スーパー歌舞伎『もののけ姫』市川團子&中村壱太郎 独占インタビュー

7/3(金)に待望の幕が開く、スーパー歌舞伎の最新作『もののけ姫』。スタジオジブリによる国民的な人気映画が歌舞伎舞台化されるという、この夏の最注目舞台だ。ローチケでは、6月初めに行われた製作発表会見の直前にアシタカ役の市川團子と、サン役の中村壱太郎を独占取材!
作品への想いや、役づくりに関することなど、たっぷりと語ってもらった。

――本日はこのあと製作発表会見がありますが、まずは現在の心境をお聞かせいただけますか。

團子 祖父が命をかけて始めたスーパー歌舞伎と、スタジオジブリの名作で代表作でもある『もののけ姫』という二つの冠のもとで新作を創る、ということ自体は正直、怖いという気持ちもあります。でも先日、ジブリの鈴木敏夫さんとお会いしてお話しさせていただいたばかりで、今日の会見が初対面ではないので、その点では少し心は柔らいでいます(笑)。とはいえ、会見では発する言葉の一つ一つが大きな意味を持ちますから、今は身の引き締まる思いです。とにかくいい会見にして、このあと稽古、本番、すべてがいい流れに乗っていくように祈っています。

――いよいよ、一歩目のスタートみたいなところもありますね。

團子 そうですね。もちろん全体の演出をしてくださるのは横内(謙介)さんで、ひとまず自分にできることは主にアシタカの役づくりになりますが、もし横内さんから意見を求められたら「こういうのはどうでしょうか」と意見を伝えられるように準備していたいと思っています。実は、裏側、製作側から作品づくりに関わらせていただいたのは今回が初めてで。やはり今までとは少し違った、いい意味での重みみたいなものも感じています。

壱太郎 今日これから記者会見ということで、いよいよここからが始動ということになります。最初に、この『もののけ姫』をスーパー歌舞伎で上演するという情報が解禁になったのは昨年の11月でした。その後、僕らとしてはスチール撮影をしたり、いろいろと準備は続けてきましたけれども、それでもまだまだこの舞台のことをご存じない方も大勢いらっしゃいます。「本当にやるの?」と思っていらっしゃる方もまだいると思いますので、ここは会見を通じてしっかりと自分たちの言葉で想いを伝えたいと思っています。舞台はもちろん全力を尽くして創っていくというのは当たり前ですが、とにかく一人でも多くの方に公演をやるということを知ってもらうことを意識しながら初日までの時間を過ごしたいなと思っております。

――ようやく今日から、具体的なことが語れるようになるわけですね。

團子 そう、まさに今日から、ですね。

壱太郎 今日の会見のあとに、初めての読み合わせをやるので。だけど歌舞伎の稽古の速度感から考えると、これでも動き出しとしては早いほうなんですよ。ただ「歌舞伎舞台化だから」という言葉だけでは処理できないくらいに壮大な大作でもあって。誰もが知っている映画作品を歌舞伎舞台化するというのは、今までにない大きな挑戦ですから。そこをどれだけ組み取って、歌舞伎版の壮大な『もののけ姫』にできるか。それが、いよいよここからだと思っています。

――そもそも、この『もののけ姫』という作品そのものには、お二人はどんな思い入れがありますか。

團子 もちろん昔から観ていた作品ですが、最近になって観直してみても、好きなシーンは子供の頃も今も、変わっていなかったです。僕が大好きなのは、冒頭にアシタカが村を追われ、ヤックルと二人きりで孤独な旅をしている場面で。5カットくらいでパッパッと、草原に行ったり川辺を歩いていたりするシーンが流れていくんですが、とにかく美しい音楽と雄大な景色の中でアシタカが黙って旅をしていくわけです。アシタカも、ものすごい重圧の中で旅をしていたと思うんですよね。運命に巻き込まれ、それでもその真実を見に行くという勇気ある行動をとって、たった一人でその運命に立ち向かっていく。その生きざまから、ものすごく勇気をもらえるんです。しかも、その場面をさらに音楽が何倍も魅力的にする手助けをしていて。総合的に、その場面が子供の頃から一番好きなんですよ。宮﨑駿さんは「この作品は難しい作品なんですが、だからこそ子どもたちのほうがわかってくれると思う」ということをおっしゃっていて。そういう意味でも、自分が子供の頃に観ていいなと思った場面と、今改めてメッセージ性などもすべて受け止めた上でもやはり好きな場面が変わらない、という事実はとても興味深いところだなと思いますね。

壱太郎 深めれば深めるほど、裏側のストーリーというか背景がどんどん見えてくるんですよね。僕も團子くんも、『もののけ姫』のメイキングドキュメンタリーを観ているのですが、それを観ることでたくさんのことを学べたというか、ある意味本当に研究して。

