Litera Theater vol.1『誰かひとり/回復する人間』│豊田エリー×智順 インタビュー

3月5日(木)に東京・ザ・ポケットにて開幕する舞台『誰かひとり/回復する人間』は、2023年、2024年のノーベル文学賞受賞作家、ノルウェー出身のヨン・フォッセと、韓国出身のハン・ガンの作品を二本立てで上演するLitera Theaterの第1弾作品。『回復する人間』では、姉妹役を演じる豊田エリーと智順に、作品に向き合う心境と小劇場公演の魅力について話を聞いた。

話題のノーベル文学賞受賞作家の作品を舞台化

――まずは今作のオファーを受け、初めて作品に触れた時の印象をお聞かせください

豊田 2025年の夏頃にお話をいただき、改訂前の脚本を読みました。抽象的で難解な部分も多いけれど、好きな脚本だなと感じました。韓国の作家、ハン・ガンさんは気になる作家の一人でした。彼女がノーベル文学賞を受賞されたのはとても大きなニュースだったので、このお話をいただく前からラジオで特集を聞くなど、注目していたんです。そのハン・ガン作品の初舞台化というのも嬉しかったです。実は私はその時点で智順さんの出演が決まっていると伺っていたので、姉妹の台詞は智順さんをイメージして読ませていただいていました。
一方、『誰かひとり』の方は本当にまだわからない(笑)。でも二作品を続けて、同じ役者、同じ演出家で上演するというとてもチャレンジングなお話にワクワクしました。

智順 12月に一度本読みがありまして、正直焦りました。その頃全くタイプの違う作品に出演していたので、その舞台を終えてからしっかり向き合うことになるなと覚悟しました。こういうテイストの作品は経験がないので、正直なところ不安もありました。

――お二人はこれまで骨太な作品も経験されてきていますが、難解な印象もある二作品にはどのように向き合われるのでしょうか

豊田 舞台のありがたいところは、稽古の期間があって、人と話しながら作っていけるところ。稽古期間がとても好きなので、今回は特にどういう解釈で作っていくのか、早く稽古場で話したくて仕方がありません。予習は自分なりにしていくつもりですが、今回は全員でアイデアを出し合って作っていくことになると思うので、固めすぎるともったいないなと考えています。

智順 私はいつも演出家さんに言われたことに対して挑戦を重ねたいし、それを楽しく思えるタイプ。今回、西本(由香)さんとは初めてご一緒しますが、先日の本読みとムーブメントのワークショップをした時に、「西本さんにめっちゃついて行こう!」と確信しました。

――改めて、演出の西本由香さんの印象をお聞かせください

豊田 製作発表の場で西本さんがおっしゃった「小説を戯曲化したハン・ガン作品で、私たちが演劇と聞いて思い浮かべる言葉というものを広げていきたい」「作家の孤独に耳を傾けることで個を自覚し、観終わった後に少しタフになって帰っていただけるような作品にしたい」(製作発表レポートより)という言葉もすごく助けになるなと。

智順 これまでお会いした印象だと、ご自身の意見を明確に持ってらっしゃるけど、柔軟さもあってそのバランスがすごくいい方という印象です。見たことないところに連れて行っていただけそうな予感がしています。

作品に共通している「孤独」を他人事にならないように演じたい

――姉妹を演じるお二人の互いの印象はいかがですか

智順 エリーちゃんは可愛い!想像通りで可愛いし、笑顔が似合う方だなという印象です。ただこの作品では、私が知らないエリーちゃんが見れるのではないかと思います。

豊田 智順さんはカッコイイ!憧れてます。智順さんは日常を演じられる人。その実在感が素敵なので、(製作発表での)短い朗読でも、パッと血を通わせてくださって素晴らしかった。今回の作品にはどれだけ日常感、生活感をこの詩的な言葉にちゃんと表せるかが大事なことだと思っているので、そういう面でもやはりカッコイイ智順さんとご一緒出来るのが楽しみです。

智順 嬉しさで顔がニヤけちゃう。でもエリーちゃんが言ってくれたように、いかにこの脚本に、日常っぽさや親しみやすさのようなものも入れていけるかという作業が必要なのかなと感じています。

