舞台『巌流島』横浜流星 インタビュー

日本の歴史上、これほど有名な対決があったか――。関門海峡に浮かぶ巌流島での、宮本武蔵と佐々木小次郎の決戦。過去に幾度も舞台化、ドラマ化、映画化、漫画化されてきたこの壮大な大勝負を、2020年の新解釈・新設定に創造し、旬真っ盛りの若手俳優2人が挑む。宮本武蔵には横浜流星、佐々木小次郎には伊藤健太郎。本年7月から、東京、大阪、名古屋、福岡などで上演する。


――今回の出演が決まっての率直な思いはいかがですか?

素直にうれしかったです。だれもが知っている剣豪を演じさせていただくこともそうですし、僕自身、歴史が好きなので、巌流島の戦いは知っていました。ただ、そこまで詳しくなかったので、好きな歴史をより深く学べることが楽しみです。これまでさまざまな方々が巌流島を、そして宮本武蔵を、題材にやってこられています。うれしさと同時に、高い壁だな、というプレッシャーがあります。ワクワクと、緊張……、いろんな気持ちが入り混じっています。


――宮本武蔵のイメージはどんなものですか?

諸説がありますよね。卑怯者だとか、60戦無敗とか。勝ちにこだわる剣豪で、武骨で、男らしいイメージもありつつ、『五輪書』(宮本武蔵が著した兵法書)を書くほど哲学的でもあった。いま、すこしずつ調べているところですが、荒々しさと、哲学的な面、その両面を知り、どうやって表現すればいいかなと。台本はこれからですが、いま自分ができる情報収集をし、役作りをしたいと思います。

 

――舞台は3年ぶりですが、ご自分から「そろそろやりたい」とアプローチも?

ずっとやりたい気持ちはあったんです。そんなときに、お声をかけていただいたので、すごくうれしかったです。しかも、武蔵です。幸運というか、タイミングが重なった感じです。


――テレビや映画の活躍も目覚ましい中、久々の舞台はどんな意気込みですか?

過去の舞台経験の感覚は体に残っていますが、新しい気持ちで臨みたく思います。今回は頼もしく安心できるチームです。『闇狩人』(2016年)とチームが同じなので、心強い一つです。そのときは座長ではなかったですが、今回は座長をやらせていただく。あれから経験を経て成長している姿を、お客様だけでなく、仲間たちにも見せたい、座長として立ちたいと思っています。

 

――共演の伊藤健太郎さんへの印象は?

初共演なのでうれしいです。仕事以外の場で一度お会いし、会話したとき、まっすぐな青年の印象を受けました。心に熱いものを持っている。だからこそ、小次郎にもハマっていると思います。この作品は、武蔵と小次郎の関係性が大事なポイントになります。高い位置で高め合っていけそうで、早く稽古に入りたいですね。


――武蔵と小次郎の対決にフォーカスを当て、新解釈、新設定となる今回。と、なると、殺陣が見どころになりますね。

本格的な殺陣は初めてです。過去に白虎隊の一人を演じましたが(『武士白虎 もののふ白き虎―幕末、『誠』に憧れ、白虎と呼ばれた若者達―』2015年)、そのときはダンスのような振付でした。今回は本格的な殺陣になるとのことなので、基礎から学び直したいです。最近、アクションをやらせていただく機会が増え、そこで思うのは、立ち姿、刀を抜く、振る、そうした様に、キャラクターが出てくるのではないか、と。言ってしまえば、その人が背負っている人生が出てくると思うので、だからこそ、殺陣を大事にしたいです。『巌流島』の殺陣師は諸鍛冶裕太(もろかじゆうた)さんで、過去に一度ご一緒させていただいています。諸鍜治さんには厳しく指導していただいて、もっともっと上を目指して武蔵を作りたいと思っています。

 

――武蔵のキャラクターで大事な点とは?

「勝ちにこだわる」。その本気、荒々しさ、野心家の部分もメラメラ出てくると思うので、「相手を倒す」ことに本気で向かう目だったり、きれいというより、生々しい殺陣になるのではないかと。対して、小次郎は美しい殺陣のような気がして、2人の差を出したいです。本気で殺しに行く……、その、刀を抜いたときのスイッチ。僕は共感できるんです。空手をやっていたとき、「構えると目が変わる」と僕も言われていました。スイッチを大事にしたいと思います。


――いまの印象から変化しそうですね。作り込んでみたい点はありますか?

実は、『巌流島』の情報が出たとき、俳優以外の仲間から、「小次郎をやるのかと思った」と言われて、えー、そうなんだ……、と思いました。いま、武蔵ではないほうの僕に、みなさまからのイメージやご評価が頂けているとして、でも、僕にも、空手をずっとやってきた「男」の部分があります。自分の最大限の男の部分を武蔵で出したい。内面はもちろん、外見も作りたいです。ぜひ楽しみにしていてください。武蔵というキャラクターは、型にハマらなくていい、自由を大事にしたい。思うまま動いてみたいと思います。

 

――武蔵といえば二刀流です。両手に刀はいかがですか?

ポスター撮影で持ちましたが、いや~、これで動けるかなと。難しそうです。でも、出来たら絶対にカッコいい。すごく強い武器になると思うから、人の3倍くらい努力しなければ。今回の舞台では、きれいというより、生々しい殺陣にしたい、グサッといきたいと思っています。見ている方もゾワゾワするほど、生々しい殺陣をしたい。本気の緊張感で向き合いたい。小次郎も負けに来ているわけじゃないんです。お互いを認め合って戦うので、武蔵も負けるかもしれないんです。たとえ物語の結末は決まっていても、オンタイムで見ていたらどうなるかわからない、そのくらいの緊張感を持ち、リアルに生々しくやりたいと思います。殺陣師の諸鍜治さんは、型にハマったふりをつけない人です。リアルなスピード感や、猥雑感、時代物としての生々しさになると思うので、それを本当にやりたくて。舞台は、毎回毎回人生を生き、死んでいくもの。そこが楽しさであり、演者としての生きがいなので、舞台が終わるころには、一皮も、二皮も剥けた、新しい自分に生まれ変わっていたい。たくさんの経験が武蔵でできると期待しています。

 

――宮本武蔵は多くの明言を残していますが、横浜さんの座右の銘は?

「継続は力なり」です。空手のころからずっとです。

 

宮本武蔵の明言にも「千日の稽古をもって鍛となし、万日の稽古をもって錬となす」がある。何事も極めるには継続の努力が必要といさめるもので、横浜さんの「継続は力なり」には通じるものを感じる。荒々しく生々しい殺陣で「自分の最大限の男の部分を出したい」と意気込む横浜さんの新たなる姿に期待が募る。

 

取材・文/丸古玲子