『2時22分 ゴーストストーリー』|加藤シゲアキ×葵わかな×南沢奈央×松尾諭 インタビュー

英国発の衝撃のホラーサスペンスが、オリジナル演出となり日本初上陸を果たす。2021年にロンドンで初演されて以降、斬新なストーリーが話題となり、いまや世界各地で上演されているヒット作『2時22分 ゴーストストーリー』。脚本のダニー・ロビンズはBBCでホラーのポッドキャストのヒット作を持つほか、マルチに才能を発揮している若手作家だ。日本版の演出を手がけるのはこれまで数々の演劇賞を獲得してきた、日本を代表する演出家の一人、森新太郎。
物語の舞台となるのは、サムとジェニー夫婦が最近引っ越してきたばかりのロンドン郊外の古い一軒家。ある晩、友人のローレンとそのボーイフレンドであるベンがディナーに招かれると、この家の二階の子供部屋から毎晩2時22分に不穏な物音が聞こえるとジェニーに打ち明けられる。その音を幽霊の仕業だとジェニーは思っているようだが、サムは幽霊の存在などまるで信じない。そこでジェニーはローレンたちに、実際に2時22分に何が起こるか一緒に見届けてほしいと頼むのだが……。やがて訪れる2時22分……果たして四人が目撃するものとは……!?
この“決してラストを明かせない”、ネタバレ厳禁のスリリングなホラー作品に挑むのは、夫・サム役にNEWSのメンバーにして作家としても活躍する加藤シゲアキ、その妻・ジェニー役に映像作品はもちろん、舞台でもミュージカル作品に主演し、森から演出を受けるのは『冬のライオン』(2022年)以来、これが二度目となる葵わかな、ローレン役には映像に舞台にと幅広く出演し、森演出作品に向き合うのは『ハムレット』(2019年)、『メディア/イアソン』(2024年)に続き三度目となる南沢奈央、ベン役には映像を中心に活躍しつつも話題の舞台作品にも出演し、唯一無二の個性で存在感を示してきた松尾諭が扮することになった。
本格的な稽古開始を前に決行された取材会で、初めて顔を揃えた四人に、作品の印象や森演出作品についての想いなど、いろいろ語ってもらった。

――まずは戯曲を読まれた印象から、お聞かせいただけますか。
加藤 最初は、演劇でホラー作品というのがあまりピンと来ていなかったんですが、台本を読むとまず前書きがあったりして、これまで読んだことがないタイプの戯曲だったんです。でも2時22分になると何かが起きるという設定自体はわかりやすいので、どんどん引き込まれていきましたね。その間、何も信用できないまま展開が進んでいくというのも新しい感覚で、演じる側には難しいところもたくさんあるから演じがいがあるとも言えるし。「この四人でどうなるんだろう?」と予想するのも楽しいし、自分にとってすごく挑戦しがいがあるな、とも思いました。まだ物語のさまざまな部分のバックグラウンドまで読み切れていないので、きっと気づけていないところもたくさんあるんだろうなとも思いますが、まずはすごく楽しく読ませてもらいました。

