プロデュース・脚本・演出を手掛ける梅津瑞樹と、共同企画の橋本祥平による演劇ユニット「言式」(ゲンシキ)。第4回公演となる『とるわよ!』が2026年4月4日(土)から開幕した。今回は、初日前日の3日(金)に行われた、公開ゲネプロの様子をレポートする。
※本記事には公演の内容が一部含まれています。
旗揚げした2023年に第1回公演『解なし』、2024年に第2回公演『或いは、ほら』を上演した言式。2025年の第3回公演『んもれ』では、東京公演のほか初の地方公演を名古屋で上演し、東京舞台芸術祭にも参加した。二人芝居で新たな挑戦を続けながら、さまざまな試みを経て躍進している言式のシリーズ最新作となる本作は、ある男と女を描いた長編作品だ。長編作品としては、第3回公演の『んもれ』に続いて2作目となる。
劇場に入ると目に飛び込んでくるのは、舞台中央に鎮座するビルや家のジオラマだ。物語は、その周りを梅津が演じる「女」と橋本が演じる「男」が電話をしながら動き回るシーンから始まる。「女」と「男」が通話しているような話しぶりが続くが、次第に違和感が生まれ、どうやらそれぞれが別の相手と話をしていることが分かる。しかも、その電話では、お互いに相手と揉めている様子。どことなく漂う不穏な空気に、物語冒頭から一気に引き込まれた。


同時に通話を終えた二人は、それぞれの境遇にため息をつく。やがて同じチラシを目にする。映画オーディションと書かれたチラシを目にした「女」は、そこに希望を見出し、「男」はチラシを丸めてポケットの中にしまう。そんな対照的行動を見せた二人が、このチラシをきっかけに出会う。映画を撮りたい「男」と、自分探しのために映画に出演したいという「女」。本作は、「男」が理想とする映画を撮るため、二人が奮闘するというのが基本のストーリーだ。


以前、取材をした際に(https://engekisengen.com/genre/play/127173/)、梅津は本作を「コメディ」だと話していたが、物語が進んでいくにつれ、映画を撮るという夢を持った二人の青春ストーリーにも、SF(少し不思議なことが起こる物語)にも、淡いラブストーリーにも見えてくるのが面白い。まさにジャンルレスの作品で、梅津の真骨頂と言えるのではないだろうか。
言式の公演は、毎回、役者にとって挑戦的なことも積極的に取り入れている印象が強い。それは本作でも健在で、劇中劇にエチュード、そして複雑なキャラクター像など、役者の演技力が試される場面や設定が盛りだくさんだ。そうした設定を軽々とこなしていく二人の演技力はさすがの一言。当然ながら、二人きりでそれだけ複雑なことを演じている以上、時にトラブルも起きうる。ゲネプロでもコードやスカートが引っかかったといった小さなトラブルがあったが、それらもスマートに解消したり、笑いに変えていく姿は堂に入っていた。
さらに、物語の中で「男」が語る言葉も、梅津の頭の中が透けて見えるようで興味深い。第3回公演『んもれ』でも綴られた「夢と現実」「才能と凡人」「表と裏」といったテーマは、本作にも共通して描かれており、梅津にとって非常に大きなテーマでもあることもうかがえる。「馬鹿げた夢でも抱いていい」「裏の顔があってもいい。それが人間だ」と自分自身を、ひいては全ての人を肯定するメッセージが伝わってきて、とても優しく、愛に溢れた作品だと感じた。そして、それは梅津と一緒にそのメッセージを体現して見せる橋本の力量があってこそ伝わるものだ。梅津の書く脚本の意図を正確に受け取り、それを深く掘り下げて舞台上で表現する、橋本の演技力にも改めて拍手を贈りたい。
また、ステージ下手に据え置かれたビデオカメラをふんだんに使った演出も新鮮だった。このビデオカメラで映されたものは、ステージ後方のスクリーンでリアルタイムで見られる。つまり、それぞれの客席から見える彼らの表情とはまた違う角度からの表情がスクリーンで映されるので、より芝居をじっくり堪能できる。1回の観劇で2度おいしい、ファンにとってうれしい演出だ。もちろんそれだけでなく、このビデオカメラを使ったさまざまな演出があり、本作を彩る重要なアイテムの一つとなっている。


重要なアイテムといえば、ステージ中央に鎮座するジオラマも挙げておきたいところだ。このジオラマの真ん中に立って行う劇中劇は、まるで特撮映画の中に紛れ込んでしまった男女のようでどこか笑える。しかも、このセットありきの展開も待ち受けているので、「そのためのジオラマなのか」と妙に納得してしまった。
ラスト30分、冒頭から散りばめられていた伏線が一気に回収され、物語は怒涛の展開を迎える。「これも伏線だったのか」と驚くほど緻密な構成になっているので、結末を知った上で何度も観たくなる作品だ。圧巻の結末は、ぜひ劇場でご覧いただきたい。



取材・文/嶋田真己
撮影/⼩境勝⺒
