パワフルでピュアな笑って泣けるラブストーリー再降臨!『泣くロミオと怒るジュリエット2025』柄本時生+鄭義信を独占インタビュー!

誰もが知るシェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』の舞台を関西の戦後の港町に移し、セリフを全編関西弁にして大胆に翻案。加えてキャストは全員男性(オールメール)とした異色作、『泣くロミオと怒るジュリエット』。2020年の初演時はコロナ禍の影響で全公演完走が叶わず、キャストやスタッフだけでなく観劇を楽しみにしていた観客も含め、大勢の心に悔しい想いを残す公演となっていた。
あれから5年。伝説になろうとしていた舞台、そしてあの悲恋のカップルが帰ってくる! WEST.の桐山照史が吃音症に悩む奥手で泣き虫のロミオに、幅広い役柄を確かな演技力と存在感で演じ切る柄本時生がダメ男に貢ぐ癖があり気が強いけど心底優しいジュリエットに再び扮するほか、高橋努がジュリエットの兄・ティボルト、八嶋智人がその内縁の妻・ソフィア、朴勝哲が傷痍軍人でアコーディオン奏者で初演から続投、さらに渡辺いっけい、浅香航大、泉澤祐希、和田正人、市川しんぺー、中山祐一朗という新鮮かつ実力派揃いの布陣が実現することになった。
7/6(日)の初日開幕に向け、稽古も佳境に入ってくる6月下旬に稽古場を訪ね、再びジュリエット役に挑む柄本時生と作・演出の鄭義信に、作品への想いや意気込みを語ってもらった。

――まず2020年の初演のことを振り返っていただくと、どんなことが頭に浮かびますか。
柄本
 思い出すのは、やっぱり稽古かな。なにしろ鄭さんの稽古は、ものすごいですからね!(笑)
 全然そんなこと、ないでしょう?
柄本 いや、まったく悪い意味ではなくて。そういえば僕、鄭さんにちょっと聞きたいことがひとつあったんだ。
 なんだか、怖いなあ(笑)。
柄本 これは俳優心理の話なんですけどね。セリフを言っている時に、身体とセリフがどうも一致しない瞬間ってどうしてもあるんです。それで稽古中に自分で「ヤバイな……」と思っていると、ちょうど鄭さんからまさにその箇所についてアドバイスをいただくことが多々あって。やっぱり、分かりますか?
 分かりますよ。
柄本 ああ、そうだったんですね。ズバリと見事なほどにピンポイントで言ってくださるから、なんだか怖くて(笑)。だけど俳優にとってはものすごくありがたいことだよな、と思っていました。

――それは時生さんの演技を見ていて滲み出ていたから、なんですか?
 時生はとても分かりやすいんです。特に自分でダメだなと思っているところは露骨に出てくるので、そこを指摘していただけ。特別な才能はいりません(笑)。
柄本 あ、鄭さんがどうというより、僕が分かりやすかったのか(笑)。
 そうそう、時生が分かりやすい。

――鄭さんは、初演を振り返るとどんな想いがありますか?
 それはやはりコロナ禍で、東京公演の最後の1週間と、大阪公演が全部中止になってしまった悔しさですね。当時はまだ初期の段階でコロナがどういうものか、よくわからない時期だったから。東京ではラスト1週間仕方がなかったとしても、大阪ではなんとかみんなで乗り越えようと、客席の扉は全部開けておこうとか、客席通路は使わないようにしようとかあらゆる手段を尽くして上演しようとしていて。それなのに現地でゲネプロまでやったところで中止が決まったので、本当に残念でたまらなかった。あの時は、(桐山)照史も泣いてましたね。

――東京公演がとても評判良かっただけに、悔しさも倍増だったのでは。
 そうですよ。その東京公演には、時生のお父さん(柄本明氏)も観に来てくれて褒めてくださっていたし。
柄本 そうそう、親父が観に来ていたらしくて。しかも初日でしたよね。
 そう、初日にいらしたから「エーッ!」てビックリしました。
柄本 基本的に当日券で来ちゃう人なんで、いつ来るのか、いつも分からないんです。
 でもね、来るとすぐ分かるんだよ。笑い声が独特だから(笑)。

――でも嬉しいですね。直接、何か言ってくださったんですか?
柄本
 「当たってるよ、この芝居」と言われたんですけど、この「当たってる」という表現をしてもらったのは僕、初めてでした。

――当たってる、というのはうまくハマっているとか、人気があるとか、お客さんが入っているとか?
柄本
 さまざまな要素が含まれていそうな言葉ですけど。でも、かなりいい言葉を言ってもらった気がしています。