――ちなみに、結末に関しては衝撃を受けましたか?
加藤 「なるほど!」と思いました(笑)。どんでん返しみたいなところがあるので「そうきたか!」と。でも、そこに至るまでの部分も面白いんです。ただ結末に衝撃があるだけじゃないし、何度か読んだんですが読むたびに発見がありますしね。僕の知り合いでこの作品をイギリスまで観に行った方がいたんですが「本当にすごく面白かった」と言っていました。
一同 へえ~!
加藤 イギリスで話題になっている理由もわかるな、というのは台本を読んでも思いましたし、これを森さんがどう演出されるのかもとても楽しみです。
 私は、最初に脚本を読んだ時、夜だったんです。ものすごく怖くて、実は途中で断念してしまいました。
加藤 想像力豊かだねえ(笑)。
葵 改めて、明るい昼間に読み直したりしていたので、読み終わるまで時間がかかってしまいました(笑)。だけど最後までいくと、前半の見え方がすごく変わってくるんですよね。加藤さんもおっしゃっていましたが、台本に前書きとして、作者の方のホラーに対する想いみたいな文章が書かれているんです。脚本にそういう言葉が付いていることってあまり経験がなかったので、面白い方だなと思っていたんですけど。その前書きや序盤の部分も、最後まで読んだ後に見返すと、自分のホラーに対する考え方自体に変化が生まれた気がして。私、ホラーが苦手で読むのにも苦労していたはずなのに、それ以降は「ホラーって面白いかも?」と思えるようになってホラー映画も結構観るようになったんです(笑)。
加藤 この作品をきっかけに、目覚めたんですか。
 目覚めました! それでこの前、松尾さんが出ているホラー映画も観ました。
松尾 あ、俺が斬殺されるやつか(笑)。
 びっくりしましたけど、面白く観られました。
松尾 面白かったんだ?(笑)
 なるほどーって(笑)。ホラー作品って言っても、ただ脅かしたり怖がらせるだけではなくて、ホラーならではの面白さがあるということを作者の方が訴えているように思えたんですよね。だから、今回の舞台も日本で上演するとどんな雰囲気になるのかとか、それを日本のお客様がどう受け止めてくださるのか、ある意味で挑戦ですし、すごく楽しみだなと思いました。
南沢 私もホラーはもともと得意じゃないので、今回の台本は読んでいるだけでやっぱり怖かったです。
加藤 お二人とも、めっちゃ想像力豊かじゃないですか。
南沢 刻一刻と2時22分に時間が迫ってくると「いやあー、どうなっちゃうの?」って、ドキドキしてしまいますし。
松尾 いいお客さんやな。
加藤 作者のダニー・ロビンズの思うつぼですね。
南沢 そうかも(笑)。だけど、ワンシチュエーションの設定になっているので、四人の人間関係が会話だけで描かれていくところがとても面白いんです。それぞれに、昔こういうことがあったんだなという過去が透けて見えてきたり、単に幽霊がいるとかいないとか話していたはずなのに、そこから徐々に四人の関係性が揺らいでいく感じもあって。ホラー的な内容はもちろんですが、人間同士の本質みたいな部分が見えてくるところが、また違う意味で怖かったり面白かったりするので「どうなるんだろう?」ってグイグイ引き込まれましたし、最後にはやっぱり「えぇっ!」てなりました。そして最初からもう一度読み直したくなりましたね。だからきっと、舞台も一度観たら「えっ? じゃあ、もう一回観てあそこを確かめてみたい」と思う方、出てくるんじゃないでしょうか。ただ怖いだけじゃなくて、ストーリーとしての面白さがたっぷり詰まっている作品だなと思いました。
松尾 ……もう、全部語られちゃって僕が話すことないよ(笑)。でもやっぱり、2時22分が近づいてくるという設定はすごくわかりやすくて面白いし、そこに至るまでの伏線の置き方のバランスがとても良くて。そこに人間関係をうまく絡めているところが、ちゃんと大人のドラマになっているんですよね。って、真面目なコメントになっちゃってますけど大丈夫ですか?(笑)。ともかく読み物としても面白かったですし、ラストにドーン!っていうのがあるんですが、それを踏まえた上でもう一回頭から読んでも発見があったので、舞台でも何度でも楽しめそうです。しかもそこまで残酷なシーンはおそらくないので、幅広い年齢層のお客様に観ていただけるのではないかとも思います。ホントに良く出来ているので、ヒットする理由がわかるな~って、僕も思いましたね。

――初共演の方がいたり、森さんの演出を初めて経験する方がいたり、そもそもこの四人が顔を揃えるのは今日が初めてとのことですが。こうして集まってみて、どんな稽古場になりそうだと予想しますか。
加藤 いやあ、まだ顔を合わせてから30分も経ってないですからね(笑)。
松尾 森さん演出を受けるのは僕、初めてなんですよ。
加藤 僕も初めてですよ。

