2021年に初上演された『信長を殺した男』が、今年も新たなキャストで上演される。歴史コミック(『信長を殺した男~本能寺の変 431年目の真実~』漫画:藤堂裕/原案:明智憲三郎/ヤングチャンピオン・コミックス/秋田書店刊)の朗読劇で、過去3度に渡り上演されている人気作だ。本作で主人公・明智光秀を演じるのは、田中直樹(ココリコ)&小野健斗。Wキャストとして年齢も経歴も違うふたりがどんな光秀を見せてくれるのか?ふたりの明智光秀に話を聞いた。
公演は2025年11月20日(木)~11月24日(月・祝)まで東京・シアター1010で全10公演行われる。
――まずは本作にご出演が決まったときのお気持ちを教えて下さい
田中 お話をいただいたとき、僕に務まるのかなと不安になりました。ただ、前回の台本を読ませて頂き、明智光秀の想いは自分にも理解できる部分があるなと感じたので、戸惑いはありましたが是非やらせていただければと思ったのを覚えています。
小野 これまで明智光秀役は年齢が上の方が演じられているイメージがあったので僕でいいのかという思いは今も抱えています。とはいえ、裏を返せばこれまでとは違う明智光秀になれるのかなという気持ちもあって、今は稽古がはじまるのを楽しみにしています。
――『信長を殺した男』は明智光秀を主人公に、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康ら戦国時代の英傑たちが登場する歴史サスペンスです
田中 歴史は好きですし、興味はあるんですけど、そんなに詳しくはないんです。もちろん“本能寺の変”も知ってはいますけど、戦国時代だから誰しも天下を夢見ていただろうし、きっと明智も天下を取りたかったのかなぁくらいの認識でした。そもそもなぜ織田信長を殺さなければいけなかったのか?ということを想像したことがなかったんです。だけど、そこには天下泰平への想いだったり、信長の“唐入り”を防ぐ目的だったりというのがあったということを知って衝撃でした。
小野 明智光秀のことは“悪人”、“逆賊”というイメージでした。それが原作漫画を読ませていただいたことで、違う一面を知ることができたというか、その当時の人間の苦しみだったり、葛藤だったりが伝わってきてとても面白い物語だなと思いました。

――おふたりが演じられる明智光秀についてはいかがですか?
田中 実直に愛に生きた男だと思いました。妻の煕子や子どもたち、国や織田信長に対してさえもそうだったんだろうなと。愛を貫くが故に信長を殺さざるを得なかったんじゃないかと。私利私欲や自分のことは置いといて、ある意味でブレない人物。
小野 知的で誠実というのはどの作品を見ても共通していると思います。教養があって民を大事にしていて。一方でその真面目さみたいなものが時代に合っていなかったのかもとも思います。もうちょっと柔軟性があれば、信長を説得することができて、“本能寺の変”は避けられたんじゃないかなと思うんです。
――役作りに関して今の段階で考えられていることは?
田中 まずは自分が感じた光秀像を稽古場に持っていって、あとは現場でいろいろお話して固めていければいいなと。
小野 年齢差もあるので、そこはちょっと皆さんとやってみて掛け合わせて生まれるものがあるのかなと思っています。
田中 逆に僕は光秀の若い時代、20~30代をどう演じるのかなという不安があります。早く時が過ぎればいいなって(笑)。
――田中さんと小野さん、全く違う明智光秀が見られそうです
小野 稽古を一緒にするかわからないですけど、僕は田中さんが演じている明智光秀を見たくないって今の段階では思っているんですよね。「田中さんの明智、めっちゃいい!」ってなったら、いい刺激にはなるんですけど、焦っちゃう自分がいたりするので……。
田中 確かに引っ張られるという気持ちもわかります。だけど、僕は同じ役を演じるうえで小野さんの明智光秀を見てみたい。年齢もこれまで過ごしてきた経験も違うので、きっと面白いバージョンが出来上がると思います。本番は必ず見させていただきますね。
小野 ありがとうございます。
――今作は朗読活劇と銘打たれています。普通の朗読劇とは違う?
小野 以前、演出の(岡本)貴也さんの朗読劇に出演したことがあるのですが、段取りも多く、かなり動いた記憶があります。いろいろチャレンジさせてくれる現場なのかなと。
田中 朗読劇に出演した経験は数回ほどしかありませんが、読み方だったり、声の伝え方、空気も含めて表現しなきゃいけない難しさみたいなものをいつも感じています。今回はさらに“朗読活劇”ってことで……僕はまだ“朗読+活劇”って部分を理解できていませんが(笑)。そこに対するドキドキは過去に出演した朗読劇よりも強く感じています。
小野 逆にいえば読むことだけで伝えるって難しい部分もあると思うんです。そこに動きをつけることができるのであれば、その分、気持ちも乗せられるかなと思っているのでプラスに捉えようと思っています。
田中 そうですよね。動きで伝えられることもきっとあると思うし、見ている皆さんにもひとつ動きがあることで大きな変化が生まれると思います。そこはきっと効果的に演出してくださると思います。
――伴奏はこれまでの三味線の山影匡瑠さんに加えて、和太鼓の吉田貴博さんが参加されるというのも新たな試みですね
田中 僕は三味線の音色がそもそも好きなんです。そのなかでお芝居できるっていうのは凄く嬉しいし、きっと高揚するだろうなと思っています。しかもそこに和太鼓も加わるというのはとても素敵ですよね。なんなら三味線と和太鼓だけ聴いていたいくらいですよ(笑)。
小野 気持ちが乗りそうなときに三味線が入ったり、和太鼓が入ったりするとこっちもさらに乗っていけそうな気がします。そういう音は我々を助けてくれるんですよね。

――すでに小説や漫画として楽しめる本作ですが、舞台ならではの魅力はどこになりますか?
田中 やっぱり生の空気じゃないでしょうか。目の前にお客さんがいるので同じ空気のなかでひとつの物事が進んでいくというのは生の舞台の大事なところであり、楽しいところだと思います。その日、その日の空気を含めてみなさんと一緒に作品を作っていけるというのが舞台ならではの魅力かなと思います。
小野 生身の人間が明智光秀や織田信長を憑依させて演じる。そこに三味線や和太鼓が加わる。そうすると目の前が戦場になり臨場感が生まれる。その緊張感をお客さまに楽しんでいただきたいと思います。
――最後に公演に向けての意気込みをお聞かせ下さい
田中 ダブルキャストで同じ役をやらせて頂くという経験が僕ははじめてなんです。小野さんとはそれぞれに置かれている立場も違うのですが、同じ役に向かう仲間といいますか、同志といいますか、そんなふうに思っております。小野さんがいる心強さを僕はもう勝手に頂いていますので、お互い力を合わせてよい作品に向かっていけたらなと思っております。
小野 僕もまったく同じ気持ちです。本当に恐れ多いんですけども、切磋琢磨してひとつの役をふたりで作り上げていけたらいいなと思っております。
――ありがとうございました。田中さんが出演される「桔梗」、小野さんが出演される「木瓜」とも楽しみにしております
取材・文/高畠正人
