ドラマ『カルテット』『初恋の悪魔』、映画『怪物』『片思いの世界』など、映像の世界で珠玉の作品を届け続けている脚本家・坂元裕二。彼が2018年に書き下ろした戯曲『またここか』が再び上演される。舞台は東京郊外のガソリンスタンド。店主の若い男のもとへ突然、「あ、これはどうも、わたくし、あなたの兄、兄の者でして」と、小説家の男が訪ねてくる。そこに、アルバイトの女性、小説家が連れて来た看護師の女性も関係しながら紡がれていく兄弟の物語。どんな兄弟が、そしてどんな世界が生まれそうなのか。稽古初日の本読みが終わったばかりの稽古場で、弟の近杉を演じる奥野壮と、兄の根森を演じる浅利陽介に聞いた。
──稽古初日の感想から聞かせてください
奥野 台詞がちゃんと入るかなと心配になりました(苦笑)。というのも、たとえば「うん」とか「はい」とか、台詞と台詞の合間を埋めるような、最終的にその場で足されるような台詞がすでに書かれている戯曲なので。本を手離したときにその細かいところまでちゃんとできるのか、余韻みたいなものが崩れてしまわないか、と、ちょっと怖くなりました。
浅利 そう。とっても大変な戯曲なんです。僕の演じる根森はいろいろ迷っていて、誰にどこに迷うのかというのがその時々で変わっていくんですけど、その迷いを表す台詞も、「え…」とか「あの…」なんですよね。だから、迷う方向を間違えないようにその一言を言わないといけないなと。

──今のお話をお聞きしただけでも、繊細に人間を描いていく坂元さんらしさを感じますが、お二人が感じる坂元さんの戯曲の魅力を教えてください
奥野 まず読んだだけで、全体の話の構成が面白かったですし。やっぱり、変化球で見せてくる台詞回しやちょっと回りくどいところに、坂元さんだなという魅力を感じます。
浅利 言葉の使い方が独特なので一見理解できないんです。でも、最後まで読むと腑に落ちる。すごく説得力のある言葉になる。だから、その普通じゃない言葉遊びを上手く伝えられるかが不安ではあって。こっちのエネルギーが強すぎると言葉が消えてしまう気がするので、言葉とエネルギーを合わせるさじ加減を、ちょっと引いたところから見て考えなきゃいけないかなと。これは根森という役の感覚かもしれないですけど。
──そのそれぞれが演じられる弟の近杉、兄の根森については、どんなふうに捉えられていますか?長く離れて生きてきて、父親が倒れたことをきっかけに初対面する二人ですが
浅利 根森はやっぱり斜に構えていて、何に対しても熱くなれない人なんだと思います。小説家という仕事も、それが得意でお金が稼げることだったからやっていただけで。会ったことのなかった弟のところに来たのも、父親のことがお金になるかもしれないと思ってのことなんですよね。
奥野 でも近杉は、前から会いたいと思っていたから、普通に会えて嬉しいと思っていて。だからすごくピュアだと思うんです。
──「大丈夫?」と思わせる危うげな行動を取る人でもありますけど
奥野 僕自身はそんなに突飛な人物だとは思いませんでした。むしろ、4人の登場人物の中では一番「共感できるな。わかるな〜」と。ただ、この役に限らずいつも思っているんですけど、外側に見える印象ってあまり本質的ではない気がしていて。しかも、じゃあ本質は何かと言っても、自分自身のことさえ捉えきれないところがあるので。たぶん最後まで決めきらずにやっていくと思います。
浅利 今日も、「何かないかな〜」ってぼやーっと探しながら読んでた(笑)。
奥野 そうです、そうです。手探り状態でした。
浅利 僕も今日は、キャラクターは一旦置いといて、まずきっちり読む、それをテーマにしていました。4人の中の空気感を大事にしてただその場にいる……って言うと俳優っぽくて恥ずかしいけど(笑)、ただ台詞をもらって投げてもらって投げ返してとシンプルに。ありがたいことに、それができるのは舞台だからなんですよね。キャラクターは稽古をしながら決めていけるというのが、舞台は最高なんです。
奥野 でも、浅利さんは今日の段階ですでに、なんでこんなに根森が喋っているように聞こえてくるんだろうと思いました。根森ってこういう人物なんだろうなということがしっかり感じられる説得力があって。あと、言葉の強弱や抑揚、台詞の入り方といったテクニック的なところに長年の経験を感じたりしていました。すみません。こんな小童が……。
浅利 いやいやありがとう。ご飯奢ります(笑)。
奥野 だから、これからいっぱい一緒に稽古できるのが楽しみになりました!
──浅利さんからご覧になった奥野さんの魅力もぜひ
浅利 壮くんとは、『マーダーミステリーシアター 演技の代償』(21年)で共演したんです。それが筋書きだけ渡されて全部自分たちで作っていくエチュード的な作品だったので、その大変な現場を一緒に乗り越えたというだけで安心できる相手ですし。今回は近杉というキャラクターの影響もあるんだと思いますけど、さっき言ったみたいにぼんやり、肩肘張っていない感じがして、そこがいいなと思っています。本当に、一緒にいやすい空気感でいてくれるんです。

──舞台は、ミュージカル『るろうに剣心 京都編』(22年)に次いで二度目の奥野さん。経験が少ないのにそんなに肩の力を抜いて稽古場にいられるのはなぜなんですか?
浅利 確かに。俺は肩に力が入ってたよ(笑)。
奥野 なんて言ったらいいのか……僕、自分に自信があるんです(笑)。
浅利 大谷翔平か(笑)。
奥野 本当にそうなんです(笑)。今まで自分がやってきたことに対する自信もあるし。一緒にやっている人たちに対する信頼からくる自信もあるし。それから、一人でやるわけではないから、何か困ることが起きてもお互いにフォローできると思っていて。結局、他力本願なんです(笑)。だから、ぼやーっと「何かないかなぁ」と思いながら、楽しく本読みができるんです。
──その「何か」は見つかりそうですか?
奥野 はい。やっぱり、最初に読んだ感じと最後に読んだ感じは違いますし。ここからちゃんとブラッシュアップしていけるんだろうなというのは、感覚としてあります。
──坂元さんの作品の魅力が、舞台だからこそより伝わるのではないかと思われる点もあるでしょうか?
奥野 坂元さんの作品の面白さは、映像でも舞台でも変わりなく伝わると思います。ただ、舞台の魅力として、生でその場で感じることができるエンターテインメントということがあるので。こんな間近でお芝居を観られるのは得難いことですよとは思います。とくに今回は客席300人の小さな空間なので。
浅利 お客さんとの距離感が近くて空気が濃密ですから、空気を動かしやすいだろうし、坂元さんの繊細な空気は伝わりやすいだろうなと思います。ただ、下手に動かすと台無しになる怖さもあるので。自分の俳優としてのエゴイスティックな部分は稽古中に吐き出してしまって、最終的には、何もしない、ただそこにいるだけということができれば一番じゃないかなと。それができれば、300人の座・高円寺、絶対いい感じになると思います!
奥野 あとは、楽しく稽古をしたいです。ネガティブなことは考えずにポジティブに。
浅利 台詞覚えるのに必死でずっと喋らないというパターンもあるけど(笑)。でもそうだね。集中するときは集中して、抜くときは抜いていきましょう。
インタビュー・文/大内弓子
