2024年に創立45周年を迎え、50周年に向けて躍進を続ける劇団スーパー・エキセントリック・シアター(以下SET〔エスイーティ〕)の第63回本公演『地球クライシスSOS~奇跡を起こせ!ロウジンジャーズ~』が、2025年10月23日(木)に開幕する。初日に向けて稽古が進む中、初の通しの様子を取材した。
稽古前にそれぞれがセリフの確認をしたり、小道具について意見交換したりと、慌ただしくも和気藹々とした空気があり、いい緊張感の中で通しがスタートした。
「ミュージカル・アクション・コメディー」を旗印に、様々な切り口で作品を作り上げてきたSET。今回は過疎化が進むとある村での年寄りたちと若者の対立、アメリカの極秘指令を受けて地球外生命体との交渉に挑む日本政府という、一見何の関係もなさそうな2つの軸で物語が進んでいく。別軸で進んでいたように見えた話が徐々に繋がり、田舎を舞台にしたヒューマンドラマとしても、コミカルなSFとしても楽しめる構成が見事だ。

少子高齢化の村を救うため、村の外から人を呼ぶ方法を考える若者たちを山城屋理紗や大城麗生といった若手メンバー、伝統を重んじて近代化に反対する年寄りたちを小倉久寛、岩永新悟といったベテラン勢が演じる。
広い土地をCMや動画のロケ地として貸し出すことで村を盛り上げようとする若者たちと、よそ者が村を荒らすのではないかと懸念し反発する年寄りたちの対立、村内での人間関係など、“あるある”がコミカルに描かれているのが楽しい。セリフを話している時以外の表情や態度からも、それぞれの価値観や村の雰囲気が伝わってくる。
また、狭い村の中でのロマンスや家族との関係、都会への憧れといったドラマもあり、キャラクター一人ひとりの背景が想像できるのも魅力だ。田舎暮らしの経験がある人にとっては、共感できる部分も多いのではないだろうか。
地球外生命体との交渉を押し付けられ、てんやわんやする官僚たちのシーンは総理大臣役の岩澤晶範、官房長官役の三宅裕司を中心に展開する。
大臣たちが活発に議論を交わしているように見えるが何も進展しなかったり、のらりくらりと責任逃れをしていたりと、ブラックユーモアを盛り込んだやり取りに笑ってしまう。大臣たちのどこかで見たようなクセの強いキャラクター、時事ネタを盛り込んだセリフに、見ている劇団員たちからも笑いが起きていた。

さらに、地球外生命体との交渉という前代未聞の出来事に対応するべく、官房長官が集めた様々な人材を審査する場面では、岩澤演じる総理のちょっととぼけた愛嬌あるキャラクター、官房長官を演じる三宅のテンポのいいツッコミや掛け合いにより爆笑が起きる。初めての通し稽古らしいミスもありつつ、各自がアドリブで対応して笑いに変えていく様子にSETの地力を感じた。

恒例となっている三宅と小倉のシーンも、アドリブか素かわからないトーンで繰り広げられるやり取りがすでに楽しい。本番で何をするかはまだ確定していないようだったが、二人が話しているだけで見るものを惹きつけるのはさすがと言える。

今回は野添義弘、西海健二郎、おおたけこういちがトリオでコントを披露する場面もあり、こちらもどこかシュールな掛け合いやアドリブ感のあるネタに笑いが起きていた。

ネタバレになるため詳細は伏せるが、村にやってくる人々、政府に集められた「ロウジンジャーズ」や地球外生命体なども個性豊か。次々にユニークなキャラクターが登場し、場面転換も多いのだが、不思議と置いてけぼりになることなくストーリーを把握できた。
そして、物語が進むにつれ、地球外生命体がコンタクトをとってきた理由が見えてくる。エンタメ要素たっぷりの笑える作品でありながら、それだけで終わらず、考えさせられるテーマやメッセージが込められているのもSET作品の大きな魅力と言えるだろう。
最近のSET本公演の中ではコメディに重きを置いた作品だと感じるが、「ミュージカル・アクション・コメディー」に偽りなく、本作でも歌とダンスとアクションは健在。年寄りと若者、日本政府と地球外生命体という軸があり、様々な属性を持つキャラクターが登場するからこそ、幅広いジャンルの楽曲とアクションで魅せてくれる。

音楽はノリのいいラップ曲、ハーモニーが美しい楽曲、客席も一緒に盛り上がることができそうな曲……と、耳に残るものばかり。アクションパートでは、迫力抜群なアクロバットやキレのいい空手、ちょっとコミカルなバトルなど見応え抜群だ。SETらしさが詰まった作品を、ぜひ劇場で体感してほしい。
本作は2025年10月23日(木)~11月3日(月・祝)まで、東京・サンシャイン劇場で上演する。
取材・文/吉田沙奈
