2026年夏、また新たな伝説の舞台が誕生しようとしている。スーパー歌舞伎、待望の新作『もののけ姫』がいよいよ7/3(金)に幕を開けるのだ。
伝統的な歌舞伎と現代のスペクタクル満載の演出を融合させた画期的な歌舞伎の新たなジャンル、スーパー歌舞伎が誕生したのは1986年のこと。三世市川猿之助(二世市川猿翁)を中心に一作目の『ヤマトタケル』を始め『八犬伝』(初演1993年)、『カグヤ』(初演1996年)、そして『新・三国志』シリーズ(初演1999年~2003年)などの名作の数々を上演し多くの観客から支持を集め、新ジャンルのエンターテインメントとして確立された。
一方、スタジオジブリの宮﨑駿が原作、脚本、監督を手がけた壮大なスケールの映画作品「もののけ姫」は、1997年に公開後、四半世紀が経過しても世代を超え、国境を超えて広く愛されている不朽の名作。人間と自然との壮絶な衝突、そして共生への願いが描かれるこの物語が、果たしてスーパー歌舞伎となることでいかなる新たな息吹を感じさせてくれるのか、興味は尽きない。
演出は横内謙介が担当し、出演は呪いをかけられた少年・アシタカに市川團子、山犬に育てられた少女・サンに中村壱太郎、タララ場を統率するリーダー・エボシ御前に中村時蔵、猪神一族の最長老・乙事主に市川中車が勤めることになっている。
その製作発表記者会見が6月初旬、都内にて行われ、松竹株式会社・取締役副社長の山根成之、株式会社スタジオジブリ・代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫、演出の横内謙介、そして出演陣からは市川團子、中村壱太郎、市川中車が登壇して今作への熱い想いを語った。それぞれの主なコメントは以下の通り。
山根成之(松竹株式会社・取締役副社長)

「三代目猿之助(二代目猿翁)さんがスーパー歌舞伎を始められて40年という節目の記念すべき年に、こうしてスタジオジブリさんと一緒に会見ができますことを嬉しく思います。宮﨑駿さんの世界観、久石譲さんの音楽で創られているこの『もののけ姫』は従来の歌舞伎よりもスーパー歌舞伎のほうがいいのではないかと考えて、鈴木さんとも相談させていただき、最終的にこうしてスーパー歌舞伎で行こうということでこの場までたどり着きました。感無量でございます。今までにご覧になったことがないような舞台となるよう、キャスト、スタッフ一丸となって皆様のご期待に応えられるように頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」
鈴木敏夫(株式会社スタジオジブリ・代表取締役プロデューサー)

「今、思い出していたことが二つありまして。一つはこの『もののけ姫』という企画を映画でやろうとした時、周りのいろいろな方から反対されたんです。なぜかというと、映画作品でいわゆる時代劇はもう流行らない、そんな時代にジブリの宮﨑さんとはいえ時代劇を創るというのは違うのではないか、というんですね。でもそういうご意見を一つ一つクリアにし、映画を完成させることができた。おまけにその作品がこうやって歌舞伎の世界でも再現できるわけですから、ちょっと感動しています。宮﨑も「『もののけ姫』は時代劇でチャンバラなんだ、それが歌舞伎になるというのはごくごく自然な流れじゃないか」と言っておりましたので、そのことも付け加えておきます。
それについ先日、僕のラジオに團子さんと壱太郎さんが出演してくださって、そこでもいろいろな話ができたんです。それもあり、このお二人が出演して頑張っていただけるなら成功は間違いないと思っています。さらになんと言っても、今回は中車さんもいらっしゃるんですからね。今日すごく久しぶりにお目にかかったんですけれど、なんだか以前の中車さんじゃないんですよ(笑)。前はくだらないことばっかり言っていたのに、今日はとても立派で。ぜひ頑張ってください。もちろん演出の横内さんも、どうぞよろしくお願いします!」
横内謙介(演出)

