根本宗子が主宰、作・演出を務める『月刊「根本宗子」』初の地方公演が決定した。『巡業「根本宗子」』として上演されるのは、結婚相談所を舞台にした二人芝居『Marriage Hunting』。大阪・扇町ミュージアムキューブCUBE01にて5月19日より行われる。
『Marriage Hunting』は、2024年に月刊「根本宗子」15周年記念興行第1弾として『腑に落とす。』のタイトルで上演され、その3カ月後にブラッシュアップ再演、2025年には現タイトルに改め、日本語・英語・韓国語の3カ国語バージョンで再再演を重ねながら広がり続けてきた。
根本宗子と小日向星一が二人きりで舞台に立ち、役柄と時代がハイスピードで入れ替わりながら展開する本作は、息つく間もない台詞の応酬とテンポのよい掛け合いで観客を引き込み、ゲラゲラ笑いながらも登場人物たちの切実さと愛おしさが胸に迫る作品だ。
創作の背景から、役者としての向き合い方、そして小日向星一との関係性まで、根本宗子に話を聞いた。
――『Marriage Hunting』は、もともと劇団15周年記念第1弾として上演されました(旧タイトル『腑に落とす。』)。結婚相談所をモチーフにした二人芝居ですが、この物語はどのように生まれたのでしょうか
もともと結婚相談所に対して強いこだわりがあったわけではないんです。むしろ最初にあったのは、15周年というタイミングで、これまで長く応援してくれているお客さんに何を届けたら一番喜んでもらえるのか、ということでした。自分自身もこれまでやってきたことを振り返って、ファンクラブの中でリサーチをしたところ、その中で多かったのが、昔やっていた「バー公演のような作品をまた見たい」という声だったんです。
「バー公演」というのは、20代前半の頃に本当のバーで毎週土日に公演をやっていた時期があって、基本的に女の子だけで、40〜50分くらいのコメディーを毎月新作で上演していたんですけど、「そういうテンション感のものがまた見たい」と。そういうものをもう一度やることは考えていなかったので、原点回帰というか、そういうテンションのものを今の自分でやったらどうなるだろう、というのが出発点でした。
当時のバー公演は、その時その時の空気を反映した作品をやっていたんです。自分が一番気になっていることや、世の中で話題になっているものは何か、テーマやシチュエーションを何にするかということを、当時いた劇団員と話しながら決めていた。
『腑に落とす。』をやったのは2024年なんですけど、その頃、「結婚相談所が流行っている」という記事をよく目にするようになっていたんですよね。「じゃあ、この設定で誰とやるのがいいかな」と考えたときに、小日向くんとしっかりコメディーで向き合ったことがなかったなと思って。『今、出来る、精一杯。』(2019年)でも自分の相手役ではあったんですけど、シーンとしては15分ぐらいしか言葉を交わさなかったので、私とペアで何かやるなら、この結婚相談所というシチュエーションが一番しっくりきた、という感じですね。
――2021年10月31日に俳優活動に幕を下ろした根本さんの、俳優復帰作でもありましたが、台本を書く上で意識したことはありましたか
“復帰だから”という意識は、あまりなかったです。これまでもよく話していることなんですけど、私は自分に当て書きするのがあまり好きじゃなくて。他の役者さんに向けて当て書きするのが楽しくて作家をやっているので、自分のことを役者としてどういう能力があって、どういうパフォーマンスができるか、ということを、あまり突き詰めて考えてこなかったんですよね。劇団名ややり方的に「自分のことが好きそう」というイメージを持たれることも多いんですけど、私はあんまり自分に興味がないので。
なので、初めて自分を他人だと思って役を書いたかもしれないです。いち役者として自分を見たときに、当時の年齢の根本宗子がやる役として、どういう役を振るのが一番いいのかを考えました。そういう意味では、自分の役者としてのポジションや能力など、これまで考えてこなかったことを考えたかもしれないです。
――『腑に落とす。』で初めてそれを考えた理由は?
自分に課したチャレンジの部分もありました。相手役が小日向くんなので、何か1個壊さないとできないだろうなという役を、自分に与えないとなって。それまでは感情や心で本を書いてきたけど、今回はかなり冷静に、「どういうやりとりで、どういうタイミングで何が起きたら面白いか」ということを組み立てながら書きました。
――テクニックという言い方が正解か分からないですけど、テクニックや理論や構造を意識されたんでしょうか
インタビューで話すとすごく小難しい芝居に聞こえてしまうかもしれないですけど、感覚としてはテクニックに近いかもしれないです。自分の「ねもしゅー節」みたいなものと、自分が持ってるテクニック、小日向くんのテクニック、さらに演出家としてのテクニックも(バー公演をやっていた)当時より上がっていると信じて、それらを集結させてどう組み合わせたら何ができるのか、すごく考えました。
小劇場の舞台って、すごくテクニックがこもってる計算されたものよりも、ほとばしるエネルギーや「これがやりたいんだ」という熱量で作られている作品が多いと思うんですけど、自分はもうその年齢ではないなと思ったときに、長くやれる作品、何年もいろんな場所で上演できるものを作りたいなと考えたんです。映画館に映画を観に行くみたいに、「これ観ておけば間違いない」と思ってもらえるような、アンセムのような作品にしたい、ということを書きながら意識していました。
――再再演、英語・韓国バージョンなど、作品は広がりを見せています。本を書かれた当初からそういった展開をイメージされていましたか?
