音楽劇「アカネイロのプレリュード〜赤坂の奏〜」│水田航生・小野塚勇人 インタビュー

赤坂を舞台にした作品を赤坂で上演する音楽劇「アカネイロのプレリュード〜赤坂の奏〜」。赤坂で生まれ育つも父と喧嘩してこの地を離れていた青年が、父の残した借金と音楽バーを引き継ぐことになり、一癖も二癖もある協力者とともにバーの再建に乗り出していく――。この物語の主人公をダブルキャストで演じるのは、水田航生と小野塚勇人。2人は赤坂の街に、どのような心持ちで飛び込むのか。話を聞いた。

――まずは、本作への出演が決まった際の率直なお気持ちからお聞かせください

水田 完全新作に挑戦するというのは、本当にいつもワクワクします。特に今回は赤坂で、赤坂の物語を作るという企画です。それを聞いた時、思い出したのがブロードウェイ。あそこで観劇をすると、劇場を出ても作品の世界観が街の中にそのまま繋がっているような感覚になるじゃないですか。そういう体験を日本でもできたら面白いよなと思っていたんです。今回の企画は、まさにそれを体現できる。草月ホールを出た目の前が赤坂で、さっきまで観ていた物語の延長線上の中を、心をホクホクさせながら帰っていただける。劇場の中だけじゃない、全てが「地続き」の演劇体験になるんじゃないかと思いますし、そんな作品に出演できることが、本当に光栄です。

小野塚 それは僕も全く同じ気持ちです。この街の劇場で、この街の話をするプロジェクトの第一弾。本を読ませていただいて、すごく心温まる作品になっていくだろうなという予感がしました。でも、僕は赤坂のことについて全然詳しくありません。だからこの作品を通して、自分自身も赤坂を好きになるきっかけになればいいなと思いますし、地元の方々が「自分たちの地元のことが面白おかしく描かれているな」と笑ってくれたら嬉しいですね。外から来られる方には、赤坂のイメージが良い意味で崩れるような、新しい発見を届けられたらと思います。

――これまでの「赤坂」に対するイメージはどのようなものでしたか?

小野塚 正直、「仕事で来る場所」ですね。劇場か、スタジオか……。それ以外は何も知らないので、赤坂サカスのスケートリンクで滑ったこともないですし(笑)。たまに会食で来ることはあっても、それもプライベートというよりはビジネスに近い感覚でした。僕にとっては「懐かしい」と思えるような場所というよりも、しっかり働くためのビジネス的な街という印象でしたね。

水田  昔ながらの老舗感と僕の故郷(大阪の京橋)のような雑多な感じが融合している気がします。一本裏に入れば閑静な住宅街があったり、歴史のある氷川神社がバーンと建っていたり、バランスが取れている街という印象ですね。海外の方も多いグローバルな面もあり、そういう多層的な魅力がある街ですよね。

水田航生

――台本を読んで、赤坂の新たな一面を発見した部分はありましたか?

水田 歴史ですね。なぜ「赤坂」という名前になったのか。題名にもある通り「茜色」という色がすごく大事になってくるんです。なんとなく持っていた「赤坂のバー」のイメージが、歴史を知ることで、言葉として自分の中に浸透してきました。赤坂の学校に通っている生徒さんたちにもぜひ観てほしいですね。自分の街の成り立ちを知るきっかけになる、学校の芸術鑑賞会のような良さもこの作品にはある気がします。

小野塚 僕は、意外とコミュニティが狭いんだなというところに驚きました。偉い人たちが料亭で会合するような「すごい人たちが集まっている街」というイメージでしたが、台本を読むと住んでいる人たちは隣近所の何々さんといった感じで、地方の街とも変わらない繋がりがある。一方で、朝はサラリーマン、夜はオーラのある人たちが歩いている……。その「東京ならではの光景」を、住んでいる人がどう切り取って、時にはそれを「嫌いだな」と感じたりするのか。田舎者東京のど真ん中に住んでない人からすると憧れる要素が、住んでいる人にはまた違った色に見えている。その視点の違いが不思議で面白いなと感じました。

――演じられる鮎川浩太という役について、現時点ではどう捉えていますか?