「『もののけ姫』という、もはや日本国民にとっては神話のような作品に、我々がずっと愛し続けているスーパー歌舞伎、この二つの大きなタイトルが一つの舞台になるわけです。このような素晴らしい仕事に参加させていただけていることにとても感謝し、その期待に応えなければいけない責任の重さを痛感しております。スーパー歌舞伎を始めた二代目猿翁さんは、常に現代人に届く舞台にしなければいけないとおっしゃっていました。古典を守りながら、その一方でスーパー歌舞伎を創った理由が、まさに現代人に届くストーリーだったんです。もちろん『もののけ姫』にはそのストーリーがしっかりあるので、今回やる意味がとてもあるのですが。そしてスーパー歌舞伎の時には毎回のようにスローガンのような、キャッチコピーのようなものをと必ず言われていて。それで“夢見る力”(『新・三国志』)とか“天翔ける心”(『ヤマトタケル』)とか付けていたんですね。今回は我々が勝手にそういうことをやるわけにはいかず、表だっては付いていませんが、演出するにあたり僕の中では“ともに生きよう”という言葉をスローガンにしたいな、と思っていまして。そのことを、今日ここに来る前にお墓参りをして猿翁さんにもお伝えしてきました。ちなみにこの“ともに生きよう”というのは、アシタカが何度も言う台詞でもありまして。つまり彼は「シシ神の森とタタラ場とともに生きる道はないのか」、「もののけと人間はともに生きられないのか」と問いかけながら、ずっと苦しい道を戦っていくわけです。それ以外にも、この言葉はたとえば「東と西、ともに生きる道はないのか」、「北と南とはともに生きる道はないのか」、「イスラムとキリストとではともに生きる道はないのか」、「男と女は、ともに生きる道はないのか」という風にあらゆることに対して、まさに現代の我々が考えなければいけない、解決していかなければいけないテーマであるとも考えられます。また今回は「アニメと歌舞伎」という異質のものが一つの舞台になるわけで、まずはこの二つがともに生き、そして我々創り手もみんなで一つになってともに生きて、さらにお客さんと出会ってまたともに生きる。そういうユートピアみたいな時間が生まれるよう、全力を尽くしてまいります」
市川團子<アシタカ/シシ神>

「このスーパー歌舞伎というものは、私の祖父が現代の方々にも歌舞伎の魅力を伝えたいという精神のもと、命がけで創始したものでございます。『ヤマトタケル』をはじめ、祖父のライフワークのような活動でもございました。今回は祖父がいない状態での、初めてのスーパー歌舞伎の新作となります。そして、この『もののけ姫』という作品は国内外でも人気の作品で、ジブリの代表作でもある本当に魅力的な作品でございます。この二つの大きな冠のもと、新作歌舞伎として上演するということに正直、怖さもあります。ただ、しっかりと覚悟を持ってどうにかしてこれが良い舞台となって一人でも多くの方に感動していただき、明日を生きる活力となる舞台となるように、皆で力を合わせて誠心誠意取り組んでまいりたいと思っております。
アシタカというお役について、自分がキーワードとして考えているのは、まずは寡黙な人だということ。つまり寡黙な分、一つ一つの言動に意味の比重が大きくなるんですね。それで、どういう動機でその行動をとったのか、どういう理由でその発言をしたのかというような、台本解釈の比重も特に大きいお役だと思っております。加えてもう一つ、アシタカはスーパー歌舞伎第一作『ヤマトタケル』のヤマトタケルにも似ている人物だと、僕は思っているんです。ヤマトタケルも王子ですが、アシタカも本来であれば村の王になるべき存在だった。それから、呪われた運命を背負いながらも、腐らずに前を向いて進んでいるという点においても、アシタカとヤマトタケルには通じ合うところがあると思っていて。ですから、2年前にヤマトタケルを演じさせていただいた経験を今回は生かしながら、このアシタカに挑めるということは大変ありがたいことだとも思っております。
最後にもう一つ、僕はこれがアシタカという人物の根本部分だと思っているのですが、物語の最後のほうで、シシ神がすべてを破壊し、そして新たな形で再生するというのが物語の流れとなるのですが、それはきっと、どんなに大勢の人間が手を尽くしたとしても変えられない運命だったんだと思うんですね。でも、それをただ諦めて見過ごすのではなく、アシタカはそれでも「どうにか共生の道がないか、どうにかみんながより良くなる道がないか」と奔走し続けるわけです。そうやって奔走する姿が、人々の心に残るんだと思うんですよ。だからシシ神が全部を破壊したのち新たな形で再生するという運命が変えられなかったにせよ、その先何十年、何百年、何千年と経っていった時には、アシタカの行動が結果的に大きな影響を及ぼしていて、実は未来を大きく変えているんじゃないか。と、現時点ではそういう風に僕はアシタカを解釈しております」
中村壱太郎<サン>

「おそらく僕の人生で、今日は最も大きな歌舞伎の記者会見になっています。目の前にこんなに大勢の人がいるのを、初めて見ました(笑)。それだけ注目されているということですよね、改めてワクワクとドキドキを感じています。
このお話をいただき、『もののけ姫』というこの映画作品を改めて観て深く知っていく中で、先ほど鈴木さんが時代劇とおっしゃっていましたが、確かに僕もこれは時代劇であり、そして冒険活劇でもあるなと思いました。だってまさに我々は、歌舞伎の歴史を脈々と時代として感じながら今、冒険しているので。この『もののけ姫』という作品があって、横内さんの演出があって、團子くんと中車さんがいて、そしてたくさんの出演者とスタッフがいて。そのみんなで7月3日の初日から8月23日の千穐楽まで、活劇としての冒険をこれからしてまいります。
舞台で、生身で、この『もののけ姫』を表現するということにはとてつもない緊張を感じます。またサンというのは、一言では表せませんが、少女と獣を掛け合わせた歌舞伎の女方になるのではないかとも思っております。しかもありがたいことにタイトルロールでもありますからね。その使命感をまといながら、常にアンテナを張りつつ、この役を勤めたいと思っております。
これは役者の性(さが)でもありますが、お役をいただくとまずはどうしてもサン目線で映画も台本も見てしまうのですけれども、そこにはもちろん自分の目に映るものよりもさらに壮大な世界があるとも思っていまして。先ほどお話に出ていたように、まず人と人がどう生きるかということ、そして人と生きものがどう生きるか、さらにもう一つ世界を大きく広げて考えると生きものと自然がどう生きるかということ。その大きな輪の中で、自分はどうやってサンを演じるのかというところが大きなポイントになると、改めて思っているところです。
ぜひ一人でも多くの方に観ていただきたいだけでなく、これはやはり新しい歌舞伎の、新時代の幕開けの舞台になると僕は今感じています。とにかく「この舞台を見なければ損だ」と思わせるような作品にしたい、と思っております」
市川中車<乙事主>

