
元禄時代に起こった仇討ち「赤穂事件」を題材に、歌舞伎や人形浄瑠璃の演目として描かれて以来、ドラマや映画、舞台作品も作られてきた名作『忠臣蔵』。討ち入りの時期に合わせて上演されることが多く、「年末といえば『忠臣蔵』」という風物詩にもなっている。
今回は、演出・堤 幸彦と脚本・鈴木哲也がタッグを組む。さらに上川隆也、藤原紀香、高橋克典をはじめとする豪華な顔ぶれが揃い、令和版の新たな歴史ドラマを描き出す。12月の公演を前に、演出の堤とキャスト陣による製作発表会見が行われた。

――まずは意気込みをお願いします。
堤幸彦(演出):上川さん筆頭に素晴らしいキャストの面々が揃いました。明治座を中心とする日本テレビさんの舞台は合計で300ステージほどやらせていただいていますが、ついに『忠臣蔵』かと。私が一番緊張して興奮しています。演出家としての重要なターニングポイントだと自覚しています。デジタルエンターテインメントと人間を中心としたストレートな芝居、二面性を持った舞台を作っていきたいと思います。なぜ討ち入りして死に向かっていくのかという部分に肉薄していきたいと思っています。

上川隆也(大石内蔵助役):堤さんの気概を伺ったあとですが、僕自身はあまり前のめりにならず、皆さんと楽しみながら作っていきたいのが第一です。その上で、お客様にいかに楽しんでいただけるお芝居を届けられるか。そんな時間の末に、お客様とキャストと笑って終われたら何よりです。
藤原紀香(大石の妻・りく役):堤作品は2度目の出演となります。堤先生の作品は最新のデジタル技術と皆さんの殺陣にプラスし、ヒューマンパワーが必要不可欠です。気を引き締めてこの作品に臨みたいと思っています。大石りくは武士の妻としての覚悟、本質が凝縮された人間ですので、しっかり務めていきたいです。
立石俊樹(浅野内匠頭・小林平八郎役):『忠臣蔵』という作品で、堤さんの演出のもと、素晴らしい皆さんとご一緒できるのが嬉しいです。僕が演じる二役は正反対の役ですので、どう演じ分けられるか。作品に良い影響を与えられるように役作りしたいと思っています。
藤岡真威人(堀部安兵衛役):今まで様々な形で上演されてきた歴史的題材で、堤さんやそうそうたる先輩方とご一緒できるのを光栄に思います。前回堤さんの演出を受けた『西遊記』は、演者のアドリブや堤さんのギャグセンスが光る内容でした。今回は無骨な時代劇なので、どうなるのかワクワクしています。僕が演じるのは剣豪と称される人物で、討ち入りでも先陣を切る役。リーダー格でもあるので、21歳の自分がどう表現できるのかが課題だと思っています。皆さんの元で学びながら本番に向けて精一杯頑張りたいです。
岐洲匠(片岡源五右衛門役):4年前に上川さんと『魔界転生』でご一緒し、すごくかっこよく大きな背中を見て、また一緒に板の上に立ちたいと思っていました。こうして多くの方に見ていただいて、改めて『忠臣蔵』が多くの方に応援されていて、令和の人に届けられることに魂が震えています。役として、「やる」のではなく「いる」ことを意識してやっていきたいと思います。
石川凌雅(大高源吾役):300年以上語り継がれる物語を、令和のこの時代に語り継ぐ身としての責任と覚悟を持って作品に挑みたいと思います。よろしくお願いします!
近藤頌利(清水一学役):時代劇は初めてなので、初めて台本を読んだ時はほとんど理解できませんでした。口調も全然違うので馴染んでいきたいですし、お稽古の中でたくさん準備して、ちゃんと戦いを楽しめるよう精進していきます。先輩を食う勢いで挑みますが、チーム一丸となってお客様に素晴らしい作品を届けられたらと思っています。
唐木俊輔(矢頭右衛門七役):僕は今回が初めての舞台出演です。矢頭右衛門七が持っている若さや溢れ出るエネルギーを皆さんにお届けできるように、日々の稽古から精進していきたいと思います。
財木琢磨(寺坂吉右衛門役):舞台や映像で繰り返し取り上げられてきた『忠臣蔵』の一員になれることを嬉しく思うと同時に、責任を強く感じなければいけないと思っています。物語を後世に語り継ぐきっかけとなった吉右衛門のように、さらに後世へと語り継いでいけるよう、真心を込めて挑みたいと思うので応援よろしくお願いします。
松田賢二(原惣右衛門役):本番までまだ時間がありますが、今はまだ漠然と、古きを訪ねて新しきを知りたいなと、人としても役者としても思っています。初心に帰って頑張ります。
徳重聡(色部又四郎役):台本を読んで、私が思っていたよりもだいぶ悪い人だと思いました。赤穂側も吉良側も悪いことはあるんですが、皆さんちゃんと伏線があって行動原理がわかる。でも、私が演じる色部はありません(笑)。「ドス黒い部分はお前が担え」というメッセージを受けていると思うので、そこを担っていきたいです。
珠城りょう(阿久里(瑤泉院)・おかる役):長く語り継がれてきた『忠臣蔵』という作品に携わることができて嬉しいです。私は立場も生き方も違う二役を演じるので、非常に挑戦だと思っていますがとてもワクワクしています。皆さんと一緒に素敵な作品に仕上げていきたいです。
高橋克典(吉良上野介役):大岡越前忠相たる私になぜ吉良上野介のオファーが来るのか何日も考えましたが(笑)、やらせていただくことにしました。実は、新説と言いますか、吉良側から見ると浅野側は「こいつら何を言っとるんじゃ」という部分があるんですね。もしかしたら今までの忠臣蔵をひっくり返すような作品になるかもしれません。堤さんと30年ぶりにご一緒できるのも楽しみ。現代を映して楽しんでいただけるものになったらいいなと思っています。



