全国ツアーが絶賛開催中のゆうめい『養生』。本作は2024年にザ・スズナリで上演された初演が大きな反響を呼び、その後第32回読売演劇大賞優秀演出家賞も受賞した話題作。また、ゆうめい結成10周年という節目に上演される、カンパニー初の6都市全国ツアー公演でもある。現在は京都、三重、福島での公演を終え、今後は北海道、高知を巡り、12月19日(金)からはツアー最終地となる神奈川へ。物語のキーでもある“クリスマス”シーズン真っ只中にKAAT神奈川芸術劇場大ホールにて上演される。
舞台はとある聖夜、ショッピングモールの夜勤現場。仕事と生活、表現と労働、その狭間で葛藤しながら生きる人々の姿が、鋭くもユーモラスに描かれる。
ローチケ演劇宣言!では、初演に引き続き、そのミニマムかつ濃密な3人芝居の稽古場に潜入し、前後編インタビューを展開。3人の男たちのままならぬ数年と、されどもままならぬ一夜が交錯する、100分の夜勤劇『養生』。その類を見ぬ創作の裏側と秘密にさらに迫るべく、作・演出・美術の池田亮、キャストの本橋龍(ウンゲツィーファ)、丙次(ゆうめい)、黒澤多生の4人に話を聞いた。
喜びと戸惑いの読売演劇大賞授賞式
―前編では初演の実感や物語のテーマ、4人での稽古の特徴についてお話を伺いました。男性のみの座組で育児と並行して創作が進められること、そしてそのことがそれぞれの言葉で語られることも含めて貴重な座談会でした。そんなクリエーションの果てに『養生』は第32回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。後編はまず、受賞の実感や授賞式でのエピソードから語っていただけたらと思います。

池田 授賞式は娘も一緒に連れて行ったのですが、「厳格な場で娘の声が聞こえてくる」という現象にドキドキする一方で、なんというか、それはそれでいいんじゃないかと思ったんですよね。最優秀女優賞を受賞された岩崎加根子さんが素晴らしいパフォーマンスをして下さったのですが、それが娘も家で読んでいる谷川俊太郎さんの詩の朗読だったりもして…。もちろんみなさん静かに聞き入っていらっしゃるので気をつけてはいたのですが、娘もやっぱり時々笑ったり反応するんですよね。それを見た審査員の方がにっこり笑いかけたりもしてくれて…。僕はその瞬間をすごくいいなと思ったんです。
丙次 うんうん。
池田 厳格な場でもそういうことを思えた実感を大事にしたいですし、自分が作るゆうめいの作品もそういうものでありたい。そんな風に感じました。「子どもの声」に限らず、作品を作り、上演する上で想定している反応や反響以外のものが来たとしても、それをはねのけずに面白がりたいですし、レベルの高い作品を作るだけじゃない楽しみ方も追求していきたいなと改めて思いました。
本橋 演劇の世界に「こんな楽しい会があったんだ!」っていうくらい楽しい時間でしたよね。賞の存在は知っていても授賞式の様子は知らなかったので、会場入った時の豪華絢爛な感じには圧倒されましたけど…。自分は普通にリクルートスーツみたいな感じで出たんですけど、多くの方がただスーツを着ているのではなく、それぞれの個性の出るスーツを着ていらしてかっこよかったですし、戸惑いもありましたね。
黒澤 わかります。右を見ても左を見ても知らない、でも確実に凄い人たちがいっぱいいて、日本の演劇の名誉ある賞として名を連ねている。その全てが普段の日常や体感から遠すぎて、自分がそこにいる実感が湧かないというか…。もちろん、商業的な演劇であるか否かとか色々背景も違うと思うのですが、ふと「なんでこの場には自分の知り合いが誰もいないんだろう?」と思ったりもしました。

