H&Aプロデュース第1弾『死神』|倉持裕+牧島輝+水野美紀 合同取材会

古典落語の名作『死神』をベースにした画期的な舞台がこの春、幕を開ける。三遊亭圓朝による『死神』を原案に、倉持裕が脚本を書き、演出する舞台で、噺家の立川志の春が脚本協力で参加し出演もする。主人公の<八五郎>を牧島輝、<死神>を水野美紀が演じるほか、樋口日奈、浅利陽介、玉置孝匡、香月彩里という個性の強い実力派キャストが顔を揃えていることにも注目だ。落語の『死神』と言えば、サゲ(噺のオチの部分)が噺家によって違ってくるのも特徴だが、今回の舞台化では果たしてどんな展開が待っているのか、そこも気になるところ。4/11(土)の初日開幕を目指し、稽古真っ最中の倉持、牧島、水野に、作品への想いや稽古場の様子などを大いに語ってもらった。

 

――まずは今回、落語の『死神』を演劇化するにあたり倉持さんが最も大事にされたこととは。

倉持 『死神』も既に古典落語のひとつと言われていて、これだけ長年語り継がれて無駄のない強固な骨格を持っている話ですから、そこは崩したくないということは第一に考えました。でもそのままやってもつまらないので、その骨格を保持したままどうアレンジするか、どう新しく解釈するか。また、さまざまな噺家さんがいろいろなバリエーションでやられていますので、演劇化する時にそれらとは被らない新しい“発明”をしなければいけないな、という気持ちで臨みました。


――水野さん、牧島さんは今回の脚本を読まれてどんなことを感じられていますか。

水野 「えっ、死神が私なんだ!?」というところで、一番びっくりしました(笑)。今、稽古をしながら思うのは、落語だと噺家さんの発する声、音から自由にみなさんが想像して楽しむ面白さがあるものだと思いますが、演劇の場合は音より視覚から入ってくる面白さがありますから。しかも今回の演劇化では倉持さんの面白い演出により、予想以上にコメディになってきている気もします。落語を聴いている時に頭の中で想像するものがあるとすると、その10倍くらいキャラクターたちが大きく跳ねるし動くし、そこに面白い要素が足されますので、視覚的にもすごく賑やかになっているように思います。

牧島 落語で『死神』を聴いた時は、死神と主人公、つまり今回の物語では僕が演じる八五郎、彼らをメインに追っていくイメージでしたが、今回の舞台にはそれ以外にも登場人物が大勢出て来て、それぞれに生活がある世界の中でさまざまな出来事が起きていくんですね。『死神』という大きな物語の中にもいろいろな人がいて、その存在にも影響される要素があるわけです。今回の演劇化では、改めてそのことを感じられて。そういう人間同士の関係性だったり、この人のこの一言で何かが変わっていく、みたいな流れが今回はより面白く感じられています。


――水野さん、牧島さんが演じる役柄について、現時点で感じていることは。

水野 全体的には思っていたよりも「みんな、バカだな~」と思ってしまうくらい、愛着が湧くようなキャラクターになってきています。その中で私が演じる死神の場合は、この世に存在しないものなので、何でもアリだとは思うんですけども。今、気になっているのは「貧乏神と死神の違いは?」みたいなことが、まだちょっと自分の中では曖昧なんですよね。まさに今、倉持さんから面白い演出がどんどん付けられている最中なのですが、とはいえそこで小さくとらわれることなく型破りなところも出してみたいですし。そして最終的には死神なりのポリシーみたいなものを一本通しながら、その想いがお客様にも伝わるように役づくりを頑張りたいと思っています。

牧島 確かに「バカだな~!」というのは、僕も思います(笑)。

水野 その中でも、特に八五郎のバカさ加減はすごいですよね。

牧島 うん、僕も自分で「こいつ、バカだなあ!」と思いつつ、でもちょっと羨ましくもあるんですよ。だってこれだけ後先を考えずに、刹那的には生きられませんから。

水野 ある意味、パンクだよね。

牧島 時代がもう少し違ったら、ロックスターになっていたかもしれないくらいです(笑)。実際、あの何にもない生きざまがむしろ、ちょっとかっこよく感じたりもしますからね。あんな風に生きることができたら、楽しい瞬間がいっぱいあるんだろうな、というか。

