劇団た組。第19回目公演『今日もわからないうちに』加藤拓也 インタビュー

台詞劇の名手が紡ぐ、記憶と家族の物語


劇団た組。の最新公演『今日もわからないうちに』は「記憶」がテーマ。“家”だけを忘れる記憶障害の妻・恵と、彼女を取り囲む家族の物語だ。

加藤「以前、ある駅の向かいのホームで人身事故が起きたところに遭遇したんです。それがずっと忘れられなくて、気にしないようにしていても、ふとした瞬間にあの光景がフラッシュバックする。“忘れる”ことに関して試行錯誤するうちに、“記憶”に関する話をちゃんとやってみたいと思うようになったのが、この作品を書いたきっかけです」


作・演出を務める加藤拓也はそう話す。前作『在庫に限りはありますが』は人前で食事ができない夫と、夫とセックスができない妻の話。前々作『貴方なら生き残れるわ』は高校バスケットボール部の話。作品ごとに着眼点も風合いもガラリと変わる。
25歳の気鋭は何を求めて演劇をしているのだろう。

加藤「自分の衝動を消化したい、というのはありますね。今回の作品で言えば、記憶について何か知りたかったというわけじゃなく、『忘れる/忘れない』『忘れたい/忘れたくない』ということに関して一度喋ってみたかったんだ、ということに書き終えてから気づきました」


忘れたくないのに忘れてしまった恵。一方で娘の雛は部活のソフトボールを辞めたいと思っているのに、母とキャッチボールした想い出が忘れられなくて葛藤する。そんな家族の人間模様を演じる俳優陣も、実に魅力的だ。

加藤「主人公を書いたとき、自然と恵役は大空ゆうひさん、夫の一志は鈴木浩介さんの顔が浮かびました。この間、お話を聞いたらゆうひさん自身もすごくストレスを抱えていた時期に、家の帰り道がわからなくなったことがあるそうなんです。作品の持つ運命ってある気がしていて、同じような経験をしたことがある方に演じてもらえるのは、運命だなと感じますね。浩介さんには、どうしようもないゆるさを感じていて。それがこの夫役にぴったりだと思いました」


さらに、恵の実父・一郎役には、演出家としても名高い俳優の串田和美を迎える。まだ25歳の加藤が、自分より50歳以上の名演出家を座組みに迎えるということは、相当なプレッシャーに思えるが…。

加藤「いや、あんまり演出家の方と一緒にやることがないからむしろ楽しみなんですよ。串田さんはコラージュ的な演出だったり、一筋縄ではいかない表現が面白い。早く稽古に入りたいです」


そう飄々と言ってのけるところが、この若き演出家の面白いところだ。自身が書き下ろしたドラマ『平成物語』が第7回市川森一脚本賞にノミネートされるなど、その劇作術にはすでに高い評価が集まっている。特に魅力的なのが、台詞だ。

加藤「読んだときにわからなくても、音にしたときにわかる、そういう話し言葉を書きたいというのはあります。僕の書く台詞って、ほとんど意味がなくて。一言で物語が前進するような台詞はあんまり書かない。意味のない台詞をいくつも重ねて、シーンとして意味のあるものをつくりたいという感じです」


では、そんな加藤が思う“いい台詞”とは何だろう。

加藤「普段僕らが使っているような言葉を積み重ねていきながら、出てきた一言がいい台詞なんじゃないかなと。難しい言葉を使わず、普遍的な本質を突く。そういう台詞が書けたらいいなと思います」

何気ない会話の中に、さらりと光る美学。その才能の紡ぐ世界をじっくりと堪能したい。

 

インタビュー・文/横川良明

 

※構成/月刊ローチケ編集部 6月15日号より転載

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【プロフィール】
加藤拓也

■カトウ タクヤ ’93年生まれ。大阪府出身。脚本家。演出家。監督。「劇団た組。」主宰。現在、脚本を手がけたドラマ『俺のスカート、どこ行った?』が放送中。