――堤さん、キャストの皆さんの意気込みを聞いていかがでしょう。
堤:聞けば聞くほど、「ちゃんとストレートにやりたい」と。ではストレートとは何かということで。この作品には様々なバージョンがある中で、このカンパニーならではの解釈で、善悪を超えたものを我々のストレートとして作り上げていきたいです。将来的に、「明治座の忠臣蔵をやりたいな」と思えるような作品を目指したいと思いました。
――若い世代は特に、『忠臣蔵』に馴染みのない方も増えていると思います。そういった方々にどうアピールして見せていきたいかを教えてください。
堤:「だからこそ」というのはありますね。通常のエンタメ作品と、何百年も愛されてきたストーリーの真ん中をうまく狙っていきたいです。よく「義」や「忠」と言われますが、そこには日本人として何を守り、どんな人間関係や社会の中で生きているかがある。実際にいらっしゃった人間の有り様をしっかり伝え、上川さんがおっしゃるように、堅苦しいだけではなく、人間の営みが見える舞台づくりをしていきたいです。
上川:電話を世に普及させたグラハム・ベルが特許をとった3時間後に同じ特許を持ってきた人がいるそうです。何かが起きる時って同時多発的に同じことを考えて同じものを作ることがあると思います。今回、奇しくも劇団☆新感線さんが『チャンピオン祭り』で『忠臣蔵』を立ち上げることになっていますよね。そうした機運があり、一つが僕らの『忠臣蔵』、一つが新感線さんの作品として立ち上がってきたと思います。古田新太さんも、「忠臣蔵そのものではないけど、物語を知っているとより楽しめる」とおっしゃっていました。ぜひこちらを見ていただいて、しっかりした準備した上で新感線さんを見ていただくとどちらも楽しめる(笑)。老若男女皆さんに訴求できる作品としてお届けできると考えています。

舞台『忠臣蔵』は2025年12月12日(金) ~ 28日(日)まで明治座、2026年1月に名古屋・御園座、高知・高知県立県民文化ホール、富山・富山県民会館、大阪・梅田芸術劇場メインホール、新潟の長岡市立劇場で上演される。
取材・文・撮影/吉田沙奈