三宅弘城演じるスーパー執事・鎌塚アカシの活躍を描いて人気の「鎌塚氏」シリーズ。第5弾となる『鎌塚氏、舞い散る』が11月~12月に上演される。毎回降りかかる無理難題に、頭と身体をフルに使って立ち向かう姿が笑いを誘うエンターテインメント作品。キャスト、スタッフ、そして観客に愛され続けるこのシリーズの新作について、脚本の倉持裕、主演の三宅弘城、ともさかりえに話を聞いた。
——『鎌塚氏、舞い散る』は、じつに鎌塚氏シリーズ第5作目の公演ですね。
三宅「いまは単純に待ち遠しくてしかたないです。ぼく個人のことでいえば、去年の『ロミオとジュリエット』以来ほぼ一年ぶり、久々の舞台がこの鎌塚氏シリーズなんてとてもうれしくて。早く稽古したいです」
ともさか「私が参加させてもらうのは第1作、3作に引き続いて今回が3回目になりますが、自分が出ていない公演を観ると毎回非常に悔しい気持ちになる(笑)。それくらい愛着のある作品なんです。今年は私、この鎌塚氏にたどり着くために一年頑張ってきたので、この公演はご褒美みたいなもの。すごく楽しみです」
倉持「僕も楽しみですよ。これだけシリーズを重ねていると、だんだん三宅さん演じる鎌塚アカシやともさかさんの上見ケシキが実体化していくような感覚があるんです。だからいまは「彼らにまた会えるなあ」と思っています。自分が書いた登場人物に対してそんな気持ちになるのはこの芝居だけですよ」
——アカシとケシキはこれまでお互いを想いつつもはっきりとはしない形で描かれてきましたが、二人の関係に変化はありそうですか?
倉持「ある決着を見ることになります。今までに比べると二人の感情の振り幅はとても大きくなるんじゃないでしょうか。そこは頑張って書かないとな、と思っています。僕はこのままつかず離れずでいってもいいんじゃないかと思っていたのですが、プロデューサーから「そろそろあの二人を進展させたい」というリクエストがありまして。言われてみればそうだな、と。ただ、ケシキをここで退場させたくはないので、なんらかの理由をつけてまた一作挟んで登場するんじゃないでしょうか」
三宅「もう目に見えていますよね。ケシキさんが、小柳友くん演じるスーパールーキー執事のヨウセイくんに惹かれてしまう姿が。アカシはそれに対して決着をつけるのか、それともよけいな堅物のプライドでポーカーフェイスを装いながら内心ドキドキしているのか……」
ともさか「ケシキはアカシさんのそういう煮え切らないところも含めて愛おしく思いつつ、2人の関係をハッキリさせたいという部分もあると思うので。第4作目の『鎌塚氏』を観に行ったとき、プロデューサーから「次はロマンチックなのをやりたいの!」と構想は聞いていたのですが、常に煮え切らない関係を保ち続けるのがアカシさんとケシキだと思っていたので、あまりピンとこなくて。でも、去年三宅さんがロミオを演じた『ロミオとジュリエット』で三宅さんのキスシーンを観たとき、今までに感じたことのない怒りが湧いてきて(笑)」
三宅「ははははは!」
ともさか「全然違う作品に文句言っても仕方ないですけど(笑)。たまたま倉持さんと同じ日に観劇していたこととか、ロミジュリも貴族の話だったこととか、いろんな要素で鎌塚氏を連想してしまって、「ケシキだってまだアカシさんとキスしていないのに!」と。「ちょっと…キスしすぎじゃないの!?」と回数を数えちゃったくらいです(笑)。だから、今回は何としてもアカシさんとキスしないと私の気持ちが収まらない!と倉持さんに熱く語りました(笑)」
倉持「ともさかさんのこの気持ち、すごくいいですよね。どうキスするか、考えないと。今回の作品の売りにしてもいいんじゃないですか。『ロミオとジュリエット』に対抗して何回もキスするかもしれない」
——三宅さんは「今作ではこれをしたい!」という要望はありますか?
