KERA CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』|マギー・柄本時生 インタビュー

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の戯曲を、様々な演出家たちが異なる味わいで新たに創り上げる連続上演シリーズ・KERA CROSSの第七弾『シャープさんフラットさん』が上演される。KERAの半自伝的戯曲となる本作は、2008年にナイロン100℃結成15周年記念公演として上演され、そのときに俳優として出演していたマギーが今回演出を担う。サナトリウムを舞台に繰り広げられる群像劇をどのように立ち上げるのか、マギーと、主人公の劇作家・辻煙役の柄本時生に話を聞いた。

──マギーさんは今回演出として、改めて本作の面白さをどんなところに感じていますか。

マギー 初演に出演していたときには気づけなかった部分で言うと、普遍性があるというか、KERAさんの半自伝的な作品と言われると非常に個人的な作品なんじゃないか、という先入観があるかもしれませんが、いつの時代でも通用する強度のある戯曲だったんだな、ということを感じています。

──時生さんはKERAさんの作品への出演は初めてとのことですが、現時点でどういう面白さを感じていますか。

柄本 群像劇として非常によくできている作品というか、一人ひとりの事情であったり、一つひとつの家族の姿であったりがしっかり見えるところが秀逸でいいなと思っています。思いのほかいっぱい泣かされるので、びっくりしますね。

マギー 実は、泣きの要素みたいなところはKERA CROSS版ならではかもしれません。初演と比べて群像劇であることをより意識して、年齢も含めた各キャラクターのリアリティや説得力をキャスティングの段階からこだわった結果、こんなに泣ける話だったんだ、と気づかされるところが多い印象です。台本を読んだだけでは泣けると思ってなかったようなところも、そのキャラクターの体と声を通すと泣けたりするんで。

柄本 (うなずきながら)驚きますね。

マギー ね。この稽古期間で、初演以上にヒリヒリした部分とか、それぞれのキャラの内面を掘ることにきっちり時間をかけて造形できたので、なんかおかしなことをやっているのにジーンとくるとか、ヒリヒリしたことをしているのに逆に笑えるとか、そういう複雑で重層的な作品に仕上がってきているということは、自信を持って言えます。

──時生さんがマギーさんの演出を受けるのは今回が初めてですが、現時点でどんな印象を抱いていますか。

柄本 マギーさんは、何でしょうね……先生な感じ(笑)?

マギー それ言うよね(笑)。多分、最初の稽古でホワイトボードを使って1時間くらい説明したことが、先生みたいな印象として残っちゃってるんじゃないかな?全然先生じゃないんだけど(笑)。

柄本 確かに、それで先生の印象を強めたかもしれない(笑)。マギーさん自身が俳優さんなので、俳優が陥りやすいところを的確に分かってくれる感じがあるんです。セリフを言うのが難しくなってしまっているなとか、稽古を重ねるうちに心とは関係なく反射でセリフが出てきてしまうなとか、どうしよう? となっているときに、マギーさんが「じゃあ、こうやってみようか」とか言ってくださるだけで、全てが新鮮に変わるんですよね。そういうのが「すげえな!」と多々思っています。

マギー 今回のキャスティングは、みんな自分が好きで選んだ人たちなんです。キャリアとか舞台の経験値とかもそれぞれ違うんだけど、全員に今までより舞台を好きになってもらってこの公演の千穐楽を迎えたい、と思っています。作品を完成させるだけでは終わらないで、とにかく演劇を好きになってこの“マギー学校”を出てほしい(笑)。

柄本 アハハハハ! マギー学校になっちゃった!

──お稽古でご一緒してみて、マギーさんから見た時生さんはどんな俳優でしょうか。

マギー もちろん上手なのは分かっていたんだけど、思っていた以上に直感とか瞬発力とか、言うなれば天才性のようなものを感じています。これはみんなに言っていることなんだけど、「あんまり事前に考えてこないで、稽古場で感じたものでどう動くか、ということを大事にしてほしい」と伝えていて、それを時生くんはちゃんと実践しているんです。だから、僕が台本を読み込んだうえで考えていたものを超える動き、実際に煙を演じてみないとわからないような動きやテンションが現れる瞬間がいくつもあって、「すげぇな」と感動しています。その姿勢が周りにもどんどん影響を与えているから、素晴らしい座長だと……座長感は全然ないんですけど(笑)。

柄本 座長感ないですね(笑)!

