ミュージカル『破果(パグァ)』|開幕直前取材・公開ゲネプロレポート

花總まりと浦井健治が出演するミュージカル『破果パグァ』の開幕直前取材・公開ゲネプロ取材が2026年3月6日(金)に新国立劇場 中劇場で行われ、花總と浦井が初日に向けた思いを語った。今回は、ゲネプロの様子と共に出演者たちのコメントをレポートする。

本作は、韓国で最もセンセーショナルな反響を呼んだミュージカルを日本で初めて上演。韓国文学史上、前例のない“60代の殺し屋”を主人公に据え、ベストセラーとなった小説を原作に、彼女の人生最後の死闘を描く。主人公の女殺し屋「爪角(チョガク)」役を花總、かつて家族を殺した「爪角」に復讐を誓う青年「トゥ」役を浦井が務めるほか、中山優馬、熊谷彩春、武田真治ら個性豊かな出演陣が華を添える。

物語は、人生のほとんどをプロの暗殺者(=防疫業者)として生きてきた爪角が、年を重ね、体の衰えを感じたことから引退を決意するところから始まる。

これまで喜怒哀楽とは無縁の人生を送ってきた彼女は、孤独で静かに暮らしていた。爪角が所属する防疫業エージェンシーのユンは、伝説的な暗殺者であった爪角に惹かれつつ、年老いた爪角の処遇に謀略を企てていた。 

そんな爪角の前に、初恋の人、リュウを思い起こさせる医師・カンが現れる。幸せそうなカン博士の家族と触れ合う中で、いつしか爪角は心に温もりを求めるようになっていく。

そんな中、彼女の願いをあざ笑うかのようにトゥという暗殺者が現れた。彼は幼い頃に爪角に家族を暗殺され、復讐のために自分も暗殺者になって爪角の行方を追っていたのだ。そうして運命の再会を果たした二人だったが、爪角はトゥのことを覚えていなかった…。

韓国文学界でもほかに類を見ない、60代女性の殺し屋を主人公に据えた物語を原作とする本作。日本のミュージカルでも、60代女性を主人公とした作品はかなり珍しい。殺し屋という職業の悲哀とともに、「老い」という普遍的なテーマを正面から描き出す物語は、これまでにない新鮮な印象を与える。

特に第二幕の後半に歌われる「破果」は、爪角が自らの人生を振り返り、この先に待つ不安を吐露すると同時に、トゥとの対峙を決意するという重要なナンバーだ。そこに込められた爪角の想いは、観る者の心を大きく揺さぶる。「老い」は誰にでも訪れる問題であるからこそ、爪角の心情に共感し、その姿に背中を押されたと感じる人も多いのではないだろうか。

一方で、暗殺者の悲哀や老いといったテーマを描きながらも、楽曲は全体的にポップで明るく、作品全体が過度に重くなりすぎないバランスが保たれているのも印象的だ。観劇後、爽やかな余韻を感じたのは、楽曲の力も大きいと感じた。

花總にとっては、本作は初めての激しい殺陣やアクションに挑んだ作品でもある。敵を倒していく姿や、暗殺者としての冷酷に任務を遂行する姿は軽やかでクール。花總の新境地を鮮やかに示した。

同時に、低く冷たい声で語る“心をなくした暗殺者”の姿から、次第に人としての感情を取り戻し、穏やかな声になっていくという変化を丁寧に表現しており、その確かな演技力にも圧倒される。

浦井が演じるトゥは爪角に敵対する役柄であるが、その過去も描かれることで、単なる敵ではない深みのある人物に仕上がっていた。爪角を追い詰めていく姿にもどこか哀しみが漂って見えたのは、浦井の繊細な芝居ゆえのことだろう。

また、防疫業エージェンシーのユン役の中山は、仕事に対する冷徹さを持ちながらも、爪角への憧れに揺れる複雑な心情を印象深く表現した。

本作では、爪角が暗殺者になるまでの過程やリュウとの思い出が、回想として随所に盛り込まれていることで、彼女がどのような人生を送ってきたかが綴られていく。過去の爪角を演じる熊谷は、若き日の爪角をフレッシュに、感情豊かに演じ、現在の姿との対比を印象付けた。

武田は、リュウとカン博士という、いずれも爪角に大きな影響を与えた二役を見事に演じ分け、物語を支える重要なピースを安定した芝居で届けた。

開幕直前取材で花總は、「ハードな役柄なので、今、どっと疲れが出ています」とゲネプロを振り返り、「初日は2回公演なので、ここからがスタートだと思って、千穐楽まで誰一人欠けることなく、まずは健康、元気、安全に、そしてお客さまに感動をお届けできるように、カンパニー一同、取り組んでいきたいと思っております。ぜひ一人でも多くの方に観に来ていただきたいと思っております」と思いを語った。

そして、浦井は「花總さんの爪角はあまりにも魅力的で、袖中で観させていただいている時間も幸せの極みです。芸歴の長い花總さんが新しいチャレンジをここでまたするのかと、先輩の大きな大きな背中に大きな大きな翼が生えている姿を目の当たりにして、我々も精進しなければと思います」と話し、「しっかりと食らいついていけるように、そして、明日からお客さまにこの物語をしっかりと届けられるよう頑張っていきたいと思います」と意気込んだ。

出演者コメント

■中山優馬
日本初演ということで、とても貴重な作品だと思います。僕自身はミュージカル経験がそこまで多くないんですが、キャストみなさんの歌、音楽、演奏を聞いているのがとにかく気持ちよくて、感動します。音楽のパワーや舞台装置、衣装など、五感全てで楽しめる作品になっていると思うので、みなさんをしっかりワクワクさせたいと思います。

熊谷彩春
いよいよ、初日の幕が上がります。カンパニー全員で支え合い、試行錯誤を繰り返しながら今日まで辿り着きました。全く新しいスタイルのミュージカルだと感じています。日本初演の本作が皆様の心にどう届くのか、今は緊張と期待が入り混じっています。お楽しみいただけるよう全力を尽くして、劇場でお待ちしています!

武田真治
とんでもないものが出来上がりました。これで花總さんが演劇界のショーレースに入らなきゃ嘘だと思います。みなさまには全く新しい物語を体験していただけると思います。60代の女性が主人公のハードボイルドアクションミュージカル。新しいダークヒーローの誕生に立ち会えて光栄です。劇場でお待ちしています。


ゲネプロ写真

取材・文・撮影/嶋田真己