『銀幕の果てに』矢島舞美×木﨑ゆりあ インタビュー

1994年に発表された、つかこうへいの長編小説「銀幕の果てに」が、2019年春のつかこうへい復活祭VOL.2として初めて舞台化される。
映画撮影所を舞台に、映画界の裏側を描きながら繰り広げられる告発サスペンスの物語で、伝説の女優・玲子を中心にした女優版のバックステージ秘話とも呼べる作品。演出は、つか作品を数多く手掛ける岡村俊一。主演は、昨年「LADY OUT LAW!」で岡村の演出を経験した矢島舞美。そのほか、味方良介、木﨑ゆりあ、石田明、佐久本宝、松本利夫らが名を連ねる。
主人公・玲子役の矢島、玲子に虐げられる女優・涼子役の木﨑に話を聞いた。


――「銀幕の果てに」に出演が決まっての感想からお聞かせください。

矢島「演出の岡村(俊一)さんには去年の秋に『LADY OUT LAW!』でお世話になって、そこからこうやって『銀幕の果てに』をやらせていただけることがすごく嬉しかったです。つかこうへいさんの作品という意味では、体当たりしていくようなものすごいエネルギーや台詞量の多さのイメージがあったので、やるからには気合いいれていかなきゃ!みたいな気持ちでした。嬉しさとプレッシャーに背筋が伸びた感じはしました」


――木﨑さんは昨年の「熱海殺人事件」ぶり、二度目のつか作品になりますが。

木﨑「そうですね。だから個人的にはソワソワしています(笑)。前回、つかさんの作品に触れて、楽しかったこととか悔しかったこともたくさんありました。つかさんの作品をやり切る壁ってすごく高いので、今回もその壁を自分がいかに越えられるかだと思っていますし、『二回目のつか作品なのにこんなもんか』と言われないように。がんばらなきゃなと思っています」


――木﨑さんにとっては、味方さんや石田さんと『熱海殺人事件』で共演したメンバーがほとんどですね。

木﨑「安心感があります。まだ稽古が始まっていないのですが、もういろいろ相談にのって頂いています」


――なにを相談するんですか?

木﨑「『熱海殺人事件』もそうだったんですけど、まず台本を読んで意味がわからん……」

矢島「(笑)」

木﨑「それで『どうしよう!』と思って味方さんに相談したら、「とりあえず映画『蒲田行進曲』を観ろ」と言われました。リンクすることが多くて、この本も少しわかるようになりました」

矢島「私も台本を読んで不安になりました(笑)。自分の理解力が無さ過ぎるのか!?と思って。登場人物みんなに内に秘めているものと表に出ているものがあるし、映画の世界と現実とが入り交ざっているし、『この台詞はどういう気持ちで言ったらいいんだろう?』みたいな混乱とかも生まれちゃって。久保田(創)さんが、『台詞自体の気持ちがわかるなら、作品全体のことを考えずに、とりあえずその気持ちで読んでみよう』って言ってくださって。今はそうやって読みはじめている段階です」


――稽古が始まる前に、集まれる人だけで読み合わせをしているそうですね。

矢島「そうなんです。みんなが揃うことはまだないんですけど、本読みをしています」


――実際に口に出して読んでみて、どう感じていますか?

木﨑「一人で読んで『わからないな』と思っても、本読みでは皆さんがつかさんの魂が入った熱量で読んでくださるんですよ。そうすると『その感情で言われたら、自分はこういう感情になるな』って引き出してもらえる感覚があります」


――矢島さんの演じる幻の女優・玲子はどんな役ですか?

矢島「ドシッとしているなって思います。ワガママなところがあるんですけど、それはみんなを試していてのことで、玲子自身に余裕があるからこそなんですよね。そこがカッコいい。台詞の一つひとつが私自身にもすごく刺さりますし」


――こういう強い役はどうですか?

