写真左から)佐藤快磨、長澤樹、田川啓介
水素74%で活動する劇作家・演出家の田川啓介。映画『泣く子はいねぇが』で長編デビューを果たした映画監督の佐藤快磨。舞台と映像、それぞれのフィールドで活躍する二人が、新ユニット「半ドア」を立ち上げる。旗揚げ公演は、2026年4月22日〜26日、渋谷・ユーロライブにて上演。ショッピングモールのフードコートで、一枚の集合写真を撮ろうとする家族。そのささやかな瞬間から、静かな不協和音が広がっていくーー。新ユニット始動の背景や、本作『フードコートファミリー』について、田川、佐藤、そして主演の長澤樹に話を聞いた。
田川さんの本を読んで「美咲役、どうかな?」に繋がりました
田川 最初のキャスティング会議で「主役の美咲は誰がいい?」と相談したら、佐藤くんが「一度長澤さんと仕事がしたい」と。
長澤 えっ!?
佐藤 そうですね。
田川 で、俺が「オファーしても断られるからやめよう」と言って。
佐藤 (笑)。初めて長澤さんにお会いしたのは、多分3〜4年前。
長澤 はい、そうです。
佐藤 すごくエネルギーに溢れていて、「私は演じるのだ!」という覚悟みたいなものが全身から迸っていた。
長澤 (笑)。
佐藤 それを強烈に覚えていて。だから嬉しいです、ご一緒できて。
長澤 私も嬉しいです。
田川 台本どうこうより、長澤さんと一緒にやりたい気持ちが強かった?
佐藤 両方あります。ずっとご一緒したいと願っていた気持ちが、田川さんの本を読んで「美咲役、どうかな?」に繋がりました。
ーー田川さんから見た長澤さんの印象はいかがです?
田川 長澤さんって二十歳でしたっけ?
長澤 はい。
田川 演技の繊細さ、相手役との反応、考えていることなど、二十歳とは思えないというか、とにかく、あの……、めちゃくちゃ良いです。
長澤 ええ〜〜〜!!
田川 初めて見た時はほんとびっくりした。
長澤 ありがとうございます(笑)。恥ずかしいです。

俳優同士の台詞の掛け合いから生まれてくれば
ーー今回の上演台本について、皆さまの印象を聞かせて下さい
佐藤 台本は……、総じて難しいです。嘘か本音か分からない台詞が多くて、ある意味で読み手に委ねられている。読んでいて試されるような本。おそらく田川さんは既に答えを持っているので、演出する上で間違えられないし、かと言って、台詞の意味を全部田川さんに聞いたら自分が演出する意味がなくなるので、そういう難しさがありますね。
長澤 私も稽古中に質問したり話し合ったりして、「この台詞はこういう意味ですか?」とか聞くこともありますが、それを全部聞くのも違うかな? と思ったりします。自分のお芝居に任されている部分もあるので、良い意味で田川さんの考えと異なる面白さが俳優同士の台詞の掛け合いから生まれてくれば素敵だなぁと。どこまで聞いて良いのだろう? という気持ちは、私の中にもあります。
田川 なるほどね〜。僕は元々劇作と演出を分けた方が良いと考えるタイプ。ただ(演出家を招く)予算も限られているし、何より「この人に演出して欲しい」と思える人とあまり出会ってこなかった。だから、佐藤くんと出会えたことは大きくて、むしろ俺の考えより、佐藤くんが考えていることを優先してやって欲しい。それは長澤さんも同様です。稽古中はちょっと口出ししちゃうかもしれないけど、基本俺の意見はどうでもいいんじゃないかなぁ。

普遍的な家族劇より今の家族劇を観てもらいたい
田川 今日の稽古を見ながら思ったのは、笑える台詞よりも、どうでもいい台詞とか、間(ま)とか、そういう何てことのないシーンが魅力的に見えて、それが好きでした。俳優の身体性というか、「俳優が今、この状態でいること」が面白い。
佐藤 俳優部の皆さんが家族を演じる際、僕自身の事として共感するというより、やはりどこか他人事というか、他所の家族だなぁと感じます。ある程度距離感を持って見ることで、家族の内側にある切実さがおかしみに変わる瞬間を見つけられる。家族って一人一人違うものだから、それぞれの形があり、だからこそ切実になってしまうのかも。
長澤 特に今日やった三場の最後の方は、傍から見られている美咲ちゃんの様子と、美咲ちゃん自身の状態が、全く別のものだと感じました。お客さんには滑稽に見えても、登場人物たちはものすごく真剣。役者としては、感情が途切れ途切れになってしまうことを心配しつつ、でも役の中では辻褄が合っているような気がして、日々発見しながら稽古している段階です。この台本は、台詞と台詞の間に「間(ま)」の指示があって、それを忠実にやってみると、また新しい学びがあったり。稽古がすごく楽しいです。
ーー脚本、演出、出演と、皆さまそれぞれの立場で「今作の見どころ」を語って下さい
田川 世の中に面白い家族劇は沢山ありますが、同時代性のある上演は少ないと感じています。僕は普遍的な家族劇より今の家族劇を観てもらいたい。僕としては2020年代の家族の話を書いたつもりなので、それが見どころかな。
佐藤 長澤さんも仰ったように、この作品には沈黙が多くて、それは静止している訳ではなく、上手く言えなかったり、誰かを慮っていたり、裏の心情が動いている状態。そういう時の人間の顔、表情が見どころになると思っています。観客の皆さんには、それを目に焼き付けて帰ってもらいたいし、そういう作品にしたいです。
長澤 田川さんの面白い脚本、佐藤さんの面白い演出、そのふたつが合わさったものを俳優陣が舞台上で表現をして、そのときに俳優たちがどういう状態でいるか? みたいなことも含めて、色々な面白さがあると感じています。基本的にお客様は台詞を喋っている俳優を見ると思うのですが、(喋らずに)そこにいる俳優や、いま舞台上にいない俳優について想像することも含めて、キャスト全員が個人個人で生きているからこそ、どこを見ても楽しめるような、そんなお芝居になるはずです。それが私の考える見どころです。

