
浅井さやかが作・演出・音楽を手掛ける舞台One on One 36th note『呼吸する島』が6月19日(木)に東京・赤坂RED/THEATERで開幕、ゲネプロがメディアに公開された。
One on Oneは浅井によるオリジナルミュージカルを上演する劇団で、「呼吸する島」は、2006年に初演された作品。19年ぶりの再演にあたり大幅にリメイクし、今牧輝琉、安井一真、泰江和明、門山葉子、髙橋果鈴、蔵重美恵、田宮華苗、千田阿紗子、内藤大希の9人のキャストで上演される。
会場に入ると、場内には波の音が静かに響いていた。舞台上にはすりガラスのような質感のキューブがいくつも置かれ、白く無骨な背景には洞窟を思わせるように大きな穴がいくつも空いている。
ふいに、ピアノのメロディが流れる。男がつぶやくように、優しい歌を歌い始めた。その声に、女の声が重なる。海の向こうに見える島は、無人島。その無人島に、女は行きたいという。男は驚きながらも、2人だけ乗れるという小さな小舟を魔法で作り出し、海へと漕ぎ出す。その島がなぜ無人島になったのかを語りながら。
落ちこぼれの魔法使いソウマ(今牧輝琉)は、ある日、浜辺で倒れていた女性を助ける。彼女は記憶を失っており、手には小箱を持っていた。小箱に書かれていた文字から、ソウマは彼女の名前はエマ(髙橋果鈴)ではないかと推測する。エマの記憶を取り戻すために奔走するソウマ。だが、彼女を知るものは誰も居ない。もしかしたら、海の向こうに見えるあの島からエマが来たのではないかと考えたソウマは、2人で島へ渡ることを決めた。
島の名は再生島。かつて伝説の王国が栄えていたというその島では、「全てを元に還(もど)す石」という還元石が掘り出されていた。島では近ごろ不穏な地震が増え、魔物(泰江和明)も現れるようになったという。魔物は触れたものをすべて朽ちさせるといい、島に向かう船には魔物退治に向かうというカイト(安井一真)も乗っていた。
カイトは小箱が記憶を封印した箱であることから、エマは訳アリで危険にさらされる可能性があると指摘。エマの記憶を辿る中で、ソウマたちは魔物と対峙し、島の禁忌に近づいていくことになる。そして、少し前に島を訪れた考古学者を志す女性・エヴァ(門山葉子)の存在にたどり着く――。
ソウマは未熟さもあいまった若々しさがあり、天真爛漫な声が実に魅力的。ただ、魔法使いとしての劣等感も持ち合わせており、今牧はソウマ生来の明るさと抱えた葛藤を、どちらも存分に体現していた。一方、カイトは魔法使いでありながら魔法を使うことを辞めたという男。大いなる決意をもって強くなった、強くならざるを得なかった男だ。カイトの荒っぽさの端々に見える優しさを、安井は静かなる熱量で演じる。
泰江は、耐えがたい渇き、悲しいほどに飢えている魔物の激情を驚くべき身体表現で表現。その激情を目の当たりにしたからこそ、魔物が生まれた理由を知った時の哀しさがより胸に刺さるようだった。そして、ピュアで好奇心旺盛なエヴァは、くるくると変わる表情がとてもチャーミング。イキイキと考古学に邁進し、愛を知っていく女性ならではの魅力を、門山はみずみずしく演じていた。その対になるように、エマは迷い、惑い、不安の中で進んでいく。しかし、どんな時でも歩みを止めない強さも持ち合わせており、その繊細な揺らぎと芯を髙橋は丁寧に紡いでいた。
そして吟遊詩人を演じる内藤大希は、語り部として登場人物たちの間をすり抜けるように、絶妙な距離感で渡り歩き、物語を推し進めていく軽やかさをしっかりと引き受ける。また、達観して若者を見守るシーラ(蔵重美恵)や、優しく、時に力強く、背中を押してくれるメイ(田宮華苗)、アンナ(千田阿紗子)もまた魅力的。真実に触れる厳しさを少しでも和らげられるように振る舞っており、それぞれに個性的で愛情あふれるキャラクターに仕上げていた。
楽曲については、冒頭から厚みのあるハーモニーに圧倒され、たちまち物語の世界観に一気に惹き込まれる。主人公だけでなく、どの人物にもパーソナルな部分を感じ取れるようなナンバーが用意されており、それぞれの歌唱が見事で、誰もが魅力的に映った。
死生観や原罪に触れる壮大な物語でありながら、物語を動かしていったのは、純粋な好奇心や、人を愛する気持ちといった、とてもパーソナルな感情だ。きっと誰しもが、そのパーソナルな感情には共感するだろう。共感できるからこそ、禁忌とは何か、罪とは何かと考えるに違いない。愛する人を求めることは、好奇心を貫くことは、果たしてタブーなのか――。言葉にできない答えは、ぜひ劇場で受け取ってほしい。たくましくもささやかな、小さな小さな種と一緒に。
One on One 36th note『呼吸する島』は、6月29日(日)まで東京・赤坂RED/THEATERで上演。また、配信チケットも発売される。
取材・文/宮崎新之
ゲネプロ写真







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