
劇団アナログスイッチの最新作「伊能忠敬、計り間違えた恋の距離」が東京・下北沢のザ・スズナリにて上演される。江戸時代に自らの足で日本中を歩き、日本地図を完成させた偉人・伊能忠敬が主人公で、彼が内縁の妻・お栄との距離感に苦労する様と、その周囲の人々が織りなすラブコメディとなっている。
作・演出の佐藤慎哉と、伊能忠敬役の奥谷知弘、忠敬から測量を学ぶ間宮林蔵役の田鶴翔吾の3人に、作品への想いなど話を聞いた。
――今回の作品はどんなきっかけで思いついたお話ですか?
佐藤 僕、もともと地図が好きなんですよ。それで伊能忠敬が作った地図にも興味があって、忠敬の測量地図を見ていたんです。かなり正確だと言われているんですけど、絶対に測り間違えているところがあるよな、間違えた原因って何だろうな…と妄想していて、恋煩いで距離感おかしくなっちゃってたら面白いな、と想像したことがきっかけです。それで、このお江戸測量ラブコメディになりました。そこからいろいろ調べてみたら、忠敬の日記がかなり細かく残っているんです。この時にこんなことはしていない、とかがかなりはっきりわかってしまうので、そのあたりもクリアにできそうだということで、お栄さんとの話を選びました。
――出演にあたり、本作の第一印象はどのようなものでしたか?
奥谷 いや、絶対に面白いじゃん!って思いましたよ。タイトルでもう、そう思いました。恋でいろんなことを測り間違えてしまって、うまくいかない人ってよくいるとは思うんですが、こんなにもうまくタイトルに入れ込めているというか。
佐藤 タイトル、ちょっとうまくいきすぎたよね(笑)。ハードルが上がってる気がする。
奥谷 それだけ面白いタイトルになっているってことですよ。タイトルでだいぶ情報を伝えちゃっているところはあると思いますけど(笑)
佐藤 何を測り間違え続けたかは、最後まで観ないとはっきりわからないけどね。
田鶴 僕が逆に、伊能忠敬で面白くできるの?って思いました。伊能忠敬って地図を作った以外に何かエピソードが出てくるのかな?と。そこにラブコメを当ててくるというワクワク感は大きかったですね。それに、今回でアナログスイッチさんに出させていただくのは2回目なんですけど、過去の作品とかを見てもタイトルに負けないんですよね。「寝不足の高杉晋作」もそうですし、「信長の野暮」とか、ビッグネームが入るだけでハードルって上がる。プレッシャーですよね。そのビッグネームをどう回収するのかのワクワクを、観劇前から回収できているところがスゴイですよね。エンタメとして、そこも素晴らしいと思いました。
――役どころについて、現在はどのようにとらえていますか?
田鶴 間宮林蔵は蝦夷地の探索で有名な方ですが、当時は今のように暖房とかがあった訳じゃない。そこを探索するわけですから、頭が切れるだけじゃなくて、生活の知恵とか生き残る術とか、人間としての強さがないと務められない仕事だったはず。ちょっとしたたかでないといけないし、でもそれを魅せちゃうと役人としての面子にもかかわるから、みせないようにしていたと思うんです。実は先日、ちょっとしたたかさを強めに見せるような提案を稽古場でしたら、女性陣から悲鳴があがったんですよね。結構攻めたプランだったので…。その素直さとしたたかさの加減を、いい塩梅にして演じられたらいいな。
奥谷 僕も地図を作った人、くらいの印象しかなくて、それ以上に踏み入れる機会がなかったので、千葉県にある伊能忠敬の記念館に行ったり、自分でも調べたりしました。でも、自分で調べた限りだと、大真面目とか几帳面とか、頑固さみたいなところはそんなに出てこなかったんですけど、台本では、頑固がゆえに物事がうまく進まなかったり、器用に見えて不器用だったりするところがあって、ザ・職人みたいな感じの人なんです。1つのことに集中していると、もう周りが見えなくなってしまって、気付いたときのタイミングがズレていたりして…。そういうことって、日常でもありますよね。どこか重ねながら観ていただけると思います。
――佐藤さんは、お2人の役どころやお芝居についてどのようにご覧になっていますか?
佐藤 知弘は徐々に探りながら、最後の最後にグッと作りあげてくるタイプ。稽古場ではまだ探っている感じがあるので、最後どう仕上げてくるのかを楽しみにしています。ちょっとずつ僕との方向性が合ってくるのが、今まさに楽しいところです。翔吾は、柱みたいな感じで周りを支えながら、自分でもある程度の人物像を作り込んで演技している感じですね。そこは、任せときゃ大丈夫という安心感があります。そこからブラッシュアップして良くなっていくのが楽しいですね。
――稽古場の雰囲気はいかがですか?