自分自身も変わりたいと思ってこれを書いた
佐藤 田川さんに質問ですが、水素74%(※田川さんが主宰を務める演劇ユニット)と半ドアには、何か違いがありますか?
田川 水素を最後に上演したのは7年前で、水素では、ある瞬間に倫理を踏み外してしまう人々を描いてきたけれど、いまそれを半ドアでやるのは違うかな……と思う。
佐藤 なるほど。
田川 なんというか、昔と比べて悪い人がいなくなったというか、SNSは別かもしれないけど、普段の日常生活で会う人は本当にみんな優しくて。だから「優しさの中にある痛み」というか、誰も悪くないのにダメになっていく人々を描いてみようと。その方がアクチュアルだと思っていて。
佐藤 ということは、水素のような感じではない?
田川 うん、自分自身も変わりたいと思ってこれを書いたから。好みとしては、嫌な感じのするシーンが好きなんです。嫌な奴が嫌なことをするのではなく、誰も悪いことをしていないのにすれ違ってしまったり、結果的に嫌なことが起きてしまう。そうすれば、自分の芯を変えずに(作品を)届けられるのかな? と。
佐藤 この台本を初めて読んだ時に、それこそ、間違った方向へ倫理観を踏み外すことへのエッジが少し柔らかくなった印象がありました。僕にとっての水素は、自身の間違いを間違いと捉えられない人々が、社会や集団の中で抑圧されていき、それがどこかで解放される爽快感があった。「間違うことも悪くない」と思えた。で、今日の稽古でラストシーンをやったのですが、その終わり方が水素を彷彿とさせて、「やっぱり田川さんが書いた本だなぁ」と強く実感しました。田川さんの物語の終わり方には独特の余韻が残ると思っています。

「今日は人間を見た」と思いながら帰ってもらえる上演
ーー旗揚げ公演に向けて、今の意気込みをお願いします
佐藤 映画もそうですが、演劇って今でも忘れられない作品がいくつかあって、観終わった後に「ああ、人間を見たな」という感覚が残るのです。今回は家族の話で、全俳優を人間として見てもらいたいし、終演後に「今日は人間を見た」と思いながら帰ってもらえる上演にしたいと考えています。
田川 割と間口の広い話なので、共感してもらえたら嬉しいですし、観終わった後に、家族に電話したくなる、あるいは、逆に連絡をとりたくなくなる、そのどちらかになればいいなと。
長澤 それは「感情の同居」みたいなことですか?
田川 そうですね。色々な見方をして欲しいです。
長澤 まだ稽古が始まったばかりなので、私としては「言われたことをとにかくやってみる」という段階です。面白いものを創りたいですし、新しいものをどんどん入れて、混ぜて、揺らしていきたいと思っています。劇中にも「揺れ」が何度も出てきますし、大切なテーマだと思っています。感情の同居も、自分の中では大切な目標です。人間としてそこに居ることも大切なので、いまお二人が仰ったことはとてもよく分かりますし、そうしたもの全部が合わさったものが、今の私の目標です。
ーー最後に。半ドアという新ユニットに期待を込めて、皆さまそれぞれの立場で「半ドアに期待すること」を教えて下さい
長澤 もちろん私自身も半ドアに期待していますし、同時に期待もされているので、お互いに期待して、期待されて、意見も出し合って、この関係性のまま、どんどん良いものを創っていきたいです。
佐藤 演劇に憧れを抱きつつ、ずっと観る側だろうと思っていました。そして今、半ドアというユニットを作ってしまったので……。
田川 ダメなことみたいに言わないで(笑)。
一同 あははは。
佐藤 やはり怖さもあるんですよ。半ドアという場所を大切にしたいと思いつつ、その怖さも忘れてはいけない。「田川さんが一人で作・演出をした方が良い作品になるのでは?」と言われないようにしないといけないし、田川さんと自分の最大公約数を目指して、新しいものを創っていきたい。この旗揚げ公演で、俳優部の皆さんと一緒に「半ドアらしさ」を見つけて、それを磨いていけたらと思っています。演劇を観始めた頃に水素と出会い、僕にとっての演劇は、映画を観た時と全く違う感覚を与えてくれるもの。憧れていたからこそ簡単に手を出してはいけないと思っていましたが、今はもう、片足というか、既に入ってしまったので、覚悟を持ってやらなきゃいけない。頑張ります。
田川 佐藤くんに演出してもらいたくて半ドアを始めたのですが、例えば、長澤さんは僕一人で活動していたら絶対に出会えない俳優さん。今回集まってくれた人たちは佐藤くんの力があってこそなので、僕としてはすごく有り難く、僕たち二人にとっての、良い場になればと思っています。
インタビュー・文/園田喬し