水野 女泣かせだしね。

牧島 そうですよね。だけどその分、絶対にたくさん笑わせているとも思うんです。

水野 ああ、確かにそうかも。

牧島 あの、ギリギリどっちにも転べそうな感じも魅力的なんだろうと思います。

水野 男性ってどうなんですか、こういう男の生きざまに憧れたりするもんですか。

倉持 人によるんじゃない? 俺は全然好きじゃないけど(笑)。でもこういう破滅型に憧れる人はいるだろうな。特に若い人だと好きかもね。

牧島 僕も自分がこうなりたいとは思わないけど、見てる分にはいいな、とも思う。

水野 牧島さんが演じることで、憧れてしまうところはありそうですよね。何をやっても憎めないし。

倉持 そう、牧島くんだからかっこよく見えるんですよ。落語の『死神』の主人公がかっこいいなんて普通は思わないから。そういう意味では、そこも今回の“発明”のひとつかもしれません。


――倉持さんがこのお二人をキャスティングされた狙い、そして舞台俳優としてそれぞれどんなところに魅力を感じられていますか。

倉持 牧島くんに関しては今ちょうど図らずも出たように、主人公の八五郎がかっこいいことで斬新な解釈が生まれた、というのも大きなポイントになりそうですよね。『死神』のあの男がかっこよく見える、なんてことは普通ありえないですから。

水野 落語を聴く限りでは、こうは想像しないですよね。

倉持 それは、まずない。その点では、最初から裏切ってきたなと思われるんじゃないかな。でも牧島くんの芝居は、かっこいい上にちゃんと笑えるところがいい。

水野 うん、そこがすごいですよ。

倉持 上手いところを突いてるな、と思います。「そんな馬鹿な」と思われるようなことしか言わないから、悪ふざけをしているように見えてしまう役なんだけど、それをそう思わせないところがある。つまり、少なくともこの人は本気でそう信じて、こう喋ってるんだなと思える芝居をしてくれるから。そのおかげでお客さんが「そんな馬鹿な」と我に返らずに、最後まで物語を追っていけるんじゃないか。と、今はそういう手応えを演出としては感じています。

水野 主観と客観のバランスがいい方なんですよね。……って、本人はこうやって褒められるといつも「ええ~?」みたいな、イヤそうな顔をしますけど(笑)。

倉持 ま、大体イヤだよね。みんなの前でいろいろ言われるのは。

水野 あ、でも私のことはちょっと多めに褒めてもらっても大丈夫ですよ!(笑)

牧島 アハハハ!

倉持 もはや、どんなに褒めても恐縮しないようなキャリアになっていると(笑)。

水野 もうそんな図々しさもあるキャリアです(笑)。

倉持 でもね、今回はそんな水野さんにぜひ死神をやっていただきたい、と思ったわけです。僕もご一緒するのは15年ぶりくらいになるけど。

水野 もう、そんなになっちゃいましたか。

倉持 でもその間もずっと、どこかでもう一度ご一緒したいとは思っていたんです。そうしたら今回、死神を女性にしてみようかということになり、じゃあ誰がいい?と話していたら水野さんが浮かんだという。

水野 嬉しいです!

倉持 15年ぶりにこうして稽古をしていると、偉そうな言い方になるかもしれないけど、舞台での見せ方とか、本当に上手くなったなあ!と思いました。

水野 うわあ、ありがとうございます。褒められた!(笑)

倉持 以前は「綺麗なのに面白い」という印象だったんですが、今はそこに巧さが加わったというか。

水野 良かったです、私も成長できているんですね。

倉持 そうそう、すごく成長してるなと思った。と、いうことは俺だってきっと成長しているはずなんですけども(笑)。


――15年という時間があった分、余計にその成長度合いが目に見えてわかったのかもしれませんね(笑)。では逆に、お二人から見た倉持さんの演出の面白さについても伺わせていただけますか。

水野 牧島さんは、倉持さんの演出を何度か受けていたりするんですか?

牧島 いえ、初めてです。

水野 何か、びっくりしたこととかありましたか。

牧島 最初は、意外と好きにやらせてもらえるんだなと思いました。それに上乗せしてくれる感じで「こうしたほうがもっと面白くなるんじゃない?」と、いろいろな提案をしてくださるんです。やっぱりこの『死神』って物語のベースがあるとはいえ、脚本を書いて、それを演出されている方なので、物語の世界観という意味では僕が想像していたものよりもはるかに広くて。僕としてはその広い視野から考えられている倉持さんに乗っかっていればいい、なんて言い方をすると俳優にはあるまじき発言かもしれないですが(笑)。でも、そのくらいの安心感、信頼感が既にあります。それと自分が出ているシーンでは自分のことでまだいっぱいいっぱいなんですが、他の方々のシーンを見ていると、倉持さんも笑いながら楽しそうにやっている様子で、それがとてもいいなと思えて。面白いシーンをみんなで発見できるととても嬉しいし、それが共有できるとものすごく楽しいんですよね。

