2月13日より上演される、糸井幸之介作・演出・音楽の音楽劇「春母夏母秋母冬母」の稽古場が公開された。
本作は、中学生カップルのこなことユキユキと、その母親の過去と現在、未来を男女2人きりで演じていく物語。今回は、初演キャストの深井順子、森下亮に加え、土屋神葉、上西星来が参加し、公演ごとに組み合わせを変えて上演される。この日に見学できたのは、女性キャストが女の子・こなこを、男性キャストがこなこの母親を演じるシーン。中学の入学式を終えたこなこが母親とともに帰り道を歩くところから、母が深夜にひとり帰途に就き、そして母の帰りを待つこなこが眠れぬ夜を過ごす場面だ。まだ甘えん坊な雰囲気が残るこなこと、制服を着て成長した娘を喜ぶ母。何気ない会話の中に、夜に働いている母を留守番する娘の寂しさ、待たせる母の寂しさがにじみ出る。オリジナルキャストの深井が演じるこなこは、少し幼いけれど利発な雰囲気。上西が演じるこなこは、初々しく甘えん坊な印象だ。森下が演じるこなこの母は、包み込むような母性がたっぷりで、土屋は少しおちゃめな優しさがあふれる母親、といった感じを受けた。 稽古の合間には、こなこのしぐさについて、深井が上西にアドバイスしたり、土屋が稽古場に出て歌っているときに森下が袖でリップシンクしていたりと、とても和やかな雰囲気で進められていることがうかがえた。留守を待つこなこが扇風機で宇宙人のような声を出して寂しさを紛らわすシーンでは、こなこを演じる深井と上西だけでなく、森下や土屋も加わって“宇宙人っぽい声”の出し方や、扇風機に合わせて首を動かすマイムについてあれこれと試しており、とても和気あいあいとしていた。糸井作品の特徴として、芝居と歌がフュージョンしたような、ミュージカル的な歌唱シーンも見どころとなっているが、この日は男性キャストの歌唱を聞くことができた。森下は抜群の安定感で、母親が胸中に秘める満たされない想いを切々と歌い上げる。土屋もまだ若いながら母の悲哀を表現するために食らいついていた。同じメロディを何度か繰り返し歌唱するのだが、糸井は歌う方向、顔の角度など、細かく演出をつけていく。歌うときに「ここは横顔美人、って感じで。首が伸びたりするのが素敵かな」と、首の伸ばし方にまで指示を出していた。音楽の始まるタイミング、歌い出しの際の立ち位置、目線など、かなり細かく場位置が決まっているが、キャストは不自然な印象が無いように動かなければならない。そこを細かく確認しながら、丁寧に仕上げていっていた。見学できたのは、男性キャストの動きが多いシーンだったが、土屋は繰り返す度に何かしら新しいチャレンジを組み込んでいた印象だ。帰途につく母親が酔い覚ましに公園に立ち寄るシーンでは、土屋は独り言をカバの遊具にくだを巻いて話しかけてしまうような演技をしたところ、そのコミカルな様子に思わず笑いが起こる場面も。糸井も「いいと思います、もっとやってもいい」と挑戦を促していた。同じ役どころでも、それぞれの役作りの違いや、組み合わせによるニュアンスの違いでさまざまな変化が見られるだろう。初演を知っている人も、楽しめる仕上がりになりそうだ。
取材・文/宮崎新之