左から)百名ヒロキ、鈴木勝吾、山本一慶
7年の時を経て奏でる“始まりの物語”
ピアノとヴァイオリンの生演奏が紡ぎ上げる濃密な世界観。“犯罪卿”と“名探偵”という対照的な二人が繰り広げる頭脳戦と唯一無二の関係性。2019年の初演以来、ミュージカル『憂国のモリアーティ』は多くのファンに愛され、熱狂を巻き起こしてきた。
2023年の『Op. 5 -最後の事件-』で一つのクライマックスを迎えたのちは、「Reprise(リプリーズ)」と銘打ち、人気エピソード『Op. 2 -大英帝国の醜聞-』を再構成。新たなフェーズへ突入した。
そして2026年、原作が連載10周年を迎えるアニバーサリーイヤーに、『緋色の研究 Reprise』と題し、原点であるOp. 1の再構成に挑む。キャストは、本シリーズの顔であるウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役の鈴木勝吾、シャーロック・ホームズ役の平野良を軸に、Op.チームとRepriseチームの2チーム体制で上演。ウィリアムを敬愛するルイス・ジェームズ・モリアーティ役は、Op.チームでは山本一慶、Repriseチームでは百名ヒロキが演じる。
2つのチームが織りなす調べは、きっと『モリミュ』の可能性をさらに更新するはずだ。
― ― 鈴木さんと山本さんにとっては、7年ぶりのOp. 1です
山本 7年も経ったんだ。
鈴木 僕がこの作品のお話をいただいたときに聞いたのが、ピアノとヴァイオリンの生演奏でやるってことと、既存の2. 5次元ミュージカルじゃないものにしたいという思いの2つで。そこが、自分が参加するトリガーとして面白かったんですよね。しかも蓋を開けてみたら、崇高な理念を持ったウィリアムが世界を変えようとする物語で。いろんなことが自分の中でマッチしたのを今でも覚えています。
山本 やっぱり7年前はさ、キャスト同士の関係値もまだ初々しい部分があったじゃない?そこからストーリーが進んで核心に迫っていくにつれて、僕らもどんどん仲良くなって。今の関係値でOp. 1をやったらどうなるんだろうっていうのは、ちょっと面白いよね。
鈴木 やっぱり何かしら新しい発見はある気はするけどね。
山本 あと、7年前だから結構忘れてるだろうし(笑)。
鈴木 めちゃくちゃ目に浮かぶ。一慶が「こうだった!」「思い出した!」とかやってそう(笑)。
山本 絶対やってる!(笑)
― ― Op. 1では、アルバートを含めた3人で歌う『三兄弟の秘密』が非常にシンボリックでした
鈴木 そうですね。この曲は稽古をしながら、なんだかんだと(歌詞が)増えた曲ではあるので。
山本 当初の1. 5倍くらいのボリュームになったよね。
鈴木 このフレーズがないとわからなくないですか!?みたいなディスカッションを重ねていくうちに、徐々に拡大していって。そんな曲が、第三者の目線からシンボリックと言ってもらえるのは、当時の僕らの創作の証なのかなと思えて、純粋にうれしいです。
― ― 3兄弟で掛け合うように歌が続きます。演じているみなさんはどんな気持ちでしたか?
山本 最初から楽しかったです。どう表現するか悩んだ記憶は特になくて。むしろ兄弟としての絆を表に出さず隠していたから。やっと3人でモリアーティなんだというのを素直に出せる場面。だから、ただただ素直にルイスとしての想いを歌っていました。
鈴木 ああ、意味わかんないけど、泣きそうになってきちゃった。
山本 なんでよ!(笑)。
鈴木 わかんない。いろいろ思い出してきちゃった。
山本 『モリミュ』の中でも兄弟が素直に気持ちを出せる数少ない曲なので、それを3人で歌えたのは素敵な思い出として今も残っています。
鈴木 なんで今涙が出そうになっているのかというと、ルイスが「この頬の火傷は命捧げる証」って歌って、それをアルバートが受け継いで、最後に僕が受け取って、「この道の先は孤独と思っていた」と歌うんだけど、いつもこの曲を歌うたびにひでくん(久保田秀敏)からも一慶からもいろんなものをもらって、3人で共有してたんだよね。アルバートが「ウィリアムに理想を捧げよう」と歌って僕に託してくれたときの目の色とか、一つひとつ景色が今もすごく残っていて、ちょっと涙ぐんでしまいました。それくらいこの作品にとってシンボリックであり、僕たちにとっても中核となるような曲です。なんなら毎公演あってもいいくらい。
