楽しくて!大泉さんが「ここでなんでこんなこと言うんですかね?」みたいなことを言い出すと、三谷さんがあの調子で「ま、シェイクスピアですからね……」みたいに返していて、おそらくみなさんが想像した通りだと思いますけど、そんなお二人のやりとりが面白くて仕方ありません(笑)。竜星さんは表情がすごいんです。普通にしていたらすごく爽やかな方なのに役柄も相まってか、ものすごく濃いんですよ。何度見ても笑っちゃいますね。隣に立っていると、ちょっと!うるさい!!(笑)って言いたくなるくらいの声量でずっとしゃべっていますし、この人は本当に自分を開いてる人なんだ!と思えて、そこはすごく見習いたいし、盗めるところは盗んでいきたいし。最終的には私もぜひ竜星さんくらい開いて、すべてをぶちまけられたらなと思っています!
――宮沢さんとは姉妹の役ですが、稽古場ではどんなコミュニケーションを取られていますか?
宮沢さんとは、稽古場で隣の席なので毎日いろいろとアドバイスをいただいたり、何気ないおしゃべりをさせていただいていて。「昔、自分も言ってもらって身になったことだから」とおっしゃって、本当にいろいろとアドバイスをくださるんです。ひとつひとつは細かいことだったりするんですけど。たとえば本番は滑り止めが付いた靴下を履いてお芝居をするので「稽古の時もこれを履くといいよ」と滑り止め付きの靴下をくださいましたし、私が袖の長いパーカーを着て稽古をしていた時に「本番ではそこまで長い袖ではないはずだから、ここでは袖をまくっておいたほうがいいよ」と優しくアドバイスしてくださるので、とても助けられています。そうやって日々、繋がりが濃くなっていっているはずなので、それがみなさんの目に姉妹の絆として映ればいいなと思います。
――松本さんはこれまでに何度か舞台も経験されていますが、過去と比べてみると今回の稽古場は違いがあったりしますか?
前回は松尾スズキさんの『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』(2024年)に出演させていただいたのですが、あの時は大人数で同世代の方も多かったので、確かに少し空気感は違いましたね。今回は私より年上の方たちに囲まれて温かい雰囲気もある中、逆に対等に見てくれているんだということも改めて感じたりもしますし、ピリピリ、トゲトゲした感じなんてまったくなく、みなさん本当に可愛らしい方ばかりで、三谷さんもすごく柔らかい方で。とても居心地のいい現場だなと思っています。
――最初に台本を読まれた感想としては、いかがでしたか?
私は出身が大阪で、吉本新喜劇を見て育ったのですが、その新喜劇に通ずるものを感じました。何かのためにみんなで協力して芝居を打って、ある人を騙す、みたいな展開になるので。騙すと言っても、それはいい方向に持っていくためであって、そこに新喜劇と同じように駐在さんとかも出て来たり、なんであなたが仕切るんだ?みたいな人が仕切り出したりもしますしね。そして、最終的にはみんなでワイワイしながら終わるハッピーエンドだというところにも、やはり昔からある喜劇の良さみたいな温かみを感じました。
――コメディというジャンル自体はお得意なほうですか?
好きではありますが、演じるにあたっては難しいなとも思います。ちょっとした言い方、間で、変わってきますし、狙いすぎてもダメなんだろうし。松尾さんからは、こういう時にはこう返したら笑いが起きるものなんだよと教えていただきましたけど、自分がそこにたどり着くにはまだまだ果てしなく遠い気がします。三谷さんは、とにかく今は毎日、稽古が始まる前に新しい演出をつけてくださるんです、「今日は、この場面でこうしてみてください」みたいに。それは言ってみればちょっと突飛だったり、多少変な行動だったりもするのですが、私としてはやるしかないですからね(笑)。とりあえずやってみよう、という感じでがんばって取り組んでいます。でも、そういうチャレンジも好きなほうなので、毎日の稽古がとても楽しいです。
――ご自身が演じられるひろこという役柄については、現時点ではどのように捉えていらっしゃいますか?
まず、この姉妹のお父さんがポワーッとしていて、ちょっと何を考えているかわからないところがあるんです。厄介事とか揉め事が起きると、すぐ逃げちゃうし。さらに、何でもひねくれた言い方をしてしまうような姉がいて、その下にいる妹がひろこなので、きっとしっかりしたところのある子なんじゃないかなと思っていたんです。セリフからもそういう面があるように感じていたので、それをベースにしつつも、三谷さんから日々いただく演出がちょっと風変わりなので、あれっ、この子、まともじゃないんだったっけ?と思ったりもしています(笑)。なので、今はあまり凝り固めないようにしています、人っていろんな要素がありますしね。でも素直で可愛らしくて、ちゃんと自分をしっかり持っている子ではあるので、その点はお姉さんとはちょっと違うタイプなのかなと思っています。
――ひろこと、ご自身とでは共通点があったりしますか?
ここぞという時にハッキリ言葉にして言えるようなところと、お姉さんと一緒で気が強いところ。私も、ちゃんと言いたいことは言うほうなので、そこは共通しているかなと思います。
――ベテラン揃いのこの座組で、今、ご自身としてはどんな刺激をもらっていますか?
自由な面白さ、でしょうか。ここの現場のみなさんは本当に可愛らしさと柔軟さを持つ方々ばかりで。みなさんの姿を見ていると、同じお芝居、同じセリフでも毎回微妙に違うんですよね。それぞれ自由に楽しみながらお芝居をされていることが伝わってきて、すごく素敵で、まさにそれこそが舞台の良さだとも思っています。この場に自分も参加できているのは、ものすごく幸せなことだなと日々感じているところです!
取材・文/田中里津子