Bunkamura30周年記念 シアターコクーン・オンレパートリー2019『美しく青く』 向井理 インタビュー

新たな修行の場”として向井理が挑む赤堀雅秋作『美しく青く』

 

映像だけにとどまらず、舞台にもコンスタントに、真摯に取り組んできている向井理。
これまで堤幸彦、西田征史、蓬莱竜太作品に、そして一昨年は劇団☆新感線に……とさまざまなジャンル、ベクトルの劇作家、演出家、集団と組み、舞台作品に挑むことは“修行”だと公言する彼が今夏、新たな修行の場として赤堀雅秋作品に参加することになった。

2013年に上演された赤堀の代表作のひとつでもある『葛城事件』を観て以降、ほとんどの作品を観劇してきたという向井にとっては念願の初タッグ。
赤堀作品に魅かれるポイントは、独特の“生々しさ”だという。

向井「たとえば北関東のどこか場末のスナックが舞台になっていたりして、そういうどこにでもいる人たちの日常を、ドキュメントではないですけど勝手に僕らが覗いている感覚があって。動物園に行って、檻の中の人間たちの生活を眺めるようなところもある。そこで起きる、当事者では絶対に笑えない出来事を、他人から見た無責任さでみんな笑っているんです。赤堀さんってそういう、人間なら誰もが持っているシニカルな部分をつつく人なんだと思いますね」

主人公は、とある町の仮設住宅に暮らす平凡な青年。
彼が実直に生きる姿を中心に、その周囲の人々との日常がユーモアを交えつつ、リアルにダークに描かれていく模様だ。

共演陣には田中麗奈、大倉孝二、銀粉蝶、秋山菜津子、平田満ら、芸達者かつ個性派な面々が揃う。

向井「田中麗奈さんとは、WOWOWの連続ドラマで共演してからすぐ、劇団☆新感線(2017年『髑髏城の七人~Season風~』)でもご一緒していて。あの大変な舞台を意外と飄々とやられていたので、メンタルがすごくタフな方だなと思いましたね(笑)。大倉さんはきっと、この中で最も赤堀作品を理解していらっしゃる方で。ナイロン100℃の方ですから舞台のイメージはありますけど、僕自身は映像でしか共演したことがないんですよ。だから大倉さんが舞台の場合はどういうスタンスで臨まれるんだろうということにすごく興味があります。平田さんや秋山さんはふだんから本当に優しいことを既に知っているので、そういう意味ではまったく怖い人がいない座組ですね(笑)」

そう笑いつつも「今回の舞台も、おそらく大変なことになるとは思っています」と、覚悟の表情。

向井「そもそも遊びに行くわけでも、楽しみに行くわけでもないですからね。お客さんを楽しませるために、喜怒哀楽を感じてもらうために演じるので、最初から自分自身が楽しもうとは思っていないんです。それより、どれだけ傷つくことができるか、が大事。ノーガードで殴り合うくらいの気持ちで行きますよ。演劇ってそういうものだと思うので、だからこそ修行の場でもあり、毎回本当に辛いんですよ。これまでも、ただ楽しかっただけの作品なんてなかったです。劇団☆新感線にしても、その前の『星回帰線』(2016年)もそう。あの時は約2時間、一度も舞台からハケないという、とんでもない演出だったんです(笑)。でも役者が傷つけば傷つくほど、観客は面白く感じるんだと思うんです。赤堀さんの作品がすごく面白いのも、やはり出ている役者たちが実際にものすごく傷ついているからであって。でも今回はこういうタイトルだから、きっと救いはある作品になるんじゃないかと予想します。といっても単に美しいだけの、キラキラしたものには絶対にならないでしょうけどね(笑)」

その赤堀は作・演出を手掛けるだけではなく、同時にアクの強い共演者として出演もする。
向井にとってはそのことも初体験なので、赤堀が出演もしながらどういう風に演出するのかにも、注目しているのだとか。

向井「自分の世界観ですから自分で演出すればそれが全部正解なのかもしれないですけど(笑)。だけど、どこか演出家って本番が始まってしまうと孤独なんだと思います。もちろん毎日のダメ出しとかで顔を合わせていたとしても、同じ舞台の上に立って演じている同士のほうが結束力が自然と高まって共演者というよりは戦友のようになっていくので。そうなってくると演出家さんとは、なんとなく距離ができてしまうものなのかなというのは、毎回感じていたので。今回はそういう関係とも違ってくるんだろうと思うと、ちょっと安心感もありますね」

コアな演劇ファンはもちろんのこと、演劇初心者にとっても見応え抜群の、刺激の強い観劇体験ができそうだ。

向井「とにかく舞台は一度きりのもので、同じものは二度と観られないわけですから。役者の息遣いは絶対に毎回違いますし、まさに雲みたいに毎回形をとどめないものが演劇だと思うんです。あとは、空気感をどうやって繋いで重ねていってという繊細な作業になってくるわけですが、それがちゃんとハマって合格ラインを越えていった時こそが、僕らとしては一番面白い、やっててよかったと思う瞬間で。それがお客さんにどこまで伝わるのかなというところが、勝負なんだと思います。特に今回の赤堀さんの作品の場合は何気ない日常の中で生きていく人たちの話になるはずなので、観ている方たちもそれぞれの立場に当てはまりそうだし、心に刺さるものになればいいなと思っています。舞台ならではの、鮮度のある生身の言葉をこの会話劇、群像劇から味わっていただけたらうれしいですね」

 

取材・文/田中里津子
PHOTO/中田智章