豊田 知らない人たちの話じゃなくて、どれだけ親近感を持って観てもらえるかがとても大事になりますよね。西本さんも仰っていた作品に共通している「孤独」というのは、誰もが持っていることだから他人事にならないようにできるといいなと思います。

智順 暗くなりすぎたくないというのも言われてましたよね。沈みがちになるところを単純なテンションではなく、その世界観のテンションとしてあげられるようになるといいのかなと思っています。

――『回復する人間』ではフィジカルなムーブメントで作品世界を表現されると紹介されていましたが、どのような演出をイメージされていますか

豊田 先日のワークショップの時に、共演の古河耕史さんが、例えば作中に出てくるバスについて、バスに乗っていることをわかりやすく演じるというのが身体表現の目的ではなく、そこに乗ってる時の心境の変化などをどう体で表現できるかだよねと話されていたんです。本当にそうだなと思って。

智順 身体表現っていうと情景描写になりかねないもんね。古河さんがいらっしゃるの、頼もしいよね。私は今回、皆さん「はじめまして」なのですが、皆さんもそうみたいで、初めて尽くしの作品になりそうです。

――公演は東京・中野のザ・ポケットという180席の劇場で全30公演の長丁場です。劇場の印象などあればお聞かせください

豊田 この公演期間の長さは珍しいと思います。小劇場での公演っていつもどうしても短いものが多くて。口コミが広がったとしても、その頃にはもうすぐ終わっちゃうっていうのがもったいないから、こうした興行、公演の機会が増えていくといいなと思いました。

智順 私は何度か東京・ザ・ポケットに立たせていただいていますが、特に今回のような作品にとても向いている劇場なのではないかなと思います。でも小劇場って緊張しない?

豊田 お客様との距離が近くて緊張するんですけど、そこにいる皆さんと、この時間、この場所に一緒にいるんだなっていう感じがするので好きなんですよね。

言葉にするのが難しい姉妹ならではの感情に注目

――お二人は今作で姉妹を演じられますが、実生活で姉妹はいらっしゃいますか?

智順 最近は役では長女を演じる機会が多いですが、実際は三姉妹の三女です。この『回復する人間』の中でいうと姉も妹に嫉妬していた……みたいな、姉妹の中の独特な思いみたいなもの、言葉にするのが難しい妙な感情や姉妹ならではの断ち切ることのできない愛おしさとかそういうものがあって、それがとてもリアルですよね。

豊田 姉妹ってそうなんですか?私は兄だけです。昔は同性の兄弟がいなくて良かったなと思ってたんですよ。もしいたらそれこそ嫉妬心とかが芽生えそうだなと想像したりして。でも今この年齢になってくるとお姉ちゃんか妹、どちらでもいいから姉妹だったら悩みを相談できたり、何気ない話ができる存在がいてくれたのかなと憧れますね。

智順 実際の姉妹は、まあいろいろありますよ(笑)。

――『回復する人間』に掛けて、今年新たにチャレンジしたいこと、回復したいと思っていることがあれば教えてください

豊田 なんだろうなぁ。私ってやらない言い訳を考えるのがすごく得意なんです(笑)。でもそれをいい加減、止めたいですね。やりたいと思ったことがあったらちゃんと着手する。なにかを実現させるとかではなく、2026年は着手できる年にしたいと思います。

智順 演劇はエンターテインメント全体の中では総数が少ないジャンルですよね。我々は稽古して舞台に立って、俳優業を一生懸命することはもう当たり前。もっと劇場に足を運んでもらうためには、何をすべきなのか、劇場が楽しい、見世物って楽しいっていうところが回復していくために、頭を使ったり行動したりしたいなと思います。ちょっと壮大過ぎかな。

――では、最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします

豊田 なんでも気軽に携帯端末でも見られる昨今だからこそ、一つの場所に人が集まる生の体験が大事だと思っています。小劇場で演劇を見るというのは、まさに体験すること、体感すること。ヨン・フォッセとハン・ガン、この並びでどちらも初演というのは滅多にない機会ですので、ぜひ劇場に体感しに来てください。

智順 舞台に立っている俳優は、AIには取って代われないものだと私は強く信じています。AIに疲れた方はぜひ、気軽に生の人間を観に劇場に足をお運びください。

インタビュー・文/栗原晶子
撮影/岩田えり