マギー 顧問の先生が喋りすぎてみんなをグイグイ引っ張るから、キャプテンの影がちょっと薄くなるっていうタイプの部活だな(笑)。顧問の先生が「ほら、やるぞ!」って言って。

柄本 僕らが「はーい」って言って集まって(笑)。稽古場はすごく楽しくて皆さんと仲良くしているんですけど、僕、やっぱり次男気質なんですかね。

マギー なんか「エイエイオー!」みたいなことが似合わないよね。いや、やんなくていい、愛されてるから大丈夫!

──そんな時生さんが演じる煙は、どういう人物像として立ち上がってきていますか。

マギー 煙は主人公としては魅力的だけど、実際にこんな人がいたら嫌だろうな、と思うタイプなんですが、今回時生が煙に注入したのが、ある種の幼稚性なんです。幼稚性がある人って手がつけられないというか、大人として話ができないって一番タチ悪いじゃないですか。「あ、時生の煙、いいな」と思ったと同時に、僕が知る限りの天才たちのことを思い浮かべてみたら「あ、みんな幼稚なとこあるよな」と思ったんですよね。

柄本 幼稚性というのは言えて妙で、言い方が正しいのかわからないですけど、わがままというか、そういうところは意識しているかもしれないですね。

マギー そうそう、わがままというか、幼稚性というか、もちろん簡単な一言では表せないものなんだけど。

柄本 そうですよね、それだけじゃない何かがあるような気はしているんですけど。

──煙役に時生さんをキャスティングした決め手というのは、どういうところだったんでしょうか。

マギー 煙は、葛藤したり悩んだりしている時間が多いんですよね。黙って人の話を聞いている時間も多いので、そのときのたたずまいを考えたときに、僕が以前からイメージしていた時生の黙っている姿には、そこはかとない喜劇性があったんです。クリエイターとしての葛藤が見えるとか、笑いを突き詰めすぎてこうなってしまっている現状とか、そういう多層的な意味をたたずまいで見せることのできる人だな、というのがありました。キャスティングで僕が考えるのは、セリフを言ってないときにその役に見えるかどうか、なんですよね。だから「聞いてるときにこそ、キャラクターが出るよ」みたいなことはみんなにも言っていて。

──マギーさんは今回演出するにあたり、初演に出演していた経験はプラスになってますか、あるいはマイナスになってしまうと感じることがありますか。

マギー マイナスはないかな。ある意味、初演と全く違う人たちをキャスティングしているので、初演の残響や残像がちらつくとかいうことがないんですよ。スタッフとキャストには初演の映像を「できれば見ないで」と言っていたので、初演に引っ張られたり、逆にあえて違うことをしようとしたり、ということもない状態でやれています。

柄本 僕は初演の映像を見ちゃったんです(笑)。

マギー 見ちゃってもいいんだけど(笑)。

柄本 見たけど、もう正直よく覚えていなくて、でもなんとなく勉強にはなってるのかな……よくわからないですけど。でも、まだ稽古初期の頃、セリフの言い方とかがなかなか見つからなかったときに、大倉孝二さんのモノマネをしたときがあって。初演のときの大倉さんではなくて、他の映像作品とかに出演しているときの大倉さんのイメージでセリフを言ってみたら、松永玲子さんに「大倉くんに似てる瞬間がある」って言われて、「やべえ、バレた」って(笑)。今はもう全然違う方向性でやっているので、大倉さんを感じることはないと思いますが。

マギー ああ、でも結構役者ってそういうアプローチするときあるよね。全然自分とマテリアルが違う人をイメージしてやってみて、そこから作っていくと、まさかそこにヒントがあったとは、みたいなキャラが出来上がることもあるから。モノマネが上手すぎると「今の完全にあの人だよね?」とかってなりますけど(笑)。

──この作品を通してお客様にどんな体験をお届けしたいですか。

マギー 簡単に言語化できないものを持って帰ってもらいたいというか、面白かった、怖かった、悲しかった、泣いた、だけではない「なんだろう、この感じ」というような、簡単に感想をSNSにアップできないような何かを持って帰って、それを楽しんでもらいたいですね。もちろん面白いところもあるんだけど、何か一個引っかかるような言葉にならない何かが残せたらいいなと思っています。

柄本 全員が主役だと言っていいぐらい素晴らしい群像劇になっているので、いろんな人たちの人生が垣間見える作品を楽しんでいただけたらと思っています。ぜひ見に来てください!

取材・文:久田絢子