こたけ正義感『弁論2026』ツアー|こたけ正義感 インタビュー

こたけ正義感がたった一人でステージに立ち、60分間ぶっ続けで語るスタンダップコメディショー『弁論』。たった2年前に80人の観客の前で始まったこの公演は回を重ねるごとに話題を呼び、なんとこの冬、全国4ヶ所ツアー、東京は8000人規模の劇場で上演される。今回の『弁論2026』のこと、彼が見据えるこの先のことなど、話を聞いた。

過去最大規模の『弁論』で語る“自分の話”

──昨年の『弁論』前に取材させていただいたとき、こたけさんが「来年『弁論』で1万人行けますかね?」と聞いてくださったのが強く印象に残っています

そうでしたね!できるだけ早く武道館に辿り着きたかったので。

──蓋を開けてみれば『弁論』は去年の時点で8000件の応募があるプラチナチケットに。そして今年は全国4カ所ツアー、東京は8000キャパの東京ガーデンシアターでの上演となりました

僕はなんなら今年にも武道館でやりたいと思っていたくらいなんです。ただ、やはり武道館で開催するには実績も必要ということで、手前でもう一段階段を昇ることにして。せっかくならその中でも一番大きいところでやろうと。全国で見たいという声をいただけたので、じゃあツアーもやってみるかということになりました。

──2024年の『弁論』では世間的にも話題となっていた袴田事件を取り上げ、大きな注目を集めました。そして昨年の題材は、生活保護に関する「いのちのとりで裁判」。昨年を上回る反響があったと思います。動画は期間限定公開にも関わらず、160万回再生に。なぜそんなにも広まったと思いますか?

コメント欄がすごく盛り上がったんですよ。公演内でご紹介した弁護士ご本人もコメントを寄せてくださいましたし、福祉事務所でケースワーカーをされている方、生活保護を受けている当事者の方もコメントしてくれた。一昨年の冤罪以上に、多くの人が自分に近いテーマとして聞いてくれたのかなと思います。

──袴田事件の際は、広報担当としてご自身が関わられていたというきっかけがありましたが、昨年「いのちのとりで裁判」を取り扱った理由は?

60分間話せるものという条件を考えたとき、弁護士をメインでやっていた頃に経験したもの、実際に自分が触れたり関わったりしたものを題材にとる方が、やっぱり話しやすいんですよね。自分の中にあるもので、かつ社会と接点のあるテーマ。基本的には毎回、“自分の話”をするつもりでやっています。前回は生活保護を題材にしようかなと考えていた時期に、司法修習生がやっているイベントをネットで聴講したんですよ。そしたらちょうど『いのちのとりで裁判』の話をしていて、裁判の結果を覆すきっかけとなった判決文の誤字についてもチラッと触れていたんです。その時に『おもしろ! これいいかも』と思って。

──では、過去最大規模となる今年の『弁論2026』で扱う題材は?

全く決まってません。毎年この時期が怖いんですよ。公演をやることだけ決まっていて、内容がゼロ。もちろん、『多くの人は知らないけど、面白いだろうな』というテーマは山ほどあるんです。エゴサーチをすれば『この事件、こたけに聞いてみたい』というポストも出てきますし(笑)。でも、その中から自分ごととして話せる題材を探すところが難関なんですよね。自分が関わっていなくて興味もないのに、とってつけたように注目の事件の話をしても、それは本来やろうとしていたことではなくなってしまうので。

──今回は特に、4カ所での公演となりますが、回を重ねるごとに変化していく可能性は?

それはあります。テーマや骨組みといった大きな部分は変わりませんけど、シンプルにお笑いのネタとして、ウケるよう修正していくのはこれまでもやってきました。

──あくまでも「ウケるように」なんですね

もちろんです。ウケることが第一義ですから。『弁論』だけで僕を知っている方からしたら意外かもしれませんけど、仕事が増えていっても、基本的には純粋にお笑いの仕事をやろうと思っているんです。弁護士のイメージに引っ張られすぎないように、あくまでもお笑い芸人として見てもらえるようにという部分は意識しています。

──以前お話を伺った時、こたけさんは60分漫談というスタイルのスタンダップコメディを独占するつもりはなく、他の芸人さんにも積極的にやってほしいと話されていました。一年経って、その広がりはいかがですか?