水野 倉持さんはそもそも知的でアカデミックなイメージがあるし、演出する時の声のトーンも低めだから時には「怒られてるのかな……?」って一瞬、思ったりするかもしれないんですが。だけどその淡々とした物言いの直後には「水野さん、死神だから、そこの段から降りるときに手をひらひらとさせてみて」って、ジンガイ、人ならざるモノならではの奇妙な動きを付けてくれるので、そのギャップがまた面白いんです。ああ、そういえば15年前もこうだった!と、懐かしい気持ちにもなりました。

牧島 前からそうなんですね。あの瞬間、確かに面白いです。

水野 演出を付けてもらうたびに、みんな爆笑しています。緊張と緩和ですね(笑)。

牧島 何回もシーンを繰り返してやらせてくださるのも、僕としてはありがたいなって思っています。


――繰り返してやれると、身体に確実に入ってきますし。

牧島 それもありますし、新たな発見がたくさんあるので。そうやって見つけたものを何度も試せるというのも、僕にとってはありがたく感じるんです。

水野 セリフが口に馴染んで、動きが体に馴染んでから、発見したり見えてくるものってありますからね。その上で、倉持さんもすごく細かく、お客さんからの見え方や全体のバランス、演者同士の呼吸が合っているかどうかをフル回転で統括して、さらに面白くなるように調整してくださっているので。その点でもとても安心感があります。


――また、牧島さんが歌われている今回の舞台のメインテーマもポップで楽しい楽曲ですね。

倉持 台本を書いている最中に、音楽監督の中村中さんからデモテープが届きまして、僕としてはそれで勇気づけられたというか、作品の方向性が確かめられた気がしたんです。どういう風に脚色しようかと迷っていた時に、中さんが「こういう方向性ではどうか」とリードしてくださった感覚があったので。そこから八五郎という主人公が滅びの美学みたいなものを持っていてかっこいいというのも、この曲から感化されて「そうだな、確かにかっこよさもあるかもな」と思いつつ脚色していけた気がしています。

水野 とっても粋な曲ですよね。


――牧島さんは、歌われてみていかがでしたか。

牧島 これ、本当に難しい曲で。だけど昨日、みんなで一緒に歌ってみたんですが、すごく楽しかったんです。

倉持 うん、楽しかった!

水野 でもリズムがめちゃくちゃ複雑でね。

牧島 歌への入り方が特に難しかったりもするんですが、そういう面白い仕掛けを中さんはいっぱいこの曲に作ってくれていて。これが歌えるようになると、どんどんノッていけるリズムになっているんです。ガンガン前に進んでいくイメージもある曲だから、歌っていてすごく楽しくなれるんですよ。歌詞にしても、倉持さんがおっしゃったように八五郎の美学みたいなものを歌っていたりするし。難しい漢字を使う言葉とかはかっこよく聞こえるかもしれないんだけど、それを噛み砕くと意外と「また馬鹿なことを言ってんな」と思える歌詞だったりもして、そういうところも面白い。とても勢いがあって僕はとても好きだなあ、と思いながら歌っています。

水野 歌のところ、めちゃめちゃ楽しいシーンになりそうですよね。

倉持 そうだね。あ、こういうところも演劇ならでは、かもしれません。ミュージカルシーンというか、この一曲の中で1年間くらいの時間経過、栄光と挫折みたいなものを語ることにもなるので。そこも演劇、舞台の強みの部分だなと実感しています。


――ちなみに、今回は死神が教えてくれる“呪文”がどうなるのかも気になっているのですが。“アジャラカモクレン”と“テケレッツノパー”の間には、どんな言葉が入ってくるんでしょうか。そこも“発見”のひとつになりそうですか?

倉持 いや、そこはそんなに勝負に出るポイントではないので、あまり期待しなくてもいいです(笑)。“アジャラカモクレン”、“なんとかかんとか”、“テケレッツノパー”っていうリズムがいいから、そこは変えたくないとは思っていますが。ある程度の大衆性を持ちつつ、緩めに遊ぶつもりはありますけどね。

水野 私としては、本番前に毎回「今日はこう言ってみようと思います」って相談させてもらうつもりでしたよ。

倉持 あ、ほんと? それでもいいかも。

水野 八五郎にも事前に言っておいたほうがいい?。

牧島 いや、僕には言わなくてもいいですよ。

倉持 そうだね、初めて聞いて間違えたりする面白さもあるかも。

牧島 でも、6文字以内とか8文字以内とかくらいで、できればお願いしたいです(笑)。

水野 ふふふ。じゃ、言わないでおきますね(笑)。

 

取材・文:田中里津子

牧島輝 スタイリスト 中村剛
衣装協力 ANTOK
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牧島輝・水野美紀 ヘアメイク 橋本庸子