――褒めてくださっていたことは間違いないですよね。
柄本 
だから、僕も驚きました。しかも初日で。実を言うと、僕も幕が開くまでとても怖かったんです。だけどどうにか無事に終演して暗転した後、拍手の圧がものすごかったことを今でも覚えていて。特に初日の拍手は、本当に圧倒的でした。果たしてどんな『ロミジュリ』が展開されるのか、みなさんも想像できぬまま始まってたはずなんですが、あの拍手はなんだったんでしょうね、終わった芝居に対しての拍手ともなんだかちょっと違ったんですよ。

――感動して自然に湧き上がった拍手で、それも特別に力が入っていたのでは。
柄本
 そうなんですかね、本当にビックリして、あれも僕には初めての経験でした。

――鄭さんにとっては、その初日のお客さんの反応などは手応えとしていかがでしたか。
 いや、僕自身は特に初演のことはあまり覚えていないです(笑)。僕は千穐楽の日までノートする(ダメ出しをする)タイプの演出家なもので、初演の初日であれば「いよいよ始まった! でもこれから先も、まだまだやることがあるぞ!!」という気持ちなので。確かに俳優は、それまで積み重ねてきたものを初めてお客さんの前に提出するわけですからドキドキもするだろうし、拍手していただけたことですごく鼓舞もされるとは思うけど、僕みたいな“クドい”演出家の場合は単に「あそこは明日は、こうしてこうしてこうしよう!」と思っているくらいのものなんです。
柄本 鄭さんってカッコイイ!って、僕、毎回思うんですよ。稽古でもそうなんだけど、気持ちをグッと入れて演じた直後とかでも「はい、じゃあここはこれで」ってスッとひいて言われた時のあの感じ。実は僕、大好きなんです。
 なんだそれ(笑)。

――スッと切り替えるところが、クールだと?
柄本
 ああ、これは従事している場所が全然違うんだと思ったりもして(笑)。だから本番中もきっと「他にもやることあるぞ」って延々と思い続けているんじゃないですか。
 僕の場合は“ネバーエンディングノート”なんて言われていますからね(笑)。

――今回は、その初演を踏まえて5年ぶりにもう一度やろうということが叶った再演になります。キャストも一部変わり、実際に稽古が始まってみての感想はいかがですか。
鄭 
とても深くなっていますし、進化はしていると思います。正直に言うと、再演だから今回はそんなに苦労しなくてすむんじゃないかな?なんて甘く考えていたんですが、今となっては「この芝居、こんなに大変だったっけ?」と思っているところです(笑)。やることが、本当にいっぱいあるんです。それをいろいろ思い出しては変えてみたりして、今もまだ試行錯誤をしながら少しずつ前に進んでいる感じ。だから再演というより、また新たなチームで初演の芝居を作っている感覚ですね。メインの4人は初演と一緒ですが、新キャストも多いからそれぞれの関係性も変化してくるし、初演とはだいぶ違う印象の芝居になると思います。

――時生さんは、5年ぶりに再演すると聞いた時はどう思われたんですか?
柄本
 最初は、ビビりましたね。初演時から5年経って35歳になった自分のことも考えましたし。ただ、俳優という職業をやっていて、ここでやらないと選択することはやっぱり情けない気がしました。それで少しだけ考えさせていただいて、こうしてやらせていただくことにはなったんですけど。とはいえ僕自身は今、ものすごく楽しんで演じていて。

――それは、初演時と比べて同じぐらい楽しめている、と?
柄本
 僕としては、今のほうがより楽しめているような気がしています。なぜかは、分からないですけど。

――やはりジュリエットを演じるということはとんでもない挑戦でしょうし、前回も相当苦労されたのではと想像しますが。
柄本
 なにしろ、まず女性の役ですからね。でもすごくありがたかったのが、鄭さんが冒頭の場面で、僕という人間がこの芝居ではジュリエットを演じているんですよということをお客様に認めてもらうようなセリフを作ってくださったので。

――お客様に向かって語りかける感じで、お芝居が始まるから。
柄本
 そういう風に作っていただいたことで、僕としてはあのセリフに、というかこの脚本そのものに乗っかってさえいけば自然と世界が出来上がっていく、ということが台本を読んだ時点で確信できたんです。だから、女性を演じるからといって過度に何かを気にすることはしていないかもしれないですね。
 初演の時、時生と照史の顔合わせでいくということと、全員男性の出演者でやるという話は早めに決まっていたんですよ。でも原作の『ロミオとジュリエット』ではジュリエットやロミオが登場するタイミングが遅めだったので、この芝居では二人をそれよりも早めに、印象的な形で登場させたいなという気持ちがあって。だけど、ジュリエットが時生に決まった時には、その時点で「ああ、これは絶対、女性陣から嫌われないな」と思いました。
柄本 アハハハ!