團子 そう、まるで授業を受けているような気分でした。

壱太郎 研究授業みたいでしたね。そこから改めて鈴木敏夫さんからお話も聞いて。その上でまだまだ出てくるこの深さって何なんだろうと、本当にしみじみ感服しました。ただ、圧倒されているだけでは終われないので、それを歌舞伎としてどうすればいいんだろうと考えました。決して訴えかけるだけの作品でもなくて、團子くんも今、宮﨑さんの言葉を借りて言っていましたが、「子供だからこそわかる」ということは、つまり歌舞伎を観ていない人には伝わらない作品では成り立たないと思うんです。だから、フラットな気持ちで観た時に必ず何かが伝わって心に残る、スーパー歌舞伎『もののけ姫』にしたいと強く思いました。さらに、実際に屋久島も訪れてみて、自分たちの中でもだんだんと作品に向かう準備が整ってきたという段階が、今、現在の状態ですね。

――やはり屋久島に行くと、作品への理解度が増しそうな気がしますね。

壱太郎 本当にすごかったです。島だというのもあるのでしょうが、とても感じるものがありました。

團子 海で閉ざされた空間、というあの感じも良かったですね。

壱太郎 守られている感じもして。

團子 森も、気軽に侵入できない感覚で、あれを体感できたのは大きいと思います。

壱太郎 あと、感謝する気持ちになりますね。自然へもそうですけど、日々に感謝するような気持ちになる場所だなと思いました。

團子 あと、その辺を流れている川の水が飲み放題なんです。

――そんなに綺麗なんですね。

團子 そうなんです。日本の原風景が残っている場所としても、とても貴重だと思いました。今回は新作ということで、本当にすべてのことが手探りで。それに舞台装置、大道具は舞台上では限りのあるものではありますが、その中で自分が今、実際にはどういう場所にいるのかという情報を知っておくことって、すごく大切なことだと思うんです。本当はそこにある設定だけど大道具では表現しきれないものを、自分の脳内で補完できるわけですから。そういう意味でも、参考にできる場所がまだ日本に残っていて、その場に行けたというのは、この手探り状態の中では非常にありがたいことだなと思っています。ぜひ、あの体験を活かして、それをお客様の心にも伝わるような演技をしたいと思います。

――それぞれ、アシタカとサンという役を演じますが、現時点でどう演じたいと思われていますか。

團子 まずは原作を分析すること、僕としてはとにかくそれにひたすら重きを置いています。台本は、やはり少しは歌舞伎用としての変更点もありますが、それでも根底に流れているものは原作と一緒だと思うので。そのアシタカの心理の流れを追うのと同時に、それでもやはり歌舞伎だということ、つまり2.5次元やリアルな演劇とも違うということも意識しなければいけない。ただ、もちろんお客様には何の予習も必要ない、ということはこれまでのスーパー歌舞伎とも変わらないです。こちらの準備する側としては、歌舞伎の良さをとにかく活かしたいと思っているので。そこでまず考えるのは、台詞回しをどこまで歌舞伎に寄せていくか。リアルと歌舞伎のグラデーションというか、この塩梅が悩みどころで。やはり原作のイメージが強いからこそ、許容範囲ってあると思うんですよ。歌舞伎の声で台詞を言うのも、許せる範囲があるんだと思う。心情はアシタカになっていても、あまりにも歌舞伎過ぎる台詞回しになっていたらおそらく「それはアシタカじゃない」ってことになりかねない。その塩梅が、非常に難しい。

――その微妙な、絶妙なラインを狙いたいですね。

團子 そうなんです。だけど、たとえ理想の塩梅のラインを見つけられたとして、それを毎日同じ値で出力するのも繊細な作業で、かなり難しいと思います。ですから、まずはその塩梅を掴む作業を目指したいと思います。

壱太郎 僕も今回のお話をいただいてから、『もののけ姫』のことをたくさん想って、調べてきていますが、でも何よりもまずはやはり演出の横内さんと主演の團子くんが進んでいく方向に、サンとしてどう乗っていくかになるのかな、と思いますね。『もののけ姫』って、タイトルロールはサンなんですよね。だからそのことに対する、居ずまいというか、確立された姿はぜひ出していきたいなと思っています。また、歌舞伎の女方ということも考えると、エボシ御前を演じられる時蔵のお兄さんとのバランス感も大事にしたいなと思っています。なので時蔵のお兄さんの演じ方によって僕も変わってくるだろうし、女方同士で出せる空気というものも大切にしていきたいです。当たり前ですけど、ほとんどの映画や演劇では女性の役は女の人が演じるものなので、そういう意味ではまさにここが歌舞伎らしさのキーポイントの一つでもあると思うんです。だからそこを二人で創っていきたいな、という気持ちもあります。あとは團子くんを始め、ずっとスーパー歌舞伎に携わっているチーム澤瀉屋のみなさんもいらっしゃいますからね。そのチームワークの空気感を、僕もひしひしと感じながらやっていきたいです。またサンは、少女であり獣でもある、この二つのキーワードをいろいろな形で足し引きしながら創っていきたいなと思っています。

――ちなみにシシ神様を演じるということについては、あまり触れられていない気がしますが……。

團子 そうですね、自分からは語っていなかったかも。

――聞いちゃいけないことだったりします?

