舞台『BLUE/ORANGE』稽古場レポート

2019.03.20

3月のとある日、3月29日より東京・DDD青山クロスシアターで上演される舞台『BLUE/ORANGE』の稽古が行われていると聞き、稽古場にお邪魔してきた。

舞台『BLUE/ORANGE』は成河、千葉哲也、章平の実力派キャスト3人によって繰り広げられる精神病院での24時間を描いた作品。ロンドン・ウエストエンドでも上演され、日本では2010年に初演されている。


【STORY】

ロンドンの精神病院。境界性人格障害のために入院していたアフリカ系の青年クリスは、研修医ブルースによる治療を終えて退院を迎えようとしている。しかしブルースには気がかりなことがあり、退院させるのは危険だと主張していた。上司のロバート医師はそれに強く反対し、高圧的な態度で彼をなじる。納得のいかないブルースはクリスへの査定を続け、器に盛られたオレンジの色を問う。彼はそのオレンジを「青い」と答えた――。

 

稽古が開始し、まず始まったのは「朝礼」。前日までの稽古で気になった部分やこれから行う場面について確認し、調整する時間だという。みんなでその日から配置されたという本番用の机を囲み、台本とペンと消しゴムを持って、一語一語細かな部分まで詰めていく。

そしてこの小人数のアットホームな空間で、意見を出し合う、話し合う。

この「朝礼」は、演出の千葉が一方的に指導をするのではなくまさに“話し合い”の場であった。成河の意見、章平の質問からは、出演者として舞台全体のことを考えていることがよくわかる。台本に対して3人で意見が一致し、良いイメージが持てた時の盛り上がり方からは、チームの仲の良さを感じた。

 

演出の千葉は、自身が俳優だからこそ、自分で表現できるという点で伝達力に優れているのだと感じた。言葉だけでない伝達手段があるから、話し合いの中からパッと演技に移行することができる。優しい語り口で意見を誘いながらも、その場の雰囲気をコントロールできる力強さを兼ね備えていた。

朝礼のあと稽古に入ると、その台詞量の多さに驚く。
この日行われたのは二幕、千葉演じる医師ロバートと、章平演じる境界性人格障害の青年クリストファーの掛け合いのシーン。クリストファーを退院させたいロバートと、退院したくないクリストファーが、診察という時間の中にいながらも、エゴや偏見を垣間見せながら言葉を交わしあっていくシーンである。
まだ二幕の稽古に入ったばかりということで、繰り返し演じるたびにシーンに磨きがかかっていくその過程を見ることができた。

初演時にも参加している成河は、今回が初参加の章平へアドバイスをしたり、自身の登場シーンでなくても意見を出したりと常に作品と向かい合っている姿勢を見せていた。今回の稽古場見学では成河の出演場面を見ることはできなかったが、初演とは立場の変わった成河の新たな一面を見ることができるのだろう。

 

また、境界性人格障害という難しい役どころに挑む章平は、あふれ出るエネルギーをその場その場で形にし、場面を繰り返すごとにまた違った引き出しを見せてくれた。

一見シリアスなように見える話だが、あの手この手で生き抜いていく人間たちのエゴや滑稽さにクスリとできるシーンも多い。考えることが好きな人には特におすすめできるが、そうでなくても楽しめるだろう。人間のエゴ、生きること、考えること、偏見、アイデンティティ、そういったものについて考えさせる作品となっているようだ。

 

言葉の波に身をゆだねてもよし、言葉の波に立ち向かうもよし。圧倒的な言葉数をかけて作り出され、磨かれていくこの空間を、是非劇場で体感してみてはいかがだろうか。

 

撮影/岡千里
取材・文/ローチケ演劇部員