いろんな人がこの形式に興味を持ってくれていますし、僕きっかけでなくても、やる人が明確に増えていると思います。元和牛の川西(賢志郎)さんも今『ワンマントークショー』という形でライブをされていますよね。僕自身、今度ZAZYさんとスタンダップのツーマンライブをやりますし(※6/22に開催、アーカイブ配信販売予定)。ピン芸人って、単独ライブをやっても集客に苦労するし、ネタだけで食べていくことが難しいんです。でもスタンダップコメディであれば長く続けられるし、お笑いファン以外の方も見に来てくださる。だから、いろんなピン芸人の方が、それぞれの色を活かした長尺漫談をやればいいと本気で思っています。

8000人を前にしても、声さえ届けば今まで通りに

──それにしても、8000人キャパを前にたった一人で立つのはなかなかすごいことだと思います。お笑いの方が大規模なライブをやる場合でも、仲間を呼んだりして複数人でやることが多いですよね?

だからこそ、一人でやることのインパクトはあるだろうなと思います。渡辺直美さんの東京ドームライブを見たら、いろんな方を呼んでのコントみたいなこともされていましたけど、最初に40分間くらい一人でスタンダップをやってらしたんですよ。要はエピソードトークですけど、途中で普通に会場に来ている中学の同級生に挨拶する時間もあったりして(笑)。数万人の前で友達としゃべるなんてよく考えたらとんでもないですけど、違和感なく見られた。だから、別に大きいからって特別なことをしなくてもいいんだなと思いました。声さえ届けば、会場の空気が一つになるような気がしているので、僕も今まで通りにできればと思っています。

──去年の時点で武道館、その先の東京ドームも見据えてらっしゃいました。いつから拡大路線を意識していましたか?

最初の『弁論』が2年前の4月で、80キャパだったんですよ。それが終わった後に海外のスタンダップコメディを見るようになって、もう2回目の『弁論』の時には「いつかドームで」と思っていたと思います。

──ところで、こたけさんといえば、話題になったニューヨークさんによる「本当にメロい芸人ランキング」で2位を獲得したのも記憶に新しいですが

“芸人のくせに”と揶揄されがちですけど、“メロい”がブームになってるのは確かじゃないですか。だから僕は悪いとはあまり思っていなくて。知っていただく入口はなんでもいいんですから。

──そういえば、こたけさんはかつて自身が敗者復活戦に参加した年のR-1ぐらんぷり(現・R-1グランプリ)を盛り上げるために、自作の宣伝カーで街を走り回っていたこともありましたね。メロい芸人ランキングは受動的なものだとしても、何かと“仕掛ける”ことが得意な方だと思います。『弁論』をこれだけ大きな規模で開催するのもある意味仕掛けの一つかと

確かに、社会に向けて仕掛けるのは好きです。ネタもそうですけど、その反応を見るのが楽しみでやっているという面はかなりありますよ。『弁論』も、『これをお笑いにしたらみんなびっくりするやろな』というワクワクで作っているところがありますね。

──『弁論』で今年の8000人規模の公演とツアーを経て、さらに武道館、ドームを目指されている。もし達成したら、その先はどう考えていますか?

今はNetflixです。

──それはいいですね!

Netflixには、スタンダップコメディの番組がたくさんあって。世界中に配信されるから、アメリカのコメディアンはそこを目指しているんです。僕の『弁論』も世界中で見られてほしい。日本人ではまだ誰もやっていないからこそ、それが僕にとって最大の、目指すべき山だと思っています。

インタビュー・文/青島せとか
Photo/山本倫子