「登壇している皆様のお話からも大変な熱が伝わってきて、この公演はきっとすごく豊かなものになるという予感が今しております。熱で溶けそうだな、と思いながらここに座っておりました。まず1986年に父(二世市川猿翁)がスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』を打って出た時、おそらく先ほど鈴木プロデューサーがされた『もののけ姫』を発信した時のお話と同様に「やめたほうがいい」という意見があったと聞いております。しかし父は『ヤマトタケル』を成功させ、それから40年が経ちました。その時、父が感じていた熱というものは今、僕がこの空間で感じている熱と似ているようなものかもしれません。
その父が手掛けたスーパー歌舞伎が最後に上演されたのは『新・三国志Ⅲ・完結編』、2003年でございます。そして年が明けて2004年1月に、團子がこの世に誕生いたしました。父が病に倒れたのも2003年の終わりから2004年1月にかけてでございまして、『ヤマトタケル』を初めて團子が主演したのは、父が亡くなった2023年の翌年でございました。こうやって考えると、すべての流れが符合しているように感じます。ここで、この『もののけ姫』がスーパー歌舞伎として漕ぎ出ていくことが大変に意味があるように、今思えてなりません。横内さんもおっしゃっていましたが「この場面を父だったらどうするか、父ならどう考えるか、父だったらどう思うか」。この気持ちを澤瀉屋全員で感じつつ、壱太郎さんと時蔵さんの力を借りながら、共に前に進んでいく。これが今回のスーパー歌舞伎の骨子だと思っています。
現代はいろいろなものを細分化して見つめ、その原因と結果は何なのか、なぜこうなったのか、と因数分解をして仔細に眺めたがる時代になっているとも感じています。たとえば一本の映画にしても、ストーリーの最後のこの場面は何が伏線となっていたのか、こういうことがテーマだからこれを言いたかったに違いない、などと観終わったあとみんなであれこれ話す、これが現代です。しかし、おそらくスタジオジブリさんの多くの作品はそういうものではなくて。観る時によって、あるいは観る人の年代によって作品の印象はがらりと変わります。実際、僕もこの年になって『もののけ姫』をもう一度見直してみたのですが「やはりこの部分はこういうことだった。でも、この部分はいまだにわからない」という部分がありました。何通りにも見ることができる、そんな層の厚さがある作品なんですね。一方で、歌舞伎というものははっきりと打ち出すことのできるストーリーだったり、それ以上に音曲がもたらす響きだったり、その場のしーんとした雰囲気だったり、室町時代にまで連れて行かれているようなその場の質感だったり。そういう、仔細に因数分解したものではない、大きなマクロな視点のもので訴えていく文化だと思っております。この二つの意味からも、僕は『もののけ姫』というスタジオジブリの作品、そして歌舞伎というものが非常に同じようなマクロな視点から創られているように感じていまして。最後に團子と壱太郎くん、彼ら二人が首を上げた時にお客様がその熱い気持ちを受け止めていただけたら「ああ、そういうことか」と答えが感じられるような気がするんです。それは、具体的な言葉にはできないかもしれません。しかし「これが答えなんだ」というような抽象的なイメージを我々が上演時間中に積み上げていくことで、一瞬で脳が理解できるものとは違う、心根のところで劇場にいるすべての人たちが全部を感じることができるような作品にこれはなるべきであろう、と。そんなことをおぼろげながらですが、僕はこの台本から感じているところでございます」

いろいろな意味で“超越”が感じられる、このタッグ。いよいよ本格的な稽古もスタートし、新たな『もののけ姫』の世界が舞台に出現することになる。史上初の劇体験が味わえる、貴重な夏になりそうだ。
なお、ローソン演劇宣言ではこの製作発表会見が敢行される直前、市川團子と中村壱太郎を独占直撃! 近日中にその模様も紹介する予定なので、そちらの記事もどうぞチェックをお忘れなく。
取材・文:田中里津子
撮影:篠塚ようこ