――女性陣はお二人とも経験されていますね。
松尾 森さん演出の芝居を客席から観る限りでは、稽古場がすごく大変そうなイメージない?
加藤 あります。
松尾 規律とか厳しそう。
 規律?(笑)
松尾 うん。途中で間食とかしてたら怒られそうな気がして。
南沢 そんなことはないです(笑)。
加藤 演劇仲間で飲んでいると、森さんの話題が出ることがとても多くて。だけどきっと自分はご一緒できないんだろうなと勝手に思っていたら、今回お声がかかったのですごく嬉しかったです。ちょうど最近、僕の後輩の正門良規(Aぇ! group)が森さんの演出作品に出ていて、それはシェイクスピアの『十二夜』だったんですけどね。正門は森さんの演出を既に三度受けているので、観に行った時に「どんな人なの?」と聞いてみたら、「いい意味で、しつこい人」と言っていました。
松尾 悪い意味やったらイヤやな(笑)。
加藤 作品を良くするためには妥協しない方だ、と。
松尾 うんうん。でもそういうのが表面に現れているよね、森さんの舞台って。
加藤 演劇愛があるんですよね。僕も、周りの人たちから脅されていますから、「大変そうだよね」とか「覚悟しときなさい」とか。
松尾 同時に「ぜひ、やったほうがいいよ!」とも言われますよね。森さん経験者から。
加藤 お二人は経験者として、どうですか?
南沢 私は森さんとご一緒するたびに、何か新しいものを引き出していただけているんです。確かに、しつこくしつこく稽古はされますが、でもそれは愛があるから、誰よりも作品に対する想いが強いからで。ここに食らいついていけたら間違いないという信頼感もあるので、その想いに自分もちゃんと応えたい!という気持ちになるんです。VS(バーサス)森!みたいな感じですね。
加藤 バーサス!という感じなんだ。
松尾 やっぱりそうなのか。
 確かにバーサスになりますね。森さんに、なんとかしてOKを出してもらいたい!という気持ちになる。
南沢 そうそう(笑)。
 勝負!って感じですよ。
加藤 そりゃあ、覚悟しなきゃだね。
松尾 それはそれで、しんどいかもしれないな(笑)。
加藤 ここはチームワークが大事だから、これから絆を深めていきましょう(笑)。ただ、この『2時22分 ゴーストストーリー』という作品を森さんが手がけられるというのは、ちょっと意外だったな。
南沢 そうなんですよ。
松尾 確かにね。
加藤 想像がつかなくて。この言い方でいいかわからないけど、逆に「これ、出るんじゃなくて客席で観てみたかった!」と思いました(笑)。そう思うくらい、森さんがどう演出されるのかが楽しみです。

――葵さんも「バーサス森!」という気分だったんですか。
 そうですね。
加藤 それ、勝った?
 わからないです。負けはしなかったけど、でも勝ってもいないかな(笑)。
加藤 ドローか。じゃあ、今回サドンデスということで(笑)。
 私、初めてのストレートプレイが森さん演出作だったので。わからないことだらけで、かなりビシバシやっていただきました。部活かな?と思うくらい、思い出がたくさんありますね。本番中も毎日来てくださって、毎日ダメ出しと直し稽古がある演出家さんなので、かなりハードな日々を送っていた記憶があります。ダメ出しされないように必死になりますし、森さんが作りたい世界を、森さんの手となり足となって表現するみたいな感覚がありました。
加藤 それも、すごいなあ!
 厳しい方ではありますけど、でも稽古期間中に誰よりも日に日に疲れた顔になっていくのは森さんですし、目の下のクマが濃くなっていくのも森さんだったので(笑)。本当に作品愛の強い方なんだ、ということは間違いないです。セリフにこだわりがある印象もあり、今回ほぼ会話なのでセリフ回しを各々に馴染ませる作業みたいな稽古が果てしなくあるのではないかとは想像しています。
加藤 音に対して、すごくこだわりがあるということは聞きますね。
葵 そうですね、セリフや間とか。
南沢 私がご一緒したのは古典作品だったので、難しい言い回しも伝わるのが一番だから、それを伝えるための最善の音と間にこだわっていらっしゃったイメージがあります。
松尾 ……ややこしいことになるのかもしれないな(笑)。
加藤 いや、そもそも森さんさておき、この作品自体がめちゃくちゃ難しいと思うんだよね。
 確かにそうですね。翻訳モノですし。

