虚淵玄の伝説的サスペンスホラーゲーム「沙耶の唄」が、演出家・末満健一によって朗読劇として上演される。
主人公の匂坂郁紀役を演じるのは、蒼井嵐樹、荒牧慶彦、岩崎悠雅、梅津瑞樹、佐藤流司、福澤 侑の6人。ヒロイン・沙耶役はオーディションで選ばれた池田朱那と大熊杏優がWキャストで演じる。
狂気と絶望に満ちた世界で咲く純愛が、どう朗読劇として表現されるのか。脚色・演出を手がける末満健一、そして匂坂郁紀役を演じる岩崎悠雅にインタビュー。作品に挑む思いを聞いた。
―末満さんは公式コメントで「名づけ難い別の感情」と作品への印象を言葉にされていましたが、初めてこの物語に触れた際の率直な思いをお聞かせください
岩崎 本当に衝撃的な作品で、率直に「これできるのかな?」と思いました。こんなに現実世界から引き離されたような感覚というのは味わったことがないですし、郁紀が味わっている“人が肉塊に見える”という感覚をどう表現したらいいのか。それは作品に出会ってからずっと、いまでも考え続けています。
末満 原作の虚淵玄さんも所属するニトロプラスとは「刀剣乱舞」でご一緒させてもらっていますが、10年くらい前に「こんなゲームもあります」といただいてプレイしたのが最初です。当時は、まさかこうして朗読劇化するとは思ってもいなかったですけど(笑)。手塚治虫先生の「火の鳥」や、僕ら世代のオタクは一度は通っているクトゥルフ神話。そういった要素や露悪的なものが存分に盛り込まれていて、終わってみれば胸にズシンとくるものも残る。「なんなんだ、これは!」と、なんとも言えない感情になる作品というのが最初の印象でした。

―朗読劇化にあたって、どういったことを意識されていますか?
末満 「舞台でやったら面白そうですよね」という雑談から始まったので、実は朗読劇ではなく舞台にする可能性もゼロではなかったんです。でも、直接的な舞台化だと原作の持つ混沌とした世界観が狭まるような気がして。朗読劇ならではの舞台上に提示される不足した情報と、お客さんが想像で補うもの、その中間地点で面白い作品が出来上がるんじゃないかな。そこがいい塩梅に混ざりあう作品したいですね。まあ、朗読劇と言っても結構動く予定ですが(笑)。
―岩崎さんは現時点で匂坂郁紀をどう捉えていますか?
岩崎 難しいですよね。最初は単に彼の境遇がかわいそうだなと感じていたんですが、ストーリーが進んでいくと、恋って周りが見えなくなるんだなとか、彼は彼でいま見えている世界でどうにか心地よく生きられるようにもがいているんだな、とか。彼のもがく姿を通して、怖いだけじゃなくて、美しさや重さ、心の震えとか、言葉にできないぐちゃぐちゃな感情で皆さんの心をいっぱいにできたら。そんな思いで演じていきたいなと思っています。
―末満さんからご覧になって、郁紀役の難しさとは? また郁紀を演じる役者陣に期待することがあれば教えてください
末満 郁紀は表層的に演じてしまうと簡単にヒールになってしまうんですよね。それも魅力の一つだとは思いますが、人間誰しもそれぞれに生きづらさを感じていて、だけど、この人がいるから生きていけるんだっていう部分があると思うんです。そういう共感できる部分が、郁紀にもあると思うんですよね。彼のやっていることは邪悪な行為かもしれないけれど、観る人が自分を重ね合わせられる部分もあるはずなので、そこを失わないようにできたら、面白い役になる予感がします。
―郁紀役は全部で6人のキャストがいます。ほかの5人のことは意識してらっしゃいますか?
岩崎 そうなんですよ! 最初顔ぶれを知って本当にびっくりしました。え、この岩崎って僕で合ってる? と(笑)。しかも僕が初日を担当するので、お客様の中でも僕の郁紀が基準になると思うと、プレッシャーは感じています。でもここを乗り越えたら、役者としてもレベルアップできると思うので、プレッシャーを逆にポジティブに考えていこうと思っています。
末満 郁紀も大変だけど、6人の郁紀と1人で対峙する戸尾耕司役の松田 岳くんも今回は大変でしょうね。
岩崎 たしかに!
末満 耕司はもう1人の主役といってもいいぐらい、郁紀と物語に迫るキャラクターなので、そこも見どころの1つです。

―お二人は2025年上演の舞台『刀剣乱舞』士伝 真贋見極める眼でご一緒されていますが、お互いにどういった印象をお持ちですか?
末満 「士伝」では岩崎くんの演じる源清麿が、みんなの輪から一歩外れているポジションだったので、あまりがっつり一緒にやったなという感覚がなくて(苦笑)。キャラクターを丁寧にきめ細やかに演じるなという印象はあったので、今回岩崎くんが郁紀をどう演じるのか、いまから稽古が楽しみですね。
岩崎 ありがとうございます! 僕が初めて観た末満さんの作品が、舞台『刀剣乱舞』綺伝 いくさ世の徒花で。帰り道でボーッとするくらい、言葉にできない美しさに圧巻された衝撃をいまでも覚えています。それから作品でご一緒して、末満さんならではの美しさを身を持って経験したので、「刀剣乱舞」とはまた違った「沙耶の唄」が持つ恐怖や愛、美しさがどう料理されるのか、いまからすごく楽しみです。
―最後に公演を楽しみにしているファンへのメッセージをお願いします
末満 すごくハードコアな内容ですが、自分が原作をプレイしたときに受けた衝撃や、「沙耶の唄」ならではの形容し難い心の動きを舞台でも届けられたらと思います。ぜひお楽しみに。
岩崎 郁紀として、原作ファンの方に自信を持って作品をお届けできるようこれからの稽古に臨みたいと思います。初めて作品に触れる方にとっては、衝撃的で重たい作品になるかと思いますが、郁紀と沙耶の愛など何かしらをお客様に持ち帰っていただけるような作品にしたいです。今回6人のキャストで郁紀を演じるので、それぞれの色を楽しんでいただけたらと思いますし、僕は初日に「これが朗読劇『沙耶の唄』です」と胸を張って出せるように頑張りたいなって思っていますので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
取材・文/双海しお