三宅「毎回あるんですが、体を張るようなチャレンジについては心おきなく言ってもらえたらな、と思っています。「あれできませんか」「これができますよ」と稽古場で面白くつくったシーンが今までもたくさんあるので」
ともさか「三宅さんはいつも簡単に飛んだり跳ねたり、すごいところによじ登ったりするんです。いとも簡単にやられるので、私たちもやってくれるものとして見てしまうのですが、ふつうはそんなことできないですよね」
倉持「僕ら、稽古場ではアクションをその1回できるかどうかを見て「できるじゃないですか」って無責任に拍手してしまう。でもよく考えたら演劇では同じことを何度もやるわけで。三宅さんはそこをわかった上で「これができます」と提案してくれるから、本当にすごいことだなと思います」 ——では、今作でも体を張ったシーンが見られそうですね。
倉持「これまで、鎌塚氏ってだいたい夏に公演をやっていたんですよ。それが今回冬になったので、単純に冬=雪山=スキー、と発想して、スキーをやってもらえたら、と。雪崩が起きて、誰かを救いにいくようなシーンが作れたらと思っています」
ともさか「007シリーズみたい!」
倉持「どうやるかはこれから三宅さんと相談ですけど、やりたいなあと。冬はいいですよね。風情もありますし、雪が降って外に出られないということで、屋敷の閉鎖的な空間に説得力が増しますから。面白くなるんじゃないですかね」
三宅「お屋敷って冬が似合うじゃないですか。暖炉とかもね。だから一度冬にやってみたいと思っていたんです」
倉持「だいたい、これまで暖炉があっても使っていなかったですもんね(笑)」
——倉持さんは、この作品を書くときにどんなところに気をつけていますか?
倉持「コメディと謳っているので、笑いには気を遣いますね。笑わせなきゃな、という気持ちが強くて、第2作、第3作の頃は脚本1ページに1回はギャグを入れなきゃという気持ちでやっていました。でも、前作ではもう少し気楽にできていた気がします。押しつけがましい笑いは第4作にはそんなになかったと思います」
三宅「もともと、押しつけがましい笑いはないですよ」
倉持「ともすれば笑いって下品な方向に行ってしまったりする。そうはならないよう、品は保っていきたいと思っています。「こうやれば笑いはくるけど大事なものを失ってしまう」という罠はたくさんあるので、どこかで止めるということはあります。「かわいらしさ」も大切な要素ですが、そこも笑いと一緒でさじ加減が難しいですね。しかもだいたいおじさんおばさんが出ていて、あまり若い子が出ていないなかでかわいらしさを追求しなきゃいけないですから(笑)。笑いには技術がいるので、ある程度キャリアを積んだ役者でないと難しい。だからおのずとそうなるんですけどね」
——キャリアを重ねた役者たちのかわいらしさを見せる必要があるわけですね。
倉持「「いい歳して何を純愛やってるんだ」と言われてしまってはいけないから、そこでなぜ純愛を貫いているのかをきちんと押さえておかないといけない。でも、そういう部分が共感を得ているのかもしれないとも思います。世の大人たちって、実際本当にそんな大人の恋愛や振る舞いができているかといえばそうでもない。いつまでたっても大人になりきれない部分ってありますよね。そういうところが人間的だな、愛おしいな、と思えるように描けていれば、喜んでもらえるんじゃないかと思います」——お話を伺っていると、キャストやスタッフの皆さんがこのシリーズに思い入れを持っているのが伝わってきます。改めて、『鎌塚氏』シリーズの魅力はどんなところにあると思いますか?
三宅「やっぱり間口が広いというか、老若男女みなさんが楽しめますよね。演劇を観たことのない人も楽しめる、演劇を好きになる作品だと思います。倉持さんの脚本と演出が、ともすれば恥ずかしくなりがちな部分を微妙なラインで、すてきで「かわいらしい」作品にしていると思います」
ともさか「ちょうど第1作の『鎌塚氏、放り投げる』が2011年で、震災直後だったんです。あの時期、演劇をやっていていいのかという雰囲気もある中でこの作品を上演できたのは、自分の中でもパワーとして残っています。私は毎回出演しているわけではないですが、こうやってひとつのキャラクターが繋がっていくのはすごくうれしいこと。みんながそれぞれに鎌塚氏のことを大切に思っている、幸せな公演だなあと思っています」
——これほどまでに愛されているシリーズ、ますます新作が楽しみです。
三宅「今回は初めてアカシが女主人に仕えることになるので、大空ゆうひさんにはぜひ無理難題を言いつけてほしいですね。小柳くんはチラシ撮影のとき、すっごくかっこよかったんですよ。背も高くて、衣装もきまってた」
ともさか「三宅さんと並んだときの感じが想像できますよね」
三宅「絶対に比較されるんだろうなあ。今までになかった現代っ子らしい執事とのやりとりも楽しみですね」
倉持「そうですね。若手執事の登場で、働き方改革の要素も盛り込めたらと思います(笑)」
インタビュー・文/釣木文恵
写真/ローソンチケット
ヘアメイク/北一騎(Permanent)[ともさか]
スタイリスト/チヨ(コラソン)[三宅]、清水けい子(SIGNO)[ともさか]