「おだまり、お辰!」会見レポート

2026.05.11

5月の新歌舞伎座[5月10日(日)~5月31日(日)]、6月の明治座[6月12日(金)~6月21日(日)]で上演される『おだまり、お辰!』。藤山直美、高畑淳子をはじめ日本の演劇界を代表する芸達者な役者陣が集まり、笑いと人情の世界が繰り広げられる。公演を前に、藤山、高畑、吉田栄作、ベンガル、岡本圭人、柄本明という出演者6人と作者の横山一真の会見が大阪市内で行われ、公演に向けての抱負や思いが語られた。

きっかけは正反対のふたり

本作が生まれたきっかけについて、作者の横山は「直美さんと高畑さんのお二人で喜劇を作ろうというところから始まりました」と説明する。「そこに素晴らしい役者さんがたくさん集まっていただければ丁々発止のドラマができるんじゃないかと。しかも役どころも高畑さんは関東在住の貴婦人、直美さんは関西出身のその女中という設定で、身分も言葉も生まれもまったく違う。あらゆることで対立する二人が一人の男性を好きになって、二人三脚で人生の旅をしていく。そのなかで二人の間に逆転現象も起こる。きっとおもしろい作品ができると確信しました。」

気心の知れたメンバーと日本で一番の女優

藤山直美にとって、今回のメンバーは吉田栄作と岡本圭人以外、共演経験もあり、気心の知れた人ばかりという。
「高畑さんとは十三年前に『ええから加減』という舞台で漫才コンビを演じたのです。こうしてまた、巡り合えたことがうれしいですね。喜劇のなかで、私が先輩と呼んでいる方は柄本先輩とベンガル先輩と綾田先輩の三人だけなんです。みなさんの劇団『東京乾電池』の舞台にも出していただいて、いろんなことを教えていただきました。尊敬すべき先輩方と一緒にお芝居ができることは喜びです。初めての共演の栄作さんはテレビでたっぷり拝見していましたし、岡本さんはお父さま(岡本健一)を知っているので、まさか息子さんとお芝居するとは夢にも思わなかった」と、共演者一人一人とのエピソードを語る。そのうえで「心をひとつにしていいお芝居を作りたいですね」と笑顔を見せた。
劇中、直美ふんする女中のお辰と丁々発止のやりとりをする伯爵未亡人の高畑淳子は「藤山直美という日本で一番の女優さんとお芝居するというのは身の引き締まる思い」と言い、「前回共演したとき、直美さんとは搭載エンジンが違うんだなあと思いました。まるで中国の超一流の卓球選手の球を必死で返していく気分。気がついたらへとへとで何も覚えていない状態でした。その人とまたやると思うと不安でいっぱいなんですが、一方でうれしい気持ちもあります。共演の海千山千の芸達者な方々のお力をお借りして頑張りたいと思っています」。

共演者の熱い思い

共演陣はベテランから若手までキャリアはさまざまだが、全員、舞台への思いが強いメンバーで期待が高まる。
「このお話がきたとき、すぐにやらせていただきたいと返事しました」というのは吉田栄作。「僕の役どころは陸軍の医者で、ある一座の座長です。藤山さんと高畑さんから恋される男性で、台本には侍のような凛とした男性と書かれていますので、そこはしっかり演じたいですね。ただ、後半、ちょっと天然なところもあって。自分でも楽しみです」。
ベンガルの役どころは伯爵未亡人の執事。「直美さんとは七年ぶりくらいの共演ですが、僕らはアングラ演劇育ちなので、直美さんのお芝居を見るたびに、すごいな、すごいな、と思っています。いい意味で、職業女優ですね、直美さんは。国宝というか、天然記念物というか」と笑わせれば、政財界の大物になっていくという役どころの柄本明も「三十年ほど前、(歌舞伎の十八世中村)勘三郎さんに呼んでいただいて新橋演舞場に出させていただき、『浅草パラダイス』というお芝居で直美さんと初めてご一緒しました。恐怖でした。どうしてか、ですって?お上手なんですよ、どうしようもないくらい。ベンガルの言うように職業女優なのに、アマチュアの精神性も持っていらっしゃる。なんでまた、今回やるなんてOKしたのか、自分でも信じられないです」。
その言葉を聞いた藤山は「いやいや、柄本さんが出てきただけで成立する芝居があるんですよ。すごい人やなあと思います。役者として私らが持っていないものを柄本先輩やベンガル先輩は持っていらっしゃる。よき意味で共存共栄になるんじゃないかと思っています」と、二人の役者としてのおもしろさを語った。

「息子なの?」

会見の途中、柄本は突然、岡本圭人のほうを見て、「初めて知ったんだけど、あなた、(岡本)健一の息子なの?お父さんとは一緒にお芝居したこともあって『健一』って呼んでいたんだよ」と声をかけると、岡本は「そうなんです、僕のことも『圭人』と呼んでください」と答え、場内を沸かせた。
岡本の役どころは伯爵未亡人の甥。「世間知らずで甘ったれ。でも世の中を変えたいという熱い思いを持っていて、栄作さんが演じる男性をとても尊敬しているという役どころです。喜劇は初めてですので、めちゃめちゃ緊張していて、どうして自分がいまここにいるのか、わからないくらい。でも先ほど直美さんから『岡本ジュニアと一緒にできるのがうれしい』と言っていただいたので、父の名に恥じぬような演技ができればと思いました」と真摯に語った。

絹のドレスと綿の着物

本作のおもしろさについて、藤山は「高畑さん扮する貴婦人は絹のドレスを着て育った女性、私のお辰は綿を着て育った女性。そういう二人が一緒にいることによる摩擦ですね。差別的な話ではなく、環境の違いによって生まれる摩擦が笑いになったりドラマになったりするんじゃないでしょうか」。高畑も「私が演じる伯爵未亡人は、これまでの人生で、思ったことを正直に言い返してくれる人に出会わなかったと思うんです。だからお辰のように本当のことを言ってくれるのが心地よいし、信頼を寄せていた。そういう人と何年も互いの人生を見続けて、九十歳近くなって再会する。そこがいとおしいですね」。

喜劇の面白さと難しさ

今回の座組は演劇や芸能の出自が異なる俳優が集まった。それだけにおもしろい化学反応が起きそうだ。そんななか、岡本は喜劇初挑戦となる。
「喜劇は一番難しいと思っています。この機会に、先輩方からいろいろ学んでいきたい。なによりお客さまの心を動かせるように」と岡本。ベンガルも「喜劇用の演技というのはないと僕も思っています。人が深刻にやればやるほど面白みって出てくる」といえば、吉田は「今回の座組は同じ芸能の世界とはいえ、全然違うところで生きてきた人たちが同じ作品に向かっていく。そこが楽しみです」。
最後に藤山が「登山口は別々でも同じ山を登っていったら山頂で会えます。生きてきた場所も人生も違うと、本の解釈も違ってくるところがあるかもしれませんが、そういう難しさも心得ながら、みなでいい作品を作っていきたいと思っています」。高畑も「客席がいっぱいになって、そこに笑いが生まれ、そんなことあったなっていろんなこと思い出していただけるような、そういうお芝居になればいいですね」と語った。

インタビュー・文/亀岡典子<産経新聞大阪本社客員特別記者>
撮影/高村直希

※高村直希の「高」は「はしごだか」が正式表記