矢島「小さい頃、私はすごく気が強くて、男の子と普通にけんかするような子だったので」

木﨑「意外!」

矢島「だからもともと持っているものはあります(笑)。そういうところを出していきたいです。ただ、玲子という人物は、みんながイメージする姿と違う部分を持っている人物だなということはすごく感じます。台詞には出ていないなにかがたくさんある。一見意地悪な言葉でも、愛を感じたりするので、そういうところも出していきたいです」


――木﨑さんが演じる涼子は、玲子に振り回される“脇役女優”という役どころですね。

木﨑「読んでみてシンプルに思ったのは、演じる者として口に出したくない台詞がけっこうたくさんある役だなと。これを言ったら女優として負けだなというような。ただ、それがいいのか悪いのかは置いといて、それを言うからこそ涼子は強くなれるし前に進めていて。自分だったら言いたくないですけど(笑)、でも涼子は言ってしまうし、言わなきゃいけない立場なんだなって思う。大部屋女優で難しい役どころだなと思うのですが、同じ役者の役なので楽しみです」


――難しい役どころだと思ったのはどうしてですか?

木﨑「うまく言えないですけど、“ただの大部屋女優”ではなく、実力もあって認められるべき人なのにそこにいけないのはなぜか、みたいな話だったりすると思うので。そういうところが難しいなと思います」


――おふたりはあまり仲良くはない役ですが、現場で例えば離れるようにしたりするんですか?

矢島「そういうのはないですね。逆になんでも話し合えるようになれたらいいなと思っています」

木﨑「やっぱり信頼関係がないとぶつかり合いもできないと思うので」


――信頼関係が大事だと思ったのは?

木﨑「私は『熱海殺人事件』のときに実感しました。稽古を始めて最初は、私がみんなを信頼できていなくて。けど、だんだん演技でぶつかって、気持ちでぶつかって、言わずとも通じ合えるようになった感覚がありました」


――それはご自身の中でも「信じよう」と思う瞬間がないと難しいと思うのですが、そう思うことがあったんですか?

木﨑「そうさせてくれる人たちだった、という感じです。だから本当に運がよかったなと思います」

矢島「私も『LADY OUT LAW!』のときに、どう心を開けばいいのかわからなかったんですけど、やっぱり皆さんが『ご飯行こう!』と誘ってくれて。そういう時間も含めて、皆さんが心を開けるような空間をつくってくださっていたんだなってすごく感じますね」


――今はもうそれが自然とできるようになってますか。

矢島「そうですね。してもらったぶん、自分もしていきたいですし」


――おふたりとも岡村俊一さんの演出を受けるのは2度目になりますが。

矢島「岡村さんにお世話になった『LADY OUT LAW!』のときに私、飲み込みが遅かったんですよ。でもそんな私が一歩先に進めるようにいろんな工夫をしてくださって。台本にはない裏側のシーンを作ってみてくださったり、『こういう気持ちでやってみて』と言われてやってみたら、今までにない気持ちが生まれたり、私を成長させるためにあれこれいろんな策を練ってくださったと思います」


――そこで知ったことってどういうことですか?

矢島「ちょっとの違いでこんなにも違うんだってことです。音が変わるだけで気持ちの動きが全然違ったり。あと、お芝居って正解もないし、奥も深いし、どうにでもなるんだっていうことを知りました。難しいけど楽しいってすごく思いましたね」

木﨑「私もそういうことが多々ありました。しかも『熱海殺人事件』が終わってからも気にかけてくださって、今回この作品にオファーをいただいて、岡村さんに今の自分の課題を渡されたような感じがしています。今の自分が乗り越えなきゃいけないものが詰まっている役どころで、『これを越えてもっと高いところにいきなさいよ』って言われているような。だからこそ期待を越えていけるようにがんばりたいです」


――矢島さんは主演ですが、主演という立場は重いですか?

矢島「重く感じてしまうんですけど、皆さん『そんなに気を張らなくていいよ』って言ってくれてて。だからわからないことは聞いたりとか、頼って助けてもらいながらつくっていけたらいいなとは思っています」

木﨑「良いチームワークのなかでできたらいいですよね。私も、もらうだけじゃなく与えなきゃいけないし、与え合わないといけないし、だからこそ支えたいし、支えられる人間になりたいし、頼ってほしいし、突っ走ってほしいし、それについていきたいです」

矢島「今回の玲子という役は、スターってこうあるべきなんだというのを台本からも感じていて。玲子として立つからにはそう立たなきゃって、どしっと構えていようとはすごく思っています。だけどそれと同時にこのカンパニーのみんなもすごく頼りにしているので、みんなでつくっていきたいです。『銀幕の果てに』は初の舞台化なので、そういった意味でも皆さんにいい衝撃を届けられたらいいなと思います」

 

インタビュー・文/中川實穂