水田 浩太は、今を生きる多くの人が抱えている悩みの代弁者。30歳を超えて、現実と夢の狭間で少し燻っています。自分がどうしていきたいのかも、もはや分からなくなっているような状態ですね。そこに、共感する部分がたくさんあります。ストーリー自体も一筋縄ではいかなくて、謎を解いていくワクワク感、ショーとしての華やかさ、さらにはコメディ要素もあって、演劇の面白さが全部詰まっている作品になっています。

小野塚 字面だけ見ると、浩太は本当にかわいそうで仕方ない状況に置かれています(笑)。自分の夢を追うどころじゃない環境に放り込まれて。やめる理由はいくらでもつけられるけれど、やる、という方へエネルギーを向ける大変さ。誰もが抱く「やりたいこと」と「環境が許さない現実」の間で右往左往する姿は、まさにザ・人間という感じがします。

――舞台となる「音楽バー」という空間については、どのような印象をお持ちですか?

小野塚 劇中だと「30分で2、3万」っていう、なかなかの金額が動いてるんですよ(笑)。それだけで毎日やってたら、月100万近くいっちゃうんじゃないかって。でもそれが「赤坂価格」というか、この街の次元なんだなと。

水田 バーって、ちょっとカッコつけたいフリをして、実は人間の本音や恥ずかしいところ、かっこ悪いところが一番出ちゃう場所だと思うんです。この物語の登場人物たちも、本来なら関わらずに終わるはずの人たちが、おせっかいに関わり合わざるを得ない“吸引力”がバーにはある。大人になればなるほど、そういう場所の必要性を感じるようになりますね。

――今回は全役Wキャストで、公演ごとに組み合わせがシャッフルされるのも大きな特徴です

小野塚 組み合わせが変われば、役の捉え方も呼吸感も自然と変わるはずです。やってる方は大変ですけど、見てる方は楽しいんじゃないかな。回数が限られているからこそ、慣れではない「新鮮でドキドキした状態」のお芝居をお届けできると思います。

水田 同じ役でも人が違えば言い回しも「間」も変わります。その違いを新鮮に楽しめる公演になるんだろうなと。慣れて固まっていくよりも、今、その場で出会って「この場をどうしていくか」を紡いでいくリアリティ。物語でもバーを通して知り合う関係なので、ドキュメンタリーのような面白さが生まれる、スリリングで楽しみな試みだと思いますね。

小野塚勇人

――今日初めてお会いしたとのことですが、お互いの印象はいかがですか?

水田 小野塚くんは年下ですけど、本当にとってもしっかりされていて……。お話ししていても、言葉の選び方や落ち着きがすごくて、頭が良い方なんだろうな、と感じています。

小野塚 いやいや(笑)。水田さんは本当に優しくて、今日お話しできてホッとしました。特に、ダブルキャストとしての役への向き合い方で、「お互いの良いところは共有していこう」という思考が共通していたのが、すごく安心しました。水田さんとなら、作品を第一に考えて、足並みを揃えていけるカンパニーになる確信があります。

水田 演出の元吉庸泰さんと3人で、赤坂の街を一緒に歩きたいですね。「あの、溜池の方のさ……」みたいな感じで、具体的な景色を共有することで、映像の浮かび方も変わってくるはず。まあ、それを口実にただ一緒に飲みたいだけなんですけど(笑)。

――最後に、チケットの購入を迷っている方へメッセージをお願いします!

水田 僕が最初にお話しした「街と演劇が繋がっている」という感覚は、他の演劇ではなかなか味わえない、この作品ならではの特別な強みだと思っています。赤坂という場所で、赤坂の物語を観て、劇場を出た瞬間に目の前にまた本物の赤坂の街が広がっている。これは、ものすごい体験型の演劇だと思うんですよね。誰かと誰かがおせっかいに関わり合うことで何かが生まれていく、そんな温かい物語をぜひ体感しに来てください!

小野塚 チケットをご購入いただければ、あの赤坂の「心臓破りの坂」を全力で走ります!……というのは冗談ですが(笑)

水田 でも、それくらいの気合でね(笑)

小野塚 赤坂にある劇場で、赤坂の物語を観て、そのまま赤坂の街へ。一杯飲んで帰るのもいいし、劇中に出てきた神社に行ってみようかとか、街全体をコースとして楽しめる作品です。劇中に出てくる場所や風景――例えば、電信柱のチラシみたいな、そういうものが本当の街中にある――そういう要素を入れても面白いですよね。赤坂づくめの一日を、ぜひこの作品と一緒に過ごしてください!

インタビュー・文/宮崎新之