
©️「Multi-Unit Apartment」製作委員会
魅惑のガールズによる“失恋復讐ショー”が開幕!
演出家・三浦香が手掛ける完全オリジナル舞台「Multi-Unit Apartment」が8月1日(金)に東京・品川プリンスホテル クラブeXにて初日を迎えた。木津つばさや持田悠生ら2.5次元舞台を中心に活躍するキャスト陣9名が集結。そのうち8名が女性を演じるという、一風変わった設定が目を引く作品だ。今回は初日を前に実施されたゲネプロの様子をお届けする。
主人公のココたちが暮らすリトルラブリータウンへの案内板が設置された劇場ロビーを抜けて劇場に入ると、カラフルでポップなMulti-Unit Apartmentが出迎えてくれる。円形ステージを囲う壁には、誰もが知るアメリカのセレブな街々の看板が踊り、幕が開ける前から“何かハッピーなことが起こりそう”な予感に胸が踊った。

田舎町からやってきたココ(木津つばさ)は、街角で歌っていたリリアン(原 貴和)と出会い、彼女が住むシェアアパート・Multi-Unit Apartmentへ。世間を騒がせる失恋セレブ・アヴァ(前田隆太朗)がオーナーを務めるそのアパートに住むのは、一癖も二癖もあるガール&レディたち。住人たちの日常茶飯事なドタバタに巻き込まれているうちに、ココは“恋をすること”が入居条件だというそのアパートに住むことになる。いつだって恋を求めている彼女たちの前に、1人のイケメン庭師・オスカー(井阪郁巳)が現れて、みんなの恋が動き出し――。
とびきりキュートでとびきりエネルギッシュ、それでいて等身大な悩みを抱えたガール&レディたちの奮闘っぷりが痛快な約2時間10分。キャッチーな楽曲で彩られる彼女たちの恋&復讐模様は、かわいいだけではなく、勇ましくもあり刺激的だった。作品のテンションを借りるなら、「かわいくって強い女の子って最高!」と叫びだしたくなるような作品だ。

以前のインタビューで、本作を手掛けた三浦は“女の子あるある”を作品に盛り込んだうえで、キャストが持っているキレイすぎる女の子像を壊す作業をしながらリアルを追求して稽古を進めていると語っていた。その言葉通り、女性なら共感できる、一方で男性にとっては驚くであろう“あるある”が、クセの強いキャラクターたちに落とし込まれていた。
本作はオリジナル作品なので、ここではあえて各キャラクターの詳細やストーリーには踏み込みすぎないようにするが、どの登場人物にも主人公として物語を背負えるほどの個性が、それぞれにある。

アパートの外では上司と部下なイザベラ(加藤良輔)とエンジェル(SHIN)の過激な関係性や、ゾーイ(福島海太)やビビ(持田悠生)の主張がはっきりしているけれど性格にやや難アリなところ、リリアンとハンナ(皇希)の自分に自信がなくて奥手なところ、ココの恋に恋している“風味”なところ……。そんな彼女たちを一声でまとめあげるアヴァも存在感を放っている。この街に初めてやってきたココの視点を通して、観客はいつの間にかこのアパートの住人が大好きになっているだろう。
賑やかな会話の中で見えてくる彼女たちの個性に、観客はどこかしら自分を重ねる瞬間があるだろう。同時に、仕事も恋も夢もおしゃれも全力で楽しむそのパワフルな姿は、観客への最高のエールでもある。今を精一杯楽しみ悩み、そしてときには愚痴だってこぼす。そんな彼女たちの完璧ではないけれど生き生きとした様子は、きっと観客に今の自分を昨日より好きになるきっかけをくれるはずだ。

本作に登場する女性たちは全員男性キャストが演じているというのも見どころだ。髪を耳にかける仕草から後ろ姿まで、主演の木津を筆頭に全員見事なまでのガール&レディに仕上がっている。例えば、家の中と外とで表情筋や声のスイッチを切り替えるという、“女の子あるある”。こういった細かいところまでリアルに表現されていて、それがアパート内の至る所でオフ芝居として繰り広げられていく。ちょっとした仕草に落とし込まれたキャラクター性に注目してみるというのも、楽しみ方のひとつだろう。
そして、紅一点ならぬ“黒一点”なのが、井阪演じる恋愛詐欺師のオスカーだ。なかなかに個性の強い女性陣を前に、巧みな話術でハートを射抜いていくイケメンっぷりが、コミカルに描き出されていた。一昔前のアメリカンハイスクール青春ドラマに出てきそうなキザな口説き文句には、思わずニヤついてしまう。ガール&レディたちとの恋の攻防戦の行方を見届けてみてほしい。

そして気になるのは、あらすじにも記載されている“復讐ショー”の文字。アパート管理人のデキる女・アヴァの指揮のもと、恋に破れた女性陣は一致団結していくのだが、共通の敵を前にしたときの女の子たちの団結力をショーという形で表現しているのがなんとも面白い。クライマックスに繰り広げられるのは、イケメンに男装したアパートの住人たち。彼らのショーから浴びるかっこよさは、女性の姿からのギャップも相まって破壊力抜群。歌唱力&ダンススキルの高いキャスト陣が揃っているからこその見応えのあるこのショーは、ペンライトも振ることができる。客席に降りてくるキャストと一体になって、存分に楽しんで。

芝居やショーはもちろん、セットや衣裳にもぜひ注目を。2階建てのセットは住人たちの自室となっていて、部屋の小物やインテリアを眺めているだけでもワクワクしてくる。おしゃれを大事にしている彼女たちの衣裳やヘアアクセサリーもシーンによって変わるので、次はどんなコーディネートを見せてくれるのだろうと胸がときめいた。ドレッサーがステージ上に並び、舞台上で実際にメイクをしながらガールズトークに花を咲かせるシーンもあり、女の子の生態をあますところなく見せてくれる。
ショーあり、笑いあり、涙あり、肉弾戦あり(!?)な魅惑の復讐ショー。8月の暑さすら吹き飛ばせそうなハイテンションガールズストーリーをお見逃しなく。
取材・文/双海しお
撮影:小境勝巳