そうですね。1回やって評判が良かったら繰り返し上演したいなと思っていましたし、作品の中にも出てくる「旅行かばん」一つでいろんな土地に行って芝居をしたい、というイメージが自分の中にあったんだと思います。
――だからこそ、何回観ても新鮮に面白い作品になってるんでしょうね
そうかもしれないですね。とにかく私たちふたりに60分間ずっと負荷がかかり続ける作品にしたい、というのはかなり意識的にやっていました。コロナ以降、役者に負荷がかかり過ぎる作品って一時期難しい空気もあったと思うんですけど、それでもやっぱり、そこが演劇の良さでもあると思っていて。実際、何度再演しても全然慣れないんですよね。再演はすごくしたいけど、毎回「もうやるのやだな……」って思うくらい大変で(笑)。慣れてしまうと、役が躍動していないお芝居になっちゃうので、そうならないように気をつけよう、ということは小日向くんとも話してるんですけど。今のところずっと緊張感が続いていて、本番中ずっと綱渡りしているみたいな感覚があります。それは、効果的な本が書けてたからだと思います。
――緊張感が続く一番の理由は何だと思いますか
お話の設定自体は現実にあり得るし、起こり得ることなんですけど、感情や熱量がものすごく動いてる瞬間だけを切り取って、それをスケッチのようにつないでるんですよね。なので、やり過ぎるとコントみたいになって嘘っぽくなるし、抑え過ぎると面白くならない。その“ちょうどいいところ”を保ち続けるのがすごく難しい。やろうと思えばいくらでもできるんですけど、やり過ぎちゃいけないっていうところが、一番緊張感を感じるところかもしれないです。
――そこのバランスが大事な芝居なんですね
あと、ツッコミとボケの役割がシーンごとにコロコロ変わるので、相手役と相当呼吸が合ってないと成立しないんです。どちらかが力み過ぎてもうまくいかないし、ラフ過ぎてもダメ。お芝居の相性がいいふたりがやらないと成立しないので、違う役者さんでやる場合も、役に合うかどうかより、ふたりの呼吸が合うかどうかが大事。自分が想像してた以上に、小日向くんと私はそこのバランスと相性が良かったっていうことだと思います。


――小日向星一さんとの共演についてはいかがですか
芝居が本当にうまいなと思いますし、持っているカードが多いんですよね。いろんなアプローチを提示してくれるし、こちらが別の方向を求めてもすぐに応えてくれる。見た目はすごく穏やかで優しそうですが、役者としてすごく思い切りがいいので、「取りあえずやってみて形にしていく力」が強いなと思います。『腑に落とす。』の初演の前に、海外戯曲の4人芝居『ハイ・ライフ』(2023年)に出ていたんですけど、それまでの小日向くんがやらないような役をやっていて、すごくよかったんです。女の子を手のひらで転がす恋愛詐欺師みたいな役をやっていて、しかも客席に向かってしゃべる芝居で、演出的にも難しいことをやっていて。「こういうこともできるんだ」って。それで、小日向くんにもまたひとつハードルのある役を振ろうと思った部分もありました。
――二人芝居で小日向さんとふたりだけで舞台に立ってみて、いかがですか
一緒にやっていてすごく楽しいですし、おじいさん、おばあさんになっても一緒にやりたいなと思いながらやっています。本当にムラがないというか、どのステージも同じ意識で立っている印象があります。ちょっと疲れたなとか、今日はこれくらいでいいか、みたいなことが一切ないところがいいなと思います。小日向くんは演出家とずっと芝居をしなきゃいけないので、それをどう思っているのかは分からないですけど(笑)。
同じ熱量で演劇が好きなんだろうなという感覚もありますね。観てきたものが近いのもあるのかもしれない。
――今回、劇団として初めての大阪公演となりますね。
プロデュース公演ではいっぱい地方に行ってるんですけど、劇団として地方公演に行くのは初めてなので、すごく楽しみです。
――どんな期待がありますか?