山本 ないんだよね、こういうふうに3人で想いを歌う曲って。途中途中で3人が歌う曲は出てくるけど、『三兄弟の秘密』みたいにお互いに想いを飛ばすような曲は、Op. 5まで見てもこの1曲だけじゃないかな。
鈴木 そうだね。
山本 だからずっと『三兄弟の秘密』いいよねって言い続けていました。それを改めて今回また歌えるというのは、やっぱり特別な想いがありますね。
鈴木 まあ、こうやって僕たちが思い出を語れば語るほど、僕は彼(百名)の性格をよく知ってるからアレですけど(笑)。(百名を見て)どうですか。
山本 そうだよね、ずっと無言で聞き続けていたもんね(笑)。
百名 いや、もう聞けば聞くほど、すごい作品に参加できているんだなという気持ちが大きくなるというか……。
鈴木 聴いた? この曲。
百名 聴きました。つい最近、Op. 1の映像を観させてもらって、もうグッと来ました。
鈴木 グッと来るものがあるよね、あのリレーしている感じとか。
百名 歌詞だけ読んだら、ここまでの経緯を説明するっていう感じで、クールにカッコよく歌うのかなと思ったんです。そしたら、めちゃくちゃ熱く歌っていたので。なんでしょう、言葉じゃない、想いが前面に出ていた。この熱量を初演から出してくるのはすごいなと思ったんですけど、今のお二人の話を聞いて納得しました。勝吾くん、泣いてましたよね。
山本 泣いてた泣いてた。
鈴木 本番ね。そうかも。
百名 観ながら、これどうやって稽古していたんだろうなと思ったし、自分はどうやるんだろうとも思いました。
山本 どうやってたっけ?ずっと「違くない?」って言って稽古してたよね。
鈴木 「なんか違うよね」って。
山本 じゃあ、こうしようああしようって好き勝手やった結果、ああなった。
鈴木 そのあたりも今回、新演出版でどうなるかは面白いところですよね。(演出の)西森(英行)さんは歌唱中の演出に関しては振付師の方の感性を最大限に尊重するタイプなので、新しく振付を担当する(広崎)うらんさんによって、どういう演出になるのか楽しみにしています。もちろん、Op.チームとRepriseチームでどう変わるかっていうところも含めて。高いじゃない?ルイスのパートも。
山本 「に」で高いのはやめてほしいんだよ〜(笑)。
鈴木 「に〜さん」みたいなね。
山本 「に」は苦手なんだなって。
鈴木 イ母音は出しにくいんです。
山本 裏返っちゃうのよ。
鈴木 「い」と「ん」は高いところに持っていっちゃいけないっていう。
山本 なのに、ルイスはずっと「に〜さん」「に〜さん」って言うから。そこがね、本当大変です(笑)。
― ― この曲はラストの鈴木さんのところも相当高いです。Op. 1はまさに絶唱といった感じで、聴いている人たちの胸も絞られるものがありました
鈴木 当時の歌い方と今の歌い方ではまた違うので、リトライしてみてどうなるのかは、僕自身も個人的に楽しみにしているところです。
山本 楽しみだね。
鈴木 終わったあと、よく一慶とも話してたね。「今日のどうだった?」みたいな。
山本 言ってたね。勝吾くん、最後は本当にもう毎回調整しながらって感じで。
鈴木 高いからね。今回、歌えるのかはわからない(笑)。とにかくやってみて、だね。
― ― ノアティック号事件のエピソードでは、ウィリアムとルイスによる『想い』もあります
山本 この曲は、ルイスが秘めていた想いを初めて兄さんに伝える場面。ルイスとしても、初めてウィリアムに向き合えた気がして。僕にとっても、勝吾くんと舞台上でちゃんと会話できた感じがしたのは、この曲が初めてなんですよね。この曲があったから、Op. 5の『あなたがくれた命』につながった。そういう意味でもすごく大切な1曲です。
百名 前回の『大英帝国の醜聞 Reprise』で歌わせていただいたのは、兄さんのいないところで兄さんを想って歌うという曲で、だから歌で勝吾さんと会話はしていないんです。今回、この曲を通して会話ができるのはうれしいですね。
― ― 山本さんは、百名さんのルイスをご覧になりましたか?
山本 観ました、ゲネプロで。可愛かったですね。
鈴木 一慶のルイスとは可愛さの種類が違うよね。
山本 なんかね、百名を感じました。子犬感があって。
鈴木 子犬感あるね。いろいろ違って、こっちとしては楽しめました。
山本 素敵でしたね。リアルな弟感というか。
鈴木 ミッションをこなすときの殺意の量も違うんだよな。ともすると、ヒロキのほうが怖いとも言えるのかなって。
山本 確かにね(笑)。
― ― 山本さんのルイスと百名さんのルイス、鈴木さんはどこに違いを感じましたか?
