演劇界の“オールジャパン”で挑む烏丸ストロークロック『まほろばの景2020』開幕迫る!演出家&キャスト座談会

烏丸ストロークロック『まほろばの景』(2018年) [撮影]東直子

■作・演出 柳沼昭徳&出演 あべゆう(宮崎 劇団こふく劇場)&小菅紘史(三重 第七劇場)&小濱昭博(宮城 劇団 短距離男道ミサイル) 座談会

2019年で活動20周年を迎えた京都の劇団・烏丸ストロークロック。一つのモチーフに取材と創作を繰り返して精度を上げ、短編に創作と上演を加えながら長編に育てるなど、じっくりと創作に臨み演劇の豊かさを追求する活動姿勢は、唯一無比のものだ。その最新公演は2018年に初演した作品をリクリエーションする『まほろばの景2020』。エリアも所属も超越した、演劇界の“オールジャパン”チームが新たな高みに挑む稽古場を訪ねた。

写真左より小濱昭博、柳沼昭徳、小菅紘史、あべゆう

 

『まほろばの景』は劇団代表で劇作・演出を手掛ける柳沼昭徳が、東日本大震災後の東北を取材し、そこで出会った山岳信仰や神楽への着目から生まれた作品。初演時も仙台と広島での滞在制作、東京での試演という段階を踏んでいるが、同年11月と翌年1月には、仙台と広島で神楽を烏丸流に解釈・再創造した作品『祝・祝日』も上演している。

柳沼「神楽は東北だけでなく、それぞれの地域性と文化を取り込みながら日本各地の集落で伝承されている芸能。そこには日本人の精神性や死生観も色濃く残っています。『まほろばの景』にも神楽を踊る場面がありますが、さらに神楽にまつわるあれこれを掘り下げてみたくなり、自分たちなりの解釈で神楽を再創造した舞をつくり、踊り、烏丸流の「祭り」を舞台に乗せたのが『祝・祝日』なんです」

 

★予告映像Youtubeリンク★
烏丸ストロークロック『まほろばの景2020』予告映像

 

今回の創作は19年12月初旬、兵庫県の城崎国際アートセンターでの2週間に亘る滞在制作から開始。

柳沼「出演者は劇団の阪本麻紀、澤雅展に加え、『まほろば~』初演と『祝・祝日』両方に参加してくれた宮城の劇団 短距離男道ミサイルの小濱昭博さん、『まほろば~』初演の出演者・三重 第七劇場の小菅紘史さん、そして宮崎のこふく劇場あべゆうさんの5人。あべさんは烏丸も、神楽を自身で踊ることも初めてだったので、城崎では新作も含む、神楽舞の創作と習得に明け暮れました。最終日、地域の方を招いての成果発表公演では豚汁やお菓子、飲み物など本当の奉納神楽の折のような“お振舞”も用意し、舞台と客席の境を取り払って踊りや音楽、語りを楽しんでいただく仕掛けにしたんです」

小菅「一日の終わりは温泉につかり、裸のつき合いをしつつ芝居以外にもあれこれ語り合える。創作以外にも充実した時間が過ごせる豊かな環境が、城崎の何よりの魅力。2週間の稽古はオリジナルの神楽舞づくりが主で、新作への展望が開けた訳ではありませんが、神楽を踊り続けた時間と体感が足掛かりになると感じています」

小濱「歴史を感じさせる古い町並みや、由緒ある寺社を携えた山まですぐ近くにある贅沢な環境。城崎の町の空気や流れる時間までが、創作に良い影響を与えてくれるように感じました。僕は二作に出演したうえ、その根底にある東日本大震災にも遭っている。だからこそ、あれから9年が経とうとしている現在との時間や距離、体感の薄まり方などを受け止めつつ再創造に臨みたいと、この期間で改めて思いました」

あべ「私だけが烏丸初参加ですが、共演の皆さんとは全員顔見知りなもので、城崎の滞在中も不思議なほど緊張や不安がありませんでした。題材や表現方法は違うけれど、柳沼さんと烏丸ストロークロックの演劇へのアプローチは、私が所属するこふく劇場に通じるところがあるとおもえる。2週間で『まほろばの景2020』創作のための、共通言語や身体の在りようなど必要な下地が私にも多少なり沁み込んだのではないでしょうか」

