撮影:阿久津知宏
女優・声優として活躍する戸田恵子による舞台『虹のかけら~もうひとりのジュディ』が6月19日(金)に東京・銀座 博品館劇場で開幕した(7月5日(日)まで、その後、秋田・青森・宮城・神奈川・ 愛知・大阪・鳥取・岡山・兵庫・福岡・熊本・長崎・沖縄を巡演)。
本作は、映画「オズの魔法使い」のドロシー役などで知られる女優、ジュディ・ガーランドの専属代役兼付き人だったジュディ・シルバーマンの目を通して、同じ“ジュディ“への愛憎と、ジュディ・ガーランドの数奇な人生を描いた作品で、三谷幸喜が構成・演出を務めて2018年に初演、翌年全国23か所のツアー、2024年には全国ツアーに加えニューヨーク・カーネギー・ワイル・リサイタルホールで上演され、今回は2年ぶりの再演となる。
初日に先立ち、取材会と公開ゲネプロが行われた。




取材会には三谷と戸田が登壇した。本作が生まれたきっかけを問われた三谷は、「戸田さんが60歳になられたときに、これからずっとやり続けられるような作品をやりたい、と言われて考えた」と答えた。戸田は、最初に台本を読んだときの感想について「ジュディ・ガーランドのことを描いたわけではなく、ジュディ・ガーランドを私が演じるわけでもないが、ジュディ・ガーランド像が浮かび上がってくるような仕掛けになっている作品で、三谷さんはさすがだなと思った」と語った。それを受けて三谷は「初演の時は台本がなかなかできなくて、ご迷惑をおかけした」と回想。戸田も笑いながら「台本が6日前に上がってきた。ご覧いただければ私のことを尊敬していただけるのではないか」と、台本の完成から6日で初日を迎えた当時を振り返った。
自身にとって三谷はどういう存在かという質問に、戸田は「演出を受けると自分の新しい引き出しが必ずどこか開く。それが三谷さんの演出の楽しみ。三谷さんとは『なにわバタフライ』という、私の初めての一人芝居もやらせていただいた。本作は私の還暦の記念ということで作った作品で、お芝居ともちょっと違う、エンターテインメントショーという感じで、私のやれることを全部盛り込んでいただいている」と述べた。
戸田はどんな女優かという質問に、三谷は「僕にとってはかけがえのない方。僕のやりたいことを一番理解してくれているのはこの方なんだな、ということを感じる。歌で感動させる表現力も含めて、本当に素晴らしい方だと思っている」と語った。また、三谷は「僕は元々、戸田恵子さんの大ファン。初めて戸田さんのお芝居を拝見したのがここ、博品館劇場だった」と、今回の上演が博品館劇場でスタートすることに感慨深い様子を見せた。
出演者は戸田のみという本作での苦労や、出演にあたっての努力について聞かれると、戸田は「ひたすら体調管理を気にしている。睡眠に勝るものはないと思うのでとにかく寝ることと、少しジムにも通っている。8月9日(日)までやるので、体調管理だけが心配。調子が悪くなっても誰も代わってくれる人はいない」と語った後、隣にいる三谷を示して「でも、代役をされるのは得意なので」と会場の笑いを誘った。これまで自身の作・演出作品で急遽代役を務めることが何度かあった三谷は「まあ、やれと言われればやりますけど、歌があるのが……」と応じた。
今回の再演にあたり、どういうところを見てもらいたいか、という質問に、戸田は「いろんなことをやってみよう、とバンドの皆さんにも協力をしていただいて、新たに増やして楽しくなっている部分もある」、三谷は「音楽監督の荻野さん含めミュージシャンの方々のアイディアが凝縮した感じになって、再演を重ねることでこんなふうに成長するんだな、と思う」とそれぞれ答えた。
観客へのメッセージを求められると、戸田は「4度目の上演となるが、より円熟味を増したと言っていただきたいし、若返ったねとも言っていただきたい。お芝居でもないコンサートでもない新しい形のショーで、ジュディ・ガーランドを知らなくても楽しんでいただける作品なので、お子さんから年配の方までたくさんの方に来ていただきたい」、三谷は「ジュディ・ガーランドという素晴らしい歌手がいて、素晴らしい曲がたくさんあったということを、戸田さんがここで再現しているので再確認してほしい」とそれぞれ語り、取材会を締めくくった。
続いてゲネプロが公開された。


ステージ上にはピアノ、ドラム、ベースが設置され、それぞれ荻野清子、BUN Imai、鈴木陽子が演奏のためスタンバイすると、戸田が「これから舞台をお届けする戸田恵子」として登場し、本作が上演されることになったいきさつなどを観客に向けて笑いを交えながら説明し始める。ひとしきり説明が終わったところで、1曲目の「I got rhythm」の演奏が始まった。ジュディ・ガーランドがカバーした、ジャズの名曲である。軽快な演奏と、戸田の力強い歌唱、にぎやかな照明効果などもあり、ジュディ・ガーランドのキャリアの華々しいスタートを思わせる。


物語は、ジュディ・シルバーマンが書いた日記を戸田が朗読する、というスタイルで繰り広げられる。映画「オズの魔法使い」のオーディションで出会ったふたりの“ジュディ”だが、この映画で人気スターの座を獲得したガーランドと、そのスタンドイン(代役)として常にそばにいたシルバーマン、と立場は大きく分かれてしまう。ガーランドに恋人を奪われたり、つらいときだけ頼りにされたりと、翻弄されるシルバーマンの愛憎入り混じる複雑な思いが、戸田の情感たっぷりの朗読から伝わってくる。
戸田は、物語の進行役のときは軽妙でテンポよく、日記の朗読のときはシルバーマンの気持ちに寄り添うように懐の深い演技で見せるといった、絶妙な切り替えで三谷の台本を舞台上に立ち上げる。歌唱シーンでは美しい身のこなしや豊かな表情、声色の使い分けで、歌の世界観をドラマティックに展開する。特に、ジュディ・ガーランドがグラミー賞を受賞したエピソードが語られた直後に披露される「Get Happy」が強い印象を残す。ジュディ・ガーランドの代表曲の一つで、明るい曲調で「Get Happy=幸せになろう」と繰り返し歌うのだが、戸田は帽子を目深にかぶり、その表情は観客からは見えづらい。乱れた生活により表舞台から離れていたジュディ・ガーランドがグラミー賞で見事に復活を果たした「幸せ」なシーンのはずなのに、その歌唱には「幸せ」とは対極の硬さが感じられる。ジュディ・ガーランドの復活を、ジュディ・シルバーマンはどのような思いで見ていたのか。そしてガーランド自身はグラミー受賞をどのように感じていたのか。1曲の中で観客の想像力をどこまでも広げさせる戸田の巧みさに魅せられる。


取材会で戸田本人が「私のやれることを全部盛り込んでいただいた」と述べた通り、戸田の様々な魅力をたっぷりと楽しめる構成になっている。場面によってはミュージシャンたちも登場人物の扮装をしたり効果音を出したりと、戸田をバックアップして物語に彩りを添える。


果たして、ふたりの“ジュディ”の物語はどのような結末を迎えるのか、ぜひ劇場で見届けて欲しい。名曲の数々を楽しみながら、戸田の魅力と三谷の構成力によって物語に引き込まれ、見終えた後には爽やかな気持ちになれる作品だ。
取材・文/久田絢子