鈴木 ウィリアムとルイスの関係性で受け取るものは同じなんです。ただ、やっぱり俳優のタイプが違うから、その性質によって、お芝居自体が変わるみたいなところはあったなって感じています。言葉にするのは難しいですけど、ヒロキはお芝居そのものが繊細で内向的。もう少し自分から拡大してもらえるお芝居にしなさいという話もしたことがあるんですけど。
一同 あははは。
山本 先生じゃん!(笑)。
鈴木 ヒロキの中にすごく野心家な部分があって。でも、タガが外れなきゃそこまでいけない。特にルイスのような抑圧的な役をやると余計そうなっちゃうから、もっとお芝居でそこを解放していいよという話をして。一慶のルイスと比べると、ヒロキのルイスのほうが俺が引っ張る部分が大きいのかなという気はしました。ただ、兄弟の関係値としてはどっちも成り立っているんですよね。だから、どっちも面白い。
百名 ありがとうございます。
鈴木 一慶とやるとこれが正解なのかと思うし、ヒロキとやるとこっちが正解なのかなとも思った。それこそ『三兄弟の秘密』の話に戻りますけど、ヒロキとは『大英帝国の醜聞』から一緒にやったじゃない?あのエピソードを経てこのお話に戻ったヒロキの『三兄弟の秘密』から受け取るものは、また一慶とは違うんだろうなって。そこからどういうものが生まれるんだろうなっていうのは、もう楽しみしかないです。
― ― では最後に。ルイスはウィリアムに深い敬愛を寄せています。ルイスの兄さん愛に負けないくらい、みなさんがリスペクトや愛を寄せている人を教えてください
山本 むっず!
鈴木 一人はむずいよ〜(笑)。
百名 じゃあ、ズルい答え出しますね(笑)。僕は、自分ができないことをできる人にリスペクトがあります。台本を書く人とか、曲をつくる人とか、そういう人たちのことは純粋に尊敬しています。
鈴木 え〜。ズル!
山本 愛か〜。愛は永遠のテーマですよね……。
鈴木 う〜ん。俺の中で、ウィリアムって答えもあるんだよな。
山本 それこそズルくない?(笑)。
鈴木 違うの、ちゃんと理由があって。『憂国のモリアーティ』は腐敗した大英帝国や貴族社会に対するアンチテーゼが根底にあって。初演の2019年から時は流れたけど、あの頃以上に世界情勢だったり、ひた隠しにしていたものがわかりやすく表沙汰になってきているじゃない?そういう中で、今、僕たちは何を選ぶんだという選択を迫られている。そう考えたら、世間に知られず、あらゆるものを背負い込んで、計画を遂行してきたウィリアムの覚悟を改めて痛感するというか。すごいなと思うし、憧れでもある。実際、僕の今の信念や思考はウィリアムに影響を受けているところが多分にあります。創作の中の登場人物だけど、織田信長のような史実の偉人と同じくらい、僕の人生に影響を与えてくれた人物。敬愛しているし、実在しない彼をこの世に顕現させるために僕のこの体を使えることを、心から光栄に思っています。
山本 なるほどね。じゃあ、僕が愛を寄せているのは、やっぱり自分ですね。
鈴木 なんか、それぞれズルい逃げ方をしたな(笑)。
山本 そう言った勝吾くんも素敵だなと思うし、百名も素敵だなと思うし。でもそうやって人のことを素敵だなと思える心を持っている僕も素敵だなと思います。
百名 自己肯定感が高い(笑)。
鈴木 一慶はずっと自己肯定感高いから(笑)。
山本 自己愛は大切です。これからもそう思える俺であり続けようと改めて思いました(笑)。
インタビュー&文/横川良明
Photo/岡田晃奈
ヘアメイク/古橋香菜子 吉田梨々花
スタイリング/MASAYA(鈴木のみ)
※構成/月刊ローチケ編集部 5月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布
【プロフィール】
鈴木勝吾
■スズキ ショウゴ
饗宴『世濁声』では初の脚本・演出を手掛ける。ミュージカル『翼の創成紀』・『SPY×FAMILY』、舞台『鋼の錬金術師』などに出演。
山本一慶
■ヤマモト イッケイ
俳優、演出家として活躍。近作は劇団『ドラマティカ』SPECIAL ACT、楽劇『フィガロ』など。
百名ヒロキ
■ヒャクナ ヒロキ
’17年『ボクが死んだ日はハレ』で初舞台。近作はつかこうへい十七回忌特別公演『熱海殺人事件』ラストメッセージなど。