本橋 そうなんですよね。多くの作品が受賞作として挙がっているわけですけど、かくいう自分はそのほとんどを観ていない、という事実に愕然とした部分もありました。もちろん観られるなら観たいのですが、これを全部観るには何十万とかがかかってしまう現実があって…。そんな中、4人きりで脚立を駆使して作った『養生』がそれらと同じようにここに存在していることはとても嬉しかったですね。
黒澤 なんというか、ちょっと言い方が難しいんですけど、映画『パラサイト 半地下の家族』じゃないですけど、俺らだけ半地下から突然ラストシーンにあるガーデンパーティーに迷い込んだような気持ちだったんですよ(笑)。でも、そこに『養生』の一部として自分がいることはすごく面白いし、もっと言うと、この作品が対象になっていること自体、すごく面白いことが起きている感じもしたんです。向こう岸がちょっと見えたというか、ここにまだ自分たちの知り合いはいないけど、今後自分たちが知っている演劇ももっと盛り上がれるんじゃないか。そんな気持ちにもなったんですよね。
本橋 うんうん。それこそ、今年は額田くん(ヌトミック)とかも名前が挙がっていたり…。
丙次 劇団普通の石黒さんも名前が挙がっていましたよね。
黒澤 そうそう。なんかやっぱりうれしいですよね。
丙次 岸田國士戯曲賞授賞式の時にも思ったんですけど、僕からすると、演劇生活のボーナスタイムみたいな感じなんですよ。これまでは公演の打ち上げとかで座組内で互いを労い合っていたのに、その外側にいる人たちから評価をしてもらい、あんなに温かく祝ってもらって…。作品を上演し終わったら解散っていうのがほとんどな中で、再びみんなで集まり、振り返れる機会を設けもらったことも嬉しかったです。
本橋 『養生』の紹介映像が流れた時、丙次くんが「ヤッター!うれしい!」って思わず声をあげていたんですよ。あれ、すごいよかったよね。印象的なシーンでした。
丙次 そうでした、あの時めっちゃ嬉しかったですもん!
“知らない4人”で全国の公共劇場を巡るからには!
―まさにこの4人からしかお伺いできない、様々な実感のこもったお話の数々でした!ミニマムな創作から端を発し、読売演劇大賞優秀演出家賞と素晴らしい展開を遂げた養生ですが、次なる再演ではさらにスケールアップし、ゆうめい史上最大規模の全国ツアーになりますね。
池田 初演から「ミニマムな座組だとしても絶対面白いもの作ろう」と思っていたし、それは変わらないんですけど、今回は劇場も大きくなり、「自分たちの力だけじゃできないな」とスタッフさんの有り難みを痛感しています。関わってくれる人はもちろん、公演数に応じて観てくれる人も増えていくので「より面白くするぞ」と腹を括って最後まで臨みたいですね。あと、もし『養生』に出てくる登場人物みたいに夜勤明けの人が来ちゃったとして、さらに劇場の椅子が心地よくて寝ちゃったとして、そうなっても面白い作品を作ろう、みたいなことはすごく思っています。起きた瞬間にすでに面白いとか、前の話聞いてなくても没入できるとか…。

本橋 空間とその使い方に対する池田くんの圧倒的なセンス。そこを見ているだけでも楽しい作品になっていると思います。大きな脚立たちがただ右から左に動いていくわけじゃなく、都度造形のセンスや美しさを魅せながら動いていく。そこはぜひ見てほしいなと思いますね。
池田 脚立って、どこにでもあるし、誰でも見たことあると思うんです。でも、ここで見ると全然違うものに見える。そういう風に面白がってもらえたらいいですよね。
黒澤 『養生』は技術というよりは、アイデアで勝負をしているんですよ。1点突破みたいな感じでやっている節もあるので、観た人に「こんなのできねえ」じゃなく、「これなら俺らも大劇場でできるかも」って思ってもらえるかもしれない。僕はこの演劇をやりながら、そここそがめちゃくちゃ面白い魅力なんじゃないか、と思っています。
本橋 そうだね。あとはやっぱりこの少人数で、座組で全国の公共劇場を回っていくことが演劇界においても意義のあることなんじゃないかと思っていて…。なんだろう、キャストである3人も決してタレント的でないというか、アイドル気質じゃないというか、どこにでもいる親しみやすい男3人なんですよね。そういう人たちが3人だけで舞台上に立って、ものを動かして演劇を展開する。それで良い作品が仕上がっていくとしたら、すごく希望だなって思うんです。これから演劇を志す人たちにも「派手でなく、少ない人数でも大劇場でこんなに面白い作品が作れるんだよ」っていうのを示せるように。そのためにもちょっと頑張りたいと思っています。
黒澤 映画やテレビに出ているわけでもない、知らない4人が全国を回るっていうのがやっぱり面白いですよね。地域の公共劇場や大きなホールだと「有名人が来て初めて行く」みたいなことも多いと思うんです。でも、そうじゃなく、「知らない男が3人でやっている舞台も面白い」っていうことになったら、その先も「全然知らないけど今度この演劇観に行ってみようかな」に繋がっていける気がして…。それがこのツアーにあたっての目標ですね。我々を面白いと思うよりも、演劇って面白いって思ってほしい。そんな風に思います。
丙次 ちょっとみんなが先にいい言葉を言い過ぎていて、今ここから何を言っても多分越えられない感じがしてきたんですけど…(笑)。でも、僕が一つ思っているのは、例えば、三重とかは僕と池田くんの出会いの場所でもあって、お世話になった方もちらほらいたりするんですよ。他にもどこかですれ違ったり、互いの名前を見かけていたみたいな方に公演を通じて会えるチャンスでもあると思っていて、そういう人たちにホームでこの作品を観届けてもらえるのがとてもうれしいと思っています。同時に、『養生』は、ゆうめいを知らない方や観たことない方にも比較的観やすい、誰かを置いてけぼりにはしない、どこかしら引っかかったりしてもらえる可能性のある作品だと思っているので、是非お気軽に遊びに来ていただけたらうれしいです。

池田 そうですね。とにかく広い範囲の方々を対象としたいですし、どんなコンディションで劇場に来たとしても楽しんでもらいたいです。動物園とか博物館とか美術館とか科学館とか。そういういろんな園や館ってあるじゃないですか。ああいうものを全部ギュッとして魅せます、みたいな作品に仕上げて行けたらと思います。みなさんに楽しんでもらうためでもあり、同時に自分たちのためでもあると思って作っているので、一緒にこの作品を通じてこの後のことを考えたり、この先の日々へと続いていけたらと思っています。
取材・文:丘田ミイ子