烏丸ストロークロックと祭『祝・祝日』in城崎
©igaki photo studio 写真提供:城崎国際アートセンター

 

城崎から戻ったカンパニーは年末まで京都で稽古を続け、短い正月休みを経て1月6日から京都で本稽古を重ねている

柳沼「城崎での時間が身体と言語の両面で、新作のために共有すべきものを座組の全員に行き渡らせてくれた。寝食はもちろん温泉まで一緒に入ってますから(笑)、お互いの創作との距離感から個々の人間性まで了解しあった、理想的なスタートが切れたと思います」

小濱「『まほろば~』初演と『祝・祝日』を融合させたものが、『まほろばの景2020』だと思っているところが僕にはあって。バランスや塩梅が難しい創作ですが、城崎での成果によって、2種のカレールーが溶け合うように馴染みつつある気はしているんです。最終的にどんな一皿になるかは、まだ未知数ですが」

小菅「一般的な再演でも、初演から経た時間、その間に起きた自分の内外の変化によって同じ演技や表現には絶対にならないし、初演が完成版とも僕は思わない。だから気負いなく、新しい布陣での『まほろばの景2020』づくりに臨むだけですね」

あべ「城崎に引き続き風通しの良い稽古場で、感じ考えたことはなんでも言っていい空気があるんです。だから稽古もフラットに楽しめています」

 

取材は兵庫での開幕まで2週間強という、なかなか佳境なタイミングでのものだが、現状を語る4人の口調に焦りはない。

柳沼「基本、創作の初動にはノープランで臨むのですが、今回は集まった素材を広げてみたら、どう掛け合わせても面白くなりそうな絶好の座組になっていたんです。材料を組み合わせ、こね回すのが楽しくて仕方ない、明るい気持ちで通える稽古場ですね(笑)」

小濱「自分の劇団だけに居続けると発想が固定化してくるし、相手のやることも想像できるようになる。外部の創作に参加すると、そこで受ける刺激や発見だけでなく、自分でも気づかなかった自分の一面に気づくようなこともあるんです。烏丸さんとは積み重ねた時間がそれなりにあるけれど、今回もまだまだ新しい体験はさせてもらえると思っています」

あべ「小濱さんの言うように、劇団での創作は長く続けると煮詰まって来る部分と、だからこそ突き詰められる部分の両方があると思う。その両方をプラスにするためには、私自身の中身が常に循環し、何が来ても新鮮に受けたり返したりできるようにしておかなければいけないんですよね、きっと。その新鮮さを保つためのリフレッシュ要素、手法やものの捉え方などを学んだり盗んだりできるのが客演の醍醐味」

小菅「色々な人が居て、みな違うということを役者として体現していたいと常々思っているんです。同じ集団で長く一緒にいればそのことを深く、はじめましての集団では浅く広くというように、それぞれの体現・表現ができるはずだし、逆にできないと自分の存在すら定かでなくなってしまう。そういった「違い」の多様さを、この座組でとことん模索し、互いを照射し合うことで自分にとっての体現も更新できたら、と思っています」

烏丸ストロークロック『まほろばの景』(2018年) [撮影]東直子

 

18年版は東日本大震災で被災し、実家が全壊した介護職員の福村が、施設から行方不明になった障がいを持つ青年・和義を探し、山中にさまようという中核の物語があったが、そこは今回も変わらぬところ、とのこと。

柳沼「福村の話やドラマの大枠に変わりはありませんが、彼の周辺や背景にある状況と人物を新たに配し、互いに補完し合う人々の関係性を俯瞰した時、前作以上に普遍的な世界が見えて来る。それが今回のめざすところで、作品を登場人物全員の物語にしたいんです。
今回の客演陣は「東京」という中央ではなく、皆さん「地域」で意志を持って創作活動をしている方たち。そういう人々が表の街道ではなく、山中を経巡りながら峠道で出会うという、劇中で描くことに現実の僕らを重ねることで、この国での今後の舞台芸術の在り方、いかに演劇で社会や人と繋がり、そこにどんな意義があるかという、ここ最近考え続けていることの答えが、部分的にでも見えるんじゃないか、と。
全員が一丸となって演劇ならではの集団性を駆使し、孤立や分断が問題視されている世相に一石を投じるような、集団ならではの力、新たな「山」の頂を皆で見る作品にしたいと思います」

 

取材・文/尾上そら