この芝居は言語が変わっても面白がってもらえたので、どの地域でもフィットするんじゃないかと思っていて。そういう意味でも、大阪でやるのはすごく楽しみです。とにかく笑って、楽しんで、ちょっとほっこりして帰ってくれればいいなあと。
大阪の近くだと、京都などは最近特に演劇が盛んな地域だと思いますし、今回は学割もあるので、学生さんにもたくさん観てほしいなと思っています。最近の演劇ではあまり見かけないような、少しシットコム的なシチュエーションコメディーなので、そういう意味でも若い方に観てもらえたらうれしいですね。
――根本さんの中で、この作品はどのような位置づけにありますか
1作1作、込めてる思いが違い過ぎるので、どういう作品かを一言でまとめるのは難しいんですけど、今の世の中の陰惨としたムードの中で、地方に持っていって自分たちがやるなら、こういうコメディーがいいなと思って。どの世代が見ても楽しいし、子どもから大人まで笑って帰れる。でもメッセージもこもっている。そのバランスが一番いい作品かなと思います。
自分は作品によって、いろんなイメージを持ってもらえていると思うんです。近年の作品って『宝飾時計』も『くるみ割り人形外伝』も『共闘者』も、どれもイメージが違うと思うので。ただ、『月刊「根本宗子」』っていう劇団をやっていて、ねもしゅーって呼ばれていて、女子のリアルを切り取ってるっぽい、みたいに、本当に側だけの私の印象を持ってる人も、まだまだ多いと思うんです。 演劇って値段も高いし、時間も長いし、見に行くハードルも年々上がっているなと感じていますが、今回の作品は55分で4500円、学割だと3000円台で見られるので、「ねもしゅーってこういう感じだよ」っていうのを、一番キャッチーに伝えることができる作品だと思っています。あんまり自分を知らない方にも、すごく見てもらいやすい作品だと思います。
本当は、ニューヨークとかロンドンみたいに、ずっと1年中これをやっていて、「じゃあ、今日は当日券でこれ見よう」みたいな舞台が、日本各地にあったらいいなと思うんです。自分が演劇好きだからこそ、この作品がそういう存在になれたらいいなと思っています。
――会社帰りにちょっと時間空いたから、ふらっと観に行って、げらげら笑って、いい気持ちで夕飯食べて帰れるような
そうですね。観た後にご飯を食べながらいろいろしゃべれるっていうのがいいなと思っていて。3時間の芝居だと、観終わったあとにご飯食べに行けなかったりもするじゃないですか。
――重い作品だと、ぐったりして食べれなかったりもしますよね
その良さももちろんあるんですけどね。でも今回は、友達と観ても面白いし、恋人と観ても面白いし、家族と観ても面白いし、ひとりでも楽しめる。そういう意味での総合点を、バランスよく担っている作品かなと思います。
――最後に、大阪公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします
劇団として大阪に行くのは初めてなので、まだ劇団公演を見たことないっていう方や、小日向さんのお芝居は見たことあるけど『月刊「根本宗子」』では見たことない方など、これまで観たことがない方にもぜひ来ていただきたいです。劇場もアクセスしやすい場所にありますし、京都とか奈良とか関西近郊の方はもちろん、その時期たまたま大阪にいる方にも、気軽に足を運んでもらえたらうれしいです。限界ギリギリの我々を観て、何かの活力にしていただきたく思います。(笑)






取材・文:上田智子
あらすじ
結婚相談所を舞台に繰り広げられるハイテンション、ハイスピードな60分間の完全2人芝居のノンストップ会話劇。
幼馴染で、元恋人同士の35歳の男女が、お互いが知らない間に同じ結婚相談所に登録をしていたことをきっかけに巻き起こる婚活コメディ。
現在の社会現象にもなっている結婚相談所のリアルを切り取りながらも、リアルでは終わらせない演劇の楽しさをふんだんに詰め込んだ作品。
根本宗子 コメント
2024年に東京で初演を行った「腑に落とす。」という二人芝居。
俳優の小日向星一さんと、ノンストップ会話劇に挑んだこの演目は痛快なコメディ作品としてお客様に愛され、2025年には「Marriage Hunting」とタイトルをリニューアルして日本語、英語、韓国語バージョンでの上演も果たしました。
そして、ついに今年2026年、劇団としては初の大阪公演に参ります。
大阪に持って行くなら絶対に「Marriage Hunting」と決めておりました。
自分が好きな演劇のテクニックやギミックの詰まったおもちゃ箱のような作品です。
客層を問わない、誰もが「最高〜!」な気持ちで劇場を出られる作品だと思っています。皆さんに最高をお届けできるように2026年も必死に自分で描いたこの作品に振り落とされないように俳優としても舞台上で、小日向くんと使命を果たそうと思っております。日常にお疲れの方々の活力になれるような楽しいムードをご提供できるように精一杯努めます。関西の皆様、どうぞよろしくお願いいたします。もちろん他の地域からのご旅行観劇もお待ちしております。劇場でお会いしましょう。