奥谷 誰かがひと言しゃべったら、100返ってくる稽古場ですね。ずっとしゃべっているから、なかなか稽古が始まらないことも…。
佐藤 それはいいのかな(笑)
奥谷 でもそれくらいいつも賑やかです。その日常会話がそのまま台本になっていくような、台本がもはや日常会話のような、そういう感覚なんですよね。秋本雄基さんと藤木陽一さん、渡辺伸一朗さんの3人がトリオな感じのポジションなんですけど、ラジオを聞いているようなナチュラルなやり取なんですよね。実は僕、「トークストックトーキョー」の音声配信も聞いてるんで、すごく心地いいです。

田鶴 なんかただのファンみたいな感想になっちゃうんですけど(笑)、慎哉さんが机を乗り出してまで見てしまうシーンが多ければ多いほど、面白い作品になっているんじゃないかな、と。きっと演出家として、一番楽しい瞬間なんだろうな、と思っています。でも、慎哉さんが敷いたレールに全員が乗っかっている感じでもなくて、本当に自由に、それぞれの個性が伸びやすいように余白を残してくださっているんですね。1つ1つを楽しんでやれている感覚があるんです。そこがすごく好きなところですね。
佐藤 稽古場で感じるのは、みんなが一緒になって笑っているということですよね。もちろん、それぞれ自分のことに集中している瞬間もあるんですけど、自分のことだけじゃなく、稽古を見て、それを笑い合いながらやっているのがアナログスイッチらしいな、と感じます。みんなでこの笑いを共有しながら稽古を進めています。
田鶴 忠津勇樹さんとか、その空気感ズルい!って思う瞬間がいっぱいあるんですよね。稽古場って俳優にとっては初めてアウトプットする場所なんで、思っていたのと違った、みたいなことはあると思うんですけど、忠津さんって「そこが気になったの!?」っていう部分で悩まれていることが多いんですよね。
佐藤 面白いでしょ。僕が台本を書いているけど、あんなふうに書いた覚えはない、って思いながら見てる(笑)
田鶴 そこがアナログスイッチさんだからこそ、だと思うんですよね。文字でのイメージと、お芝居を観たイメージが結構違ってるんです。個人的には渡辺さんもツボだし、他の皆さんにもそれぞれ違うポイントでツボがあるんですね。だから、稽古って同じことをやっているはずなのに、飽きないんです。毎回勉強になるし、毎回笑ってます。
――佐藤さんは稽古場づくりで意識していることは?
佐藤 僕がよく笑うようにしていますね。稽古場で一番笑っていると思ってます。基本的には本当に面白くて毎回笑ってるんですけど、コメディの稽古ってどうしても飽きてくるものなんですよ。俳優がそういう中でいろんなことにトライしてくれているので、お客さんもここは笑ってくれるだろう、って感じるところは、しっかり普通に笑うようにしています。そうすると俳優も楽しくなってくるし、トライしたことに対してこれはウケるんだな、という基準になればいいな、と思ってます。とにかく俳優が楽しく、気持ちよく演技できるようにしていますね。でも、すごく意識しているわけでもないです。ごく自然に、笑うようにしているって感じですね。
――コメディをやる時に大事にしていることを教えてください。
佐藤 僕は、自分が笑えるかどうかですね。そこはいつも大事にしている部分です。
田鶴 瞬発力かな。ちょっと気を抜くと崩れてしまう部分ってどうしてもあるので、そこに対応するには瞬発力がないとダメなんです。
奥谷 僕は、自分を消さないことですね。最初は役になり切ることを頑張るんですけど、笑いを取るとなると、最終的に自分自身の”何か”に落ち着くところがあると思ってます。
――稽古やその他のお仕事で大変な時期かと思いますが、今ハマっているものや人におすすめしたいものはありますか?
田鶴 遅すぎるかもなんですけど、最近スキンケアにハマっています。中でも、マイクロニードルが入った美容液をよく使っていて、洗顔後やお風呂から上がった後に使っています。美容液にすごく小さな針が入っていて、肌の再生を促すものなんですが、100から初めて、今は300を使っています。やっぱりちょっと痛みを伴うと、効いているんだな、と実感できるので、オススメしたいですね。
佐藤 特別サウナ好きっていう訳じゃないんですけど、某遊園地に併設している温浴施設にハマってます。駅からもバスを使ったりしてちょっと遠くにあるからか、比較的空いていて、露天風呂には寝転べるスペースもあるんですよ。それがすごく自分にはちょうどいいバランスの施設なんです。仕事の関係で行く場所の、ちょうど道中にあって、個人的にかなりアツい場所になっています。
奥谷 なんだろう、大したものがないな…。パッと浮かぶのは、ブロッコリーです。単純に、ブロッコリーが好きで、スーパーでも結構、日によって価格が変わっちゃうじゃないですか。それを見て、手ごろな日に買い集めて、その日のうちにカットして茹でておいて、日々、美味しく食べています。芯も無駄なく食べてますよ。
――最後に、公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。
佐藤 最後に物語で隠されていたことが明らかになるのは、やっぱり今回の見どころのひとつだと思っています。そして、アナログスイッチは常に、笑えて泣けるお芝居を作っています。楽しいお芝居になっているので、劇場に来ていただいて一緒にその笑いを共有できたらと思います。
田鶴 今回、コメディでこういう装置を使うんだ!という部分もあるし、前回に出演させていただいた時から感じているプライベートエリアの使い方も今回はそれぞれに違うなと感じています。それぞれが思い描く距離感や心情が一致しているのかどうか、そこの難しさやちょっとした違和感を、ある種の伏線として感じてもらえたらいいな。もし、その伏線がわからなくなったら、もう1回観に来ていただいて、答え合わせしてもいいんじゃない?と思える作品なので、役者の距離感にも注目して見ていただけたら嬉しいです。
奥谷 伊能忠敬は地図を作った人、という印象が強いと思いますし、地図なんてみんなお世話になっているものですよね。つまり、みんな伊能忠敬にお世話になっているんです。そういう人がどんなことを考えて地図を作っていったのか。伊能忠敬=地図、それ以外の印象も持っていただけるような作品になっています。劇中で花火が上がる場面があるんですけど、キレイで美しいものなんですけど、ちょっと儚くもあるんですね。来てくださるみなさまにも、花火を観に行くような気軽さで来ていただけたらと思います!

取材・文/宮崎新之