
抱えたモヤモヤを、可視化する作品にできたら
個性派、実力派、クセモノからフレッシュな才能まで、世代や性別を超えて魅力的な俳優が集う「赤堀雅秋プロデュース」。劇作家・演出家・俳優である赤堀が、敢えてその名を冠する企画の最新作『震度3』が今夏、東京、大阪、福岡の三都市で上演される。主演は所属する劇団大人計画はもとより、映像作品でも幅広く活躍する荒川良々だ。
赤堀 荒川君とは最初は作家、次は俳優として創作を共にしたのが始まり。僕の作・演出作に出演してくれた最初は、17年の『鳥の名前』になりますが、最初に作・演出家として出会っていたら、ここまで長くつきあってもらえていないかもしれません。
荒川 俳優同士だと、演出家の悪口とか言い合えるから絆が深まるんですよ(笑)。最近は、一緒にサウナや飲みに行くとか、仕事より休みの日に会うことが多いくらいです。
赤堀 お互い友達が少ないから(苦笑)。でもそれ以前、観客として大人計画やそれ以外の作品を観ている時から荒川君の一ファンだったのは事実。でも、ぱっと見こわいじゃないですか?だから様子を見つつ距離を詰めた結果、意外にものづくりに真摯な姿勢が見えてきて、“一緒にやれそうだ”となったんです。
荒川 赤堀さんとは世の中の出来事や人間などの、興味を引かれる部分が似ているところがあるので“あの映画、面白かったですよ”など情報共有して、一緒に行ったり文句を言い合ったりするようになったという。
そんな気心の知れた荒川に、赤堀は『震度3』の主演を託した。
赤堀 でも作品について、具体的にお話しできることはまだなくてスイマセン。もちろん荒川君主演が実現したのは非常にありがたいし、妄想も膨らむところですが“だからこんな挑戦を!”みたいな意気込みは別にないので。恐らくは、いつも通りブルーカラーの生活者たちを描くことになると思います。その先頭に、荒川君がいてくれるのはとても心強いですね。
荒川 赤堀さんに意気込まれたら気持ち悪いので、いつも通りでぜひ(笑)。僕も、主演だからといってギラギラしたりしませんし。
5月初旬に野外で撮影した今作のビジュアルでは、二人に加え丸山隆平、上白石萌歌ら全キャストが全力疾走する姿を収めたという。
荒川 丸山さんや上白石さんが走ると朝ドラ的な爽やかさもあったけど、同じ状況が、あめくみちこさんだと笑えてくる(笑)。
赤堀 走る、食べるといった行為は人を無防備にする。演出する時、俳優さん自身も無自覚な状態を引き出したくて、意図的にそういう行為をしてもらうことがよくあります。人はいつも目の前のことに必死。その様がみっともなくも滑稽で、でも最終的には愛おしく見えてくる作品が目指すところ。せっかくなら誰も見たことのない居様を、劇中で見せてほしくて。
最後に、作品の展望をもう一度赤堀に訊くと――
赤堀 10年前なら、世の中の憂うべきことに中指を立て、慎ましく生きる人々をフォーカスして希望を見出す作劇をよしとする自分もいた。でも今は、混とんとした現状に慣れきって思考停止している世間への憤りも強くあり、そのことをタイトルに託した。
という答えが。
赤堀 微細な揺れが続くと、揺れているかどうかわからなくなる。それは世間も自分も同じで、だからといってただ怒ることも諦めることもしたくない。そうして抱えたモヤモヤを、可視化する作品にできたらいいですね。
インタビュー&文/尾上そら
Photo/和田裕也
【プチ質問】Q:手土産を選ぶポイントは?
A:
赤堀 相手のことがわかっていれば、もらって困らないもの。荒川くんに差し入れするならタバコ1カートンとか。スタッフにはレッドブルを差し入れしたり、味噌汁を差し入れしたりします。
荒川 自分はオロナミンCです。自分も好きだし、量的にも飲みやすいので。
※構成/月刊ローチケ編集部 7月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】
赤堀雅秋
■アカホリ マサアキ
劇作家、脚本家、演出家、映画監督、俳優と幅広く活躍する。初監督映画『その夜の侍』で新藤兼人賞を受賞。
荒川良々
■アラカワ ヨシヨシ
1998年より大人計画に参加。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』やTBS『100万回言えば良かった』など出演作多数。