舞台『1995117546』は、阪神・淡路大震災で被災したウォーリー木下が、自身の実体験に虚構を織り交ぜ描く完全新作のオリジナル舞台。阪神・淡路大震災から30年を迎える2025年、兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、東京・東京芸術劇場 シアターウエストにて上演される。
企画・作・演出をウォーリー木下が手掛け、彼が信頼を寄せる6人のキャスト、須賀健太、中川大輔、斎藤瑠希、前田隆成、田中尚輝、小林 唯が出演。ウォーリー木下が“地層的演劇”と表現する物語を、6人が様々な登場人物を演じる形で紡いでいく。
初日まで1ヶ月を切ったタイミングで、ウォーリー木下、須賀健太、中川大輔、小林 唯による取材会が実施された。充実した稽古を感じさせる4人による座談会の模様をお届けする。
――ウォーリーさんは企画からお名前が入っています。被災者としての体験を踏まえ、「あくまでフィクション」として描く本作への思いをお聞かせください
ウォーリー これが最初で最後だと思うのですが、あの日神戸で被災して実際に6時間、生き埋めになった体験を、震災から30年経った今、本にしてみようかなと思ってトライしました。フィクションを混ぜると言いつつ、結構本当の話ばかりなんです。赤裸々に書いた戯曲というのは、やっぱり恥ずかしくなってくるんですよね(苦笑)。なので、毎日、恥ずかしさを忘れるために気合いを入れて稽古場に来ています。
須賀 知らなかった。そんな気持ちで来てたんだ(笑)。
ウォーリー そうそう。
一同 (笑)。
――脚本を読んでの印象はいかがでしたか?
須賀 体験談的な質感というより、読み物として物語の面白さや不思議さに目がいく内容だなと。震災というのはやっぱりセンシティブなテーマだと思います。それをどの程度、重くするのか気になっていたので、ホッとしたというか、面白くなりそうだなと思いました。
中川 以前ご一緒した際に、震災の体験談を聞いていたので、あのお話を舞台でやるんだと驚きました。実際に台本を読んでみると、本当に被災した方じゃないと書けないようなリアリティもあるし、読み物としても読む度に色々な捉え方ができる面白い台本だなという印象でした。
小林 ウォーリーさんとは今回、初めてご一緒するのですが、これがウォーリーワールドか!と。震災とは全然関係ないように見える登場人物も出てきて、それらが重なり合って1本通る、不思議な印象でした。
――ウォーリーさんは本作を「地層的演劇」と表現されていました。脚本を拝見すると、その層の中には、かなりファンタジックな要素も入っていたのが印象的でしたが、この構成の意図とは?
ウォーリー 演劇の特色の一つが、生身の人間が目の前で演じているからこそ生まれる、いい意味での嘘っぽさがあると思うんです。どれだけ作り込んだとしても、やっぱりどこか役者自身の存在が消えきらないまま舞台上にあって、その消えきれないものの中で、お客さんと一緒に共同幻想を作っていく。そういう意味で、演劇は幅の広い嘘がつきやすいし、それをどう信じ込ませるのかが醍醐味だと思っています。
なので、地震のお話だけれども、地震のことに興味がない人たちにとっても、何か本当に思えることを、あの手この手で物語に混ぜ込んで、どこか引っかかるものがあるといいなと思いながら脚本を書きました。
――6名のキャストは複数の役を演じるとのこと。現段階で決まっている役などがあれば教えてください
須賀 ずばり、ウォーリー木下です!
ウォーリー そうね(笑)。
須賀 ウォーリーさんをモチーフにした、車椅子の男という役をメインで演じています。まだ確定ではないですが、僕は稽古するほど、複数人を演じない方向に今なっていってるんですよ。なので、専業ウォーリー木下になりつつあります。
ウォーリー ふふ。
中川 僕は神戸大学に通うりきゅうという役がメインで、震災を経験して大きく変わる人物です。現実とファンタジーを行き来するキャラクターが多い中で、一番、現実世界寄りなキャラクターなのかな。なので、1995年のリアリティある大学生を演じられるように意識しています。あと関西弁も頑張っています!
小林 僕はカニさんっていう役がメインで……。
須賀・中川 違う違う!
小林 (笑)。メインは矢崎という役ですが、カニさんというすごく面白いキャラクターも演じます。
中川 一番いろんな役をやるんじゃない? しかも、矢崎もカニさんも?
小林 おじさんです。
一同 (笑)
小林 今回は関西弁を話すおじさんの役やシフレというフランス語を話す役もやるんですよ。クセの強い役をいろいろと演じるので、稽古中も演じる役にあわせて直前にチューニングをしないと、役が混ざっちゃって(苦笑)。
これまで正統派でやってきたので、クセの強い役ばっかり演じるのがすごく楽しいです。普段から「変わってる」と言われることがなぜか多いので、そういうのを活かしていけたらなと。
――ここまでの稽古の中で、どんな心の動きや変化が生まれていますか?