團子 そんなことはないです(笑)。

――シシ神様を今回どう演じられるか、すごく気になっているので。

壱太郎 そうだよね、確かに僕もあんまりまだわかっていないけど(笑)。早替りはどうするのか、とか。

團子 早替りのシーンになるのか、単に演じ分けのシーンになるのか、まだ決まっていないんです。

壱太郎 着ぐるみに入っちゃったら面白いね。顔が見えないけど「中身は團子なの?」ってザワザワしたりして。

團子 着ぐるみではないと思います(笑)。一応、團子が演じていることは認識できるシシ神様になりたいと思っております。

――今日の時点では、そのくらいまでしかヒントは出せない感じなんですね。加えて、中車さん演じる乙事主についてもお聞きしておきたいのですが。

團子 それも現時点では、予想がまったくついていません。それこそスーパー歌舞伎の新作に取り組むにあたり、みんな自分たちで創っていく中で、父が果たしてどういう乙事主を創るのかということに僕も非常に興味があります。どういう役づくりをするんだろう?って。

――それも、今はまだご本人の頭の中にあるもので。

團子 そうなんです。今日の読み合わせで、初めて対面するので。

壱太郎 あと、中車さんからどんな感じで“タタリ神”が生えてくるのか、とか。

團子 そこも、大事ですね。

壱太郎 この一座においての、乙事主感もあるでしょうからね。ずっと生きてきたみたいな感じも出しつつ。

團子 昨年、父も還暦を迎えました。

壱太郎 そういう意味ではモロ役の笑三郎さんと中車さん、このお二人がいてくださることも、僕の中ではグッとくるものがあります。歌舞伎というファミリーの中にいる僕らの感覚、立ち位置にもすごく似ているような気もしてきて、つまり、サンと乙事主という感覚と、サンとモロという感覚がある。笑三郎さんって「お母さん」な感じですもん、やっぱり。だから、僕らのそういう関係値も活かした役づくり、作品づくりができる配役になっているなとも思うので。そういうところはファミリーとして甘えさせていただき、その関係性だからこそできる歌舞伎の『もののけ姫』だというところにまで持っていけたらいいなと思っています。

――それでは最後に、ローチケのサイトに掲載されますのでお客様へ向けてのお誘いのメッセージをいただけますか。

壱太郎 いやあ、ローソンはね、やっぱりからあげくんです。大好きです!(笑)

團子 めちゃくちゃ美味しいですからね!(笑) もう僕、高校生の頃にありえないくらいの量を食べました。たまに一個増量している時があるじゃないですか、あれが嬉しくて。

壱太郎 ローチケさんには僕も、コロナ禍で何にもできない時期に立ち上げた「ART歌舞伎」のプロジェクトでいろいろと協力していただいたことがありますが、お客様の層が音楽ファンの方も含め、とても広いと思うんですね。先程、團子くんも言っていましたがこの『もののけ姫』は、あの久石譲さんの壮大な音楽の力も大きいので。あの音楽が、僕らを後押ししてくれていることもありがたいですし、そうやって音楽面から入ってくださる方がいたり、映画版がお好きで気になっている方がいたり、さまざまな切り口が今回はあると思うので。せっかくだからこれを機会に歌舞伎を……というのもありますが、決してそれだけではなくて、「今回の舞台は観ていただきたい」とか「ぜひ観ておいたほうがいい」と強く言わせていただきたいという気持ちもあります。

團子 とにかく、情報として知っておいていただきたいのは「台詞はほとんど現代語です」ということ。これも大事なことだと思うんですよ。

――「歌舞伎だから難しそう」とか「わからないかも」と思ってしまっている方の誤解を解きたい、と。

團子 そう、まったくそういうことはないですし、事前の予習、勉強だって一切必要ありません。ただ劇場に来てさえいただければ、最初から最後まで必ず楽しんでいただけるはずです。

壱太郎 「わかる歌舞伎」がコンセプトですからね。

團子 そこが、スーパー歌舞伎を作った祖父の大事な精神の一つなので。とにかくわかりやすく、現代のお客様の心に届く。当然ながら、歌舞伎をこれまで観ていただいていた方にも伝わるし、これが初めての方にも同じ感動が伝わるということをとにかく大事に創ってきたので、その精神は今回も引き継がれます。そしてもちろん『もののけ姫』なので、そもそものストーリーの面白さも保証されている、骨太な作品でもあります。歌舞伎は、400年前に出来た伝統芸能だということで、古い演出なのかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが「へえ、歌舞伎にはこんな演出があったの!」というような、思いもしない歌舞伎の面白い演出がたくさん使われています。たとえば宙乗りといって、人間が空を飛ぶ場面もありますし。

――やっぱり、宙乗りもあるんですね!

團子 もちろんあります!『もののけ姫』の魅力と「スーパー歌舞伎」の魅力が化学反応を起こして、凄まじいエネルギーの舞台が繰り広げられることになると思いますので、ぜひとも劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです!!

取材・文:田中里津子
撮影:篠塚ようこ