――自然と座組の結束が固くなりそうな。
松尾 わからないですよ、追い詰められるとギスギスしてくるかもしれないし。
一同 (笑)。
加藤 それはそれで、物語の人間関係とリンクしてるかもしれない。
 そうですね(笑)。
加藤 すべての経験を、役づくりに生かせそうですよ(笑)。

――葵さんと南沢さんはそもそもホラー嫌いだったとおっしゃっていましたが、加藤さんと松尾さんはホラーはいかがですか、お好きですか?
加藤 僕は全然抵抗なく観ますよ、話題のホラー作品にも行きますし。
松尾 僕はちょっと怖いです。観た後、一人になりたくない(笑)。『呪怨』という映画を部屋で友達と一緒に観たんですけど、友達が帰った後、押し入れが気になってなかなか寝られなかったし。あれは清水崇監督の作品なんですが、その後、自分が出ることになった時、ちょっとイヤだな~って思っちゃいました。しかも、心霊スポットで撮影するっていうんで。
一同 ええ~!(笑)
松尾 ああいう映画って、撮影前にみんなでお祓いするじゃないですか。それをやった上で、自主的に一人でさらにお祓いしてもらいに行きましたから。大量に塩を買いました。
加藤 めっちゃビビってるじゃないですか(笑)。
松尾 ええ(笑)。だけど実際の撮影現場は全然怖くなかったです、すごく雰囲気が良くて。ともかく、ホラー作品そのものを観るのは、昔から好きでしたね。

――加藤さんはこだわりなくご覧になるとのことですが、たとえばどういう作品がお好みですか?
加藤 いっぱいありますけどね。ここ数年で面白かったのは台湾のホラー映画で『呪詛』という作品。
松尾 ああー!
 人気でしたね。あれ、怖いんですか? 私、まだ観ていないんです。
加藤 めっちゃくちゃ、怖いです。
南沢 うわー!(笑)
加藤 稽古始まる前に、絶対観ておいたほうがいいですよ。
 観てみます。そんなに怖いなら、昼間に観ようかな。
加藤 家で観るとしたら、さらに怖そう。俺も、音量を下げるかも(笑)。
松尾 『イット・フォローズ』って観てない?
加藤 大好きですよ!
松尾 あれ、めっちゃ怖いですよね。
加藤 これはまた方向性が違う怖さ。ずーっと、何かがついてくるんですよ。
 怖っ。
南沢 怖い!
松尾 今年観たホラーでも、すごく良く出来ている映画があって……。ここではタイトルは言わないですけど。
加藤 えっ、なんで言わないんですか?
 この舞台の怖さとも似てるってこと?
松尾 ちょっと、この舞台のヒントとかネタバレになってしまうかもしれないから、それに関しても何も言わないでおくことにします(笑)。
加藤 たぶん、稽古場でもこういう風にホラートークが盛り上がるかもしれないですね。南沢さんも頑張ってホラーに慣れてもらわないと。
松尾 だけどさ……こういう話をしていると、いろいろ寄ってくるっていうよね……。
 でも、笑っていれば大丈夫って聞きますよ。うん。稽古場では常に、笑いながら話すことにしましょう!(笑)

取材・文 田中里津子