中川 初めて関西人を演じていますが、僕は関東の人間なので、改めて関西と関東の違いを感じています。関西特有の明るい力で吹き飛ばすパワーみたいなものは、これまでの自分の中にはなかったものなので、ひとつ勉強になりました。
須賀 僕は、人間って面白いな、と。震災を経験していない僕らは、震災と聞くとすごく重くてしんどいこととして受け止めてしまいますが、ウォーリーさんをはじめ被災者の方に話を聞くと、もっと淡々していたよとか、一周回って明るく振る舞っていたよとか。この話の登場人物もそうですが、いろんな感情を持ちながらも、深層心理では震災で繋がっている部分があって、それぞれの立場から震災を捉えている。そういった人間の複雑な面白さも、作品を通してちゃんと伝わったらいいなと思っています。
小林 小さな幸せが、観終わった後に心に灯るような作品だなと感じています。そういった作品なので、稽古をしながら、当たり前って当たり前じゃないんだなと感じる機会が増えてきましたね。
ウォーリー 完全なオリジナルの戯曲を書くのが約8年ぶりなんです。だから、本来の手癖みたいなものも忘れちゃって(苦笑)。作家1年生の気持ちで書いたら、普通こんなにモノローグ書かないよね、みたいな量になりました。
須賀 (ぼそりと)本当にすごい量なんですよ……。
ウォーリー 忘れちゃったんだよ、書き方を(笑)。物語を説明するための登場人物もいないので、誰も説明はしてくれないんですよ。どの登場人物も、ただそこにいて、思ったことを喋っている。自分の中ではやったことのない本を書いたので、稽古初日まではすごく不安でした。
でも、6人の俳優がこの本を面白いと思って演じてくれるだけで、僕がネガティブに感じていた部分も全部うまくいっているので、今はとっても前向きな気持ちです。きっと面白い作品になるんだろうなという気がしています。
――稽古場での印象的なエピソードを教えてください
小林 ウォーリーさんのアイデアと僕らのアイデアが、どんどん合わさっていくような感覚が初めてで、すごく刺激的な稽古ですね。演劇ってこうやって生まれていくんだなと。
中川 稽古の最初1週間はワークショップだったんです。初日は、みんなで自分が演出家ならどう演出するか、というのを考えて発表したんですが、これまでそんな脳みその使い方をしたことがなかったので、すごく楽しかったし、同時に夜は爆睡するくらい疲れました!
須賀 初日は僕と(田中)尚輝と唯さんの3人でチームを組んで発表したのですが、僕と尚輝は『ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」』で一緒にやってきたのでウォーリーさんのやり方にも慣れているんですよ。でも唯さんはそういった作業が初めてだったからか、途中から「2人天才やな……」しか言わなくなっちゃって(笑)。
小林 せやねん。もうついていけん、って(笑)。
須賀 でも2日目にはすっかりフィットしていて、さすがだなと。本当に充実した1週間でした。
ウォーリー 唯さんは皆に“キャッツ先生”と呼ばれているんですが(笑)、思わずそう呼びたくなるくらい身体能力がすごいんですよ。本作はストリートプレイですが、パフォーマンスで見せる不思議なシーンもあるので、唯さんの身体能力がいかんなく発揮されています。指先までコントロールされた表現が素晴らしいです。
D(中川の愛称)は基本的に破天荒。演劇はこうあるべき、を知らずにここまで来ているからこそ、なんでもやれちゃうすごさがあって。それがピタリとハマったときの力がすごいんです。今回トライしてもらっている関西弁も、味があって僕はすごく好きですね。
健太は長い間一緒にやってきましたが、今回はずっと車椅子に乗せています。僕が知る中でも指折りの体が利く俳優なので、つい動かしたくなっちゃうんですが(苦笑)。今回は動きが制限されていることで、彼自身がずっと向き合ってきた言葉での表現という部分が、細かく作られていっているなという印象です。
――最後に、公演を楽しみにしているファンへのメッセージをお願いします
小林 6人という少人数ですが、作品のパワーを感じてもらえる作品になるんじゃないのかなと思っています。個人的には、これまで見たことない僕の姿が見られると思うので、それも楽しみにしていてください!
中川 被災されたウォーリーさんだから書けるリアリティのある話でありながらも、希望の持てる最後に向かっていきますので、ぜひ多くの人に観てもらいたい作品です。6人それぞれいろんなジャンルで活動してきたので、芝居のテイストもちょっとずつ違っていて、それも多彩な世界観が登場するこの作品に合っているなと感じますし、僕らがワークショップで考えた演出も使われているので、いろんな楽しみ方をしてもらえたらと思います。
須賀 震災がテーマの作品とあって、中には観るのを躊躇する方がいるかと思います。それくらいパワーのあるテーマであることは分かっていますが、その上で、それだけではない作品にしたいと思って日々稽古をしています。演劇作品としていいものをお届けできると思うので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらと思います。
ウォーリー 演劇としてやるからには、1歩でも前に進みたいと思っています。新しい表現を積み重ねて、観た人が驚けるような作品になっていると思いますので、エンターテインメントの喜びを感じたいという人はぜひ来てください。お待ちしております。

インタビュー・文・撮影/双海 しお