――そういう狙いだったんですか?(笑)
 いやいや、狙いだったわけではないです(笑)。だけどきっと、時生が「私、ジュリエット」と言えばお客さんたちは「なるほど、あなたですか」と素直に受け入れてくれそうだと思ったので。そして実際に初演では「時生が綺麗だった!」とみんな口を揃えて言ってくださったので、良かったです。演劇マジックのパワーが出てきて、だんだんと時生が可愛く綺麗に見えてくるという具合になっていたようです。

――本当にそう思いました。客席から拝見していて「どうしてこんなに可愛く見えるんだろう?」としみじみと思ったことを覚えています。演劇マジックなのか、時生さんの演技力の高さなのか。
柄本
 でもやっぱり、それは鄭さんの脚本の力だと思いますよ。冒頭の場面があった上で、その後は真剣になっていけばいくほど、そう見えて来たんじゃないでしょうか。

――そして新キャストも加わった、今回の座組の全体の雰囲気についてはいかがでしょうか。
 やはり、男性ばかりの稽古場というのは、前回も感じましたがちょっと体育会系の部活みたいな空気があって。しかも今回は意外とマッチョな人たちが多いので、筋トレもみんなで和気藹々とされていますね。
柄本 おかげで、筋トレできるスペースに来るとちょっとムワッとする(笑)。トレーニング用の器具も置いてあるけど、あれは浅香航大くんが持ってきたんじゃないかな。
 そう、航大の私物ですよ。
柄本 今回は僕、その航大くんと泉澤祐希くんの対比がやたらに面白く感じられるんです。

――その中で座長である桐山照史さんには、どんな印象をお持ちですか。
柄本
 僕は元々、キリくんのことが俳優さんとしてすごく好きで。特に、声が好みなんですよね。よく聞こえるし、すごく素敵だなと思うことが多々あって。あと僕が見ている限りでは、稽古場で彼がセリフを飛ばすところを一度も見たことがないんです。

――既にセリフがしっかり入っている。
柄本 
入っているのか、意地でも止めないでいるのか、どちらにしてもちょっとすごいですよ。「えっとー」っていう言葉を、僕は稽古期間に彼から聞いたことないので。そこは本当に尊敬に値するなと思っています。

――鄭さんの目には、桐山さんのロミオはどう映っていますか。
 前回よりも、より庶民的になっている感じがします。庶民的という言葉だとおかしいかな。だけどおそらく本人も、市井の中で一生懸命苦しんでる人という具合に作ろうとしているんだろうと思いますね。結局『ロミジュリ』という物語は、この二人の関係とバランスの話ですし、彼らがいかに愛し合っていかに死んでいくかという話なので。その中で作りあげるムードというものは、まあ、一度5年前にもやっているということもあるけど息が合った二人ですから、とってもいい相乗効果になるだろうなと思っております。

――演出面で、前回と変えていこうと思っていることなどはあったりするのでしょうか。
鄭 
前回、テクニカルなことも含めていくつか変えようとしていたのに変えられなかったところがあったので。だけど、そういう部分的なことだけでなく、全体的にもっと原作にある生き急ぐ感じ、性急さをより強く出したいと思っています。それこそ、そもそもたった5日間の物語で、その中で恋をして死んでいくお話ですからね。それに、この5年の間にもロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナ、さらにイランとのことなど、世界の状況はますます酷くなってきていて、ますますこの『ロミジュリ』の世界に近づいてきているなという感覚もありますし。しかも原作の『ロミジュリ』の背景にはペストという感染病があるんですけど、現実にコロナというものを経験した方々が観てくださるということは、この物語が今回はまた別の形で受け止めてもらえるような気がしています。

――では、最後にお客様に向けてお誘いのメッセージなどもいただけたらなと思います。
柄本
 この『泣くロミオと怒るジュリエット2025』、リピーターの方もいらっしゃるかもしれませんが確実に変化はありますし、脚本の解像度が絶対に深くなっていると思いますので、そこも楽しみにしていただきたいです。初めて観に来ていただける方ももちろん新鮮に観ていただきつつ、本当に笑いと涙がたっぷりあって、それもしつこいくらいに笑わせますし、しつこいくらい泣かせますから、そんなところからも改めて“生きる”ことの醍醐味を感じていただけたら嬉しいです。
 いやあ、まさに時生さんのおっしゃる通りです(笑)。歌も踊りも笑いも涙もある、肩肘張らずに楽しめる作品ではあるけど、ちょっぴり考えさせられるところもあって。あらゆる要素がギュッと詰まった、おもちゃ箱みたいなお芝居です。ぜひ、登場人物たちと一緒になってこの世界観を楽しんでいただければありがたいです。

取材・文:田中里津子